3.お見舞い
3.見舞い
翌日 母は僕にもう一日学校を休むよう言い残すと 夜には戻ると出かけていった。
僕は一人 部屋着のスウェットから着替えもせずに 家でごろごろと過ごしていた。
昼前になり 何か食べるモノがないかと台所をあさっていると 玄関のチャイムが鳴った。
インターホンに出ると そこに佐藤コーチの姿が映っていた。
「ど・・・どーしたんですか?コーチ」
「ばぁ〜か 見舞いに来たに決まってるだろうが・・・玄関まで出られるか?」
「あっ・・はい 今行きます」
僕は慌てて玄関のドアを開けに行った。
「ほい 見舞い プリン好きだったのって さすがに小学生の頃までか?」
「あ・・いや 今も結構好きです ありがとうございます・・・」
「おう 随分顔色良くなったな 安心した(笑)じゃな」
「えっ!・・・もう 帰っちゃうんですか?」
「あ?いや だって昇まだ具合悪いだろ?ちゃんと寝てろよ」
そう言って手を振って帰ろうとする彼に僕は自分でもびっくりするほどの声で
すがるように 「ちょ・・ちょっと位 時間ないですか?あがってって下さいっ!!」
と 懇願するように言った。
彼は仕方がないなぁ といったほのかな笑顔でうなづいた。
「ははぁ〜ん・・お前 一人だろ・・お袋さんが留守で寂しいんだろぉ〜(笑)」
からかうように言う彼に 僕は少しむくれた顔になった
「違いますよ・・・このまま帰したら母に怒られますから お茶くらい飲んでって下さい」
「ははは(笑)じゃぁ ちょっとお邪魔するよ」
彼はサンダルを脱いで 家にあがった
僕は彼のきれいな足首とくるぶしを見つめていた。
「コーヒー入れますね」
「悪いなぁ 病人に・・ていうか お前昼飯食った?」
「いや・・まだです」
「そっか・・勝手に台所使ったらお母さんに悪いかな?」
「いえ そんな事ないですけど・・・」
「俺 料理上手いんだぞ(笑)なんか作ってやろうか?」
彼はにこにこしながら 僕のいる台所へやってきた
ちょっと失礼 と呟きながら冷蔵庫を覗き 手際よく中からいくつかの食材を取り出す。
「食欲は?」
聞かれて 僕は「腹 かなり減ってます」と応えた
彼は笑いながら「じゃぁ チャーハンな」と 早速料理にとりかかった
僕はフライパンや調味料などを探し出し 皿とスプーンやコップを用意した
見事な手際と包丁さばきで 彼はあっという間においしそうな
チャーハンを作り上げていた。
卵がふっくらとご飯にからみ 細かくキレイに刻まれた具材はとても
冷蔵庫から発掘された残り物とは思えないほど美味しそうである。
僕は麦茶をコップに注ぎ 彼と向き合って座った
彼は 軽く手をあわせて「いただきます」と言った
指の長い大きな手が 軽く合わさるだけで なんともお行儀のよい品の良さを感じさせる。
この人の今時な「イケメン」な外見に対して 醸し出されるどこか古風な好青年の雰囲気は
なんとも不思議なミスマッチに思える
僕は一瞬 彼を見つめて(また)固まっている自分に気づく
チャーハンはもの凄く美味かった。
「座ってろよ」
そういって 彼は食卓の後片付けも実に手際よくやってのけた
感心する僕に「一人暮らしが長いから上手くなった」と言った
「佐藤コーチは彼女とかいないんですか?」
「えっ? ああぁ〜・・・今は いないなぁ・・・」
「前はいたんだ」
「えっ?(笑)そうね いた時もあったよ 昇はガールフレンドとかいるの?」
「僕は・・・いませんね」
「そっか(笑) 昇 モテるだろ?ジャニーズ系じゃん(笑)」
「からかわないで下さいよ・・・全然っ!そんな事ないですし・・」
「ははは(笑)そっか」
僕とコーチは彼が持ってきてくれたプリンを食べた。
今日彼は仕事が休みなのだそうだ。
僕は思いがけず コーチとゆっくり話をするチャンスを得て嬉しかった。
「昔 何度か昇の家でご飯ごちそうになったなぁ〜」
懐かしそうに彼がそう言った時 僕は少しびっくりして聞き返した
「そんな事 ありましたっけ???」
「あれ?覚えてない?まだ昇が俺に小猿みたいにしがみついてた頃
お母さんが恐縮されて 貧乏学生だった俺に晩ご飯食べさせてくれたぜ」
「そ・・・そーなんだ・・・」
「覚えてないか(笑)1年生だったっけ昇?可愛かったなぁ〜 細っこくて軽くって」
「・・・やめて下さいよ・・・」
「でも よく頑張ったよな(笑)泳げるようになったもんな!」
「うん・・・コーチのおかげだね」
「いや 昇が自分で頑張ったんだよ(笑)」
彼の笑顔はどうしてこんなに優しくて 心に暖かく染みこむんだろう・・・・
僕はこの笑顔が大好きだ。
「起きてて大丈夫か?横にならなくて平気か?」
彼は心配そうに僕の顔を覗き込む
笑顔が素敵すぎて照れくさくなって俯いてました なんて言えるハズもなく
僕は とりあえず 素直に「じゃぁ・・寝ます」と応えた
「じゃ・・俺 帰るわ」
「えっ?帰るの?」
「ああ(笑)だって お前寝るのに 俺いても仕方ないだろ
子守歌でも歌って欲しいか? 一人のお留守番は怖いでちゅか?昇クン(笑)」
「そ・・そーじゃないけど・・・」
これ以上引き留める理由も見つからず 僕は黙り込んだ
もの凄く残念そうな顔になっていたのだと思う
彼は先ほど玄関先で見せたのと同じ 「仕方がないな」というような
優しい お兄さんらしいほのかな笑顔で僕の頭を軽くこづいた。
「参考書 見せろよ お前寝てていいから(笑)傾向のとこにチェックいれてやるよ」
そういって笑った
「うんっ!!」 現金なことに僕の声は先ほどとは打って変わって弾んでいた。
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