13.大人になったら
13.大人になったら
「最近 プール行ってないの?」
「え?ああ・・・受験で休んでから行ってないなぁ・・・」
「また同じクラスになれてうれしいよぉ」
「ははは 翼は小学校からかわらねぇなぁ ガキのまんまだね」
「自分だって同じ歳のクセに何大人ぶってんだよ」
「翼より大人だと思うよ」
「かわらねぇよ」
「じゃぁ キスした事ある?翼」
「えっ・・・キス?なんでそんなの関係あるの」
「ま・・・いっか」
僕にもよく判らなかった
無事に志望校に合格し 小学校から一緒の金子翼もまた
同じ高校へと通い始めていた
彼が 金子翼が僕を追って 志望校を決めていたなどと
そんな事を知ったのはまだ随分と後の事だった
この時はまだ 僕は何も知らず
ただ ただ自分の事だけで精一杯だった
そして 受験という逃げ道が
合格という幸せな結果ではあったが
その逃げ道がなくなってしまった時
僕は再び あの 彼への想いに苦しみ始めていた
忘れたと思っていた思い
クールダウンと自分に言い聞かせてきたこの数ヶ月
過ぎてみれば
それは ただ彼の事を考えないで過ごした
ただそれだけの時間だった
無理矢理に 勉強をする事で彼の事を考える余地がない程に
自分を追い込んでやってきた
それが今 またぽっかりと 時間ができてしまった
規則正しくも ゆったりとした毎日が過ぎて行く
その中で 僕の心の中の彼はまたその占める割合を大きくしていく
「泳ぎたいなぁ・・・」
「・・・のぼる・・・」
「水泳部に入る事にしたよ」
「・・俺も・・俺も入る」
「そっか・・」
「うん」
僕は高校の水泳部に入部した
日々の学生生活をめい一杯に忙しく予定を入れ
部活と勉強に明け暮れた
彼のいるプールへは 足を運ばなかった
合格の報告さえしていなかった
まだ 僕は
彼に会えなかった
あの 口づけの衝撃から 立ち直れていなかった
そして何より あの時の彼のコトバ
耳に今も残る あの低く響く美声が僕の耳に囁いた
あのコトバ それはあの日 僕が逃げ出したあの日
彼は口づけの後 僕の耳に囁いた
「これが精一杯だ・・・俺も・・そしてお前が大人になったら・・・」
最後の方は 押しのけた胸に小さく消えた
僕の耳には聞こえなかった
僕は振り向く事もできずに逃げ出したのだから
大人になったら
オトナニナッタラ
僕は大人になるまで彼に会わない
そう それが僕の頑なな思いだった
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