風の主ウィザー −そして消え逝く神−(7/9)縦書き表示RDF


――信じたくない言葉
  そして突きつけられた黒い影

  目覚めてしまった彼女の闇とは――
風の主ウィザー −そして消え逝く神−
作:宴流なだみ



第三夜 目覚めの根源 part1


 俺が守る、グレシャを。絶対に。 


 ――テルダム領地とメヴィス領地境

 俺達はあれからこのテルダム領地とメヴィス領地の境へと向かった。
 どうせ家には入れないし、グレシャの事も気になった。
 俺が昨日見たグレシャが死ぬ夢。
 ウァータルが昨日見たグレシャが死ぬ夢。
 そして俺が今日見たグレシャが、グレシャが――


 ――サクッ

 俺達は雑木林を歩んだ。
 二人でしっかりと手を繋ぎ、互いに体を寄せ合って一歩一歩。
 この雑木林、やはり俺が今日見たあの場所と似ても似つかなかった。

 ――ザクッ

 また一歩前に歩く。
 そして、また一歩。
 さっきまで赤かった空も、いつの間にか真っ黒に染まっていた。
 カラスが集団になって西のほうに飛んでゆく。

「お兄ちゃん、やっぱり夢は夢なんじゃない? たまたまだよ、私たちが同じような夢をみちゃったのはさ……」

 ウァータルが訴えるように俺の顔を見上げて言った。
 手はしっかりと俺の腕を掴んでいる。
 俺は掴まれていない方の手で、ぽんと軽く頭を叩いた。

「でもグレシャがずっと前に言ってただろ? この世に偶然なんてものはない。全部必然なんだって」

 そしてニコリと微笑んだ。
 しかし、俺的にはウァータルを元気付けるつもりだったのだが、彼女的には違ったらしい。
 ウァータルは更に強く腕を掴むとブンブン振った。

「でも、あの夢が本当のことだなんて……。どうしてお兄ちゃんは笑ってられるの。怖いよ、私、怖い……」

 そして深く俯いてしまった。
 仕方なく数分そこに立ち止まる。
 ウァータルは下を向いたままじっとしていた。
 それから腕を掴む手を緩めて、はっとため息をつく。

「もし夢が本当だったらグレシャさん死んじゃうよ。それに、私たちも死んじゃうかもよ?」

 そう言って顔を上げた。
 心配そうに、今にも泣き出しそうな、そんな顔で。
 それでも俺はウァータルに微笑んだ。

「大丈夫だって。グレシャは死なないし、お前も俺も死なない。夢は多分、嘘だからさ。今ここに来てるのは、念のため、ってことかな」

 俺はウァータルの頭をもう一回叩いた。
 すると最初は不安そうな顔だったウァータルも、次第に笑みをつくっていった。
 そして俺の腕を放す。

「なら怖くないよね? 何かあってもお兄ちゃんが守ってくれるよね?」

 俺はコクリと頷いた。

 
 それからまた俺達は歩き出した。
 もう少し奥のほうへ行くと、夢の中に出てきた二人が居るはずだ。
 あの時の黒い覆いかぶさってくるような空気が迫ってくる。
 まああの夢が本当なら、の話だけど。 

「ねえお兄ちゃんまだ?」
「ああ、多分この辺だったと思うけど――」
「えっでも、何も――――ぃやっ!」


 いきなりだった。
 いきなり木の影から、黒い影が現れこちらに向かってくる。
 あまりにも早い為影しか見ることが出来ない。
 ただ、感覚でなんとなく分かった。
 あの夢の中でこの状況に一回出くわしたことがある。
 猛烈な勢いで突っ込んでくる黒服の女――
 強烈なあまり硬直して動かなくなるこの恐怖――

「いやああぁぁっ!」

 ウァータルが驚きと動揺で甲高い悲鳴を上げる。
 俺はとっさにウァータルを庇うと、黒い影に立ちはだかった。
 そのまま俺は体当たりされることを覚悟していたが、女は俺達の目の前で止まってくれた。
 そして真っ黒いロングの髪を、丁寧に耳にかける。

「ゴメンなさい。驚かしてしまったようね。……あら? 貴方どこかでお会いしなかった?」

 やっぱりあの夢は本当の事だったのか?
 この女、あの夢の中にいた奴とした思えない。だが何故こいつは俺の事を知ってる?
 いくら夢の中で会ったとはいえ、俺が一方的に見た夢なんだ。
 相手が知っているのはおかしい。
 ふと、ウァータルが俺の顔をちらりと覗いた。
 さっきの動揺はどうやら収まったようだ。
 俺はウァータルと顔を見合わせると、大丈夫だ、と頷いた。

「……俺もどっかでお前……貴女と会ったことがある気がします」

 沈黙――
 
「んん〜、どこで会ったのかしらね?」

 俺は女の問には答えず、ただ首を傾げて見せた。
 すると女は自分の髪に手を添えて遠くを見つめる。

「そう、遠い世界で出会ったようね。そして貴方はどうやら私に会いに来た。違う?」

 そう言って俺に目を向ける。
 優しい瞳なのに、一度目が会ったらそらせない鋭い視線。
 俺は息を呑むと共に頷いた。

「ふふ、実はね、私も貴方にお会いしたいと思っていたのよ」

 そして小さく笑う。
 瞳はずっと俺に向けられたままだ。
 俺はそのまま硬直してしまうのではないかと思うほど動けなくなっていた。
 ウァータルは俺の服の袖を掴んだままだ。

「貴方は、この世界をどんな風に思っている?」

 嫌な雰囲気が一瞬包む。

「私は今の世界じゃダメだと思う。今の薄汚い人間達が集う世界ではいずれ世界は滅びる」

 そして右腕をゆっくり広げると、俺から視線をはずして今度はウァータルを見た。
 ウァータルの手に力が入るのが横目でも分かる。

「だから私は、世界を正す為に悲しみに怯えている人を救い、正しい人間にしているの。どう? すごいことでしょう?」

 するとまた俺に視線を向けた。

 正しい人間にかえる?
 悲しみに怯える人を救い?
 それってつまり、私たちは《神の手》を差し伸べている。
 と言いたいんだろう?

 俺は、完全に視線を合わされる前に自分から視線をはずして首を振った。

「はい、すごいです。……でも、俺は人に自分の生き方を指図されるのは嫌です。やっぱり自分の思う通りにしたいですから。救いなんていりません。自分の力でなんとかします」

 さらさらと背後を風が通り抜けた。
 落ち葉をすくって天に散らせると、落とす。

「でしょうね。貴方ならそういうと思ったわ。……貴女はどう?」

 そう言ってウァータルに目を移した。
 ウァータルはギュッと口を結ぶとコクコク頷いた。

「私もお兄ちゃんと同じです」

 黒い女は優しい笑みのまま困ったような声を出した。
 首を傾けて唇を舐める。
 まるで獲物を狙う獣のように。

「貴方達ならそう言うと思ったわ。でも考えてみて? 今この世界は神が全てと騒ぎたて、居るはずのない存在を讃えて祈る。馬鹿だと思わない? 貴方達もそれにずっと苦しんできたんでしょう? ウィザー」

 俺は、その瞬間世界が凍りつくのを感じた。
 血の気がうせて、目が回りだす。
 どうしてこの女は俺の名前を知っている?
 確かに、夢の中で(一方的ではあるが)一応会った。
 しかし、名前が分かるはずがないだろう?
 俺は一度も名前を名乗っていないんだから。












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