第八章 それは一瞬にして永遠、それは一瞬にして崩墜
過去。
東洋陣営に『通常部隊』に組み込めない、異常な男がいた。
その存在は『魔術師』という『異』の中でも『異』。
その男の性格は至って冷静、―――いや、『冷徹な捻くれ者』と言った方が正しいかも知れない。
寝癖のような不格好で短い黒髪の持ち主で、筋肉質とも言えず、はたまた華奢とも言えず。細身のしなやかな肉体の持ち主でもあり、しかし、強靱な肉体の持ち主でもある。彼に一番近い者の言葉を借りて彼を形容するなら、矛盾も甚だしいことを承知の上で『太陽のような人』と言うだろう。
彼はとんでもない異常者だった。
一度、彼が戦場に立ったその瞬間。
戦場に一陣の冷風が吹き荒れる。
その神速と呼べる圧倒的なスピードは、幾十に張り巡らされた城壁でさえ防ぎきれず。
その神速と呼べる圧倒的なスピードは、例え幾千の魔術師を差し向けても敵わず。
その神速と呼べる圧倒的なスピードは、幾万の味方を鼓舞し続けた。
故に、味方は尊敬の意を込めて彼を『瞬王』と呼ぶ。
七年前。
確かに【世界呪術文化保護連盟】最強の魔術師は広大な戦場にその身を置いていたのだ。
一
世界崩壊はリバー=サイバティックに意識がないことを確認してから、ホッと肩の力を抜いた。
「何か、思ったより、―――うん。拍子抜けだな……」
右の拳に付着した血糊を払いながら、漆黒のロングコートを纏った少年は不安そうに呟き、
《汝、不意討須》
「……テメェな」
腹を揺さ振るような、内なる『天帝』の声付きに、少年は眉を吊り上げる。
「テメェの力もロクに操れないただの人間が魔術師なんかに正攻法で勝てるかっての」
小さく呟き、自分とアレウス=カロッサスとオリビア=ヴィリアムスを引き裂いている大きな土と瓦礫の城壁を睨む。試しに裏拳でコンコンと小突いてみるが、ダイナマイトでも使用しない限り破壊できそうにない。
(無理だな。こりゃ)
さて、どうしたものか。
単独でこの戦況を乗り切るには少々骨が折れる。リオーナを始め、アレウスやオリビアと行動を共にしていれば、強行突破なり、陽動作戦を取るなり、戦略は広がるはずだ。しかし戦闘開始の時点ですでに散開状態だった。運が悪いと言えばそれまで、謀られたならば敵を褒めるしかない。
(てか、リバー=サイバティックが出てきたって事は……)
リバーは【機械仕掛けの神】を統括する一四六課の課長、つまり彼は【機械仕掛けの神】の最高司令官である。司令官自ら最前線に出てくるということは【機械仕掛けの神】側は世界崩壊の推測以上に疲弊しているのかも知れない。
(そーだったら良いんだけどな……)
だが。
(俺らの勝利条件は連中を排除することじゃねぇ)
彼らの勝利条件は【機械仕掛けの神】を殲滅することではない。
どうして、自分たちが疑われるような事態になったのか。
どうして、情報漏洩の犯人捜しをしていた自分たちが情報漏洩の犯人として追われなければならないのか。
どうして、自分たちが『情報漏洩の犯人だ』という証言が出てきたのか。
彼らの勝利条件は、こうなってしまった要因を調べ、自らの潔白を証明しながら、自分たちを陥れ、更には情報漏洩を調査していた自分たちに罪を押しつけようと考えた者を捕らえ、そして突き出すこと、だ。
(ったく。こんがらがってきた……)
一週間前。
初めて一四六課課長・リバー=サイバティックと接触したあの後、彼ら【分捕りは早く、略奪は速やかに来る(マヘル・シャラル・ハシュ・バズ)】は情報収集の結果の報告と、今後の方針、それからこれから起こるべき事象について検討した。結果、彼らが得ることが出来た重要と思われる情報は皆無であり、状況は一向に好転していないことが判明、故に彼らは情報収集の強化と今後起こりうるだろう諸問題に対する対処方法の選定を行った。どの場合も基本的な対処法は『各自の判断で行う戦闘は容認する』や『事情を知らない一般の構成員に被害を出さないようにすること』や『容疑者が郎党を組んでいた場合は即座に一四六課に応援を要請すること』などであった。また『もしも』の時に備え、アレウス=カロッサスに頼み込んで予め術者にプログラムされた通り動く世界崩壊の姿をした完全自立型人形を造り、隙を見て入れ替わって別行動を取ることにした。無論、それは世界崩壊の人命を尊重しての判断ではなく、この一件の中心人物が情報漏洩について調査が開始されたと知れば即座に調査チームのリーダーを消しに来るだろうという世界崩壊の判断からだった。つまり、世界崩壊の人形は襲撃してきた人間を罠に嵌めるための疑似餌。
(結局何だかんだ混乱した中だったけど『疑似餌』を潰したのは【機械仕掛けの神】の連中……か。ってことは情報漏洩の一件はコイツらが黒幕……か?)
辻褄が合わないわけではない。
スパイ容疑だと世界崩壊たちに襲い掛かってきた【機械仕掛けの神】。この一件の黒幕が公権力を持つ人間だったら警察部隊【機械仕掛けの神】を動員することは可能だろう。
(何れにせよ、連中は俺のことを『ケープ=ヴィステリア』って偽名を使った。俺が『ケープ=ヴィステリア』って偽名名乗ったのはリバー=サイバティックが初めてだ。ってことはリバー=サイバティックが一枚噛んでる可能性が高い……か?)
状況はいっそう読めなくなる。
(ともかくこの状況で散開はマズイ。さっさと集合させねぇと最悪全滅もありうる)
そうなったら敵の思う壺だ。
世界崩壊はとりあえず考察を中断した。
部隊の集合を最優先事項に設定。
「銀髪、オリビア、リオーナが今孤立してるからリオーナと合流しろ!!」
壁に遮られないよう、世界崩壊は声を張り上げた瞬間、
―――視界の端に動く影が映った。
「ッ!!」
リバー=サイバティック。
世界崩壊の奇襲攻撃を受けて気絶していたはずの魔術師がヨロヨロと立ち上がり、口から垂れていた粘着質の血を拭いつつ、血走った目付きで刺すように世界崩壊に睨む。
「やられたよ」
「やった覚えはなんだけどな」
飄々と黒き少年は嗤う。
凛然と紅髪の青年は微笑む。
「今更こんな事を聞くなんて我ながらびっくりだけど、『君は誰だ?』」
「俺か? そうだな……神、かな」
「神……か。なるほど、これから僕は神様と戦おうっていうのか」
皮肉に皮肉。
仮初めの友好が空間に満ちていく。
「で、お前らはどうして『お前らの配下で動いている俺たち』をスパイだって判断したんだ?」
「それはここで話す話題ではないな。早急に我々に投降してくれるのだったら話は別だけどね」
「投降って選択肢はまだねぇ。大体、俺らを犯人にする理由がない」
「我々は君たちが情報漏洩の一件に拘わっているという情報を得た。それ以上に理由があるのかな?」
「そのネタがガセって可能性は?」
「それはない。情報は僕の情報網からだし、裏付けはグレイス=ヴォルバークが担当した。五日以上、丁寧にね」
「裏取りに五日。相当前からマークしてやがったのか。で、肝心の情報源は?」
「僕には守秘義務がある」
「……あっそ」
黒い少年は拳を握り、
紅髪の青年は来いと言わんばかり、挑発的に手を広げてみせ、
「ま、実に少年漫画的だけど殴って情報源吐かせることにするわ」
「僕だって君を拘束しなければいけない立場だからね。遠慮無くいく」
ピリピリと、刃のような空気が弾ける。
「全く。結局『魔術師』って人種は殺し合わねぇと分かり合えない人種なんだよな」
刹那、世界崩壊はリバー=サイバティック目掛け、突進。
「古来より我々『魔術師』は裏世界を生きてきた。もはや殺し合いは『魔術師』の宿命であり本能だよ」
刹那、リバー=サイバティックは向かってくる世界崩壊を迎撃すべく、口笛の旋律を奏でた。
二
生物学的に『父』と表記される『その男』は、慈悲を全く備えていない人間だった。
彼にとって、自分の娘は仕事での鬱憤を晴らすためのサンドバック。
自分の妻である女性は彼にとって、自分の身の回りの世話をしてくれる便利ロボット。
彼は、小さな『家庭』という『世界』の王、否。もはや絶対神だった。
飯が不味い。
たったそれだけで振り下ろされる鉄拳。
やかましい。
たったそれだけで振り下ろされる鉄拳。
腹立たしい。
たったそれだけで振り下ろされる鉄拳。
めんどくさい。
たったそれだけで振り下ろされる鉄拳。
テレビが映らない。
たったそれだけで振り下ろされる鉄拳。
折角セットした髪型を風に台無しにされた。
たったそれだけで振り下ろされる鉄拳。
世界を支配している絶対神が振るう暴力は幼女にとって日常生活の一部だった。
殴られる。
蹴られる。
罵声を浴びせかける。
それは日常の一部。
食事を取るように、呼吸をするように。
暴力は、当たり前の行為。
罵声は、当たり前の行為。
身勝手極まりない男が支配していたその『世界』しか知らないその幼女は殴られるという『事象』は当たり前だと思っていた。身体に刻み込まれる青い痣、ナイフで斬られた時に出来た赤い傷口、腹を強烈に殴られて吐き出してしまった白い吐瀉物。外部から情報を得られない幼女にとって『当たり前』の中で起こるその『異常』に何の疑問も持たず、日々繰り返される暴力を無言で受け続けていた。
幼女は、そんな『世界』に生きていた。
それが、当たり前。
殴られて、当たり前。
斬られて、当たり前。
蹴られて、当たり前。
怒鳴られて、当たり前。
―――という世界に、生きていた。
儀式のように続いた暴力に、幼女は一向に異を唱えなかった。
幼女は、『異』を知らなかったのだ。
幼女にとって、例え暴力を振るわれる世界でも幸せだった。
それが当たり前だと信じて疑わなかったから。
生まれて数年間。
ずっと暴力の中を生きてきた。
暴力の中での日常しか、体験したことも聞いたこともなかったのである。
幼女にとって、暴力を振るわれない『世界』こそ『異』。全世界中で同じようなことが当たり前のように行われている。暴力は罪になる。それを知らず、知る術も与えられず、幼女は辛うじて明日への命を繋いでいた。
勿論、幼女の母親は、幼女の父より振るわれる暴力をみすみす見逃していたわけではなかった。
幼女の母親は、常に幼女を守ろうと単身男に立ち向かった。
幼女の母親の努力がなければ、幼女は『幼女』と呼ばれる以前にこの世から消え失せていただろう。
幼女の母親は、必死に幼女を守った。
だが。
暴力が起こることが日常。
そんな『世界』にしか生きていない、その『世界』しか知らない幼女は言ってしまった。
暴力が一段落し、力なく床に倒れ伏している幼女は、駆け寄ってきた母親にこう言った。
瞳に涙を浮かべ、ズタズタに引き裂かれた薄く淡い皮膚から血を流しながら、こう言ったのだ。
―――「どうしてままはりおをたたかないの?」―――
瞬間。
母親は、全てに絶望した。
同時に、母親は強く拳を握った。
三
ズガンッ!
巨大な十字架が、今まさに金髪少女が立っていた地点を打ち砕いた。
「命拾い、したな」
数十メートルもある十字架を軽々と振り上げ、無表情にグレイス=ヴォルバークは呟き、前を見る。
そこには、一人の少女が力なく片膝を付いていた。
ボロボロになった黒のロングコート、身体中に細かい切り傷や大きな打撲痕が刻まれ、手入れが行き届いていた金色の髪はグシャグシャに乱れている。
「返す言葉も、無いか」
満身創痍、顔面蒼白。今にも胃の中身をぶちまけてしまいそうなリオーナにはそんな余裕などないのだろう、一歩たりともその場から離れようとしない。まるで地面に足が縫いつけられているようなに、逃げようとも攻撃に備えて防御を固めようともしない。まるでさっきの回避行動に全力を使い果たしてしまったかのように。
「言っておくが、この場で、お前を、殺すことは、ない」
少年は十字架の先端を一歩たりとも動かない少女の鼻先に数ミリ前に突き付けるも、少女は何一つ答えない。ただ呆然と、生気が失せ、勢いを完全に失った双眸がボンヤリと十字架の先端を映していた。
「聞こえない、か」
少年の目元は完全に隠れており、今どんな表情を浮かべているのか一向に掴めない。が、その口元には小さな笑みが特に隠すこともなく、少年は鼻先に突き付けていた巨大な褐色の十字架を振り上げ、一度振り下ろせば、少女の脳天を打ち砕くような軌道になる。
「終幕、だ」
迷い無く、十字架が空気を引き裂いた。
四
「邪魔だってぇ言ってんだろうがぁああああああああ―――ッ!」
絶叫しながら、拳を立ちはだかる警察部隊【機械仕掛けの神】の連中を拳一つで吹き飛ばし、包囲網を一点突破の無謀極まりない勢いばかりの突撃で打ち砕きながら走る。
アレウス=カロッサス。
彼の本職は人形使いだ。だが、先程のリバー=サイバティックとの戦闘で肝心の人形を失ってしまった。
そもそも人形使いというのは、人形を前衛に、後衛に自分という戦闘スタイルとる。だから接近戦は専門外も甚だしい。けれどそれはあくまで『正式な流派の格闘技を習得していない』だけに過ぎず、アレウスは魔術的才能を見出されて組織に入るまで、血塗れの路地裏世界を生き抜いてきた。包囲網を拳一つで、それも勢いで突破する程度なら我流の格闘術でも十分だった。
(ち、状況は最悪か……)
だが、自分たち二人はまだマシな方だろうとアレウスは思う。
問題は、孤立してしまったリオーナ=オルフェニスタだ。
【機械仕掛けの神】を統括するリバー=サイバティックが動いている以上、ナンバー二であるグレイス=ヴォルバークも動いているに違いない。リオーナが孤立状態に陥っていることだけは紛れもない事実、いくら魔術師として一般人より格段に戦闘力を有している彼女であっても、人間を基本としているから体力の消耗だって当然ある。疲労した状態で集団戦法とターゲットの捕獲を得意としている警察部隊【機械仕掛けの神】の攻勢には耐えられないだろう。
ともかく、現在は孤立状態のリオーナを掬うことが最重要課題だった。
くそ、とアレウスは小さく吐き捨てた。
「しつこいったらありゃしねぇ……」
後方より、数十名ばかり【機械仕掛けの神】が追撃してくる。
「向こうもぉプロぉだからねぇ〜」
走っているのにダラダラと伸ばしきったいつも通りの口調。汗一つ汗をかかず、顔色一つ変えず、併走しているブラウン髪に赤いニット帽女・オリビア=ヴィリアムスは緊迫感を一切出さず、いつも通りの適当な口調だった。
「ちっ、昼行灯が……」
「あぁ〜、そのぉ言い方はぁ気に食わないぃねぇ〜。まぁ、確かにぃ昼行灯だけどねぇ今の私ぃ」
クスクス口元に手を当て、オリビアは微笑む。が、そんなことをしていても走るスピードは一切落ちていない。アレウスはめんどくさそうに舌打ちし、眉間に皺を寄せた。
「―――今何時だ?」
「そぉ〜ねぇ……。えぁぁ……あぁ、五時二分前くらいかなぁ〜。―――でぇ、そんなことよりぃ前を見た方がいいと思うよぉ?」
全方より、数十名ばかり【機械仕掛けの神】の隊員がバリケードを設置してこちらの進路を阻もうとしている。
「それくらいわかってるっつーのッ!」
一瞬だけ、アレウス=カロッサスは精神を集中し、魔力を練り上げ魔糸を紡ぐ。
「ぅおらぁああ―――ッ!」
一〇の指からそれぞれ伸びる透明の魔糸が身構えていた【機械仕掛けの神】の隊員一人一人を捕縛、
「人形使いは人形遊びだけじゃねぇんだよ―――ッ!」
伸ばし、十人の隊員を捕縛した魔糸を身体全身隈無く使って手繰り寄せるように腕を振り、そのまま跳び箱を跳ぶ瞬間のように地面に掌を叩き付ける。魔糸により自由を奪われた【機械仕掛けの神】の隊員たちは宙を舞い、瞬間、自らが創り出したバリケードにその身を叩き込まれた。
「おぉ〜」
間抜けなオリビア=ヴィリアムスの感嘆の意に答えることもせず、そのまま一気に半壊状態に成り下がったバリケードを飛び越える。先程の攻撃から生き残った数人が追撃に特殊警棒を振り翳すも、アレウス=カロッサスは冷静に指より伸びる魔糸でその数人全員を捕縛、または無力化し、アレウスはその数人を後方より追撃してくる数十名ばかりの【機械仕掛けの神】に向かって魔糸を操り投擲。人間砲弾と化した数人の【機械仕掛けの神】と、追撃してくる数十人ばかりの【機械仕掛けの神】が見事に激突、混乱する彼らの様を横目に流して確認、且つその隙を逃さずアレウス=カロッサスとオリビア=ヴィリアムスの二人は駆け抜けた。
五
腕。
泥を直接練り上げて創り上げたような巨木の幹ほどの腕が、撓る鞭のように襲い掛かる。
(ッ。コイツ、話に聞いてたが言葉だけでこんな芸当を―――ッ!)
身体を捻り、回転させるようにして鞭のような一撃を躱し、猛烈な勢いのまま目標を見失ったその巨大な腕は猛烈な勢いのまま壁に衝突。物凄い地響きを従え、壁と一緒に崩れ去り、大量の土砂がそこに堆積する。
(アレ、……)
一瞬、脳裏にあの腕があのまま自分を巻き込んでいたらどうなっていただろうかと世界崩壊は肝を冷やし、その気持ちのままに数歩バックステップを刻む。
「お前、……マジかよ、ホントに魔術師か?」
「僕は『吟遊詩人』。『旋律』と『言葉』によって視界に捉えた万物を纏め上げ、神々の神話を、人々の法を守護する者だ」
「―――万物って銘打つクセに、生命は潰せないんだな?」
世界崩壊は嘲ら笑い、そんな彼をリバー=サイバティックは静かに睨み付ける。
「神は、無闇な殺傷を好まない。例えそれが神の敵であってもだ」
「そうですか……」
ふーっと世界崩壊は深く息を吐き出すと、
(だってよ?)
《知、不》
心向きを問うも、本物の『カミサマ』は素っ気ない返事(リバーの神様は別だから当たり前と言えば当たり前なのだが)を返すのみ。世界崩壊は目くじらを立てるが、それも早々にし、身構える。
「悪いけど、さっさと終わらせる。一人にしちまったリオーナも心配だしな」
世界崩壊は一方的に吐き捨て、グッと左脚に力を込め、リバーの懐へと一瞬にして潜り込んだ。
「球体、三つの球体、其れは、炸裂」
フワリと何処からともなく浮かび上がってきたピンポン球程度の球体が、リバー=サイバティックの背後に出現。リバーの顔が驚愕に歪む。が、世界崩壊は関係なく彼の腹部に一撃を叩き込もうと拳を作り、さらに一歩踏み出そうとする。
「詩人は詠う。大地よ、我が敵を拘束せよ」
が。突如、先程いなした泥を練り上げて作られた感じの巨大な腕が、世界崩壊が今まさに踏み出そうとしていた地点から間欠泉のように勢い良く『吹き上がった』。
「いぃ、アァア―――ッ?」
避ける間もなく巨大な手が開き、世界崩壊の身体を豪快に鷲掴み、力任せに持ち上げる。身体は為す術もなく地面から引き剥がされ、世界崩壊は必死に身体を捩って躱そうとするも、泥製の巨大な腕の握力はどんどん強まるばかりだ。
(あ、いぃいい……、こ、)
骨が、ギシギシと嫌な音を上げ始める。
(こ……れは、ちょ―――っと、マズ、い―――ッ!)
五本のゴツゴツとした指が、身体に食い込んでくる。
骨が軋み、徐々に視界が揺れ、世界崩壊はあまりの激痛に目を閉じる。が、それでも世界崩壊は乱れ狂う思考を奮い立たせるように、
「カ、……マイタチ。根元より……切断―――ッ!」
絶叫。
刹那、世界崩壊を鷲掴みにしている巨大な土の腕の根元が彼によって生み出された風の刃によって切断、大地からの切り離されたその腕はまるでコンセントを抜かれた電気スタンドのように五指の圧力は唐突に消え去り、同時に世界崩壊の視界がグラリと斜めに傾いた。ピシピシと窓ガラスが砕けていくような音を傍耳しながら、世界崩壊は力を失った五指からの拘束から這い出してとりあえず飛んだ。着地とほぼ同時、土で構成されていた巨大な腕は音を立てて無様に崩れ、ただの土の塊へと還っていく。
「詩人は詠う。大地よ、四方を囲み敵を滅せ」
上下左右。
先程と同様な、四本の巨大な腕が四方からリバー=サイバティックの前に現れた。
広大な地下空間に存在しているこの『本部』は、当たり前のことだが四方八方『土』に被われている。
(地の利ってヤツか)
《状況。汝。利》
(んなことは百も承知!)
武器となるような物はそこら中に転がっているだろう。
最悪、リバーが『空気』その物を操ってしまえば世界崩壊は窒息するしかない。
それでも。
(俺が何とかしねぇと、な)
拳を握り、
「四つの鎌鼬、大地の腕を両断―――ッ!」
ズダンッと、四つの風の刃が根元から巨大な腕を切断した。
|