12話:休日2
ウーノ、ドゥーエ、トレの少年3人は、孤児院でも一番の仲良しだ。
年齢も同じだし、赤ん坊の時に捨てられて、親を知らないのも同じ。
だから何をするのも、3人一緒だった。
いつも同じ部屋で起きて、同じご飯を食べて、同じおもちゃで遊んだ。
今日も、一緒に3人で、いつもどおり、市場でイタズラをした。
しかし今日は、いつもと違って、変なババアに捕まった。
怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い。
怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い。
怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い。
3人の頭は恐怖でいっぱいだ。
何が怖いって、このおばあちゃんが何を考えているのか、全く分からないのが怖い。
いつもなら、イタズラに失敗なんてしないし、もし捕まっても、市場の人たちはガミガミ怒るだけで、黙って聞いていれば、そのうち解放してくれる。
けれどこのおばあちゃんは、市場の人と違って、何も言わない。先頭をずんずん歩いて、振り返りもしない。
少年たちは、怖いおばあちゃんについて行くのは嫌だった。このまま走って逃げ出したい。
けれど最初に「逃げた時は保護者に報告する」と言われている。
マザーにドロボウを知られる、その事だけは、防ぎたかった。
少年たちは怒られるのは怖くない。イタズラ好きの自分たちは、しょっちゅうイタズラをしては、街の人たちに怒られている。
しかし、マザーは、優しいあの人は怒るのではなく、泣くのだ。
自分たちを抱きしめて。「さびしい思いをさせてごめんなさい」と。
それだけは、嫌だった。だってマザーは何も悪くない。強くて優しくて立派なマザーが謝る事なんて、何一つない。
だから3人は逃げられない。このおばあちゃんに何を言われても、何でもやるしかないのだ。
3人はお互いの手をつなぎ、泣きそうになりながら歯を食いしばって、怖いおばあちゃんの後を黙ってついて行った。
◆◆◆
結局おばあちゃんは一度も振り返らず1時間歩き続けた。
その間に一行は市場を出、商店街を抜け、住宅街も通り過ぎ、街中央の川に到着した。
今いる場所の川幅は広く、水深も浅い。3人もたまに水遊びに来ている場所だ。
おばあちゃんは一度河原で止まると、いきなり靴を脱いだ。そしてそのまま川に入っていく。
自分たちも追いかけるべきか迷っていると、おばあちゃんがしゃがんで、水の中から、石を投げてよこした。
1人に2つずつ。握りこぶしのぐらいの丸く平べったい黒い石と白い石。
いったいこれは何なのか。本当に、このおばあちゃんは、わけがわからない。
両手に石を持ち、お互いに顔を見合わせていると、おばあちゃんが、川から戻ってきた。
「今渡した石の白い方は、砥石じゃ。硬くてザラザラしておるから、刃物を研いだり、物の表面をなめらかにしたりする時に使う。でこっちの黒いのは」
おばあちゃんは、3人に渡した黒い石と同じ石を持って、振りかぶった。
3人は石をぶつけられるのかと思ってとっさにしゃがみ、頭を庇ったが、おばあちゃんが石をぶつけたのは地面。石は音を立てて砕け、欠片が地面に飛び散った。
「ほれ。見てみよ」
おばあちゃんが砕けた石を拾い、3人に差し出す。みると石の表面は黒一色だったのに、断面はあちこちキラキラ輝いている。
「キレイじゃろう? 水華石と言ってな。見た目は変哲のない石なんじゃが、中に光る物質をもっておる」
たしかにすごくキレイだ。見れば同じ石が川の中にいっぱいある。自分たちは小さいころからこの川で遊んでいるのに、ぜんぜん知らなかった。
「この水華石を砥石で削って、向こう側が透けて見えるくらい薄い板状にするんじゃ。すると石が光を通してもっと光るようになる」
3人は顔を見合わせた。この石は今でもきれいなのに、これ以上輝けば、どんなにスゴイんだろう!
おばあちゃんに何をさせられるのかと思ったが、この石を削るのは面白そうだ。
3人はさっそく作業にとりかかった。おばあちゃんに教えられるとおり、地面にひざをつき、砥石を濡らし、黒い石をこすりつける。
最初はワクワクやっていた3人だが、やっぱりおばあちゃんは甘くなかった。
◆◆◆
水華石を削るのは重労働だった。
まず体重をかけなければならないから、常に前かがみ。しかも力加減が難しく、気を抜くと平らにならない。ナナメにけずれてしまう。
イライラしてつい乱暴に扱ったら、石の端が欠けてしまった。
そして平べったい石も、削ってみるとけっこう分厚い。何時まで経っても、ちっとも薄くならない。
石を持つ手はだるく、地面についた膝が痛い。お腹もすいた。
石なんてもうどうでも良い。帰りたい。
けれど背後にはおばあちゃんが立っていて、少しでも手を止めると、静かな声で名前を呼ばれる。
怖い。止められない。
――――その後、石を削る作業は4時間、高かった日が落ちて、空が夕焼けになるまで、休まず続いた。
◆◆◆
「うわぁぁ!スゲェ!」
長時間おばあちゃんの恐怖に耐え、苦労して削った水華石は、たしかに割った石よりずっとキレイだった。
石の黒い部分は薄くなって青みがかり、キラキラはもっと強くなって、まるで夜空に浮かぶ、星のようだ。
(今、オレの手の中に星空がある!)
3人はうっとり、それぞれが削った水華石に見入る。身体は疲れてボロボロだったが、それゆえに感動もひとしおだった。
しかし、その感動を、恐怖のおばあちゃんが、一瞬で壊す。
「できたか。ではその石を、わしによこせ」
現在、とーりすがりのあたらしい職場、修羅場です・・・
小説の続きを書くどころが、家にも帰れない。
と―りすがりが荒んでいるので、ミアおばあちゃんも怖いです。