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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

偏愛シリーズ

魔物の偏愛

作者: リック

「そんなことばかりしてると、首無しが来て連れてかれちゃうわよ!」


 とある異世界の片隅、ごく一般的な家庭において、母親が玩具を散らかしたまま片付けない我が子を脅し混じりに叱っていた。『首無し』 とはこの地方に伝わる魔物の通称だ。悪いことばっかりする子供を誘拐するといわれている。


「くびなし? そんなのウソだ! しんじないよ!」


 叱られた幼児は精一杯大人ぶりながら、幽霊を否定する。もちろんそんな強気なのは昼間だけで、夜は必ずトイレに付き添ってもらっている。母親は後で怖くなるなら、今いうことを聞けばいいのにと地味にイライラした。しかし悪いことは重なるもので、最もイライラする存在が首無しの話題を出したとたんに別の部屋からしゃしゃり出てきた。


「そうよ悪いことしたら連れ去られるなんて嘘よ。だって首無しは本当は素晴らしい精霊なのだもの」


 母親は、この妙に首無しを擁護する姑が大嫌いだった。魔物じゃなくて良い精霊だったら躾けにならないんだから黙っていてほしい。


「おばあちゃんのいうとおりだよ! くびなしはいいひと! いいひと!」


 そう言って我が子はまた玩具で遊び始めた。誰が片付けると思ってるのかしら……。

 それにしても、子供はまだ常識というものが覚束ないからいいとして、この姑がむかつきすぎる、と母親は思っていた。

 確か……悪い子供を連れ去ったというのは四十年前くらいに実際にあった話だと、村の正式な書類や掲示物に書いてある。姑はまさにその世代のわけだが……。怯えるどころかいつも擁護する。それどころか、時には自分の夫や親を貶めてまで『首無し』 を称えるのだ。


「首無しはね、綺麗で慈愛溢れる、それはそれは素晴らしい方だったわ。それに比べてうちの旦那のつまらないこと。容姿も劣ってるし、気も利かないのよ。何か特別なことが出来るわけでもなし。ああ、どうして私じゃなくてあの子だったのかしら……」


 そう言ってお茶仲間の同世代友人と語り合ってるのをよく見る。驚いたことに、友人達もうんうんと頷いて同意していた。


 気持ち悪い。

 母親はそう思うのを止めることが出来なかった。どっかで曲がって伝わってるか、当事者のみでしか知りえないことがあったにしても、人一人消えてるのに羨ましがるって……。それに夫がいるのに他の男を手放しで褒めるってのも微妙にどうなの? って感じ。

 一体、当時の真相は何だったんだろう? まあどっちにしても、子供一人が消えてるのは事実なのに羨ましがるなんて、私には出来そうにないけど。

 そう思いながら、遊びつかれて寝た我が子を寝室へと運ぶ。どんなに我侭で暴れん坊でも、我が子は可愛いものだ。



◇◇◇


 その四十年くらい前、村には一人の孤児がいた。名はルーラ。精霊の棲家を監視する村は大体が羽振りがいい。それを聞きつけたどこかの親が彼女を村の入り口に捨てた。精霊の村で物騒なことをするのも憚られるので、彼女はそこそこの年齢になるまでは子沢山の親に援助をして預け、十三になったら何でも屋としてあちこちで働いていた。


「あいつにはメシさえ与えておけば、何でもやらせられる」


 そんな陰口も聞こえるほど、ルーラの実際の労働環境は悪かった。働いた代わりに食べさせてもらってるだけの毎日。

 村の草むしりや畑仕事、子守に掃除に料理洗濯。ルーラは頼りに出来る人もいないので、面倒な仕事は進んでやった。こうでもしないと、親のいない自分は食べていけない。

 そう納得してはいたけれど、同い年の女の子達がお洒落して学校へ行くのを見る時は嫉妬で胸がチリチリした。それに……。


「見てよ、あれこないだ亡くなったおじいちゃんのお下がりだって」

「うっそー! 臭そうだよね!」

「やだやだ、私だったら耐えられないわ」


 女の子達に自分の服を指差してそう言われた時は、とても居た堪れなかった。こんなことを毎朝言われるが、そんなこと言われても自分にはどうしようもないのに。けど、ただ黙々と自分の仕事をするだけ。……以前悲しくて泣いたら、「うちの子を悪者みたいに! 勘違いするな対等なつもりか? 親のいないお前をお情けで住まわせてやってるのに!」 と女の子達の両親に怒られた。

 そうだ、自分は対等じゃないんだ。生まれからして違うんだ。だから――諦めて生きたほうがきっと楽だ。


◇◇◇


「今度の休日に、王家の方々が視察にいらっしゃる。お前、丘の上の神殿を綺麗にしとけよ」


 ある日、ルーラは村の大人達にそう命令された。清掃の仕事自体はいいのだが、問題はその場所だと感じた。


「あの……精霊様のいらっしゃる場所には、滅多に人は……というか少女は入ってはいけないのでは?」


 ルーラは文字も読めないが、それでも大人達が我が子に口をすっぱくしてあの地に入るな、特に少女は、と言っているのは聞いている。だから自分が入るのは問題では? と聞いてみたのだが。


「え。お前女のつもりだったの? へぇ~」


 大人達は感じの悪いニヤニヤ笑いをするばかりで、そうだとも違うとも言わなかった。こういう時の対処法は分かっている。さっさと仕事に向かうに限る。背後から声が聞こえる。


「……物分りがよくて助かったな」

「あとで村長に言われるかもしれないが、俺らだって妙な事に巻き込まれたくないし」

「勝手にあいつが行ったって言えばいいだろ、ルーラだし」


 泣いたら怒られるだけだ、だから泣いてはいけない、そう呪文のように唱えて、ルーラは神殿に向かった。 


◇◇◇


 丘の上の神殿は、由緒正しい神殿と聞いていたが、ルーラの目の前の神殿は荒れ果てていた。うろ覚えだが、どっかの精霊が少女を連れ去ってからというもの、真面目に手入れをする人間が減ったとか。無学な自分にはどうとも言えないので、そんなものかと納得するだけだ。とにかく掃除を命じられたのだから、黙って清掃に取り掛かるのみだ。


 まず建物全体を把握するため、一度ざっと周ってみる。終えたあと、ここはそんな広くないと分かったので、掃除が簡単そうだと思った。神殿と名はついているものの、実際は祠を取り囲むように壁と屋根がついているような小ささだった。


「よし、まずは……」


 村から与えられた古い掃除用具を手に取り、あちこりを忙しく動き回る。ルーラはこういう作業が大好きだった。

 いつか自分も綺麗に、なんて夢が見られるから好きだった。


◇◇◇


 夕暮れになり、最後に祠のような場所を残すのみになった。


「……雑巾が破れちゃったし、今日はもう無理かな。精霊様、ごめんなさい。一番大事なところなのに……でも、また明日来ますから。綺麗になるまで」


 そう言ってルーラは、掃除用具を抱えて神殿を去った。帰りながらルーラは考えた。視察まであと三週間、それまではどの家庭も忙しいから、今夜は馬小屋で寝ようと。


 翌朝、頼み込んで笑われながら掃除用具を貰ったルーラが見たものは、何故か昨日より汚くなった神殿だった。


「……また、か」


 よくある。困るのが面白いからと仕事を邪魔されるのは。前と同じあの女の子達なのかな? 相手にすると面白がらせるだけだから無視だ。私は私の仕事をちゃんとする。

 ルーラは頑張って、昨日よりも綺麗に掃除をした。そしてまた翌日、さらに汚くなった神殿があった。当然大人達に睨まれた。


 ルーラは考えた。どうせ寝るのは馬小屋だ。今日は帰ったふりしてここに寝泊りしよう。犯人が女の子達なら、お化けのふりして脅かせばいい。あの子達はあれで、お化けが苦手という人並みの弱点がある。

 掃除用具を返しに行った後、ルーラはこそこそと神殿に戻った。


 その夜、信じられない光景をルーラは見た。もはや魔物としか思えない美しい男達が三人、神殿入り口にたむろっていた。魔物? 精霊? どっちにしろ、余りの美貌にルーラは隠れながらぽかんとするしか出来なかった。そんなルーラのことを知らないまま、男達は暢気に会話をしていた。ルーラは神殿荒しのヒントがあるのかもしれないと、怯えながらも必死に盗み聞きをする。


「……お前に自傷癖があったなんてな。唯一祠に棲まない俺からすれば、理解しがたい」


 祠に棲まない? ならあれは水の精霊だ。直感でルーラはそう思った。この世界は、ことわざや難しい文字を知らないことより、精霊達の知識をもたないほうが笑われる。私は学校に行っていないが、女の子達はよく「こんなこと知ってる?」 と聞いて、知らないと返すと、「水の精霊様の場所も知らない人がここにいる!」 と言って教えてくれた。


「荒らすのを手伝ってくれとか何事かと思ったぞ。そのために土の力を借りたいとかよくもまあ……変な心配させるなよ」


 あれは、土の精霊だ。……ん? 荒らす? 手伝う?


「ああ、ごめんごめん。ちょっとね、最近すごく可愛くて礼儀正しい子が、ここを綺麗にしてくれるんだけど、終わったら来ないって言うんだ。だからいっそ荒れたままならなあって」


 ここの主――なら風の精霊、シルフだ――。目に入れた瞬間、ルーラの胸が高鳴った。綺麗な人というのもあったけれど、それ以上に、可愛い、なんて初めて言われた。あ、でも話を総合すると、荒らしてるのは……まさかの自作自演だったなんて。


「……それさ、女の子が余計困らないか?」


 呆れたように水の精霊がツッコミを入れる。それはちょっと私も思ったけど……。


「ちゃんと視察の前日にはやめるよ、うん」

「やめるのか? 同じように仲間にするのかと思ってた」


 土の精霊がさらっと怖いことを言う。精霊の仲間? ……私、まだ人間がいいな。


「うーん、そうだね。いずれはしたいね。今は……ちょっと恋すると考えがまとまらないね。君達の気持ちが分かるよ」


 シルフ様はかっこよかった。褒められて嬉しかった。だが、それとこれとは別問題だ。近いうちに人外にされるかもしれないという恐怖のために、私は夜明けと同時に村長のもとへ走り、神殿の清掃はやりたくないと泣いて訴えた。怒られたり小突かれたりしたけれど、粘って粘って、清掃係を辞めさせてもらい、代わりに視察の際に住居として使われる学校の清掃を任されることになった。人外の恐怖から解放されて私は喜んだ。けれど、こっちはこっとで別の問題が待っていた。


「あらあ? どうしたのよ、学校にあんたの席はないでしょ? あははっ!」

「って、タダの掃除係? 勉強目的以外に学校に来れるものね!」


 私は格好の捌け口の対象だった。ついこの前まで学校が羨ましいと思ってたけど、こんな人ばかりなら行かなくてもいいかも。

 私が動くたびに彼女達は動きがどうたら、服装がどうたら、礼儀がどうたらとか言ったけど、学校の先生はきっちりした方で、「仕事で来てる人の邪魔をするんじゃありません!」 と叱ってくれた。少しだけ、居心地が良くなった。しばらくここ担当でいいかな。


 とは思っても、精霊に目を付けられるということがどういうことなのか、私は甘く見ていた。


◇◇◇


 それは雨の日に起こった。お洒落な傘をさして村をカラフルに彩る女の子達をよそに、大人用の生臭い雨合羽を羽織って同じ方向に行く私。惨めなんて思ってたら身がもたない。すぐ分かってもらえていいと思わなきゃ。


「くすくす」

「ねーっ……」

「ふふふ」


 女の子達はいつものように指差して笑った。私はさっさと戻ろうと、彼女らを追い越して校門に急いだ。


 そこに彼が、いた。雨に打たれながら、物憂げに学校の校門に佇む彼は、まるで絵画のようだった。何故ここに、逃げるべきか、そう迷って後れを取った。シルフは、私に気づくと、嬉しそうに近寄ってきた。


「ルーラ! 会いに来たよ! 最近なかなか来ないから心配してた。病気だった? もう治ったの? それともおうちの事情?」


 話したこともないのに親しげにされてる……とちょっと思った。精霊様に無礼な考えを、とすぐ打ち消したが、でもこれ顔がよくなきゃ怖いだけだよね、とも思った。

 そんな考えが顔に出たのか、シルフ様は不安そうな顔をした。


「どうしたの? 怒ってる? あ、君の予定も聞かないで来ちゃったから?」


 そういう問題じゃないけど、でもどういう問題だろうと迷っていると、背後から奇声が聞こえた。


「な、何でルーラがあんな綺麗な人と!?」

「嘘よ! じゃなきゃ彼の周りにはまともな人がいないんだわ!」

「騙されてるのかもしれない! 目を覚まさせてあげなくちゃ!」


 女の子達だった。最初の私と同じように、容姿に見惚れてしばらくぽかんとしたあと、事態を把握するのだ。それからの女の子達は凄かった。私は突き飛ばされてしりもちをつき、合羽がさらに汚くなった。そんな私を何人かがいい気味、といわんばかりに口の端でシルフ様に見えないように笑っていた。

 それからシルフ様をちやほやし始めた。確かにかっこいいけれど……人外だよ?


「ルーラ!? ちょ、君達なに?」


 シルフ様は慌てて助けに行こうとするも、女の子達の壁に囲まれて身動きが取れないでいる。


「ああ、あの子はドジっ子だから気にしなくていいですよ~」

「それよりも、ルーラとお知り合いですか~?」


 ベタベタと身体を密着させて猫なで声で話しかける。身なりも満足に整えられない私には、一生無理な技だ。


「え? うん。ちょっと前まで、毎日会ってたんだけど、突然来なくなって……心配でここまで来てしまった」


 うろたえながらも律儀に返事したシルフの言葉に、何人かの顔が引きつる。イケメンと毎日デートしてたと取ったんだろうけど、掃除だってば。


「分かります~お兄さん綺麗ですもん」

「つりあわないって感じちゃいますよ」

「あ、でも雨の中、女の人のために待つなんて、性格も素敵ですけど!」

「……そんなに綺麗かな? この顔」


 困ったように笑って言うシルフ様。うん、ああいうとこに一人なら自覚なさそうだよね。彼は時折私に目配せしてくるけど、私一人じゃこんなのどうにも……せっかく仕事中は仕事だけ出来るって思ってたのに。


「綺麗です! でもだからこそ心配なんです!」

「私達はいいけど、他の女の子が知ったら、ルーラが苛められちゃいますよ!」

「なんだったら、私達が橋渡ししましょうか? 私達、ルーラと仲良しですから♪」


 私はむしろその言葉に感心した。人はこれほど心にもないことを言えるのかと。美貌で狂えるものかと。余りに納得したので、身を翻して心置きなくシルフ様を見捨てて戻ろうと思ったくらいには。転んで泥だらけになった合羽を軽く綺麗にして、とことこ歩き出す。


 しかしシルフは天然気味でおっとりしてるように見えるが、整った服装の女の子達とボロみたいな服を纏ったルーラを見て、何が本当なのか推測するだけの知恵はあった。そもそも進路を妨害する女子達にはイライラしていたのもあって、強硬手段に出た。


「きゃ――――――――――――――――――――――――――――――――!!!!」


 シルフに背を向けて間もなく、後ろから絶叫がした。何事かと振り返ったルーラが見たものは、シルフの身体がシルフの首を持って立っている姿だった。


「ごめんごめん、ちょっと間違えちゃった」


 手の首が何事もなかったように喋りだす。泡を吹いて倒れる女子がいた。


「まあ首が無くなったくらいで死にはしないけど、これから不便だなあ。あー誰か世話してくれないかなあ」


 身体が首を掲げて見回すが、近くの女子達はお化粧が意味のないくらいの形相で絶叫するだけだった。どこから呼吸しているのか、溜息ついて首は言った。


「顔だけじゃないとか言っておいて。それにちょっとした『ドジ』 じゃないか。そんな驚くこと?」

「ひいっ……来ないで!」

「やれやれ。言われなくても用事が済んだら二度と来ないよ。……行こう、ルーラ」


 身体は首をくっつけると、空いた両手で泥だらけの姿の私に手を差し伸べた。周りで女の子達は「化け物! 妖怪! 魔物!」 と連呼していたけれど、私にはそうは思えなかった。その瞬間を見てないのもあるけれど、靴や服や寝床によく投げ込まれた、バラバラにされた虫の死骸よりは、彼の首無し姿は彫刻めいて美しいと思う。差し出された手に、そっと自分の手を重ねる。


 この手を取ったら、人間じゃなくなるなと思ったけれど、それ以上に庇ってくれるシルフ様が、私は嬉しかった。どうせ、帰っても騒ぎを起こしたってご飯抜きだなって思うと、いっそ人間じゃなくなりたかった。


◇◇◇


 シルフが白昼堂々と現れ、首を自分で切ったすえに少女誘拐というこの事件、村長は頭を抱えた。国に知られて支援金を減らされるのはごめんだ。最終的に出来事をもみ消すことは出来ないが、すり替えることは出来る、として、悪さばかりする不良少女が首無しの魔物に連れ去れたと話を改悪して撒き散らした。少女以外にも首無しの姿を遠目で見た者がいたため、これは絶大な効果を発揮した。


 しかし比較的温厚なシルフがこれに怒り、村には終日暴風が吹き荒れた。しかし突如ぱったりと風はやみ、その夜、村長の夢に威厳すら漂う、綺麗になったルーラが現れた。


「育ててもらった恩も返していないのは事実。私がシルフ様を宥めましたから、もう心配はいりません。噂はどうぞお好きなように。もう私は、世俗に関係ありませんから」


 村長は泣きながらその話を村人にして、同時に事件を人に話すな、と命じた。


 大人達の大部分は、「人はどうなるか分からない、苛めなんてバカな真似をした」 と反省したが、あの少女達はそうはいかなかった。


 序列で下だと思ってた子が、精霊の配偶者……。

 恐怖体験も忘れ、少女達は悪口に精を出した。自分達のほうが綺麗だったんだ、もしかしたら配偶者は私だったかもしれないのに! 下だと思っていた人間が選ばれたのは運だと思わないと、彼女達のプライドは酷く苛まれるのだ。


「綺麗な姿でとか陰湿よね」

「きっと私達のこと見下してるわよ。どんだけ性格悪いの。そんなんだから苛められるのよ」

「私達だって遊んでやったんだから、夢にくらい出てくればいいのに。逃げてるのかしら」


 その愚痴と僻みは、終生変わることはなかった。


 年老いて孫が出来ても、自分は精霊に会った、伴侶になれたかもしれない人間だとの幻想を捨てきれず、足りることを知らず周りに要求ばかりする人間性は周囲に嫌われた。


「精霊様だったら……」

「もっと精霊様みたいに……」

「自分は本当はこんなところにいる人間じゃないのに……」


 当の本人であるルーラは、思いのほか精霊世界が居心地がよく、やがて人間世界を忘れてしまった。覚えているのはかつての同世代の少女達だけだった。

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