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三兄弟の事件簿~この恋はミステリー~ 作者:愛田美月
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第三十九章 次の被害者

 日が落ち暗くなった森で、男は穴を掘っていた。
 ザク、ザク、ザク。
 辺りに、土を掘り起こす音が響いている。
 土はさほど硬くない。なぜなら、今日の昼過ぎに男は同じ場所を掘っていたからだ。
 何のために掘っているのかと言えば、土の中に眠る人形を取り出すためだ。
「おい、本当にあの人形の中に俺たちの携帯電話が入ってるんだろうな」
 男は背後にいるはずの人物に声をかけた。
 あと少し。あと少しで、人形を埋めた辺りの深さにたどり着く。
「おい、聞いてんのか」
 返事がないことに焦れた男が、手を止め後ろを向く。
 その目に映ったのは、月明かりの下、スコップを大きく振り上げる人の姿。
 息を飲むことしかできなかった。
 頭に衝撃が走る。
 よろけて、膝をついた男の頭に、何度も何度も、衝撃が加えられた。

 荒い呼吸を繰り返しながら、穴の渕から、中で倒れた男を見やった人物は、ゆっくりと手にしていたスコップを地面に突き立てた。



「倉橋さん、倉橋さん! いませんか」
 大きな音を立てて、私市はドアを叩いた。
 何事かというように、隣室の扉から顔をだしたのは、伊吹だった。
「どうかしたんですか?」
「倉橋さんの姿が見えなくて」
 私市の代わりに瀬戸が応じる。
「え? 部屋に一人引きこもるって言ってたし、寝てるんじゃあ」
「これだけドアを叩いても起きないほど、倉橋さんの眠りは深い方ですか?」
 私市の問いに、どちらかというと浅い方だと伊吹は答えた。
「皆さん、大変です!」
 廊下を走る音と共に、角から一人姿を現したのは茂山だった。
 心なしか、顔色が悪く見える。
「どうしたんです?」
 尋ねたのは茂山が来た方向の角とは反対側の角から現れた光だった。彼の傍らには空と海もいる。
「ふ、藤沢が、部屋にいません」
 居合わせた全員に衝撃が走った。
 藤沢が部屋にいない?
 一階の物置部屋に鍵をかけて閉じ込めていたのではないのか。
「マスターキーを取って戻ってくる途中で、階段下の部屋の扉が開いていることに気づいたのです。中を見ると、藤沢の姿が見えなくて。もしかして、倉橋様は……」
 茂山の不穏な言葉に誰かが息を飲んだ。
「茂山さん。マスターキー貸してください。それと、秀香さんと千鶴ちゃんが部屋にいるか確認をお願いします。いや、確認だけじゃなく、ここに連れてきてください」
「分かりました」
 茂山は私市に鍵を渡すと、踵を返して秀香の部屋に向かった。
 その間に、私市はマスターキーを倉橋の部屋の鍵穴に入れる。
 難なく鍵が回った。
 ドアを開け、私市は瀬戸と共に部屋の中に入っていく。
 空達と伊吹はドアの周りに集まって、中の様子を探った。
 部屋はさほど広くない。
 全てのドアを開け、誰もいないことを確認した私市がそれを告げた時、秀香と千鶴を伴って茂山が戻ってきた。
「ちょっと、夢路がいないってどういうことなの?」
「祐一さん、どこへ行ってしまったのでしょう」
 苛立った様子の秀香と、不安気な千鶴。
「ま、まさか、ゆ、ゆ、夢路まで殺されてるなんてこと、ないよね?」
 伊吹の言葉に、そんなと声を上げたのは、千鶴だ。
「祐一さんはそんなことしません!」
 大きな声で反論した千鶴の声に、身体を震わせ、伊吹は千鶴から視線を逸らす。
「いい加減になさい千鶴。藤沢が健介を殺したのは紛れもない事実なの。いつまであんな男をかばっているつもり」
「ですが……」
 俯いた千鶴をみて、秀香は鼻を鳴らすだけに留めた。
「とりあえず、探しましょう」
「で、でも。藤沢君が逃げたんだろ? あ、危なくないかな」
 怯えたように伊吹が声を上げる。
「二組に別れて探すというのはどうでしょう」
 瀬戸の提案が通り、空達兄弟と千鶴に私市が外を、残りの四人で屋敷の中を探すことになった。



 茂山から各自懐中電灯を借り、互いに姿が見える範囲で、探すことになった。
 外は日が落ちすっかりと暗くなっていた。暑さの残る日中とは違い、だいぶん涼しい空気に包まれている。
 塩の匂いの混じる空気を一度大きく吸い込んで、空は大声で倉橋の名を呼んだ。
「倉橋さーん」
 空に続くように海の倉橋を呼ぶ声が聞こえたが、倉橋からの返事はない。
 聞こえてくるのは、倉橋の名を呼ぶ声と、遠く波の音。
「この暗い中、砂浜の方へ降りるのは危険だ。先に裏手の森の方へ行ってみよう」
 私市に促されて、空達と千鶴は私市の後を追うように湖のある方へ進んだ。
 湖にたどり着くまでにも、大声で倉橋の名を呼んだが返事はなかった。
 木々の合間を抜け、開けた場所に出ると、そこは湖だった。
 昼間の明るく美しい姿から想像もできないほど、欠けた月を湖面に映した湖は、恐れを抱かせるような存在感を放っていた。
 湖の周りに人影は見えない。さらに森の奥へ進まねばならないのか。
「あっ」
 空の傍らで、海が声を上げた。空が視線を向けると、海は空の方を、否その先を見ながら指をさした。
「あそこ、なんか、引きずった跡ありません?」
 海が指示した方向へ全員で向かう。
 屋敷のある方向を背にして右手側。
 木々の連なる方へと入っていく小道があった。そのあたりに、確かに何かを引きずった跡のような、線ができていた。よくこんなものに気付いたものだ。
「行ってみます?」
 千鶴の問いに、私市は言った。
「怖かったら残っていてもいいよ千鶴ちゃん」
 それなら俺も一緒に残りたいと思った空であったが、千鶴が首を振ったため、五人はそろって、小道の中へ入った。
 小道を途切れ途切れに残っている何かを引きずったような跡を頼りに歩く。
 木々が生い茂っているため、湖の辺りよりも随分とくらい。
 懐中電灯がなかったら、この跡は見えなくなっていたかもしれない。

 数分歩いて、不意に跡が左に折れた。
 その先を私市が懐中電灯で照らしてみる。
「あ、あれ何だ?」
 私市が前方を照らす懐中電灯の明かりを、左右に動かしながら照らした中で、一瞬何かが立っているように見えた。もちろん周りに無数に生えている木ではない。
 空は持っている懐中電灯の明かりを、さっき何かが立っているように見えた辺りに向けた。
「あれは……」
 光の呟きの続きを海が言った。
「シャベルや!」
「え? スコップだろ!」
 空は反射的にツッコンだ。
「どっちでもいい。行ってみよう。あ、君たちは危ないからここで待っていてくれ」
 私市は言い置いて、スコップの立っている方へ向かった。
 私市が歩くたびに、枯れ葉や枝を踏む音が聞こえてくる。
 四人が見つめている中、私市はスコップが立ててある横までたどり着いた。
 そしてそのまま、しゃがみ込んで、大きく肩を下げた。溜息を吐いたのかもしれない。
 彼は、ゆっくりと背後にいる空達を振り返った。
「見つけたよ」
 そう声を上げた私市の足元に、ぽっかりと空いた大きな穴。そこには、頭から血を流した倉橋が横たわっていた。
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