9話:面接3
変な方に転がってしまった場を収めたのは、ロイだった。
ノックをして、入ってきた彼が見たのは、
・今だに入口にいるミア
・少年に片腕を持ち上げられ、ニコニコ笑うカリス
・外に向かって両手を上げ、高笑いをする自分の主人
しかし彼は、そんな光景を見ても何も言わず、持ってきたお茶をテーブルにセットする。
そしてミア達に席を勧めると、自分は一礼をし、部屋を出て行った。
素晴らしい。執事の鏡だ。
「俺の名は、エドワード=レオ=クロネンバークだ」
「エディって呼んであげて下さい」
咳払いをして、名乗る少年に、カリスが茶々を入れる。
「それはやめろって、言ってるだろ! せめてエドにしろ!」
「可愛くて、似合っているのに」
「・・・・レオと呼ばせてもらおう」
これでも雇い主なので、嫌がる呼び方はできない。かといって、真実は王子らしいカリスの呼び方も、否定しづらい。しかたなくミアは、ミドルネームで呼ぶことにした。
「それで、おまえの名は?」
「ミア=イシュタル」
「年齢は?」
「18歳」
「あきらかな嘘をつくな! どうみても、60歳はいってるだろ!」
真実を答えたのだが、怒られた。今の自分を見れば、あたりまえだが。
「まあまあ、今のはエディが悪いですよ。女性に年齢を尋ねるのは、失礼なことです」
怒るレオを見て、カリスがフォローをしてくれる。しかし的外れだ。
ミアはまだ、年齢を尋ねられて、困るほど年ではない。
「・・・・孤児なので、正確な年齢は分からん。見た目で適当に判断してくれ」
話がややこしくなるので、説明はしない。まあ、嘘は言っていない。
「出身は?」
「シャイラン」
「シャイラン?! おまえ、何時まで居た?」
子供でも、さすがは軍人。レオは今までになかった反応をした。
「シャイランは、魔女の鎖国で情報が入ってこないんだ。知っている事を詳しく話せ。」
「知っている事といっても、何が聞きたいのじゃ?」
なにせ、ミアは革命軍リーダーだ。シャイランに関しては、誰よりも詳しい内情を知っている。
しかし、それは普通のおばあちゃんの知ることではないし、この先の国同士の関係にかかわる。
あまり話したくはない。
「そうだな。おまえ、革命軍のリーダーは知っているか?」
本人がここにいる。
「いろいろ話は聞くんだが、身の丈より大きい岩を真っ二つに切ったとか、1000人の王国兵に囲まれても逃げ切ったとか、魔女の使役するドラゴンを一人で倒したとか、ウソ臭い話ばっかりなんだ」
残念ながら、全部真実だ。別にやりたくてやったわけではない。魔女がミアを狙って、岩も兵士もドラゴンもよこすので、しかたなく、返り討ちにしただけである。
「まあ、リーダーの信望を集めるために、わざと大げさに話を流しているんだろう。だが今のヤツが、リーダーになってから、革命軍はどんどん力をつけている。ただものじゃない。」
おお!辛口そうなレオに誉められている!今までの自分の努力が認められたようで、ちょっと嬉しい。
「おまえは、見たことがあるが? 身長2m、体重300キロ、成人男性を片手で握りつぶす、ゴリラ女らしいが」
ミアは今後、自分が革命軍リーダーとは、絶対に名乗り出るまいと、固く心に誓った。
その後、無事に面接を終え、ミアはレオに雇ってもらえることになった。
住み込みで、屋敷に部屋をもらい、仕事は明日の朝から。
レオは『坊や』と呼ばれ、謝らさせられたのが、よほど気に食わないらしい。宿屋に荷物を取りに行く時、お言葉をもらった。
「せいぜい、覚悟をして来い」
とにかく、新しい生活の始まりである。
本来の主人公は、ものすっっっごく強いです。
何といっても、天才剣士ですから。