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ウォーターボーイズ
作:tensuke



7.人生について考える


7.人生について考える

家に母はいなかった
玄関に張り紙がしてあった「昇へ父と母は急用にて外出 詳細はメールします」
僕は慌てて携帯電話を鞄から取りだした
僕がプールで過ごしていた時間に何度か母の携帯から着信履歴があった
電話に出ない僕に業を煮やし 慌てて出て行ったのだろうか
メールには親戚の一人が病院へ運ばれたので見舞いに行く
帰りは明日になるので 一人で留守番するように と書かれていた

「昇・・お母さんたち何だって?」
「あ・・・・親戚の見舞いに行くから留守番してろって・・・明日帰ってくるらしい・・・」
「そっか・・・」
彼は僕を送ってきて 玄関の張り紙を一緒に見つけ
事の成り行きが判ってから帰ると僕に付き添っていてくれた
僕は念のため母の携帯に電話をかけてみた
しかし母は出ず 留守録のメッセージが流れた
「・・あ・・僕です メール見ました 留守番します 何かあったら連絡下さい」
そうメッセージを残すと僕は電話を切った

「病院だから きっと電源切ってるんだろうな」
「うん」
「親戚って よく知ってるヒト?」
「うん・・・僕の従姉妹 父の弟んとこの女の子」
「そっか・・・心配だな・・」
「うん・・僕とそんなに歳がかわらないんだ・・・」
「そっか・・」
「前から身体が弱かったんだ・・・」
「そっか・・」
「うん・・・」
僕は正直 とても心細かった 
一人の留守番なんて怖くも何ともない でも 歳の変わらない従姉妹が
もしかして生死の境を彷徨っているのだとしたら
僕はとても心細く 怖かった

「昇・・・一緒に居てやろうか?」
「えっ?」
「それとも 携帯だけあればお母さんたちと連絡とれるか?
だったら今晩 俺の家に泊まるか?」
「えっ?」
「一軒家に一人はさすがに怖いだろぉ いくら男でも中三じゃなぁ・・」
「怖かぁないけど・・・正直ちょっと心細い・・かな」
「だよなぁ・・・車もここに追いとけないし 俺のとこ来いよ 飯も喰って行こう」
「いいの?」
「いいも悪いもこうして居合わせたのも何かの巡り合わせだろ?
年長者として見過ごすワケにはいかないしな(笑)」
彼はいつもの優しい穏やかな笑顔で言った
「ありがとう」
僕はありがたく彼のお言葉に従って もう一度彼の車に乗り込んだ
今度はしっかり助手席におさまった

彼は途中 広い駐車場のある牛丼の店に僕を連れて行ってくれた
飯はしっかり喰っておかないと 元気もでないっ!とかいいながら
彼は僕に大盛りの牛丼に卵と味噌汁と漬け物までつけたフルコースをご馳走してくれた
二人で掻き込む牛丼はとても美味しく感じた
なんだかなぁ・・・僕は彼の事が好きだとさっき自覚したばっかりなのに
こうしてデートでもしてるみたいに 隣り合って座って牛丼なんか掻き込んで・・・
しかも この後彼のおうちにお泊まりだ・・ぞ・・・
僕はなんだか どきどきを通り越して すっかり自分の事じゃないみたいに
どこかうすらぼんやりと霧に包まれたみたいな感覚だった

「散らかってるけど 入れ入れ テキトーに場所作って座れよぉ」
駐車場に車を止めて 彼の部屋に入った
2DKというのだろうか 狭いキッチンとバスルームとトイレ
そして一部屋 ベッドとテレビが置かれている それだけの部屋だった
「さっき 昇の家まで行ったのになぁ 中に入って着替えくらい持ってくればよかったな
全然気がつかなかったわ ごめんな」
そう彼に言われるまで 僕の方こそ何にも気がついていなかった
白い霧がちょっと晴れてようやく僕はちょっとはマシな思考回路を取り戻した
「あっ・・・・そうだよね・・・そうだ全然気がつかなかった・・・ごめん」
「まぁいっか 俺の服貸すから我慢しろよ」
「すみません」
「風呂はいるか?」
「いえ さっきプールでシャワー使ったから」
「そっか じゃ麦茶でも飲むか・・・」

彼はグラスに入った麦茶を二つ持ってやってきた
僕は狭い部屋の中 居場所がなく なんとなくベッドとテレビの間に立ち尽くしていた
「座れよ(笑)」
そう言って 彼はその辺に散らかっていた新聞だの読みかけの本だのを重ねて部屋の隅へ押しやった
ベッドにもたれるようにして座った彼の横に僕も腰をおろした
「携帯に連絡は入ってないか?」
彼に言われて僕は携帯を見る しかしそこには着信もメールもなかった
「なにも・・・ないみたいです」
「そっか・・・ま 今夜は枕元に携帯電源入れて置いておくんだな」
「はい・・そうします」

彼の言った通りだった 僕の携帯は11時を少し過ぎた頃に母からの電話を受信した
「昇?あんた今どこにいるの?家の電話に出なかったから・・・」
「あ・・連絡するの忘れてたごめん 佐藤コーチが一緒に居てくれて
今コーチの家にお邪魔してる」
「そう それはよかったわ ご迷惑おかけして申し訳ないけど後で母さんもお礼に伺うわ
でね 麻ちゃん・・・麻子ちゃん 亡くなったの」
「・・・えっ・・・・・」
「随分前から悪かったみたい・・・残念よね・・・」
「・・・・・・・・・」
「昇?大丈夫?」
「・・うん」
「でね 明日の夕方お通夜で明後日がお葬式になるから
母さんたちも明日のお昼には一旦家に戻るわ その後昇も一緒に行きましょう」
「・・・わかった」
「だから 今夜はコーチの所に泊めてもらって 明日昼前には家で待ってて頂戴」
「・・・わかった」
母は僕の携帯で佐藤コーチに礼を述べると電話を切った

従姉妹が死んだ まだ13歳だった おとなしい可愛い女の子だった
あまり一緒に遊んだりした記憶はない
小さい頃から身体の弱い 小さな女の子だった
その従姉妹が死んだ
僕はなんだか身体がふわふわとして 自分の身体じゃないみたいで
頭の中もすっかり空っぽになったみたいに真っ白だった
「昇・・・のぼるっ?」
「・・・えっ・・・」
僕は僕の顔をじっと覗き込んでいる彼の声で我に返った
「昇・・・大丈夫?」
彼の瞳は黒く大きく そして心配そうに曇っていた

「・・・・悲しいんだけど・・・悲しいよ・・もちろん・・・でも正直
そんなに親しかったワケでもないし ここ数年会った事もなかったし
だから悲しいとか言うのとちょっと・・・違うんだ・・・なんだか
ただショックっていうか・・・13歳で死んじゃうって なによって・・・」
「・・・・・そうだな」
彼は何も言わず ただ 僕の隣りに肩を寄せて座っていてくれた

彼は僕にベッドを譲り 床に布団を敷いて横になった
電気を消して暗くなった部屋の中 カーテン越しにうっすらと見える暗い空
僕はぼんやりと従兄弟の女の子の事を考えていた
彼女は楽しい13年間だったかしら?
彼女は何が好きだったのかしら?
彼女はやりたいことを沢山できたかしら?
そして彼女は13年間に 恋をしただろうか?
僕は自分が15年間 彼女より2年多く生きてる僕は
彼女の13年間よりホントに2年分沢山の事をしてきたのだろうか?
僕は・・・・ぼんやりとそんなことを考えながら 眠りについた












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