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三兄弟の事件簿~この恋はミステリー~ 作者:愛田美月
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第三十四章 参加者は関係者

 午後三時を少し過ぎた頃。
 聞きこみを終えて、河合は一旦署に戻ってきた。
 薄手のトレンチコートを脱いでイスの背に無造作にかけると、席について携帯電話をポケットから取り出した。トレンチコートを背中でつぶしていることは、気にならないようだ。
 着信は二件あったが、どちらも河合が折り返しを待っていた相手ではなかった。
「おかしいなー」
 小声でぼそっと呟くと、ちょうどその時後ろを通りかかった虻が、河合の背に声をかけた。
「なんだ。彼女にでもフラれたか?」
 からかい口調の虻を振り返った河合の口が軽く尖っている。彼は童顔なので、拗ねた表情が良く似合う。
「やめてくださいよー。俺たちラブラブっすから」
 同期の彼女の顔を思い浮かべながら答える。すると、虻が怪訝な顔をした。
「じゃあ、何をそんな悩まし気にケータイみてたんだ」
 何か隠してんじゃねぇのか。ああん? と暗に言われたような気がした。気のせいかもしれないと思いたいが、白状しなければならないような虻の気迫に飲まれて、河合はあっさり口を割った。
「いや、私市さんと連絡とれないんすよ」
「私市? あの小僧。この忙しいときにいきなり有給なんか取りやがって。戻ってきやがったら徹底的に道場で鍛え直してやる。で、私市に何の用だ」
 一頻り文句を言って、すっきりしたのか、虻が話しを戻す。
「その、私市さんが、不破孝造が来るはずだった場所にいるんだとか言ってまして……」
「なんだそりゃ。どういうこった」
 ただでさえいつも怒ったような顔と声なのだ。今のように虻に大声を出されると、何も悪いことをしていないのにすみませんでしたと謝りたくなる。
「虻さん。また河合君苛めてるんですか?」
 大声に引き寄せられてきたかのように、同じ班の寺坂が虻の隣に立つ。
 河合は席に着いているので、先輩二人から見下ろされる形になった。
 なんか怖いし、立ち上がった方が良いのかとも思うが、今更立ち上がろうにも、二人の立ち位置が近すぎて立ち上がりづらい。
「で、私市がどうしたって?」
「いえ、だから、私市さんから昨日電話がかかってきて。不破孝造が来るはずだった場所に今泊まっているとかで。えっと、ミステリー会とかいうのに参加してるらしいんす。で、その参加者が新聞記事の事件と関係しているんじゃないかって」
「新聞記事ってぇと、あれか。不破孝造のポケットから出てきた」
「はい。それっす。しかも、そのミステリー会の場所の近くに、新聞記事の一つの、水難事故の方の現場があるそうなんす」
「おまえ、もうちょっと完結に話せや」
「つまり、こういうこと? 私市はミステリー会に参加をしている。そのミステリー会に不破孝造も参加する予定だった。そして、その会場は、不破の持っていた新聞記事に書かれている水難事故の現場の近くだった」
 河合は、寺坂の言葉に、何度もうなずいてみせた。
「そうっす。さすが、寺坂さん」
「で、あと何だっけ。そのミステリー会参加者が、新聞記事に書かれた事件の関係者かもしれないと」
「はい。で、二枚新聞記事あったじゃないっすか。その二枚ともに関係している人物がいるらしいんす。参加者のことと、その人物が誰なのか調べろって昨日言われて……」
「調べたのか」
 虻の言葉に頷いて見せ、続きを口にする。
「二つともに関係しているのは、一条慎太郎っていう、一条グループの総帥っす」
「一条グループって、あの?」
 寺坂はすぐにピンときたらしい。虻に一条グループについて説明し、再度河合に顔を向けた。
「その一条慎太郎がどう関係していたんだ」
「あの、泥棒の方の記事。泥棒に入られた家が、一条慎太郎のセカンドハウスだったんす。で、水難事故の方が、慎太郎の持っている別荘の近くにある湖っす」
「てことは、私市はその別荘にいるのか」
 寺坂と虻が何やら妙な顔をして顔を見合わせた。河合はそれをぼうっと眺める。
「で、参加者の方は?」
 寺坂の問いに、河合は目を瞬く。
「はい。えっと、それがなんかすごいんすけど、調べろって言われた全員、あの新聞記事とつながりがあったんす」
「まじか!」
 またも、虻が大声を上げた。河合は反射的にびくっとなってしまったことに羞恥を覚えたが前にいる二人は気づいているのかいないのか、それで、と先を促される。
 河合は机の上に置いていたメモ用紙を手に取ると、それを二人に向かって差し出した。
 寺坂がメモを受け取って、書かれた文字を読み始める。
「ミステリー会参加者の殆どが、二十年前の水難事故関係者か……」
「こりゃ、臭ぇな」
 虻が寺坂の持つメモを覗き込みながら、呟く。
 何が臭いのかは分からなかったが、聞くのも躊躇われて、河合はもう一枚のメモを手に取ると、今度は寺坂に差し出した。
 寺坂はそのメモを受け取って、眉を顰めた。
「これ、本当なのか」
「はい、そうっす。その二枚目の方が分かったのが、昼過ぎで、私市さんに連絡いれたいんすけど、全然つながらないんすよ。留守録に、折り返しくださいっていれたんすけど、それもまだだし」
 河合が不満げにもらす。
「だぁ! お前、なんで今頃こんな大事なこと言いだしやがるんだ!」
「へ?」
「へ? じゃねえんだよ」
 言うや否や、虻は河合の頭にヘッドロックをかます。痛いっすと、わめく河合をよそに、寺坂が呟いた。
「もしかして、何かあったのかもしれないな」
 その呟きがなぜだかはっきりと耳に届いて、虻と河合の動きが止まった。頭に虻の腕を巻き付かせたまま、河合が不安げな声を出す。
「何かって、なんすか」
「作為的なものを感じないか? 不破の持っていた二つの事件の関係者が、偶然一堂に会するなんて、不自然だろう」
「不自然なんすか?」
 やっとヘッドロックを外してもらって、安堵しつつ聞いたら、今度は頭を叩かれた。
「どう考えても不自然だろうが! 水難事故の関係者が一堂に会しているのも不自然極まりないのに、窃盗事件の関係者までいるなんて」
「河合、続けて私市に連絡とるようにしてみて。俺たちはここにいる人物をもう少し洗うから」
「え? は、はい」
「いいですよね。虻さん」
「おう。行くか」
 足早に部屋を後にする二人の背を見送りながら、河合はもう一度携帯電話を手に取り、私市に電話をかける。
 だがやはり、数度のコール音の後、留守番電話へと移行する旨のアナウンスがながれたのだった。
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