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序話:終わりがはじまり
 時刻は真夜中。しかし闇に潜んで乗り込んだ王宮は、昼間の外にいるよりも明るかった。影ができる隙間もなく、魔法のランプが置かれているからだ。
 そしてランプは、最初に侵入した広大な庭から、延々と続く廊下や階段、最後にたどり着いた謁見の間まで、王宮内のいたるところにある。
 あまりに室内が明るいので、窓の外に星は見えない。まるで一枚の黒布をはったような暗闇だ。
 この闇の向こうに、自分たちの住む市街地はある。しかし本来あるはずの家の明りは、一つも見えなかった。まるでこの国の現状を表しているようだと思う。国を支配する魔女に搾取(さくしゅ)され、民には光がない。そして集めた光で、目の前の魔女は絢爛(けんらん)に輝く。
 今いる謁見の間は、今まで進んできた王宮内の、何処(どこ)よりも光にあふれていた。
 数多いランプに加え、部屋中に所狭しと置かれた彫刻や金銀宝石が光りを放つ。
 そのまばゆい光の中を、深紅のじゅうたんが道のように敷かれている。道は部屋の入口から、奥中央にある一層豪華な王座へと50mほど伸びる。
 女はその緋色の道をゆっくり進み、王座の手前でひざまづいた魔女に、剣を突き付けた。
 追いつめられた魔女はすでに全身、血にまみれている。
 女が、魔女の逃亡を防ぐため、真っ先に足をつぶし、杖を(にぎ)る右腕を切り飛ばし、剣の根元まで腹を(つらぬ)いたからだ。
 魔女からしたたる血は赤いはずだが、じゅうたんの深紅に負けて、黒く見えた。
 魔女の傷は、まだ生きていることが不思議なくらいだが、剣を突き付ける女は油断しない。
 この魔女は、その絶大な魔力で100年間、国を支配してきたのだ。
 美しい容姿(ようし)で国王を(たぶら)かし、圧倒的な力で重鎮(じゅうちん)を支配し、圧政(あっせい)で民を苦しめた。
 魔女は少なくとも100歳を超えているはずなのに、足元まで流れる金髪も、()けるような白い肌も、若く妖艶(ようえん)だ。
 その顔は今、怒りで(ゆが)んでいる。赤い瞳が不気味に輝く。


「小娘が! 英雄などと呼ばれて、いい気になりおって! 親が誰かも分からぬ下賤(げせん)な身で、(とうと)き我が身を傷付けるなど、許されぬっっっ!」

「――――許しなど、いらない」

 女は迷うことなく、突き付けた剣を、のどに突き刺した。
 魔女は目を大きく見開き、じゅうたんの上に倒れる。

「英雄なんて、いない。正義なんて、知らない。
 ただ、あなたが生きていると、私の大切な人たちが、苦しみ、傷つき、死んでゆく。
 ――――だから死んでもらう。私のために」

 魔女を目の前にして、こんなに落ち着いていられることを、女は不思議に思った。
 きっと怒りに狂い、正気ではいられないと思っていたから。
 魔女の非道のために、孤児の自分を育ててくれた、孤児院の院長は殺された。
 血のつながらない多くの兄弟姉妹(きょうだいしまい)達も、連れ去られ、犯され、殺された。
 今も残された家族が、飢えと恐怖に苦しんでいる。
 これ以上、大好きな人たちを失いたくない。
 だから女は剣を取り、仲間を増やし、反乱を起こした。そして苦労の末、ようやく今、魔女にたどり着いたのだ。

 仰向けに倒れた魔女が完全に動かなくなったのを確認し、女はのどに刺した剣を抜いた。そのまま、剣をおおきく振って着いた血を払う。
 思わず止めていた息を吐くと、遠く階下から、剣戟(けんげき)や魔法の爆裂音が聞こえてきた。
 すぐに戻らねばならない。魔女を確実に倒すために、リーダーである女は一人先に進んだが、共に王宮に潜入した革命軍の仲間は、まだ下の階で戦っている。

 踵を返し、急いで部屋を出ようとしたその時―――― 後ろから(くる)った笑い声がした。
 女は振り返り、再び剣を(かま)える。
 そこには、たった今死んだはずの魔女が、空中に浮かんでいた。
 風がないのに長い金髪は波打ち、まるで生物のように動く。
 その顔は満面の笑みを浮かべ、瞳は正気を失い狂喜で輝いている。

『そうだ。おまえは正義などではない。唯一無二(ゆいいつむに)の、尊き妾を(けが)した罪人。その罪は、死をもってしても(あがな)えぬ』

 のどに穴が空き、呼吸ができないはずの口が呪詛(じゅそ)を吐く。
 切り飛ばされ、残った片腕で女を指さし、呪う。

『おまえは苦しまねばならぬ。(みにく)い姿、動かぬ身体、誰一人知る者のいない場で、孤独と絶望を味わうがよい!』

 呪いの言葉と同時に、魔女の腹・のど・腕・足の傷口から黒い血があふれ、女に襲いかかってきた。
 ――――けれど女は自分にのびてくる血にかまわず突進(とっしん)した。10mの距離を一瞬で詰め、剣で魔女の心臓を貫く。
 魔女を仕留めるのを諦めて、伸びてくる血から逃げれば、女は呪いにはかからずにすむかもしれない。
 だが女にそれはできない。大切な人達のために、どうしてもここで、魔女を倒さなければならない。

 魔女の身体からあふれる黒い血は、液体のはずなのにヘビのように動き、ツタのように女の身体にからみつく。
 しかしどんなにうごめく血にしめつけられても、女は心臓に突き刺した剣を(はな)さない。
 やがて剣が刺さった心臓からも血があふれ、女の身体を覆い尽くす。


 ――――魔女の瞳が光を失うのを確認して、女は気を失った。



初執筆・初投稿です。
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よろしくお願い致します。

注意:ジャンルに『恋愛』が入っていますが、とうぶん先です。しばらくはシリアス&コメディです。
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