15.アルバイト
15.アルバイト
僕は逃げてばかりだった
コーチに会う事もできず プールからも逃げだした
自分でも思いもしない事になった翼とも
顔をあわせづらくなり 避けるように逃げ出した
高校3年の最後は散々な日々だった
夏の日 僕は翼にキスをした
それは決して恋心などではなかった
自分でもよく判っていたのに
自分を慕って必死の告白をしたであろう親友に
僕は口づけを返した そしてその身体に触れた
その一瞬に 僕は「彼」を思い浮かべていた
だから
翼にも判っていたハズ
僕の心に「彼」がいる事 それは15の頃から変わらない
幾人かの少女たちとも交際をした
しかし彼女たちに対して 僕の心がときめく事はなく
ましてや つないだ手すら冷たく感じた
キスをねだられて応えても
それは僕にとって 何の思いもないものだった
翼に対する気持ちもまた
もしかして 男には違うのかと
己の嗜好を疑って 試してみたともいえるもの・・・
そして それは「彼」を思い出させるだけの
それだけのものだった
僕は「彼」しか愛せない
僕は「彼」しか求めていない
そう 確信してしまった もう戻れない
自分のココロと向き合ってしまった
逃げてばかりじゃ 終われない
決着を
つけなくちゃ・・・・・
僕は再び 「彼」のそばに戻る事を決心した
アルバイト募集 その広告を胸に
じつに3年ぶりにあのプールを訪れた
フロントには見覚えのない女性たちが並んでいた
「あの・・・スイミングコーチの募集に応募したいんですけど・・・」
そう切り出すと スタッフルームから見覚えのある
年配のコーチが姿を現した
「うわぁ〜っ!昇クンっ!!大きくなったわねぇぇ〜っ!!
高校行ってからすっかりご無沙汰だったじゃないっ!!
元気にしてたの??」
彼女はまるで息子の事のように僕を笑顔で迎えてくれた
小学生から知る少年が自分と同じ職場へ入ろうというのだ
それはそれなりの感慨もあるだろう
僕は簡単な面接の末 スイミングクラスのアシスタントに採用された
聞けば 佐藤コーチは今もかわらず ここのプールで
コーチとして働いているそうだった
この日はたまたま休日でジムにその姿はなかった
僕は内心 その姿がない事にほっとしながらも
まだ辞めずにそこにいてくれた事をなにより嬉しくも思っていた
明日 彼に会う
僕は彼と肩を並べて同じ職場にたつ
僕は19になった
彼は今30歳になっているはずだ
大人になったよ そう言ってみよう
僕はアルバイトを獲得した
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