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三兄弟の事件簿~この恋はミステリー~ 作者:愛田美月
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第十四章 容疑者の反論

 瀬戸が着席し、私市が起立した。発言する者は起立するシステムなのか、茂山が指示したのである。
『探偵』には帽子だったが、どうやら『容疑者』には『容疑者』を示すようなアイテムは何もないらしい。

 どんな反論をするのか。空は、興味深く私市を見つめた。
 瀬戸の探偵ぶりが、芝居がかっていたからなのか。いけないとは思いつつも、気分は観客だ。
「伊吹さん!」
 突然私市に大声で名指しされ、空に絶対にメタボだと思われた男が「ほへい」と妙な返事をした。しかも声が裏返っている。
 そうか、この狸腹の人、伊吹って名前だったな。と、空は失礼なことを考えた。
「な、何ですか、いきなり」
 変な声を出してしまったのが恥ずかしかったのだろう。私市を見る伊吹の顔はどことなく恨めしげだ。
「マネキン」
「マネキン?」
 私市の発した言葉を、伊吹は訝しげに繰り返した。
「倉橋さんと二人で持ち上げていましたが、二人で持ち上げないといけないほど重かったのですか?」
「いや、拍子抜けするくらい軽かったよ。一人でも十分持ち上がる。片手でも持てるんじゃないかな」
 私市はなるほど、と頷いている。そんな彼を、伊吹は奇妙な物を見るような目で見つめていた。
「そんなことを聞いてどうするんだよ」
 瀬戸が尋ねた。口調はもう探偵モードではないようだ。
「聞いてみただけです」
 私市の答えが余りにあっさりしていたため、聞いていた者達は拍子抜けしてしまう。そこを狙っていたかのように、私市はまたもや声を発した。
「瀬戸さん!」
「な、何だよ!」
 突然大きな声で名を呼ばれ、瀬戸が反射的に返事をする。
「テーブルの上の食器、割れていませんがどうしてでしょう」
 私市が、瀬戸の顔からテーブルに視線を移したものだから、ほとんどの人間がつられてテーブルに目を向ける。
 確かに、どの食器も割れていなかった。テーブルの上は、概ね事件が起こった時のままにしてある。違いがあるとすれば、倒れたカップが茂山の手によって起こされたくらいである。
 参加者のほとんどが、マネキンを調べることに気を取られ、テーブルの上に目を向けていなかったのだ。
「どうしてって、テーブルの真ん中に落ちたからだろう。あんたがそれを狙って落としたんだろうが」
 瀬戸の言うとおり、マネキンはテーブルのほぼ中央に横たわっていた。ティーカップをわざわざテーブルの真ん中にお置いて飲む者はいない。これが食事中だったら、何枚か皿が使い物にならなくなっていただろう。
「ここの天井、高いですよね」
 瀬戸の発言を軽く無視して、私市は天井を見上げた。他の者もつられて上を向く。
 確かに、庶民宅よりも数段天井が高く感じられる。
「瀬戸さん!」
 私市の大声の呼びかけに、全員が驚き身をすくませた。心臓に悪い。
「だから、何だよ!」
 同じように大きな声で返した瀬戸を見ながら、私市は人さし指で天井を指した。
「あのシャンデリア。テーブルの真上にありますよね。あの陰にマネキンを隠していたとおっしゃいましたが」
「それがなんだよ。あれだけ大きいんだ。シャンデリアに隠れるように、マネキンを天井にぴったりと固定していりゃいいだろ。天井なんて、早々見上げないからな」
 瀬戸は渋面で吐き捨てた。
「なるほど。で、あなたの説ですと、私は固定した糸を切って、マネキンを落下させたわけですね。皆が騒いでいる間に糸を、まあ、巻き取るのかな。この場合は。とにかく糸を回収した。それはいいとして、マネキンがシャンデリアの陰から落下したとしたら、落下地点がおかしい気がしますが?」
 私市はそこで言葉を止めた。瀬戸はしばらく、私市に強い視線を向けていた。次いで、ふんっと鼻で笑う。
「おかしくねぇだろ。真上にあるシャンデリアの所から落ちてきたんだから、テーブルの上に落ちるに決まってんじゃねぇか」
 この反論に、秀香が馬鹿にしたような冷笑を口元にうかべた。その隣に座る一条健介も口元を歪めた。こちらは、嘲笑の色が濃く表れている。
 空と千鶴は、確かにと頷いていたが、海は、二人程単純な性格でもなかったので、ただ首を横に捻った。
「ほう、このマネキンは、一瞬透明人間、ではないですね。透明マネキンにでもなったということですかね。それとも瞬間移動でもしたかな」
「はあ?」
 意味が分からなかったのか、瀬戸が声を上げる。
 空の耳に「透明マネキンて……」と、呟く海の声が届いた。どうやら笑いをこらえているらしい。
「そうでなければ、シャンデリアに隠すように、天井に吊られていたというマネキンが、シャンデリアにぶつからずに真下のテーブルの上に落下した説明がつきませんからね」
 私市は、優雅な仕草で手を組んだ。瀬戸はあっという形に口を開いて目を瞠る。
 空も今の発言で分かった。私市の言うとおりだ。シャンデリアの陰に隠していたマネキンを落としたとしたら、まず、シャンデリアの上に落下することになるだろう。シャンデリアに落下を阻まれたマネキンは、大きな確率で、テーブルの上ではなく、私市の頭上に落ちることになりそうだ。瀬戸の推理はこの時点で無理があったのかと、空は素直に感心する。
 隣の千鶴が「悟お兄様さすがですわー」と、指を組んだ手を口元に当て、やけにきらきらとした目で私市を見つめていた。空と千鶴はある意味似た者同士なのかもしれない。
 私市は、苦虫を噛み潰したような顔をした瀬戸を満足気に見やり、次いで茂山、藤沢へと視線を移した。
 茂山が藤沢に目配せをし、藤沢は頷いた。
「私市様、反論はお済みですか?」
 私市は頷く。相変わらず顔は不敵な笑みを称えていた。
「では、私市様。最後にお聞きします。あなたは犯人ですか? 犯人ではありませんか?」
 もう犯人である可能性はないだろう。と、空は思っていたが、藤沢は私市に尋ねた。
「私は犯人ではありません」
 私市が答え、瀬戸は大きく肩を落とした。

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