第二夜 存在理由 part3
――――
「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
頭部を刺されたような痛みに襲われ、意識がはっと戻った。
しかし痛みに絶えられず、カッと口が開く。
俺を支えているウァータルを突き放し、自分の頭を握りつぶすように掴んだ。
荒ただしげに息をし、頭を振り、息をする。
「お兄ちゃん落ち着いて。大丈夫、痛くない。痛くない」
ウァータルは俺が突き放しても動揺せず、俺をまた抱きしめてくれた。
なぜだろう、不思議だ。痛みがだんだん薄れてゆく。
夢の中のような感覚も消え、肌寒い空気を感じられる。
「大丈夫? まだ痛い?」
俺はウァータルに首を振った。
「いや、大丈夫だ。ありがとう」
そういってウァータルから離れる。
そして乱れた髪を結び直すと、ため息をついた。
ウァータルは首をかしげている。
「どうしたんだろう、お兄ちゃん……」
「さあな……。ただ、変なのを見た」
「変なの?」
ウァータルはさらに首を傾けた。
俺は深刻な顔で頷く。
まだ頭の中であの声たちが響き合っている。
―― ――
何を隠しているんだ。お前は、俺に。
何を嘆いているんだ。お前は、己に。
お前は誰なんだ、誰なんだよ、グレシャ――
「ウァータル。グレシャって《本当の人間》だろ?」
ウァータルは俺の唐突の質問に驚いたようだが直ぐに頷いた。
そして俺の手をギュッと握るとウィンクする。
しかし俺は頭を斜めに垂らしてボーっと言った。
「……《本当の人間》が嘘をついたとしても?」
「えっ?」
俺は、ウァータルと目を合わせると、頭痛の間に見た夢を教えた。
もしあの夢が本当なら、グレシャは何か俺達に嘘をついているかもしれない。
もしあの夢が本当なら、グレシャは一般庶民ではなく、貴族や国家軍かもしれない。
もしあの夢が本当なら、グレシャは《本当の人間》ではないのかもしれない。
そして俺が語り終えたとき、ウァータルの目に不安の色が浮かんだ。
「まって、お兄ちゃん。それじゃあ、私が見たのは……」
ウァータルが立ち上がって、ぶるぶる震えだす。
歯は痙攣したように鳴り、目は飛び出さんばかり大きく見開いている。
「ウァータル? どうかしたのか?」
「……夢で、夢で見た。グレシャさんが、知らない女の人と、話して、死ぬの……」
死・ぬ――
表情が固まった。ふと朝の夢を思い出す。
真赤な血で染まっていたグレシャ。
微笑みながら死んでいくグレシャ。
そしてついさっき見た夢。
恐ろしい殺気を放ちながら立つグレシャ。
しかし、怯えた心を隠し続けるグレシャ。
分かっている。
まさかそんな夢のようになるはずがないことぐらい。
まだ夢の世界に囚われている自分に苛立つ。
でも、グレシャはいつもやさしく話してくれた。
でも、グレシャはいつもやさしく微笑んでくれた。
例え夢の中でも、そんなグレシャを失うなんて考えられない。
グレシャが嘘をついている?
グレシャが国家軍?
グレシャが本当の人間でない?
それが何だって言うんだ。
グレシャは俺が、守る、絶対に―― |