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7話:面接1

 次の日、ミアが昼食を食べ終えた頃、カリスが立派な馬車で迎えに来た。

 カリスは礼儀正しく、ミアのようなおばあさんが相手でも、ドアを開け、手を引き、馬車に乗せてくれた。そして、とどめににっこり微笑む。すばらしいレディーファーストだ。

 ミアも若い娘(中身は)なので、カリスのような美青年にエスコートされればうっとり、ときめくところなのだが、慣れてないので腰が引ける。

 しかし困るミアを気にせず、カリスは上機嫌で、道すがら、勤め先の説明をしてくれた。

 

「友人はつい先日、魔法士団・団長に昇進しました。それで軍の寮を出て、一人暮らしを始めたんです

 まだ若いですが、優秀な人ですよ。堅実でまじめな性格ですが、ケチではないので、報酬(ほうしゅう)も期待できます」


 説明を聞くうちに、馬車の窓から見える景色が、密集した住宅から、門と庭がある屋敷ばかりになった。貴族たちの住む、高級住宅街だ。それをぼんやり眺めながら、ミアもカリスに質問する。


「貴族のお偉いさんの家政婦が、わしのような、身分がなく、身元も不確かな者で良いのか?」


 大貴族のメイドなど、花形職業。ましてや軍のお偉いさんならば、礼儀も身元も、しっかりした者を雇いたいはずだ。昨日会ったばかりの人間に持ってくる話ではない。

 正直、話がうますぎる。カリスがミアを(だま)しているとは思わないが、ちょっとあやしい。

 鋭いミアの指摘に、カリスは「うっ」言葉に詰まり、黙っておきたかったのですがと、しぶしぶ理由を話した。


「実は前に何度か、家政婦を雇っているのです。しかし友人が若く独身なので、彼女たちは少しばかり、大胆な行動をしてしまいまして・・・・

 家で気が休まらないからと、全員解雇してしまったんです。そのうえ、それが原因で、少々、女性不信になってしまいました」


 なるほど、ワケありか。まあ、それだけ地位が高いなら、たとえ(めかけ)でも一生安泰(あんたい)

 彼女たちが何をしたかは、大体、想像ができる。


「しかしあなたなら、絶対! 大丈夫です」


 カリスは自信満々に言い放つ。

 それはそうだろう。今のミアは、しわしわくちゃくちゃの老人だ(真実(ほんとう)は違うけれど)。

 襲われる心配どころか、女扱いもされないに違いない。


 ほどなく、馬車は王城に近い、こじんまりとした屋敷にたどり着いた。

 そこは、今まで通ってきた道すがらにあった屋敷と比べると、明らかに地味。装飾が何もない。

 門番もおらず、庭が少し荒れている。

 しかし、カリスに気にした様子はない。勝手に敷地内に入って、馬車を玄関正面に止める。

 優雅な仕草で、ミアの手を取り馬車から下りると、コンコンコンとノッカーを叩いた。

 すぐに扉を開けて出迎えてくれたのは、老人だ。

 呪いを受けたミアと同い年ぐらいに見える老人は、ロイと名乗り、礼儀正しく感じのよい笑顔で挨拶をする。


「今、この屋敷に勤めておりますのは、私だけです。あなたが来て下さって、嬉しいですよ。

 ――――主人はこちらの部屋で、お待ちです」


 ロイの先導(せんどう)で、ミア達はすぐに1階の一番奥の部屋に案内される。

 「お約束のお客様です」と声をかけるロイに「入れ」と一言、簡潔な返答があった。

 部屋に入る手前、大きく重そうな(かし)の木の扉を前に、ミアは緊張で手に汗を握った。

 この面接は、ミアにとって楽しい老後の人生の第一歩。失敗はできない。

 意気込んで部屋に入ると、1人の男性が待っていた。

 光をはじく、見事な銀髪。草原を思わせる、緑の瞳。今その顔は、不機嫌そうにしかめられ、眉間(みけん)にくっきり3本のシワがよっている。だが問題はそこではない。


「今何時だと思ってやがる! たしかに時間は指定しなかったが、こっちは朝から待ってたんだそ!」


 部屋に入ってすぐ、腰に両手を当てて、仁王立ち(におうだち)で怒ったのは、呪いで縮んだミアと同じ背丈の、愛らしい少年(・・)だった。




 たしかに若いとは聞いていたが、限度があるだろう。

 予想外の若さに、ミアは一瞬、動きを止めた。

 しかし顔には出さない。剣士には、ポーカーフェイスも必要なのだ。


「はじめまして。ミア=イシュタルと申します。こちらで家政婦を募集していると(うかが)い、参りました。精一杯、勤めさせていただきますので、よろしくお願いいたします」

「おい、馬鹿王子」


 少年はえらそうに、カリスに話しかけた。ミアの挨拶は完全無視だ。

 というか カリス、王子だったのか。金髪碧眼・美形の王子様なんて、できすぎだ。


「俺は忙しいってのに、こんなババアのために、仕事を休ませたのか? いくらなんでも年がいき過ぎだろ。雇った次の日に、ポックリいくんじゃないか?」


 初対面の相手に対しての、あり得ない暴言にミアの顔が引きつる。

 これはどういう事かと、カリスに目で問いかけると、カリスは困った顔で、少年に聞こえないように、こっそり耳打ちしてきた。


「子守りは得意だと、おっしゃったでしょう?」


 採用理由はそっちなのか!




おばあちゃんには、やっぱり可愛い孫が必要だと思います。

どなたか少年を予想できた方はみえるでしょうか?

もしお見えなら、ぜひ教えてください。

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