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三兄弟の事件簿~この恋はミステリー~ 作者:愛田美月
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第二十四章 第二のミステリー

 参加者たちが、それぞれに台詞の書かれた紙を開く音が、辺りに響いた。
 全員が紙に目を通し終わるのを待っていたかのように、無言だった茂山が口を開く。
「それでは、改めまして、今回のルールの説明をいたします」
 茂山の語ったルールを要約するとこうだ。

ルールその一。
 参加者は、チームを作り協力して謎を解くことができる。点数はチーム全員に与えられる。

ルールその二。
 参加者は携帯電話、スマートフォン、タブレット等の通信機器、録音機器、電子辞書を提出しなければならない。また、これらを持っている者は、必ず申告しなければならない。申告しなかったことが発覚した場合、あるいは回収を拒否した場合は、参加資格が剥奪される。

ルールその三。
 台詞の読み上げを指示するのは、茂山一人とする。台詞の読み上げを行う時間は、証言の時間とする。

ルールその四。
 証言の時間の間は、証言をしている者以外、声を発してはならない。

ルールその五。
 台詞読み上げ終了後、参加者は一時間以内に、答えをださなければならない。

ルールその六。
 答えは、開始三十分以降から一時間以内の間に、指定の回答用紙に記入し、藤沢に渡すこととする。



 ルールの説明後。十分間の休憩に入った。三兄弟は千鶴と私市を入れて、五人のチームで申請を終えた。今回のチーム名は、千鶴と愉快な仲間たちである。楽しいが愉快に変わっただけであった。
 お気入りの新しい携帯電話を没収されて、落ちた気分だったのに、あることに気付いて空の気分はさらに下向した。
 少なくとも、これから一時間は朝食を口にできないということではないか。心の中で、空は主催者に向かって「鬼っ」と悪態をついた。
 ルールの説明を終えた、鬼の一味である茂山は、ちらりと空席に目をやった。
「指定の時間内に来られなかった一条健介様は、今回のミステリーは欠席とさせていただきます。健介様の台詞は、藤沢が代読させていただきます。健介様のお名前が出る台詞は、藤沢に置き換えてお読みください」
 茂山の目配せを受け、藤沢はどことなく硬い表情で、健介の席に着いた。ソーサーの裏に付いていた紙を取り、広げ終えたのを見て、茂山が声を発する。
「私に名を呼ばれた方は、紙に書かれた台詞を読み上げてください。それでは、証言の時間に入ります。では、まず紫藤様、お願いいたします」
「えっ? 俺から?」
 名指しされた海は驚きの声を上げたあと、紙に目を落とし、台詞を読み上げた。
「食堂の鍵は食堂を閉める前は食堂にありました。最後に食堂の鍵を閉めたのは倉橋さんです」
 聞き取りやすい速さと大きさで、台詞をかむこともなく読み上げた。関西の訛りもない。
 海の中には、緊張の二文字はないのか。と、思う空であった。自分だったら、初っ端に当てられたら絶対かんでいる。
 続いて指名されたのは、伊吹だった。
 彼は、ひどく緊張した面持ちで、何度も台詞をかみながら、読み上げた。熱くもないのに、額には汗がびっしりと浮いている。
 たどたどしく読み上げられた台詞を、脳内でまとめるとこうなる。
「最後まで食堂に残っていたのは、私と、倉橋さんと秀香さんでした」
 たったこれだけの台詞で、よくあそこまでかめたものだ。台詞の最初の一文字で声が裏返ったことで、より緊張したのだろう。
 こんなに緊張されると、俺まで緊張してくるっつうの!
 空にはもう、他人の声など耳に入っていなかった。とにかく、間違えないように読まなければと、何度も何度も台詞を読み返す。台詞の中に、健介さんという文字がある。ここを藤沢さんに変えて読まないといけないとか、ハードル上がりすぎだろ。と、平常時ではさして大したことでもないことで、焦りまくっていた。
 そんな空の耳に、茂山の声が届く。
「高橋様。次、お願いいたします」
 空ははっとして顔を上げた。どうやら、何度も呼ばれていたらしい。全員の視線が、空に向いていた。
 ごくりと唾を呑み込む。
 やっべぇ、超緊張する。
 とりあえず、台詞読まなきゃ。と、空が息を吸った時だった。緊張で固まった両肩に、軽く重みを感じた。左から光が、右から海が、空の肩に手を置いたのだ。二人の顔を交互に見て、不思議と空の肩から力が抜けた。
「藤沢さんがたくさん鍵を持っているのを見ました。ほとんど南京錠の鍵のようでした」
 すらすらと、何度も読み返した台詞が口からこぼれた。健介さんを藤沢さんに変換して読むこともできた。良かったと、一人安堵の息をついていると、茂山の声が耳に届いた。
「それでは、証言の時間を終了します」
「えぇ!」
 嘘っ、俺、全然台詞聞いてなかった。
 空は、思わず立ち上がり、大声を上げていた。
「どうされましたか? 高橋様」
 茂山に落ち着いた声音で、問いかけられて、空はまたも視線の集中砲火を浴びる羽目になった。
「な、何でも、ありま、せん」
 空は、恥ずかしくなって俯きながら、席に着いた。顔が熱い。
「それでは、皆様。答えが出ましたら、今からお渡しします解答用紙に記入し、藤沢へお渡しください。回答用紙の受付締め切りは今から一時間後の九時四十五分とします」
 その声を残し、藤沢は回収した携帯電話を箱に入れて、館へ戻って行った。



 茂山の姿が館から消えると、藤沢は立ち上がって参加者全員に解答用紙を配った。参加者全員といっても、空達はチーム戦なので、五人で一枚の回答用紙だ。
 空達は、椅子を移動させて他の参加者達から離れると、円になるように座った。まるで椅子取りゲームのようだと空は思ったが、口には出さなかった。
「空さん。先ほどの大きな声はどうされたんですか?」
 可愛らしく小首を傾げて、千鶴が尋ねてきた。
 空は引きつり笑いでそれに答えるしかなかった。まさか、みんなの証言をほとんど聞いていませんでしたなんて、口が裂けても言えない。
「大方、証言を聞きのがしたとか、そんなことですから、気にしなくていいですよ。先輩」
 あっさりと、真実を告げてしまったのは、察しのいい光だった。
 空は、恨みがましい視線を送る。
 涼しい顔でそっぽを向いている光と、じっとその顔を睨んでいる空をみて、海は小さく溜息をついた。
「俺も、全部しっかりとは憶えてへんわ。私市さんはどうですか?」
 後半を敬語に変えて、私市に問いかける。
 私市は、顎に手をやって、考える風に言った。
「だいたいは憶えているけど、一言一句とはいかないかな」
「私、メモをとっておけばよかったですわ。メモを取っていいか分かりませんでしたので、ぼうっと他の方のお話を聞いてしまいました」
 頬に手をあてて、ふうっと息を吐いた千鶴の姿に、いつもと違う雰囲気を感じて、空はドキッとした。光に言おうものなら、お前はなんでもいいのかと、つっこまれそうだ。
 そんなことを思って、光を見て、ふと思い出したことがあった。
 光がたまに言うあの言葉……。
「光は憶えてるだろ? 一言一句。だって、いっつも自分で言ってるもんな。記憶力が良いって」
 隣に座る光を覗き込むようにすると、眉間に皺を寄せた光に、頭を軽く手で押しのけられた。
 むうっと頬を膨らませると、それを見ていた千鶴に笑われてしまった。恥ずかしい。
「光さん。みなさんの証言の台詞。憶えていらっしゃいますか?」
 千鶴に聞かれ、光は迷いも見せず頷いた。
「憶えてますよ。言いましょうか?」
 せっかく千鶴先輩に話しかけてもらっているというのに、相変わらずの無表情である。
「待ってください。紙に書きだしますわ」
 そう言って、昨日も持っていた小さなメモ帳を取り出した。
「千鶴ちゃん。それじゃあ、小さいだろう」
 今まで黙っていた私市が、立ち上がると背に手をまわした。そして、後ろにやっていた手を千鶴に差し出した。その手には一冊のノートが握られている。
「まあ! 悟お兄様、どこに持っていたんですか?」
 千鶴はノートを受け取ると、きらきらとした目で私市を見つめる。
「知ってるだろう? 千鶴ちゃん。俺は魔法使いなんだ」
 私市は、言葉の終わりにウインクをして見せる。
 千鶴の瞳がさらに輝いた。
「そうでした、さすがですわ。悟お兄様」
 にこにこしながら、ノートを開く千鶴を見ていた三兄弟は、三様の反応を示した。
 光は呆れた目を私市と千鶴に向けていたし、海は俯いて笑いをこらえていた。
 空はと言えば、千鶴先輩の純真さにいたく感銘を受けていた。
「光さん、準備できましたわ」
 千鶴が言葉通り準備万端、膝の上にノートを広げ、ペンを構えていた。
「じゃあ、順番通りに」
 そういって、光は参加者全員の台詞を全て、暗唱して見せた。それを千鶴がノートに書き記す。



 千鶴のノートに書かれた内容はこうだ。

敬称略

海 「食堂の鍵は食堂を閉める前は食堂にありました。最後に食堂の鍵を閉めたのは倉橋さんです」

伊吹「最後まで食堂に残っていたのは、私と、倉橋さんと秀香さんでした」

千鶴「私と瀬戸さんともう一人で、朝食を小さなバスケットにつめました。その時、鍵をたくさんみました」

空 「藤沢さんがたくさん鍵を持っているのを見ました。ほとんど南京錠の鍵のようでした」

私市「秀香さんと藤沢さんが、鍵の受け渡しをしていました。私の他には、周りに人はいませんでした」

倉橋「秀香さんが、鍵を受け取ったのを目の前で見ています」

藤沢「朝食の入ったバスケットの中に、鍵も入っています」

瀬戸「朝食のバスケットの中に朝食以外の物を入れたのは私ではありません」

秀香「藤沢が言っているのは嘘。本当は私が鍵を部屋へ隠しました」

光 「少なくとも、鍵は朝食の入ったバスケットの中か、秀香さんの部屋のどちらかにあります」



 空は、千鶴の膝の上のノートを覗き込んで、首をひねった。
「で、これで何を推理するんだっけ?」
 空のとぼけた質問に、海が、ずっこけた。
「何で忘れてんねん。ほら、これ」
 海が差し出したのは、回答用紙だ。
 回答用紙には、ちゃんと問題も書かれていた。

問題
証言には嘘が一つ混じっています。嘘を言ったのが誰なのか。そして、鍵はどこに隠されているのか。
それを推理し、答えを導きだしてください。



「これだけで、答えって分かるもん?」
 空の言葉に、千鶴が同意する。
「私さっぱりわかりませんわ。どうしましょう」
 千鶴がおどおどと声を上げる。
「せ、先輩。大丈夫です! 一緒に考えましょう」
 空が声をかけると、最上級の笑顔が返ってきた。
「ええ、空さん。頼りにしていますわ」

 真っ赤な空と、にこにこ笑顔の千鶴を見ていた私市が、光に声をかけた。
「彼、面白いね。見ていて飽きない」
「ええ、僕もそう思います」
 光は眉間に皺を刻んで頷いたのだった。
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