9.好きです の意味
9.好きです の意味
その日 コーチはジムにいなかった 珍しく休みだとフロントの女性が教えてくれた
僕はジムの玄関先から彼の家へ電話をかけた
「あ・・もしもし 昇です 先日はありがとうございました 今日休みなんですか?」
電話の向こうで彼は少しくぐもった咳をしていた
風邪をひいたらしく 家で寝ているという
僕は何か必要な物があれば届けますと切り出し
幾分無理矢理のように彼の家へ押しかける約束を取り付けた
風邪がまたうつるといけないからと電話口でいう彼に
僕はどうしても今日届けたいモノもあるからと食い下がり
電車とバスを乗り継いで彼のマンションまでやってきた
途中 プリンを買った
母に持たされた和菓子とプリン とても病人への土産には相応しくなさそうだったが
甘いモノが好きな彼の事だから まぁいいかと勝手に思う事にした
それでもちょっと気になって コンビニでレトルトのお粥のパックを買った
マンションの玄関でインターホンを押す
オートロックが解除され 僕は彼の部屋の前までエレベーターであがった
彼は部屋着のスウェット姿で僕を迎えた
いつもより ほんの少し顔色が良くない
それでも優しい穏やかな笑顔はいつものままだった
「お邪魔します」
僕は部屋へあがった
「横になってて下さい 何か食べられそうですか?」
僕の問いかけに彼は笑って応えた
「昇に看病してもらうんじゃ たまらんな」
「どういう意味ですか」
「いやいや こないだエラソウに見舞いに行ったのにな 今度は俺がダウンした」
「僕がうつしたのかもしれない・・・ごめん」
「いや プールで毎日いたら時々風邪も引くさ」
「うん・・・」
僕は黙って部屋の中を見回した
その様子を見て彼が笑いながら言う
「なんだ?何を観察してる?」
「・・・・女の人が・・・来た気配を探ってるんだ」
「女?」
彼の目が可笑しそうに細められ くっくっくとむせるように笑った
「看病に来てくれるような恋人とか・・・・いないの?」
「こないだも聞かれたよな 昇に・・今はいないって言わなかったか?」
「・・そうだけど・・でも コーチならいつでもそういう人・・いそうじゃん・・」
「何を根拠にっ!(笑)残念ながら 俺は一人寂しく寝てましたよ」
「・・・・ふぅ〜ん・・・」
僕は買ってきたレトルトのお粥を器にあけて 電子レンジで温めた
コーチはそれをベッドに座ったまま ゆっくり食べた
「美味かった ありがと」
「熱はないんですか? 薬とか飲んでるの? 病院は?行った?」
「なんか 昇が世話焼きの彼女みたいだな(笑) 売薬だけど一応飲んだよ」
コーチは可笑しそうに笑って言った
ホントに 僕が女の子だったらよかったのに・・・複雑な気分だ・・
別に本当に女の子になりたいとか 今の自分がイヤだとかいうんじゃなくて
オトコの自分がオトコのコーチを好きなのは やっぱり変な気がするし
だったら女の子だったらいいのかなぁと・・・そんな単純なだけの発想で・・・
自分でもよく判らなくなってきた・・・
好きです って伝えるのは ホントは何のためなんだろう・・・
自分の中に抱えきれなくなって苦しくて相手に向けてその想いをぶつけてしまうのだろうか
伝えた後に どうなるかなんて 考えなくていいのかな・・・
でも 相手はぶつけられた想いをどうやって受けとめるのかな・・・
受けとめられないとはっきり拒否されたら どんな気持ちになるんだろう
好きですって 伝えるのは 何のため? それで傷つくかもしれなくても
もうこれ以上 自分の中に持ちこたえられない程に大きくなってしまった想いを
どうにかしたくてぶつけるの?
たった15年じゃ わからない
たった13年じゃ もっとわからなかっただろうね
貴方が死んでしまいたいと思う今日は 昨日 もっと生きたいと願った誰かの明日
そんな言葉が頭に浮かんだ
苦しくっても 苦しいって思えるのは生きてるからだよね・・・
生きてるから 辛くても 苦しくても 生きてるって すごいよね・・・
「コーチ・・・死なないでね・・・」
「の・・のぼる?」
「風邪だって・・バカにできないから・・ちゃんとお医者さんに行って・・治してよ」
「どした?昇・・」
「・・・死んじゃ やだよ・・・」
僕は泣いていた 涙が次から次へと溢れてきてどうしようもなかった
袖口でぬぐってみても 間に合わないほどに涙が流れた
コーチは黙って僕の肩を引き寄せて 自分の隣りに座らせた
僕の肩を抱いて 頭を軽く撫でてくれた
僕はどうしようもなく ただ 泣きながら座っていた
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