2話:隠居場所
「ザンティア国の首都・ドゥミエの街にようこそ!」
高い城壁に囲まれた街の入り口で、ミアはここがいったいどこなのか、どう聞いたら良いか考えていた。
しかし、人の良さそうな若い門番の歓迎の言葉で、現在地を知ることができた。
ザンティアはミアの国・シャイランと、山脈をひとつ挟んだ隣国だ。
魔法王国とも呼ばれ、領土は大きくないが、魔法力の強い王族の下、強い軍事力と経済力を持っている。
シャイランは魔女の圧政のもとに鎖国をしていた。
そのうえ、死の山とも呼ばれる山脈・カツカレフを挟んでいるため、ザンティアとの国交はない。
だが、距離はシャイランから、遠くない。
「そのような格好で、どうされたのですか? おばあちゃん」
門番が心配そうに声をかけてくる。それはそうだろう。
ミアの服装は剣士の格好で、なおかつ汚れている。
剣と防具は外して手に抱えているが、どう見ても旅人や村人には見えない。
不審者扱いされないのは、ミアの見た目が年寄りで、盗賊の類には見えないからだろう。
「・・・・わたしは、シャイランから来ました」
どうごまかしたらよいか、ゆっくり話しだすと、門番の顔色が変わった。
どうやら魔女の悪評は、この国にも届いているらしい。
「魔女に追われ、仲間と離れ、この国にたどり着きました」
ウソは言っていない。
魔女に呪いで「追われ」、革命軍の「仲間と離れ」、鼻歌を歌いながら「この地にたどり着いた」のだ。
しかし門番の顔は『悪い事を聞いてしまった』と痛ましげな顔をしている。
きっと、魔女の圧政に家族と共に逃げ出したが、死の山脈で離れ離れになり、一人で命からがらここにたどり着いたと考えたに違いない。
「・・・・そうですか。苦労されたんですね」
門番は、優しくミアの手を握り締める。その瞳は涙目だ。
・・・・魔女の悪評は、そうとうヒドイらしい。
「大丈夫、この国の王は慈悲深い方です。国民も穏やかで、誰もあなたを傷付けたりはいたしません。まず、役所に難民登録に行ってください」
――――その後の扱いも、とにかく丁寧だった。
まず、門番の同僚が役所まで案内してくれた。
役所の申請も、名前を言っただけで済んでしまった。
「・・・・いいんです。もう、何も言わなくて」
対応してくれる人が皆、涙で目がうるんでいる。
ミアは取りあえず、生活費を手に入れようと、剣と防具を売った。
かなりの高値で売れたので、老人らしい服装と杖、しばらくの宿代が手に入った。
高値で売れたのは、物が良い物だったこともあるが、『最後まで私を逃がしてくれた娘の形見で・・・・』と店主に泣きついたからだ。
いかつい顔をした店主だったが、最後には泣きながら見送ってくれた。
今も杖をつきながら、ゆっくり歩いて宿屋に向かうミアに、道行く人が皆、道をゆずってくれる。
――――老後を過ごすには、ものすごくいい街だ。
魔女の思惑とは逆に、ミアは”おばあちゃん”を楽しんでいた。