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三兄弟の事件簿~この恋はミステリー~ 作者:愛田美月
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第三十八章 話し合い

 二人っきりで? という私市の問いに、目の前の少年は軽く眉を顰めた後、私市の発言など一つも耳にしなかったかのように後ろを振り返った。
 つられて、光の見た方へ目を向けると階段の影から顔だけをだし、手すりに手をかけ、二人の少年がこっちを見ながら何やら小声で喋っていた。
 会話は聞き取れないが、どことなく非難の目を向けられているような気のする私市だった。



 四人で光にあてがわれた部屋に入る。二つあるベッドの端に二人ずつ向かい合うような形に座って話をすることになった。
 光と並んで空が、海と並んで私市がそれぞれのベッドに腰かけている。
「空、暑苦しい」
 光が傍らに座る空に向かって言った。なぜかといえば、空は階段下の部屋の前からずっと、光の腕を掴んではなさなかったからだ。 
 空は、暑苦しい言うなと言いながら、私市に警戒の目を向けた。組んだ腕をほどく気はないようだ。
 どうやら先ほどの二人っきりで発言がきっかけで、空に危険人物認定をされてしまったようだ。ちょっとからかっただけなのだが、この反応も面白いので、そっとしておくことにする。
「で、何の話をするんだい」
 にこやかに問えば、光は一冊のノートを取り出した。このノートは私市が第二のミステリーの時に千鶴に渡したもののようだ。
「僕たち三人で、さっき参加者に話を聞いて回ったんです。その内容をまとめて、ここに書いておきました」
「へえ。何か有益なものはあった?」
 私市が尋ねると、光は肩をすくめた。
「それを判断するのは、私市さんの仕事でしょう」
「ま、確かに」
 今度は私市が肩をすくめた。
「でも、何でそんなことしようと思ったんだい。犯人はもう拘束されているのに」
 手渡されたノートを開きながら尋ねる私市の傍らで、海が声を上げた。
「俺もそれ知らん」
「何で?」
 空が光に尋ねる。光は腕を組んでいるせいで普段より近い空の顔にうんざりしたような目を向けた。
「何でって、分かってて手伝ったんじゃないのかお前ら」
「いや全然」
 空と海の声が重なった。
「だって、光がやるっつうから、必要なことなんだろうと思ってさ」
「そうそう。何やかんや、色々考えて正解だすんいつもお前やし。自分のこと意外はやけど」
 後半嫌味を混ぜた海の発言を聞き終えた光は、あっそうと呟いた。
 二人から視線をそらすように、壁しかない方向へ顔を向ける。
「光君でも照れることがあるんだな」
 微笑ましく見守ってやれればいいのだろうが、どうしても人をからかいたくなる性分の私市だった。
「別に、照れてなんていません」
 やはり明後日の方向を向きながら光は答えた。
 なおも口を開こうとした私市は、服の袖をツンツンと引っ張られて、口を閉ざす。
「あんまりからかうと光へそまげてしゃべらんようになるんで」
 内緒話をするように私市の耳元で、海が小声で告げてくる。
 私市は頷いて、海の忠告に従うことにした。
「で、何で皆に話を聞こうと思ったの?」
 改めて問い直す。光はようやく何もない壁から視線を私市達の方へ戻した。
「気になることがあったからです」
「話を聞いて疑問は解消された?」
 私市の問いに、綺麗な顔の少年は首を横に振った。
「いいえ。私市さん、一つお伺いしたいんですけど」
「何だい? 答えられる範囲で答えるよ」
「藤沢さん、何て言っていましたか? 例えば、どうやって遺体を二階から一階にある食堂へ運んだかとか」
「え? 食堂で殺したんじゃないの?」
「空、いい加減離れろ。ただでさえうるさい声が、余計にうるさい」
「うるさい言うな」
 光は実力行使に出た。拘束されていない方の腕を伸ばして、空を押しやる。空は、しぶしぶと言った態で光から離れた。
 私市に、威嚇の目を向けるのは忘れなかったが。
 光はそれを呆れたように見た後、私市にいつもの無表情を向けた。
「それとも、運んだのは自分じゃないって言っていましたか?」
「え? それどういうことや。殺した犯人が藤沢さんやったら、健介さんの遺体を食堂へ運んだのも藤沢さんしかありえへんやん」
「ありえないかな。そもそも、本当に、藤沢さんが健介さんを殺した犯人なのかな」
 淡々とした口調で、疑問を口にする光に向かって、兄二人はそろって声を上げた。
「はあ?」
「いやいやいやいや、えー。マジで、マジで言ってんの?」
「でも、さっき藤沢さん本人が、自分が殺したんやって言ってたやん」
「そうだよ。藤沢さんじゃないなら、誰が犯人なんだよ」
 空の言葉に、光は真顔で答えた。
「そんなもの、僕が知るはずないだろ」
「出た、出たよ。居直り」
「居直りってなんだ、事実をいっただけだろ」
「まあまあまあ、で、どうなんですか。私市さん。藤沢さんなんて言うてはりました?」
 言い争いに発展しそうな空気をすばやく察知して、海は私市に話を振った。
 にこやかな顔で三人の会話を聞いていた私市は、すこしの間をもって口を開いた。
「藤沢くんが言うには、殺したのは自分だけど、健介さんの遺体がなぜあのような状態で食堂にあったのか分からないと」
「え、ほんまに、あそこに運んで、ワインひっくり返したりしたのは、藤沢さんやないってことですか」
「本人が言うにはそうだね。彼の言葉を信じるならば、健介さんの遺体を食堂へ運んで、遺体を水浸しにして部屋にワインをこぼして回った犯人が他にいるということになる」
「意味分からへん。なんで、そんなことする必要があるんやろ。遺体見つけたんやったら、普通に誰か呼べばいいやん」
「藤沢さんが嘘、ついてはないよな。きっと」
 空の呟きに、私市が反応した。
「何でそう思う?」
「え? いや、だって。あの人、自分で正直に殺したって言ったから。いまさらそこで変な嘘つく必要ないと思うし」
「まあなー。もし嘘やったら、少しでも罪減らそうと考えた、とかそう言うことやろか」
「藤沢君はもしかしたら、会長がやったのかもと言っていたけどね」
「えー、それはないだろ。だってあのおじいさん、足悪いじゃん」
「あ、もしかして、茂山さんか瀬戸さんがお爺さんに命令されてやったんかな」
 海の言葉に、うーんと空は納得いかないというように声を上げた。
「まさか、いくら命令だって、そんなことしないだろ」
「まあ、そうやんな」
 あっさり、海は頷いた。
 二人の会話の切れ間に、光が私市に質問を投げかけた。
「そもそも、藤沢さんが健介さんを殺したのは何時ごろなんでしょう」
「ああ、九時前後だと言っていたな」
「九時ぐらいって、何してたっけ」
「お菓子食って話しとった頃ちゃうか」
「そういえば、茂山さんが水を持ってきてくれたのがそれくらいの時間だったな」
「ああ、そうか水持ってきてもらったんだっけ」
 空達が大笑いして転げまわっていた頃、中庭を挟んだ向こう側の部屋で、殺人事件が起こっていたとは。そう考えると、何だか恐ろしくなる。空は、両腕をこすった。なんだか肌寒く感じでしまったのだ。
「そういえばあの時茂山さん……」
 光の言葉を遮るように、ドアがノックされた。
 四人で顔を見合わせ、立ち上がろうとする光を制し、海が応対に出る。
 ドアを開けると、瀬戸が立っていた。
「済みません。こちらに私市さんと倉橋さんみえませんか。今、御夕飯の準備ができたので声をかけて回っているんですが、いらっしゃらなくて」
「ああ、私市さんなら」
 と、海が振り向くと名前を呼ばれたと思ったのか、私市がこちらへやってきた。
「倉橋さん、部屋にいないんですか」
 私市の問いに、瀬戸はたぶんと答えた。
「何度もお声掛けしたんですが、いらっしゃらないようで。ドアに鍵がかかっていて中を確かめられないのでどこか別のお部屋にいらしているのかと」
 瀬戸の説明に、眉を寄せると私市は瀬戸に、行ってみましょうと声をかけ部屋を出て行ってしまう。
 一人取り残された海は、部屋に戻って、空と光に倉橋が部屋にいないみたいだと告げた。
「俺たちも行ってみようぜ」
 空が立ち上がって、光と海の手を引っ張る。
「ほら、早く」
 せかされて、歩き出したその時、光が呟いたこえが海の耳に届いた。
「何か嫌な感じだな」
 その呟きが海の心に、焦燥を残したのだった。
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