3話食事
あれから俺たちは三人で村長の家に帰る序に田んぼや畑の事で話し合ったのだが・・
「・・ふ~ん。おが屑や乾燥させて匂いを取った排泄物に虫の付いた落ち葉ね・・・。成るほど?確かに良い養分のある物の傍には良い者が来るって事だね。分かった、余所者の君が言っても最初は信じて貰えないだろうから、私がキクリさんに言ってみるよ。他には有るかい?」
「なら、水路の事も改善した方が良いな。」
「改善とは?」
「ああ、まだ俺の魔法がどの位の頻度で使えるか分からないから何とも言えんが、土魔法で向こうの河からそっちの河に用水路を引いて田畑全体に水分が行き渡るようにすれば、皆の負担も軽減するし、大雨で整備した水路が崩れない様に鍛冶職の人に鉄製の囲いを作って貰えば村全体の水源にも成る。」
「・・・確かに。けど、それはまだ保留だね。今君が言ったように、君の魔法がどの位の頻度と質で出来るか分からない今は何とも言えないよ。・・それ位かな?」
「ああ、後は水路の目途が立ってからと、森の危険が少なく成らないと無理がある物ばかりだ。」
そう言って俺は話を切ろうとして・・・聞いて無かったことが有った。
「なあ、この森が危険なのにここに村が有るのは何でだ?態々ここに作る必要もないんじゃないか?」
俺の質問にリンナは苦笑して
「それは謂わばカリンちゃんがいる所為ってとこね?あそこから溢れてくる魔物はカリンちゃんになら任せられるという報告が昔に有ったらしい。さっきスカウトを断ってるって言ったろ?それで、カリンちゃんがこの村に居る間はこの村をここに置いて偶に行商に来てる人たちに確認させてるの。カリンちゃんの手に負えないと判断されたら、王都の騎士団が動いてココを派遣協会で管理する様になるだろうね?」
そして、一泊置いてから飛んでもない事を言いってきた。
「もし、そうなったここの村人は行くところが無くなって路頭に迷う事になる。当然、迷宮の中の秘密も何時かは暴かれるだろうね?カリンちゃんはこの村の人達が用済みに成るのが嫌で頑張ってるのもあるのさ。まあ、最初は只喜んでくれる顔が見たい、褒めて貰いたいってのが大元で、今もそれが生きてるけど、必死で頑張ってるのはそう言う訳だよ。村が襲われても、自分が居なくなってもこの村の人に未来が無くなるからね?」
リンナの説明を来た俺は其れが正しいのかどうかカリンを見ると・・
「・・・・」
俯いている。
どうやら間違えでは無い様だ。
なら、この村の活気を取り戻す方法はあの森の迷宮の攻略って事だ。
その為にはAIフォンの新機能をもっと詳しく調べないといけない。
これから忙しくなりそうだ。
そうやって、話しながらカリンの家に着くと、朝は居なかった村長の奥さんらしい、優しげな女性が昼の準備をしてくれていて、俺もリンナも同席する事になった。
「さあ、今日は新しいお客さんが居るから頑張って焼き馬肉に骨付きの鶏肉と玄米のご飯にしたわよー?タップリと召し上がれー?」
「「「「いただきまーす」」」」
・・・言っては何だが、技術も減ったくれも無いな。
焼き方は合ってるのだが、ただ火を通しただけで全体に熱が行き渡る様に回転をさせてないから半分の面が焦げかかってて、半分が生煮えだ。
ご飯は流石に普通だが、肉は酷いもんだ。
それを皆何も言わずに美味しそうに食べている。
理論家のリンナでさえ、気付いて無い様だ。
この村の人が皆こうなのか、この奥さんが特別こうなのかは知らないが、これは注意して置いた方が良いだろう。
「あのー、少し聞くけど、いい?」
俺はなるべく失礼のない話し方で言った。
「何かな?」と奥さん
「この肉の焼き方なんだけど、これは何処でもこのやり方?それともこの家だけ?」
「この焼き方も何も、他に如何焼けと言うの?」とリンナ
どうやら、本当に分からないらしい。
「先ず、恐らくこの針の棒を指して竃に入れ込んだだけだと思うんだけど、竃の上に網か何かを置いてそこに人数分の肉を一旦置いて、程よく焼けたら裏にしてまた焼く。
こうすれば両方に均等に熱が加わるんだけど?」
「・・・なるほど、考えた事も無かったわ。なら君が一度やって見せてくれない?奥さんはそれに付いて見て貰って方法とやり方を盗ませて貰ったらどう?」
リンナの意見に奥さんも
「そうねー、悪いけど見せて貰ってもいい?」
「ああ、いいよ?竃の場所に案内してくれる?」
「ええ、こっちよ。」
そうして、やってきた竃は何ともまあ簡易な創りの竃だった。
俺がいた元の世界のキャンプ場の簡易竃そのまんまで、辛うじて材料を切る場所が有る位だ。
これがこの村だけならいいが、この世界の共通の食事風景なら、改善しないと俺が持たんぞ。
「よし、なら余った肉を出して?」
「ええ。・・・はい。これを使って?」
お?肉自体は良い肉を使ってるようだ。
ああ、馬が役目を終えた時にそれを保存してるのかな?
保存の魔法ならリンナが出来そうだし。
あとで一通りの詠唱と現象を見せて貰いがてら撮らせて貰おう。
「んじゃあ、切る厚さからね?厚さは大体2センチくらいね。火力がそれ程強く成らないから厚くし過ぎたらどんなに時間を掛けても中まで焼けないから、それ位が良いと思う。これが魔法で火力の調整を出来る竃なら、さっきの位の厚さで行けるけど、この竃では無理。」
「へ~、色々と考え方があるのねー?」
奥さんが実に興味深そうに言ってくる。
「俺にしたらなんで単純な工程しかしないのか分からないな。ご飯なんて、言うなれば一日のエネルギー源だろ?それを美味しく食べようとしないのは可笑しい位だよ。・・都会もこうなの?」
「都会なんて言ったこと無いから分からないわよ。って言うか行商の人が嫌そうに食べてたのはそう言う事かな?」
「え?行商の人もココで食事するの?」
「ええ、流石に次の村や都市まで行くのにはここからだと一日掛かりだから、お昼くらいに着いたら大抵は一泊するわよ?その序に森の状況や税率の確認や新しい情報の確認をリンナちゃんと主人に確認するの。要望があればそれもね?」
成るほど、王都の方も生かさず殺さずの様だな。
スカウトしたいと言っても無理矢理の必要はないという事か?
それとも、カリンを敵に回れば怖いとか思うほどに王都の戦力が低いのか?
これは早いとこ美空だけでも召喚して王都に派遣して情報を集めさせんといかんな。
「うーん、俺の出来る事はこれから増えていく範囲で協力して住みやすくするけど、それはこの村の人にも協力して貰わないと無理だから、なるべく行商の人には見知らぬ人が来てるって言わないでね?明日なんでしょ。行商。」
「ああ、リンナちゃんに聞いたんだ。うん、そうだけど。カリンちゃんが気安く接している時点で大丈夫だと思うわよ?カリンちゃんの探知に引っかかるのは大抵行商に紛れ込んでる迷宮荒らしや派遣協会から来たゴロツキだから。・・・まあ、殆どがカリンちゃんにちょっかい出そうとして返り討ちか、迷宮の魔物の餌に成るんだけどね?」
うわ~、嫌なこと聞いたな。
如何にも面倒事を運んで来そうな名前の連中だ。
「まあ、そこら辺は今夜あたり俺の用事が良い方向に行ったら何とかなりそうだけどね?最悪の場合は俺が変な言いがかり付けてきた奴らをぶっ飛ばして出てくよ。」
俺がそう言ったら、奥さんが苦笑して
「そんなに変に考えないで良いよ?アンタは立派なお客さんの上にこうやって私らの事を考えたアイデアを提供してくれてるんだ。カリンちゃんやリンナちゃんにも感謝してるけど、この村にいる皆は殆ど家族みたいなモンなんだから、気遣いは無用だよ?」
ふ~ん?
カリンに何も言ってやらんようになったのはそう言う事か。
成るほど、一理あるな。
家族には言葉にしなくても意志が伝わるという考え方はよくあることだ。
しかし、全員がそうならいいが、感謝される側がそうして欲しいと言わなければならないのは悪循環に成るのもこの考え方の落とし穴だ。
ここは一肌脱ぎますか。
「なあ、奥さん?」
「ん?何かな?」
「カリンの事なんだけど。」
「カリンちゃん?」
「ああ、カリンに最近言葉にして感謝を伝えてる?」
「んー?・・・そういや、もう当たり前みたいに成ってて、キチンとした言葉は掛けて上げてないね。・・もしかして、落ち込んでた?」
俺の言葉で見るからに顔色が変わった。
まあ、これなら大丈夫だな。
「ああ、最近褒めて貰えないって言ってた。ああいう明るいタイプは結構内に貯めるから、ハッキリとした言葉にしないと伝わらんから気を付けた方が良いぞ?」
「・・・!!分かったよ。ありがとね?丁度来週にカリンちゃんが来て30周年の祝いが有るから、皆で盛大に感謝の気持ちを形にして送るとするよ。教えてくれてありがとね?」
どうやら良い方に転がる様だ。
これで一安心だな。
「ああ、タップリ感謝してやってくれ。・・まあ、その時に俺が居るかは知らんから、良い感謝祭になる事を祈ってるよ。」
「え?どっかに行く当てが有るのかい?」
「いや?けど、俺は所詮余所者だから、どうなるか分からないって事。・・っと出来た。ほれ試食して?」
「ああ・・・!!こりゃー美味い。キチンと全体に火が通ってるから変な味落ちも硬さもない。これだけの違いでこんだけの味の変化が有るとはね~、勉強になったよ。」
「どういたしまして。まあ、この村の食糧事情は知らないけど、今みたいのアイデアで変わる食材は幾らでも有るから、工夫は常にすることを勧めるよ。」
「ああ。・・っし、それじゃあ、これを皆に振る舞って、晩御飯の材料の調達に、平原での魔物狩りに男衆の尻を蹴ってくるよ。」
・・え?平原にも魔物って出るの?
この村ってホントに大丈夫か?
「ああ、魔物って言ってもホーンラビットって言う草食の大人しいやつだから、子供には無理だけど、大人なら女でも十分狩れる奴だよ。森の魔物みたいのはこの辺には居ないよ。」
「あ、そうなんだ。まあ、あの森の奴みたいなのがいっぱいいたら流石に行商も傭兵みたいなのを雇わないと無理だろうね。」
「そう言う事。危険な魔物が平原に居るのは王都の辺りか各貴族の運営している領土か、後は魔族の暮らす北部の領土くらいだろう。それ以外なら、普通の道には危険な魔物は居ないよ。」
ん?普通のってどういう事だ?
「なあ、普通の道には居ないってのは?」
「んん?馬車が通る道は派遣協会の人達が定期的に魔物の素材やらを調達するのに掃除をしてるってのは普通だろ?」
「・・そうなんだ?」
「アンタって、変な所は気付くのに、当たり前の知識が無いんだね?他の大陸からの余所者って言ってたけど、もしかして転移によって飛ばされてきた流れ者かい?」
俺が常識を知らない理由を上手い具合に勘違いしてくれてるようだ。
ここはその流れに乗って置こう。
「ああ、って言うか、気付いたらあの森に居たんだ。だから、住んでた所から誰かに魔法で飛ばされたのかもしれない。」
「はー、それは災難だったね。まあ、さっきも言ったけど、カリンちゃんが気を許してるアンタはこの村での生活を認められてるから、気にせず居たらいいよ。まあ、序にカリンちゃんのサポートをしてくれたらありがたいね?聞けば、アンタも魔法が使えるらしいじゃないか?頼りにしてるよ?」
「ああ、任せてくれ。置いてくれてる分は役に立つ積だ。」
「ははは、頼んだよ?・・・じゃあ、持ってこうか。」
「ああ。」
そう言って、焼き上がった肉を改めて皆で食った。
皆の評価は上々だ。
「美味しいです!!」とカリン。
「うん!イけるね。」とリンナ。
「こりゃー美味い。明日から、いや、今晩からの飯が楽しみだ。!」と村長さん。
「どうやら、好評のようだな。・・さて、この後はリンナに詠唱と現象の映像を撮らせて貰うから、たっぷりと喰わんといかんから、これだけあっても多すぎる事は無いだろ。・・奥さんも狩に行くならもっと焼こうか?それとも自分でやる?」
「自分でやってみるわ。どんな感じか掴まないといけないしね?序にお裾分けもしたいし。・・貴方たちは自分の事をやってればいいよ。」
「じゃあ、そうさせて貰おうかしら?カリンちゃんも、チェックだけはしたらこっちに来ていろいろと手伝って貰うよ?」
「うん。リンナちゃんの魔法は色々と手伝う事が多いからね。直ぐ済ますよ。」
「そうなのか?」
俺には回復魔法や特殊魔法のやり方なんか見当も付かないから、二人に任すしかない。
まあ、回復魔法は少々疲れたりしたら良いとしても、特殊魔法はどうやるんだ?
「なあ、特殊魔法のやり方って具体的にはどうやるんだ?」
俺が聞くとリンナは
「ああ、少々材料も要るからまた見回り序に君と一緒に森に向かって貰うよ。その前に回復魔法を詠唱とって言っても、私の魔法は詠唱を覚えてその箇所に手を翳さないといけないんだけど、如何する?」
「それじゃあ・・・このマイクに詠唱を言ってくれ。って言うか飯の後でいいぞ。」
「そう?なら、ご飯の後にしましょうか。」
「うん。(ああ)」
という事で、俺たちは残っているご飯を平らげる事にした。