夜。――辺りは暗く、月の明かりが淡く届くだけの静かな夜。
一羽の大きな白い鳥が、とある場所を目指して夜の空中散歩をしていた。
スーッと音もなく下り立った目的の場所―――米花町5丁目、毛利探偵事務所。
鍵のかかっていたはずの窓を難なく開け、中へ入る白い鳥。
カラカラ・・・と窓を閉め、窓辺にたたずむ。
窓の外からは淡い月光が射し込み、白い鳥を幻想的に浮かび上がらせる。
「不法侵入だぞ・・・」と、どこか幼いが、大人の雰囲気を含んだ声の少年が静寂を破った。
「とんでもない・・・きちんと予告状に記したはずですが?」と、こちらは軽やかだがしっとりと響く声で答えた白い鳥。
「ふん・・・コレか・・・」と、幼い声の主である少年は白い紙を取り出す。
これは、いつのまにか、彼のポケットに入っていたものだ。
“淡い月光が辺りを照らし、静寂の訪れし夜
お見舞いにうかがわせていただきます。
怪盗キッド”
「お前特製の暗号はどうした?」
「即席だったもので・・・申し訳ありません」
「・・・・で?お見舞いって何だ?」
「何だと言われましても・・・その言葉のままの意味ですが?今日あなたが怪我をなさったのでね・・・お加減はいかがかと。それで?大丈夫なのですか?探偵くん・・・」
その問いには答えず、『探偵くん』と呼ばれた少年は言う。
「お前が助けてくれたんだってな、怪盗キッド・・・」
そう、今日は・・・いや、もう昨日のことか・・・この探偵も怪盗も巻き込まれたとある事件で互いに紛争していた。その途中、この探偵は怪我を負ってしまい、怪盗に助けられたということだ。
「おや・・・気づいておられたのですか?白馬探偵が私だと・・・」と『怪盗キッド』と呼ばれた白い鳥はわざとらしい口調で尋ねる。
「はっ・・・認めたくねぇが、最初はもちろん分からなかったさ。何しろ、白馬とは1度しか会ったことなかったんだからな・・・」
「・・・では、いつ私だと?」
「最初におかしいなと思ったのは、お前が服部の携帯を盗っていた時だ。服部も探偵だ。アイツに気づかれずに、しかも坊ちゃんの白馬が盗れるわけねぇ・・・」
「ホォ・・・」
「それに、バイクからオレと逃げたとき、ボール射出ベルトを使ったが、白馬の前で使ったことは無かったはずなのに、お前は驚きもしなかった・・・。で、考えてみると、最初に白馬が姿を現した時、オレの事を『小学生探偵』とぬかしやがったしな。白馬の前で推理したのは・・・無い事もないんだが、黄昏の館の時だけでそう判断するには早合点しすぎだ。賢いなとは思うかもしれねぇが、探偵と判断するには証拠が少なすぎる。だから、分かったんだよ、オメェだってことがな・・・」
「ご明察。さすがですね、名探偵・・・」
「そういや、お前だろ?バイクの2人のうち1人をやったの・・・」
「そこまで気づいておられたのですか?えぇ、そうですよ。子供1人にバイクに乗った大人2人とは・・・。あなたが飛び出して行かれた後、急いで追いかけたのですよ。そしたら案の定、あなたがまたとんでもない離れ技を披露していらっしゃったので。落ちそうになったのを慌てて受け止め、代わりに小道具を1つ落としたのですよ。水音を立てるためにね。」
「そうか・・・お前が手当てもしてくれたんだよな。・・・コソ泥に言うのは癪だが・・・サンキュな。おかげで助かった。お前の情報も役に立ったしな」
「とんでもありません。私の方こそ、知りたかったことがたくさん分かりましたから・・・」
「あぁ・・・深山美術館のことか・・・」
「えぇ・・・この私を狙うのは100年早いことを教えてやれましたしね。こちらこそ助かりましたから。これでおあいこですね」
と、物騒なことをさらりと言う怪盗に、探偵は
「いや!まだだ!!」と反論。
「は?」と思わずまぬけな返事をする怪盗。
「お前・・・いつから見てたんだ?ジェットコースターの時」
「あぁ・・・『謎は謎のままに』ですよ、名探偵?」
「お前こそ離れ技じゃねぇか・・・あのコースター、猛スピードだったんだぞ?下手すりゃ、お前だって危ないじゃねぇか!」
「クス・・・心配してくださってたんですか?」
「バ、バーロ!んなんじゃねぇよ!」
「大丈夫ですよ・・・私に不可能はありませんからね・・・」
「ハッ・・・相変わらずキザなヤローだぜ・・・」
「お褒めに預かり光栄ですよ、名探偵?・・・さぁ、もう時間ですね。探偵くんもしんどいでしょうし、私は退散させていただきます」
「おい・・・逃げられると思ってんのか?」
「えぇ・・・心優しき探偵くんなら、私に借りがあるという状態で捕まえるだなんて思ってませんしね・・・」
「うっ・・・この確信犯!」
「ではまた、いつかどこかでお会いしましょう、名探偵・・・」
「その時はオレも手加減しねぇからな!」
「楽しみにしておりますよ・・・では☆」
と言って、怪盗は窓を開け再び空へと舞い上がり去って行った。
残された探偵は、その白い鳥が見えなくなるまで見送り、窓を閉めながら
「次はぜってー容赦しねぇ!!」と決心していた。
これは、探偵と怪盗が互いに健闘を称えあった、夜の物語・・・
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