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三兄弟の事件簿~この恋はミステリー~ 作者:愛田美月
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第二十二章 ミステリー会二日目の朝に

 カーテンの隙間から朝の光が淡い一本の線となって、光の顔に届いていた。
 瞼が揺れる。彼は薄目を開けて、夜が明けたことをぼんやりと確認し、また目を閉じた。
 三度寝返りを打ってから観念したように、小さな唸り声を発する。
 もう、眠れそうにない。
 時計を見ると、針は、午前六時を過ぎていた。
 少し早いが、起きることにして、光は身支度を整えた。
 朝食は八時の予定だ。まだ、一時間以上ある。
 その間に、昨夜空達が言っていた、屋敷の裏手にあるという湖でも見に行こうか。
 足の具合は少し気にかかるが、ここでじっとしていても始まらない。
 光は念のため、折り畳み式の杖が入った布製のカバンを肩にかけると、部屋をでた。
「あっ」
 ドアを開けた途端、近くで声が聞こえた。
 顔を向けると、そこには私市がいた。
「私市さん……隣だったんですね」
 彼もちょうど部屋から出てきたところだったらしい。
「やっぱり君も来ていたんだね。残りの二人は?」
 光はドアを閉めると、空達の部屋の方へ眼を向けた。
「たぶんまだ、夢の中だと思います」
「なるほど。まだ、七時にもなってないからな。君は早起きだね。朝食にもまだ早いよ」
 にこやかな私市に対し、光は相変わらずのポーカーフェイスだ。
「早く目が覚めたので、散歩に」
 言葉少なに答えると、彼はいい笑顔になった。
「ご一緒してもいいかな」
 断られるとは思ってもいない顔つきだ。
 朝だからだろうか。いつもの眠そうな様子は鳴りを潜め、爽やかな雰囲気が前面に出ていた。
 今日は、スーツではなく、ポロシャツにチノパンという格好で、刑事というよりは、人好きのする好青年という印象だ。
 基本的に、他人と関わることを好まない光ではあったが、ここで彼の申し出を断っても角が立つ。
 それに、海が妙に私市と仲が良いし。
 光は、私市と連れ立って館を後にすることにした。



 朝の光に包まれた、木立の中を歩くというのも、なかなかに良いものであった。
 鳥のさえずりが聞こえる。風が草木を揺らす音が耳を打つ。木漏れ日が、地面に光と影のコントラストを描いていた。
 どことなく、空気もおいしい。
 相変わらず、足を動かすたびに、鈍い痛みはあるが、これはいつものことなので、もう慣れてしまった。
「君に、ずっと言いたいことがあったんだ」
 連れ立ってはいるが会話らしい会話もなかったので、半分存在を忘れかけていた私市が、不意に声をかけてきた。
 いぶかしく思ったのが、眉間のしわとなって現れた。
 私市を見上げると、相変わらず真意の読めない笑顔があった。
 私市と直接言葉を交わしたのは、数えるほどしかない。大半が事件に巻き込まれ、事情聴取を受けた時だ。
「綺麗な子に睨まれるのは、案外いい気分だな」
 光の眉間のしわがより一層深くなった。
「別に睨んでいませんし、綺麗でもありません。それにその言い方、気持ち悪いです」
 光の提言に、私市は面白そうに笑い声を上げた。
「はっはっは。いいね。その、バッサリ切る感じ。まさに氷の王子様だ」
「不愉快です」
 顔を下向けて、ぼそっと答えたが、私市には届かなかったようだ。
「現役の時、そう呼ばれていたよな」
 光は返事を返さなかった。
 光がまだ、競技人生を歩んでいた頃。一部の人から、そう呼ばれていたことは知っていた。だが、直接言われたのは初めてだ。
 下を見ながら歩く光の口元が苦い笑みを形作った。足の痛みが先ほどよりも主張を始めた気がした。
「ああ、そうだ」
 私市が唐突に声を上げた。
「食堂にある絵を見たかい? この湖を描いた物なんだ」
 言われて顔を上げると、見事な風景が目に飛び込んできた。
 木々の合間から見える湖が美しい。
 木々を抜けると、湖を囲うようにぽっかりと開けた空間に出た。
 まるで、異国のような風景だ。
 水面が朝日を反射させ、きらきら輝いて見える。水面には、水鳥の姿もあった。
「綺麗だ」
「そうだね」
 思わず出た言葉に、私市が同意した。
 そして、何かに気付いたように、「おっ」と声を上げた。
「どうやら、先客が居たようだ」
 私市の言葉に、辺りを見回してみれば、数メートル先に、女性の姿があった。
 湖の淵でしゃがみこみ、手を合わせている。
 目を瞑っているからか、どうやらまだこちらには気づいていないようだ。
「誰か、ここで亡くなったんですか」
 私市が知っているかどうかは怪しかったが、尋ねてみた。
 すると、私市はあっさりと頷いた。
「そう聞いているよ。確か、彼女のお友達だったはずだ。酔って足を滑らせて、そのまま……」
 何となく、私市と二人、女性を眺めてしまっていた。
 随分長いこと拝んでいた女性は、目を開けて立ち上がり、こちらを向いた。
「あなたたち、こんな所で何をしているの」
 とげとげしい口調で、一条秀香は、光達に歩み寄ってきた。
 実は、昨日。光は彼女と対面していた。
 光がマスターとして一条氏の書斎で待機していた時。彼女がやってきたのである。
「おはようございます。朝の散歩です」
 秀香のとげとげしさとは真逆のにこやかな対応は、私市だった。
 光は内心慌てて、挨拶をした。もちろん、外面スマイル全開である。
 彼女は光にだけ挨拶を返して、私市に目を向けた。
「気をつけなさい。この湖、深いから。足を滑らせて落ちるなんてことのないようにね」
 それだけ言い残すと、彼女は颯爽とその場を後にした。
 私市は、秀香を目で追いながら、呆然と呟いた。
「秀香さんが、他人を気遣うなんて」
「そんな、驚くことですか」
「驚くことだよ。それに、なんで俺に言うかな。何で君じゃないんだ」
「私市さんの方が落ちそうに見えたんじゃないですか」
 相変わらずの無表情で答えたのだが、私市の顔は楽し気だ。
「それにしても、君、これまでに秀香さんと会っていたのか」
 秀香が、光に誰だと訪ねなかったことに疑問を感じていたのだろう。私市は、なかなかに抜け目のない人物のようだ。
「ええ。第一のミステリーが始まる前。マネキンが降ってきたあとに、一旦休憩がありましたよね。その時に」
「ああ、彼女、物凄い勢いで出て行ったけど、トイレじゃなかったのか」
 冗談なのか、本気なのか、判断がつかないのがこの男である。
 光がコメントしないことを気に留めた様子もなく、続けた。
「あの勢いから察するに、大叔父様の所へ怒鳴り込みにでも行ったのかな」
 光は軽く目を見張った。まさしく、私市が言った通りだったからである。
「そうです。書斎にいた僕たちのもとへ秀香さんがやってきたんです。こんな馬鹿げたことはやめて、昔の約束通り、この館を私に譲れと」
「へえ。もともと、ここは秀香さんが相続することになっていたのか」
「話から察するに、そうでしょうね」
 光が同意すると、私市はなるほどと、つぶやいた。
「そういえば、私市さん。昨日はありがとうございました」
 不意に礼を告げたからか、私市は一瞬虚をつかれた顔をした。
「空を、色々と助けてくださったでしょう」
 光の言葉に、私市は笑みを見せた。
「そうだったかな? あの子を怒らせているだけだったと思うけどね」
「空は気づいていないと思います。あの、わざとらしい欠伸も」
 光が言ったのは、空が容疑者の反論を受けていた時、私市がした欠伸のことである。
 光はあの欠伸が、私市が空にだしたヒントだと踏んでいた。あの欠伸がなければ、空はたぶん瀬戸が目をつむっていたことを思い出しもしなかっただろう。
「わざと……らしかったかなぁ」
 私市は、苦笑した。
「でも、まあ。空君だっけ? あの子は、俺の欠伸を見て、ちゃんと正解を出したんだから大したもんだよ」
 それはそうだろう。なんだかんだいっても、空は光の兄である。やればできる奴なのだ。
「にしても、君もやっぱり見ていたんだな。たくさん仕掛けてあったしな、カメラ」
 私市の言葉に、頷いた。
 私市の言うカメラとは、会場のあちこちに仕掛けられていた隠しカメラである。
 第一のミステリーの最中、私市はほとんどのカメラを見つけていたようである。
 そうと分かるのは、私市がカメラを見つけるたびに、カメラに向かってウィンクしていたからだ。
 一条氏が気づいて大笑いしていたことを思いだした。
「ところで、話を戻すけど。秀香さんが大叔父様の所へ怒鳴り込んできたとき。大叔父様はどんな反応だった」
 尋ねられ、光は瞬時に昨夜の記憶を脳内で再生した。
「この別荘がほしいなら、ミステリー会で優勝することだと、娘だからと言ってひいきはしないともおっしゃっていました」
「そうか。秀香さんはすんなり引いた?」
「いえ、しばらく押し問答が続きました」
 光が答えると、私市は思案顔で、口を閉ざした。
 彼が何を考えているのか、光にも分からなかった。
 私市が急に黙り込んでしまったので、彼の傍を離れ、光は一人湖に近寄った。
 湖面に手を浸けてみると、水は思った以上に冷たかった。
 ふと、視線を秀香がいた辺りに向ける。
 そこに、花が見えた。
 花束が置いてある。秀香が持ってきたものだろうか。少し萎れているようにも見えるので、他の誰かが持ってきたものかもしれない。
 空達が花を見たと言っていたが、それは菊一輪だけだったと聞いている。その菊は、どうやらもうないようだ。
 菊や花束は誰が持ってきたのだろうか。秀香か、または別の誰かなのか。
 いつの間にか光もまた、考えに没頭していた。そのため、すぐ後ろに人が立ったことに気付かなかった。
 光は立ち上がって、踵を返そうとして驚いた。
「うわっ、私市さん後ろに立たないでください」
 思わず後退ろうとして、光は私市に腕を掴まれた。
「こらこら、落ちるよ。それ以上下がると危ない。秀香さんにも気をつけるように言われただろう」
「す、すみません。ありがとうございます」
 どことなく、釈然としないものを感じながら、光はとりあえず謝罪と礼を言った。
 助けてもらったことは、確かなのだ。例え、落ちそうになった原因が、私市だったとしても。
 光は腕を掴まれたまま、数歩前方へ歩かされた。危なくないようにということだろう。
 光の腕を離した私市は、至極真面目な表情になった。
 どうしたのかと、窺っていると、私市は光に何かを差し出した。
「何ですか、これ」
 それは、四角い形をした物だった。
 もちろん、物の名前は知っている。
 だが、一体どこからこれを出したのか。
「サイン色紙だよ。見たことあるよね」
 半ば唖然たる面持ちで私市を見上げた光に、彼はさらにポケットからペンを取り出した。
「はい、約束だったよね」
 約束と言われて思い出した。以前、事件に巻き込まれた時、私市から情報を提供してもらう代わりにサインをする約束をしたのだ。
 彼はスポーツ選手のサインを集めているらしい。私市は、かつて、フィギュアスケートの選手だった光のことも知っていたのだ。
 後日サイン色紙を持ってくると言われていたが、そのままになっていた。
 あの時のことをまだ憶えていたのか。
 光にしては珍しく、呆気にとられた顔で、男の顔と差し出されたペンとサイン色紙を見比べた。
「男に二言はないだろう」
 私市にサイン色紙とペンを押し付けられて、思わず受け取ってしまった。
「これ、どこに持っていたんですか」
 さっきまで確かに手ぶらだったのに。
「服の下に隠していたんだよ。今日、会ったらサインもらおうと思って」
 今朝、私市と会ったのは偶然だ。空と海に会ってはいたが、光がここにいるかどうかを、私市は知らなかったはずだ。朝の会話から、そう、推測できる。
 光がここへ来ていたなかったら、とんだ無駄骨になるところだ。そもそも、ミステリー会に参加するのに、なぜサイン色紙を持参してきたのか。サイン色紙など、普段持ち歩いている人はいないだろう。しかも服の下に。
 光は、私市に促されるまま、サイン色紙に悟さんへという文字を入れ、思った。
 やっぱり、この人は変だ。と……。
ここまでご覧いただき、ありがとうございました。

師走ですね。
1年すぎるの本当にあっという間です。

実は、今回で、小説のストックがなくなりましたorz

やばやばです。
どうしよう。。。

師走、忙しい、仕事、忙しい、応援、行かなきゃ、応援で、筋肉痛、動けない。。。

上記のような流れになりそうな予感。

後半二日は、超忙しい店でレジ打ってくるので、たぶん年明け筋肉痛で瀕死状態だと思うの。。。

どうしよう、続き書けるかな。

というか、1月1日 に投稿できるのか?!

う~ん限りなく、できなさそう。

どうしても無理な場合は事前に告知するようつとめます。
ほんと、ダメダメな作者ですみません。
連載しながら書くとか、今までなかったので、かげんがよく分からん。

結局愚痴って終わってしまった。
いつも済みません。

ではでは、皆様。
よいお年を。

そして来年、またお会いできますように。

愛田美月でした。
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