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三兄弟の事件簿~この恋はミステリー~ 作者:愛田美月
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第二十章 なぜ、マネキンは服を着ていたのか

 スナック菓子の咀嚼音をビージーエムに、光は口を開いた。
「何をやっていたっていう質問だったな。でも、お前ら気づいてたんだろう。僕は、第一のミステリーの間、マスターをやっていたんだ」
 菓子を口いっぱいに放り込んだ直後だった空は、海の肩に手を置いた。代わりにこいつに言ってやってくれという意思表示だ。海は空の意図を正確に読み取った。
「ちゃうちゃう。そんなん分かってんねん。そもそも何で、マスターになってん。最初からそういう話やった訳ではないやろ」
「ああ。ないな」
「ないな。……で、話終わらせるなよ。気を抜くと簡単に話終わらせようとすんだからな。最近」
 軽く睨んだ空のことなど、へとも思っていないのだろう。光は表情をぴくりとも動かさなかった。
「ないな」と言ったところで、光のモノマネをしたつもりだったのに、そちらにも反応がなくてちょっと悲しくなった空である。
 結構うまくできたと思うんだけどなぁ。あの、感情こもってない感じの声。と、うっかり、思考が他所へ向かう。
「また、バカなこと考えてるだろう」
 光が、空の顔を見て、指摘したのに我に返った。バカと言われたことに、いつものように吠えて、むくれて見せた空に、これまたいつもの如く海のフォローが入る。そして、ようやく話はもとに戻った。
「先輩のお爺さんに会ったあと、薬を飲もうと思って、気づいたんだ」
「何に? つうか、なんの(やく)だよ」
(やく)、いうな。危ない薬みたいやんか」
 空のボケに、律儀にツッコむ海である。
 光は、相変わらずの無表情で二人のエセ漫才を聞き流した。
「痛み止めだよ。足の」
 小さな声だったが、聞きとれた二人は、ああ、とか、うんとか簡単に頷いただけに留めた。光があまりつっこんでほしくなさそうだったからだ。
「でも、この部屋。コップがないんだよ」
「え? マジかよ! のど乾いたときどうすんの。つうか、今すっげーのど乾いてんだけど」
「あ、俺もー」
 空の主張に、海が手を上げて同調した。光としては、知るか、というところであろう。案の定、二人の発言は軽く流された。
「ああ、そうだろうな。それだけ、スナック菓子を食べたら。で、水をもらいに下へ降りたんだ」
 ああ、話続けるのね。と、空と海は思ったが、口には出さなかった。話す気になってくれているときに、聞いておかないと、話してくれなくなる可能性が高い。気難しい弟を持つと苦労するというものである。
「で、とりあえず一階を一周することにした」
「何で?」
 空が首をかしげる。
「茂山さんか藤沢さんが見つからないかと思って」
 海は淡々と答える光の声を聴いているうちに、いつの間にかへの字に曲がっていた口を開いた。
「足痛かったんちゃうん。言うてくれたら、俺が水もらいに行ったったのに」
 水臭い奴やで。と、吐き捨てる。
 光は微かにではあるが、曖昧な笑みを浮かべた。心配して言ってくれていることが分かって嬉しかったからだが、口にしたのは「そうか」という一言だけだった。そして、そのまま話を続ける。
「で、ばったり出くわしてしまったんだ」
「何に?」
 異口同音に聞いた二人が、身を乗り出すのに合わせて、光も少し身を乗り出した。
 三人の頭が近づく。
「コックコートを着て、マネキンとアイスコーヒーを持った瀬戸さんに」
「何だよそれー」
 空が声を上げながら、乗り出していた身体をもとに戻す。もったいぶっていたくせに、そんなことか。と思った空の横で、海はなるほどと頷いている。
「そりゃ、瀬戸さん焦ったやろうなぁ」
 しみじみとした口調で言われた言葉に、空の頭の中ではクエッションマークが躍る。
「何で焦るんだよ」
 当然の疑問と思って口にした空だが、光は呆れたように眼鏡の奥の目を細めた。
「空は鈍いな」
「何だと、失礼な」
 キッとなって威嚇した空の左肩を、海がまあまあとたたく。
 光は嘆息してから、空に尋ねる。
「お前が瀬戸さんに会ったとき、瀬戸さんはなんと自己紹介していた?」
 空は、光に見据えられて、目をぱちくりとさせながら答える。
「え? えっと、大学生」
「僕と、会った時来ていた服は?」
「コックコート?」
「その時、彼が持っていたものは?」
 口元に拳を当て、先ほどの光の言葉を思い出す。
「アイスコーヒー」
「そっちじゃない!」
 空は、光と海からダブルツッコミをもらう羽目になった。
「なんだよ、二人そろって、そんな大声で」
 少しタジタジとなる空である。
「大声も出したくなる。ここまで言って分からないなら、お前は鈍いんじゃない。ただの馬鹿だ」
 言い切りやがった。
 空はむっとして、光を軽く睨むと、片手の拳を口元にあてた。
 もう一つはマネキンって言ってたよな。でも、コックコート着てたのは、ディナー作ってたんだろうし、瀬戸さん犯人だったんだから、マネキン持っているのも当たり前……
 と、そこまで考えて、空は目を見開いた。
「ああー! そうか。瀬戸さん、マネキン仕掛ける前に、光と出くわしちゃったんだ。しかも、コックコートで。間抜けだなぁ」
 大学生というふれこみで会うはずの参加者に、職業がもろに分かる制服で出くわした挙句、ミステリーのネタを見られたのだから、瀬戸も相当焦ったことだろう。
「お、やっと分かったな」
 海がにっこりする。空は、海にピースをして見せた。
「こんな簡単なことすぐに気づけよ」
「悪かったな。しょうがないじゃん気づかなかったんだから。で、瀬戸さんと出くわしてどうなったんだよ」
 むっとしつつ続きを促すと、光は軽く眉を寄せた。
「居直るなよ、まったく。……二人が言うように、瀬戸さんは焦っていた。そして、たぶんパニックになったんだと思う」
 確かに、空が瀬戸と同じ立場に立ったら、相当パニックに陥りそうだ。その時の瀬戸の心情を思い、少し同情した。
「瀬戸さんは、見るなーって、声を上げて、僕に持っていたコーヒーをかけたんだ」
 光が口を閉ざすと、一瞬部屋に静寂が満ちた。
 空と海は光が瀬戸にアイスコーヒーをかけられる様を想像して、次いで、爆笑した。
「あははは。どんだけ、どんだけパニクるんだよ」
 空はベッドを拳で叩きながら、もう片方の手で腹を抱えて笑っている。海も同様に、腹を抱えながら、笑いつつ、コメントを漏らす。
「コントや、コント。あかん。ウケるー」
 ぶひゃひゃひゃと、笑っている二人に、光は呆れた眼差しを向けた。
「そこまで笑える話か?」
 何が面白いのかさっぱり分からないが、二人が、呼吸困難に陥りそうな程笑っているのだから、それなりに面白かったのだろう。
 二人が答えてくれないので、光は自らの疑問に、そう結論をつけた。

 空たちが大声で笑っている間に、光が部屋に設置されている電話機でどこかに電話をかけていたが、電話の内容は、笑い声で聞き取れなかった。
 ようやく、笑いが収まった頃に、海がどこに電話していたのか尋ねたが、内緒と短い返答がきただけだった。
「それで、瀬戸さんにコーヒーかけられて、服が汚れたのか。その服をマネキンに着せたってこと?」
 空の疑問に光は頷く。
「もともとマネキンには服を着せる予定はなかったらしいんだ。でも、女の人もいるし、裸のまま出すのはどうかという話になっていたらしい」
「で、ちょうどいいやって?」
 主語を省略して聞いた海に、光はまたも頷く。
「ああ。瀬戸さんが茂山さんたちを呼んで話し合って、そうなった。で、僕の着ていた服がマネキンに着せられたわけだ」
 二人はなるほどと、納得して頷いている。
「僕が瀬戸さんの正体と瀬戸さんがマネキンを持っていたことを知ってしまったから、第一のミステリー参加は見送られることになったんだ」
 そして、一人部屋にいるのは可哀想だからと、本来であれば、一条氏が自らやるはずだったマスターの座を譲られたのである。
 分かってしまえば何とも単純な話だ。
「なんだ。もったいぶってた割に、大した話じゃないんじゃん」
 と、空が感想を言えば。
「ほんまやな。あー、にしても、笑いすぎて、余計にのど乾いてもうたわ」
 と、いいつつ、話の途中から忘れ去られていた感のあるスナック菓子の袋に手を突っ込んだ。だが、空っぽだたらしく、海は袋を丸めると、ごみ箱に放り込んだ。
「俺ものど乾いたー」
 情けない声を上げた空の耳に、ドアをノックする音が聞こえた。
 光は何も言わず、立ち上がって、ドアへと向かう。
 空たちが不思議そうに顔を見合わせていると、光が戻ってきた。その腕に抱えているものを見て、空と海は喜色満面になった。
「わお! 光様ぁ。その手に抱えているのはー」
 海のふざけた声に被さるように、空が立ち上がって声を上げる。
「水じゃん。ちょうだい」
 光の腕にあるのは、水の入ったペットボトルだった。二人が、馬鹿笑いしている間に、内線電話を使って、藤沢に水を持ってきてもらうように、お願いしていたのである。
 内線電話の存在を、初めから知っていれば、瀬戸からコーヒーをかけられることも、光がマスターになる必要もなかったのだが。いかんせん、内線電話の存在を知ったのは、薬を飲むための水をもらった後だった。どうやら、千鶴は内線電話のことを三人に伝え忘れていたらしい。
 光が差し出す前に、抱えていたペットボトル三本のうち、二本を空に取られた。
 一本を海に手渡して、おいしそうに水を飲む空。海は一気にペットボトルの半分ほどの水を飲んでいた。
「わざわざ、お前たちの分まで水を持ってきてもらった僕に、一言の礼もなしか」
 水を飲んでのどを潤した二人は、剣呑な目を向けてくる光に気付いて焦った。
「あ、あれ? そういえば、どうやって水がここに」
「テレパシーか?」
 にやにや笑いながら問うてくる海の言葉を聞き流した光は、そっぽを向いた。
「教えようと思ったけど、教えない」
 腕組みをして、拗ねる光。
 この後、光の機嫌を直すのに、空と海は結構な時間を費やすことになるのであった。

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