12.クールダウン
12.クールダウン
あの日
コーチの口づけで全ての殻を溶かされたあの日
僕は自分の心に気がついた
彼を求めてやまない気持ちに気がついた
それは性急な欲求
抱き締めたい キスしたい そして全てを奪いたい
そんな気持ちに気がついた
そして僕はそれが恐かった
自分の気持ちが恐かった
恐くて恐くて 不安で不安でたまらなかった
だから
長く 甘い口づけから解放された時
彼の優しい声が僕の名前を呼んだ時
僕は彼の胸を押しのけて
顔もあげずに逃げ出した
鞄を掴んで逃げ出した
僕は そのままプールからも逃げだした
高校受験を終えるまで 彼には会わない
そう決めた
自分の気持ちをもう一度
しっかり自分で見なおしたかった
一時の迷いで彼を悩ませてはいけない
彼の顔に浮かんだ あの一瞬の素直な驚きの表情が
僕の心に突き刺さっていた
口づけされた喜びよりも
殻から出られた解放感よりも
僕は彼の戸惑いと優しさが辛く大きく心に刺さった
このままじゃいけない
自分の気持ちを整理して
クールダウン そうクールダウン
このままでは自分も彼も火傷をする
それどころか
二度とは戻れない 業火に焼かれるかもしれない
すっかり怖じ気づいた僕は
勉強に没頭する事で彼を忘れようとしていた
それを一番喜んだのは幼馴染みの金子だった
奴は連日僕を図書館に誘い
連れだって受験勉強に励んだ
運動をやめて身体はなまり 気持ちは重く
模試の成績が上がってゆくのに逆らうように
僕の身体はその敏捷さを失い 鈍く重くなっていった
それは身体そのものというよりも
僕の気持ちそのものだったのかもしれない
受験本番のその時期を迎える頃
僕の精神状態も底辺めい一杯まで落ち込んでいた
しかし 皮肉にも成績は順調に伸びており
志望校への合格はほぼ間違いないだろうと模試の結果が出ていた
今となっては 彼の後輩になるその学校にまで
どことなく 気持ちが後ずさる心持ちになる
それほどに
忘れようとすればするほどに
僕の中に彼の存在は大きくあった
そして それは消える事なく
日々 小さくなりもせず
それどころか
日がたつにつれ その存在は大きく膨れ
僕の心を圧迫した
早く大人になりたかった
早く彼に追いつきたかった
そして
肩を並べて 話がしたかった
その時こそ 本当の気持ちに気づけそうな気がした
彼もまた
それを 僕が大人になる事を 待っていてくれると信じて
高校受験を迎えた
全力を尽くそうと 友人たちと握手を交わした
冬の空気が冷たかった
クールダウン そう風が耳元に囁いた
|