第三夜 目覚めの根源 part2
「ふふ、そんなに驚かなくてもいいのに。私は彼女の名前も分かるわよ。ウァータル、でしょう?」
俺達の動揺は無視し、さきほどと変わらず笑顔をつくる。
ウァータルは、ひっと息を呑んで目を丸くした。
どうやらこの女は、最初から俺達の事を知っていた……。
というか、この女が俺達に夢を見せたのだろう。
あくまで推測だから確かなこと、とは言い切れないが、そうとしか考えられなかった。
「お前は、誰だ?」
声が震えないように、きびきびとした口調で言い、唇を咬む。
額から汗が噴出した。
冬の寒さと対照的に、俺の体は緊張で火照っている。
「私は、世界を救う者よ」
「嘘をつくな」
「本当よ」
「じゃあ何処に隠した」
「何を?」
「――グレシャは何処だ!」
その瞬間、空を取巻くように黒い風が女の周りで渦を巻きだした。
俺は闇が迫ってくるような感覚に囚われ、それを見つめることしか出来なかった。
ウァータルは、立っていられなくなったのがそのまま座り込んでしまう。
自分はまだ夢をみているのでは、と思った。
しかし、この冷たい空気に触れている感触や、絶望感。
夢の世界で創れるものではない。
「彼女は――グレシャは――死んだわ」
――エ?
「もうこの世界に、貴方の知っているグレシャは居ない」
――ドウシ、テ?
頭の中が真っ白になる。
相手の言葉の意味がどんなことで、何を言っているのか分かるのに時間がかかった。
まさか、そんなはずはない。
昨日まで傍で笑ってたんだ。
急に、急に消えるはずない――その幸せだった時間が!
「いま居るのは、貴方の知らないグレシャ」
――ソレッテ、ドウイウ……
「ついさっき、新しい彼女が誕生したのよ!」
黒い女が腕を大きく広げた。
その途端に、空を巻いていた風が薄れ、だんだんと人の形を創り上げていった。
足、腕――体のパーツを創り上げ、最後に顔を整える。
そして、それは完全な人の形となって俺の目の前に現れた。
それも、俺のよく知っている姿で。
「グレ、シャ?」
「おはよっ! ウィザー、ウァータル」
え、だって、グレシャは死んだって……。
なのになんで、いつものようにグレシャは元気に立っているんだ。
むしろいつもより元気かもしれない。
髪の毛や手や、足が輝いている。
俺に向けられる笑顔は、太陽のように熱い。
今居るのは俺の知らないグレシャだって?
どっからどう見たって俺の知っているグレシャにほかならない。
まあ……もういいじゃないか、そんなこと。
グレシャは、生きてるから……。
「よかった、グレシャ。この黒い女がお前は死んだっていうから心配してたんだ。本当、生きてて良かった」
そう言って俺はグレシャに歩み寄った。
ウァータルも、少し目を潤ませながら近づく。
グレシャは、おかっぱ頭をカサカサ言わせながら首を振った。
「まっさか私が死ぬわけないじゃん。 私は生きる。絶対に、絶対にね――」
次の瞬間空に雨雲が現れた。
激しい音をとどろかせながら。
見上げると稲妻が黄色く光っている。
「グレ、シャ?」
地面が揺れるかと思うほど雷鳴が響き、グレシャの顔が白く反射する。
俺達は本能的にグレシャから一歩下がる。
するとグレシャは一歩俺達に近づいた。
「ゴメンね、ウィザー、ウァータル。私生きなきゃいけないの。だから、お願い、死んで――」 |