3話:現地交流1
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宿屋 旅人の止まり木
〜清潔なベットとおいしい食事でおもてなしいたします〜
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ミアが親切な門番の、おすすめの宿屋に着く頃には、日が暮れた。
表通りに面した宿屋は、中にはいってみると十分に広く、掃除も行き届いていて、清潔だ。
2階が宿泊施設で、1階は食事処&酒場になっているらしい。夕食時を少し過ぎた今、多くの男性が皆酒を片手に騒いでいるが、室内は十分明るく、皆陽気だ。
ミアは、ちょうど目の前を通り過ぎた、ウエイトレスに声をかける。
フリフリのエプロンが実によく似合う、若くて可愛い女の子だ。
「今晩泊まりたい。部屋はあるかいのー?」
調子に乗ってミアは、年寄りになりきった。言葉づかいも変える。
この街では、年寄には皆がちやほやしてくれるので、本当に楽しい。
「はい。お連れ様は、おみえですか?」
「いや、わし一人じゃ。夕食と朝食も、付けてほしいんだがのぅ」
「ではすぐに部屋と夕食をご用意いたしますので、こちらの席におかけになってお待ちください」
彼女は可愛いうえに働き者らしい。にっこり笑うと、飛ぶように去って行った。
ミアは案内された、一番奥の4人掛けのテーブルに座る。
周りは盛り上がっているらしく、あちこちで笑い声や乾杯の掛け声が聞こえてきた。
どの声も楽しげで、くもりがない。今までが荒んだ所にいたので、平和で明るい雰囲気だけで、ミアも楽しくなってくる。
ミアは出されたお茶を飲みながら、にぎやかな店内をじっくり眺める。そうすると、
(おっ?)
面白いものを見つけた。
ミアとは反対側の部屋の奥、2人の男がカードを手にしている。
1人は体格の良い40代ぐらいの男。姿勢が悪い。ほおずえを着いて、ニタニタ笑う。その手元には銅貨が高く積まれている。
対するのは若くおとなしい感じの金髪の男。身なりが良く、いかにも、おぼっちゃん。その顔は唇をかみしめて、今にも泣きそうだ。
別に、酒場では珍しい光景ではない。酒に賭博はつきものだ。
けれど剣士として鍛えたミアの目は、体格の良い男の指の不自然な動きがわかった。
(さて、どうしようか?)
あきらかなイカサマ。だが別にイカサマも、珍しい事ではない。
負けているおぼっちゃんには、いい勉強だと思って、放って置けばいいかもしれない。
・・・・ただ、酒場の楽しい雰囲気につられて、ミアも少し遊びたくなった。
懐に手をやれば、軍資金は十分。そしてあの程度のイカサマの腕なら、自分が負ける事はあり得ない。
ミアは杖を持って立ち上がる。わざとゆっくり歩いて、男2人に、笑顔で声をかけた。
ここからすでに、駆け引きは、始まっているのだから。
「お兄さん方。ちょいとすまんが、わしもゲームに入れてはくれんか?」
◆◆◆
「なんだいばあさん。ヒマなのかい?」
イカサマ男はちらりとミアを見て、すぐカードに視線を戻した。そしてそのままミアを見ようとはしない。どうやら極上のカモが目の前にいて、ミアはお呼びではないらしい。
「悪いが、今はこいつとゲーム中だ。ジャマしないでくれ」
「そう言わずに、少しばかりさみしい老人の相手をしてくれんかのぅ?わしはこの街に今日着いたばかりで、知り合いもおらんのじゃよ。」
邪険に扱うイカサマ男の前に、ミアは懐からありったけの銅貨をジャラジャラと乗せた。
その音に、ようやくイカサマ男が顔をあげる。
そして置かれた結構な金額を見て、目を輝かせた。ようやくミアを世間知らずのカモだと思ってくれたらしい。
「ばあさん、ルールは分かるのかよ?」
「ああ、大丈夫じゃ」
2人がしていたゲームは、ミアの地元でも遊ばれるものだ。最初に山札からそれぞれ5枚手札を取る。その後お互いの手札を交換しながら、役を作る。速く強い役を作った者が勝ちだ。
「ふうん? まぁ、いいだろう。相手してやるよ。ばあさん、座んな」
「ありがとう」
イカサマ男は、舌なめずりをしてニヤニヤ笑う。相手をバカにした笑い方。たっぶり搾り取ってやろう。そんな顔だ。
ミアも、男に笑いかける。『何も気づいてません』『善良なおばあちゃんです』そう見えるように。
――――カモが餌に食いついた。
イカサマ男もミアも、お互いにそう思った。
「ちょいと悪いが、代わってもらうよ」
戸惑っているおぼっちゃんと交代し、ミアはイカサマ男と対面して座る。
おぼっちゃんは、何か言いたそうにオロオロしているが、取り合えず無視。
「それじゃ、始めるぜ」
イカサマ男は、慣れた手つきでカードを切り、配る。
ミアにはもう、その時点で、イカサマ男が自分の手札を一枚多く取ったのが見えた。
どうやらこの男、老人相手にも、手加減をする気はないらしい。
しかし、取りあえず今は、黙っておく。
案の定、配られたミアの手札には、強いカードは一枚もなかった。
「う~~む。どーしたもんかのー?」
イカサマ男の手札から一枚カードを抜き取りながら、ミアは眉を下げて、せいぜい困った顔をしてやる。
「なんだい、ばあさん。今更『やっぱり止めた』は無しだぜ?」
イカサマ男もミアの手札から一枚抜く。その指がまた、カードをそっと上着の袖口に入れるのが見えた。
それにも、ミアは気付かないふりをする。
そうしてゲームは表面上、何事もなく進む。
「オープン」
2回手札を交換したところで、イカサマ男が自信満々にコールした。
開いたイカサマ男のカードには全て同じマークがある。なかなか強い役だ。
まぁミアには、目と指の動きから、開く前に男の役が分かっていたのだが。
そして後から開いたミアの手札は――――――
「なんだ、ばあさん、ブタかよ。」
「おぬしのコールが、ちょっと、速すぎたんじゃ」
ミアは口をとがらせ、負け惜しみを言う。
その悔しそう(に見える)顔を見て、イカサマ男はまたニタリと笑った。
そしてミアの銅貨を3分の1ほど持っていく。
イカサマ男の顔は、喜色満面。ミアは1ミリも疑われていない。
――――まだまだ。釣りあげるには、まだ早い。
ミアも心の中で、ニヤリと笑った。
「さぁもう一回じゃ。勝ち逃げは許さんぞ?」
――――ミア達は、そのままゲームを続け、わずか3回で、ミアの銅貨は無くなった。
「ばあさん、自信ありげだったのに、弱いな?」
バカにしきった顔をして、イカサマ男はミアをからかう。
「うぬぬ、おぬしが、強すぎるのじゃ」
「カードにはちょっと自信があってね。それでどうする? ばあさん。まだやるかい?」
ウキウキと銅貨を数えるイカサマ男は、もはやこちらを、見てもいない。
――――そろそろ、良いな。
「うむ。わしも若い者には負けられんからの。どうじゃ、次で大勝負をせんか?」
ミアは財布から1枚、金貨を取りだした。
「この金貨と、おぬしの机の上の、銅貨を全部、でどうじゃ?」
「――――いいぜ」
「だめです!」
否定の言葉は、意外なところから上がった。
それまで黙って見ていたおぼっちゃんが、ミアとイカサマ男の間をさえぎった。
「あなたも、こんな老人から大金を取り上げて、恥ずかしくはないのですか!」
そして他からも、制止の声が上がった。
「そうだぜ、ご老人を相手に何やってんだ」
「もう十分だろう?止めとけ」
酒場で飲んでいた男たちも飲む事を止めて、集まってくる。どうやらミア達はすっかり注目を浴びていたらしい。
「取り上げるなんて、人聞きの悪い。これは正々堂々と行った勝負の結果だぜ」
「だからと言って、限度があるでしょう!」
「本人がやると言っているんだ。文句ないよな、ばあさん」
「ああ、ない」
ミアの返事に若者が、信じられないといった顔をする。
――――心配して、助けようとしてくれるのは嬉しいが、今止められたらミアは大損だ。かなり困る。
男も止められてはマズイと思ったのだろう。周囲を無視して、すぐにカードを配りだした。
ミアを心配するヒソヒソ声の中、ゲームを始める。
「おぬしは、いつもここで、カード賭博をしておるのか?」
ミアは配られたイカサマ男のカードを1枚引いて、尋ねた。
「あぁ、まぁ最近は相手がいなかったんだが。今日は助かったぜ。」
イカサマ男もミアのカードを引きながら答える。しかしその目はミアを見ていない。金貨に釘付けだ。
「おぬし強いからのー。中には払いを渋る者もおったのではないか?」
「まあな。だが、それは勝負の結果だ。きちんと払うのが勝負師ってもんだろう?」
「――――なるほど。それを聞いてわしも、安心した。」
自分の番になって、ミアは男の手に持つカードを無視し、その袖から、カードを引き抜いた。
その一枚は、全てのカードの中で、最強のカード。そのカードを取って、開いたミアの手元には、普通なら一生かかってもお目にかかれない、最高の役。
あまりにもあっさり暴かれたイカサマと、普通ならありえない役に、イカサマ男もおぼっちゃんも、周りの男たちも口を開け、ポカンとなる。
――――誰も動かず周囲から音が無くなった。
「おぬしはりっぱな勝負師らしいから、きちんと金を払ってくれるな?」
皆が固まる中で、ミアはイカサマ男に対して、初めて本心からの笑顔を見せた。