5話:現地交流3
「すごいわ、おばあさん。カッコイイ!」
黙って成り行きを見守っていた中で、一番最初にミアに声をかけたのは、夕食を運んできた可愛いウエイトレスだった。
彼女は瞳をキラキラさせて、いきなり抱きついてきた。
「相手が汚い手を使っても、正々堂々打ち負かす。ステキ! 正義の味方みたい」
・・・・最後の役を作るために、ミアも何枚かのカードをいじったのだが、だまっていよう。
「そうだ、すごいぜ! ばあさん」
「かっこいいぜ! ばあさん」
「シビれるぜ! ばあさん」
ウエイトレスにつられて、一気に周りが沸き立つ。
ミアは沸き立つ男たちに、部屋の中央まで連れ出された。
「あの男には、みんな大金を取られて、迷惑してたの。うすうすイカサマだとは、分かっていたけど、証拠がないし。おばあさんは、どうしてイカサマが分かったの?」
「若いころにな、剣士をしておったんじゃ。あれぐらいのイカサマは見抜けるわい」
「女性なのに剣士?!」
「これでも腕は良かったんじゃぞ? 並みの男には、負けんかった」
荒んだ国は治安が悪い。
まして孤児には、保護も補償もない。負ければ即、死につながる。
だから必死で、腕を磨いたのだ。
おかげで革命軍の皆に『非常識だ』と言われるほど、ミアは強くなった。
「私の名前は、メグっていうの。おばあさんのお名前は? いつこの街に来たの? 一人で来たの? どこから来たの? 何の用で来たの?」
どうやら、メグに気に入られたらしい。怒涛の勢いで質問された。
周りの男たちも興味津々で聞いている。
ミアはどこまで話して良いか、悩んだ。
・・・・ミアの今までを全部話すとなると、どんな物語よりもウソくさい。
「名前は、ミアだ。今日この街に着いた。一人でだ。シャイランから」
とりあえずミアは、差しさわりがなさそうな事を、簡潔に話す。
しかし、『シャイラン』と言った、とたんに、周り全員が沈黙した。
・・・・どうやらここでも魔女の悪評は、有効らしい。
「新しい人生を、歩みに」
「・・・・おばあさん、ごめんなさい。わたし、そんなつもりはなかったの」
メグはすっかりしょげかえって、ミアに謝った。周りの男たちもオドオドと気遣う視線を投げてくる。
・・・・ミアはどんなうわさが流れているのか、すごーーく気になった。
「お詫びに何かおごるわ。イカサマ男を追い払ってもらった、お礼もあるし。ここにはお酒以外に、甘い物もあるの。おばあさん、ケーキはお好き?」
「わからん」
「・・・・は?」
メグは質問に、好き・嫌い以外の返事をされるとは、思わなかったのだろう。
わけがわからず、とまどっている。
ミアも言葉が足りなかったと、説明した。
「いや、ケーキという食べ物が、小麦粉と砂糖とバターを混ぜて、焼いたものだと、聞いたことはあるんじゃが、わしは食べたことがないので、好きか嫌いか、わからん」
シャイランでは、砂糖やお菓子は、高価な物・贅沢品だ。
そしてミアの居た孤児院は、万年貧乏。
毎日の食糧も、満足に買えなかったぐらいなので、当然、お菓子を買ったことはない。
生活はほとんど自給自足。野菜は自分たちで育て、肉は山でイノシシやウサギを狩っていた。
だが、さすがに砂糖は作れない。
「・・・・ケーキ、食べたこと、ないんですか?」
「ない」
「・・・・アイスは? パイは? プリンは?!」
「ないな。ああでも、プリンは砂糖なしで、作ってみたことがある」
「それはプリンじゃない! 茶碗蒸し!!」
メグは頭を抱えて、しゃがみこんだ。地面をドンドン叩いて、何かを訴えている。
周りの男たちもどよめく。頭を抱え、あちこちから『そんなバカな!』『信じられない・・・・』と、さっきのイカサマ男の時より、よっぽど騒ぎになっている。
しかしミアにとって、お菓子を食べたことがないのは、当たり前の事だったので、皆が何をそんなに驚いているのか、分からない。
「あーっもう! 信じらんない! 信じらんない! 信じらんないっっ!」
「・・・・メグ?」
「おばあさん!!!」
ミアは騒ぐメグに、おそるおそる話しかけた。
すると突然、メグはカッと目を見開き、ミアに掴みかかる。
そのまますごい勢いで、ミアの肩をつかみ、激しく揺さぶった。
ずずいっと寄せられた顔は、鬼気迫っていて、怖い。
ミアは逃げ出したくなったが、周囲をメグと同じような顔をした男たちに取り囲まれ、逃げ場はない。
「今すぐ! 特大ケーキ! 持ってきますから! 私のおごりで!」
「アイスクリームを! 盛り合わせにして! 俺のおごりで!」
「アップルパイも! 1ホール丸ごと! 俺のおごりで!」
「プリンパフェ! 生クリームたっぷり! 俺のおごりで!」
なぜかミアの周りで、お菓子のおごり競争が、始まった。
ミアは止めなければと思うのだが、異様な熱気に、何も言えない。
――――かくして、ミアの前には、大量のお菓子が並べられたのだった。タダで。
小学校の時友達に、「ポテトチップスを食べたことがない。」と言われたことがあります。
貧乏なわけではなく、家庭の教育方針からだったのですが、あげた1枚のポテチを大事そうに、少しずつかじりながら食べていた姿が、忘れられません。