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極地の憂鬱3
作:鋳金ダラ



第六章 それは凍てれる刃のようで




「第一、第二、第三警備網、ケープ=ヴィステリア・リオーナ=オルフェニスタの両名により突破!」
「資料室に突入した二個小隊からの通信が途切れました!」
「第三警備ラインの兵力を回収、第四警備ライン構築します!」
 一四六課オフィス。
 課を預かるリバー=サイバティックは、司令室となったオフィスで壁に設置されているモニターを静かに睨んでいた。
 ズタズタに引き裂かれた防衛ライン。
 連絡が取れない小隊が続出している戦場。
 救援要請を送ってくる小隊長の信号。
 残酷なまでに妥協しない『戦況』を映し出すモニターを見て、リバーは立ち上がった。
「―――僕が出る」
 モニターを操作している彼の側近が動揺の声を上げる。
「この戦局、課長のご指示がなければいくら我々でも……」
「この戦局だからこそ、僕が前線に赴かなければならない。第四ラインを少し下げてくれ。それから二九課に救護隊派遣要請と、連絡の取れない小隊の情報収集と負傷者の搬送を早く」
 重々とした貫禄に、リバーの側近たちは押し黙る。
「ここは頼んだ」
「リバー」
 背後から呼ぶ声に振り向くと、そこには黒髪の少年が静かに立っていた。
「俺も、出る」
 グレイス=ヴォルバーグ。
 黒髪が目にかかっているため、彼が今、どんな感情を抱いているのか推し量れない。
「さすがに、リバーでも、四人は、厳しい」
 冷酷な目で、淡々と少年は言う。
「……わかった」
 その瞳に込められた意図を察し、一言告げた。
「頼んだよ」


     一


 警察部隊【機械仕掛けのデウス・エクス・マギーナ】。
 組織全体の秩序を司る一四六課に所属し、罪を犯した同胞を斥候し捕縛、また戦時に拘束した捕虜の管理を主任務とし、時には暗殺、処刑にまで関与する警察機関で、対外戦闘を専門とする部署以外では唯一師団クラスの戦力が与えられている。
 当然、魔術師の組織だから隊員全員に『対魔術戦術』を徹底的に訓練し、与えられた任務を淡々とこなし、例え法を乱す者が組織―――【世界魔術文明保存機構】の最高意志決定機関【我が主と共に(インマヌエル)】の議員であっても『法に背いた』ということが確認されれば無表情で堂々と【我が主と共に(インマヌエル)】議事堂や議員宿舎へ突入する。
 彼らを動かすのは、ただ一つ、正義感だ。
 秩序の名の下に組織が『罪人』と判断した者を敵味方関係なく容赦なく斬り捨てる彼らは、同胞に忌み嫌われる運命を背負う。
 話は変わるが【機械仕掛けのデウス・エクス・マギーナ】には人事異動がない。
 彼らは同胞から嫌われる運命だと百も承知で、自ら進んで手を挙げる。
 任務は、想像を絶する。
 時には昨日までは笑っていた仲間が次の日には『法に背いた者』として殺すべくターゲットに変わり、潜入調査が露見すれば即座に同胞たちの手によって殺される。
 だが、彼らは同胞の取り締まりを止めない。
 何故なら其れが信念だから。
 彼らは皆々、自ら手を挙げて集った者たちだから。
 どんなに仲間を失おうと、どれだけ同胞から軽蔑されようと。
 彼らは、止めない。


     二


 銃声、怒号。
 悲鳴、鮮血。
 普段、静かに人々が行き交う歩廊は壮絶な戦場と化していた。
 その戦場の中心には、漆黒のコートに身を包んだ二人。
 囲むは、警察部隊【機械仕掛けのデウス・エクス・マギーナ】の隊員たち。
 黒がはためく。
 戦場の中心で、黒を纏う少年が優雅に舞い、瞬間、放射状にナイフが飛んだ。ナイフは瞬く間に数名の【機械仕掛けのデウス・エクス・マギーナ】の隊員たちを貫き、難を逃れたその他の隊員たちは第二波となって黒の少年に、一回転して隙だらけの少年を取り囲み特殊警棒を振り上げる―――が、逆に絶対必中のリオーナ=オルフェニスタの魔弾が次々と彼らにその獰猛な牙を剥いた。
 戦況は、ほぼ固定されている。
 主導権は【分捕りは早く、略奪は速やかに来る(マヘル・シャラル・ハシュ・バズ)】の二人が握っていた。
 数で勝り、集団戦術にも長けている【機械仕掛けのデウス・エクス・マギーナ】の隊員たちが後れを取ったのはわけがあった。
 それは【分捕りは早く、略奪は速やかに来る(マヘル・シャラル・ハシュ・バズ)】の二人が持つ魔術的特徴が原因している。
 経緯は不明、しかもその力の〇.〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇一パーセントも操れないが、少年は神と同体の存在だ。神が行使する魔術とは、イメージの力。旧約聖書、創世記に記されている七日間に及ぶ『天地創造』が神の意志一つで行われたのと同じように。
 リオーナ=オルフェニスタは絶対必中の魔弾を操る。拳銃をポイントした箇所ならどんな障害を挟んでいようと、精密誘導兵器のように目標に着弾する。
 だから、黒を纏う少年は、その扱える〇.〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇一パーセントの力を総動員して、集団で襲いかかってくる【機械仕掛けのデウス・エクス・マギーナ】の隊員たちの足並みを崩すような攻撃を繰り返し、【機械仕掛けのデウス・エクス・マギーナ】の崩れた足並みを揃えようとするその一瞬の隙を逃すことなく、リオーナの絶対必中の魔弾を浴びせて戦闘不能にする。
 二人はコンビを組んで間もない。
 だから『この程度』の単純な戦闘パターンしか紡げない。
 が、二人は戦い慣れしていた。
 即座に両者が操る魔術の特性を把握し、カバーできる所はカバーし、任せられる所は任せる。
 だから、彼らはまだ『この程度』の連携しか出来ない。
 けれども、結果として『この程度』が【機械仕掛けのデウス・エクス・マギーナ】との戦闘スタイルにヒットした、ただそれだけのことだった。
 黒が、はためく。
 少年が放ったナイフに貫かれた第一波。
 少女の魔弾に潰された第二波。
 それを目の当たりにしているにも拘わらず、攻撃を休めない【機械仕掛けのデウス・エクス・マギーナ】の隊員たちにリオーナは若干苛立ちながらも、左を軸足として強烈なハイキックをぶち当てる少年のフォローに魔弾発射の準備に取りかかり、戦況を睨む。【機械仕掛けのデウス・エクス・マギーナ】の隊員たちは、少年が放ったハイキックという大技ならではの隙に付け込もうと特殊警棒を背後から振り翳すが、銃声が響き、二人の【機械仕掛けのデウス・エクス・マギーナ】の隊員は悲鳴を上げて崩れ落ちた。リオーナ=オルフェニスタの魔弾だ。再び、銃声。二丁の内の一丁を己の防御、もう一丁を最前線で戦う彼のフォローに回しているリオーナの拳銃が火を噴いた。
 この戦場は【分捕りは早く、略奪は速やかに来る(マヘル・シャラル・ハシュ・バズ)】の二人にとって、偶然にも圧倒的に有利な戦場だった。
 黒が、はためく。
 前方より【機械仕掛けのデウス・エクス・マギーナ】の男によって振り下ろされる特殊警棒を難なく避け、少年は機械のように一切表情を変えずに重心を低く保ち、左の拳を握る。前を見、返す刀でその男の腹部目掛け、遠慮容赦一切無しの一撃を食らわせ、瞬時に壁際に退避。
 黒が、はためく。
 リオーナの銃撃が続いている。
 少年が、再び戦場の真っ直中に飛び



  
 ミシ。



 
 それは背後から聞こえた小さく軋んだような微音。
 発砲音、叫喚、怒声。
 けたたましい戦場の中、それはほんの小さな音―――



  
 ―――なのに突如として殷々たる爆音、瞬間、一トントラックにノンブレーキで轢き飛ばされたような物凄い衝撃が漆黒の少年の背に突き刺さるように襲いかかった。



 
「ッ!」
 リオーナは息を呑んだ。槍の穂先ように鋭く尖った瓦礫が漆黒のロングコートごと背中に深く深く突き刺さり、鈍く重い瓦礫は確実に黒を押し潰す。
「お前ら、下がれ。あの、産業廃棄物は、俺が、やる」
 強引にぶち破られて空いた壁の穴から、低い声が響く。
 ゆっくりと、響く靴音を楽しむように現れたのは黒髪で目を隠している少年。
 軽々と茶塗りの巨大な十字架を肩に担いでいるその少年は、
「―――グレイス、……ヴォルバーグ!」


     三


「まさか、本当に、産業廃棄物、だった、なんて、な?」
 警察部隊【機械仕掛けのデウス・エクス・マギーナ】の面々を下がらせ、少年は戦場に立つ。
 肩には褐色の大きな十字架を軽々と担ぎ、冷酷に瓦礫に埋まっている黒のロングコートを見下しながら、
「情報は、組織にとって、重要極まりない。それを、外部組織に、流した、お前は、万死に、値する」
「―――犯人が、私たちだって言うの?」
「タレコミが、あった。最近、新設された【分捕りは早く、略奪は速やかに来る(マヘル・シャラル・ハシュ・バズ)】の、ケープ=ヴィステリア、リオーナ=オルフェニスタ、アレウス=カロッサス、オリビア=ヴィリアムスの、四名が、機密情報を、調べていた、と」
 リオーナはギリッと歯を食い縛り、
「本当に、そんなタレコミがあったのね?」
「勿論」
「ケープ=ヴィステリア、リオーナ=オルフェニスタ、アレウス=カロッサス、オリビア=ヴィリアムスの四名が情報を漏らしている……」
「だから、我々、警察部隊【機械仕掛けのデウス・エクス・マギーナ】は、お前らを、組織を売った、大罪人共を、拘束しようと、試みた。が、お前らは、応じない。それに、仲間たちを、傷付けた」
 さらに、その冷徹な目を冷徹に変えて、



 
「お前は、ここで、殺す」



 
 ゾッとした。
 跳ね上がったグレイス=ヴォルバークの殺気に、一瞬全身が硬直する。
「降伏するなら、受け入れる」
 巨大な褐色の十字架を、グレイス=ヴォルバークはリオーナ=オルフェニスタに突き付けた。
「冗談。例え降伏したって殴り倒すクセに」
 黒光りする二丁の拳銃を、リオーナ=オルフェニスタはグレイス=ヴォルバークに突き付ける。
「なるほど」
「だってそうでしょ?」



  
 ―――先に動いたのは、リオーナ=オルフェニスタだった。



 
 二丁の拳銃をグレイス=ヴォルバークの太股にポイント。刹那、左右から一発ずつ魔弾が放たれ、グレイスはその魔弾を巨大な十字架を振り下ろし、魔弾を粉塵へと変えた。
「な、」
 絶対必中の魔弾を避ける手だてはいろいろ見てきた。が、力ずくで魔弾が潰されたのは初の経験、
「メシアは、人類の、原罪を、背負い、十字架に、打たれた。だから、十字架には、原罪が、宿る。人間を戒めるための、原罪が。宿った原罪は、万物よりも、重い」
 グレイスは、一気にその間合いを詰め、薙ぎ払うように十字架を振るった。
「ちっ」
 リオーナはその十字架の動きを捉えながら、ギリギリバックステップで躱し、再び二丁の拳銃をグレイスの足、太股にポイント、引き金―――
「伸びろ」
 十字架が、褐色の十字架が伸びた。
「う、」
 ギリギリの所を躱していたリオーナの横腹に、
「ぃぎあ…………ッ!」
 十字架が無情に直撃、リオーナは宙を舞い、そのまま歩廊の壁に叩き込まれた。
「かつて、聖マルガリタは、悪竜に呑まれたとき、聖十字架を巨大化させ、竜の腹を突き破り、脱出した。また、世界中の教会に、聖十字架の、破片があり、それを繋ぎ合わせると、一〇〇人ものメシアを磔に出来る、というのは、聖十字架を分割した時、その聖十字架が、最大の、大きさだった、ただそれだけで、不可解な要素は一切無く、それは、何も知らない『日常の世界』の住人たちが、騒いでいるだけ」
 デモンストレーションのように十字架を振り回し、
「呆気ない、幕切れだった」
 仕上げとばかり、グレイスはリオーナが吹き飛ばされ、突っ込んで大穴が空いた歩廊の壁までゆっくりと詰め寄ると、大きく十字架を天に向かって振り上げ、
「さようなら」
 振り下ろした。
 

     四


 壮絶な戦場の惨劇を目の当たりにして、
「さすがは、西洋最強の人形使い・グレイヴ=ファルセンと言ったところかな。僕の部下たちに任せるには少々荷が重すぎたようだね」
 法を司る一四六課課長・リバー=サイバティックは言う。
 血塗れで微かに息をしているような状況にまで追い遣られて転がされているリバーの部下と、その中心に佇んでいる『術者依存型人形セミマトン』タイプの異形なる人形・ハーパイストス、ハーパイストスの背後に立ち、それを自在に操るアレウス=カロッサスとずっと後ろに控えているオリビア=ヴィリアムスを見ながら。
「まさか、お前まで出てくるとはな、『吟遊詩人』リバー=サイバティック」
 吟遊詩人ギンユウシジン
 吟遊詩人とは、詩や楽曲を手がけ、各地を転々と訪れ、人々の前で歌った人々を指す。
 回教文化圏や、東欧のゲルマン民族、古代ギリシアなどでは古くから吟遊詩人は存在していたが、西欧には一〇世紀頃にフランスの文書に現れ、彼らは中世に起こった歴史的事件、その場での見聞の多くを忠実に歌にして歌った。また、北フランスからドイツ各地に放浪のゴリアールと呼ばれる学習僧たちがいたことも知られ、さらにはイタリア北部で歌を作り、歌いながら伝道していた修道士たちも吟遊詩人と呼ぶことができる。
 やがて、十字軍が派遣されるようになると、吟遊詩人の多くは宮廷を歴訪する音楽家か、宮廷お抱えの芸術家となっていく。彼らは主に貴族や騎士出身の者が多く(勿論、一般民衆の出身の者もいるが)歌人騎士や宮廷詩人と呼ばれるようになり、宮廷愛、十字軍の勇ましい様子を主題とする歌を歌った。中には有名な『アーサー王伝説』や『トリスタンとイズー』に『ニーベルンゲン』などもこの時代に好まれ、歌い継がれていった。
 一三世紀頃になると、騎士文化の没落と共に、彼らを主題とすることが多かった吟遊詩人たちは次第に廃れていく。一五世紀までには宮廷音楽は多声化の時代を迎え、宮廷お抱えの作曲家たちが宮廷お抱えの作詞家の詩を元に音楽を作る事態となり、吟遊詩人たちの歌う素朴な歌は完全に過去の物として追い遣られていった。しかし、その頃にジプシーと呼ばれ、異邦人と差別されながら、かつて吟遊詩人たちが務めていた伝説の伝承や素朴な音楽といった伝統を今に残している。
「そもそも協力体制にあるはずの俺らをどうしてお前らは追い回すんだ?」
 アレウスの問いにリバーは愚問だと言わんばかり、それは「地球は太陽の周りを回っているんだよ」と言った至極当たり前のことでも言うように、
「タレコミがあったのだよ。―――七課所属の特務部隊【分捕りは早く、略奪は速やかに来る(マヘル・シャラル・ハシュ・バズ)】のケープ=ヴィステリア、リオーナ=オルフェニスタ、アレウス=カロッサス、オリビア=ヴィリアムスの四名が機密情報を調べ回って、集めた情報を外部組織に売り渡しているとね」
「―――そうか」
「否定しないのかな?」
「否定したって、ここまでお前らの仲間をボコボコにした俺らを許すわけないだろ? そんな俺らが助かる道は限られてる。一つはお前らを徹底的に潰すこと。もう一つはお前らの攻撃にもめげず、俺らが無実だってことを証明するための証拠を探し出すこと。前者は果てしなく不毛だろうし、俺らの体力も魔力も続かないから却下。後者なら、もしも証拠が出たら俺らが正統、お前らが異端。俺らは『正当防衛』って名の下に無罪放免。まあ、何とかいけるだろってな、って話さ」
「なるほどね。でもそれは君たちが描く最高のシナリオだね」
「まあな」
「ともかく、我々は君たちを拘束する。君たちが疑わしいと我らが見ている以上、それがどんな理由だろうと覆ることはない」
 アレウスは右小指を僅かに引き、
「じゃあ、仕方ねぇな」
 瞬間、ハーパイストスの口がグバッと開き、
「雷挺」
 眩いばかりの雷撃が『吟遊詩人』リバーに襲いかかる。だが、そんな状況でもリバーは冷静に鼻歌混じりの言葉を紡いだ。
「詩人は詠う。雷よ、逸れろ」
 ハーパイストスの口から放たれた雷撃がリバー=サイバティックを貫こうとした直前、リバーに到達するかしないか、そのギリギリの地点で雷撃は不自然に軌道を変え、壁を撃ち抜く。満足そうにリバーは一歩踏み出し、
「無駄だということは分かってるのに。どうしてそこまで抵抗するのかな?」
「バケモノめ……」
 ハーパイストスの後方でアレウスは忌々しく呟く。
「その言い方は止めて欲しいね。僕たち吟遊詩人の言葉には魔力が備わっている、基本的には君たちと同じ魔術師なのだから」
 吟遊詩人を、英訳すると『Bard』となる。
 これは、古代ケルト文化を語源としており、そのケルト文化では諸国を放浪し、神話は伝説の物語を歌にしたり、諸国の情報を語りながら旅をする、いわゆる旅芸人がいた。それが『Bard』である。
 ここまでだと、回教文化、東欧のゲルマン民族、古代ギリシア文化圏などで活躍した吟遊詩人と同じだが『Bard』はこの吟遊詩人たちとは大きく違う。彼らはただの旅芸人などではなく、ケルト文化を取り入れた諸国の外交官、神話や歴史や法律などを、歌の形で記憶し伝承する役目、メッセンジャーの役割を担っており、ケルト文化社会では司祭的な地位にいた。一般的に、ケルト文化と言えば司祭の『ドルイド』だが、その『ドルイド』になるには『Bard』として数年間諸国を放浪する必要があったという記録も残っている。
 中世になると、次第に司祭的地位にあった『Bard』も回教文化、東欧のゲルマン民族、古代ギリシア文化圏の吟遊詩人たちに影響され、愛の歌や、騎士物語を歌うようになり、『アーサー王伝説』や『トリスタンとイズー』、『ニーベルンゲン』など、回教文化、東欧のゲルマン民族、古代ギリシア文化圏の吟遊詩人たちによって作られた歌を彼らも大衆音楽として盛んに広めていった。
 しかし、次第に十字教文化がケルト社会に浸透してくるようになると、彼ら『Bard』は、回教文化、東欧のゲルマン民族、古代ギリシア文化圏などで活躍した吟遊詩人と同化し、衰退し、歌い継がれてきた神話や伝承も失われていき、ただの旅芸人となっていった。
 しかし、中世も末期にはいると十字教会に反抗する者が次第に現れ始め、それが『Bard』たちによって歌い継いできた古代の神話や伝説を復興しようとする運動を生み、やがてはルネサンスを引き起こすまでに成長したのである。
「何が『君たちと同じ魔術師なのだから』だ。テメェらの言葉には魔力が籠もっていて、お前の『視界に入っている全てを言葉通り』に好きに操って世界を歪めてしまう。とんだバケモノじゃねぇか」
 ビシッと中指を立て、挑発的に、
「その発言は職業差別とも受け取れるし、少し解釈を間違えているようだがね。まあいい。確かに我ら吟遊詩人は『言葉』と『旋律』とこの『声帯』があれば世界を自由自在に歪められ―――
 と、ここで、リバー=サイバティックの脳裏に何らかの『不自然』が過ぎった。
「俺は人形使い。それも自在に操るには何十年の鍛錬を積んで、戦闘中には人形操作に集中しなきゃならねぇ、つまり術者本人が無防備で戦場に立たないとならねぇってことで、廃れ、寂れちまった、術者依存型人形コットウヒンの様式を好む人形使いだ。で、お前は術者依存型人形コットウヒンと戦うのは初めてか?」
 挑発的に笑いながら、



 
「初めてだったら教えてやる。俺の指から目を離すな」



 
 刹那、ハーパイストスが飛び、リバー=サイバティックの上空に展開、開かれた口から雷撃が放たれた。文字通りそれは『落雷』。が、リバーは動かない。
「詩人は詠う。雷撃よ、アレウス=カロッサスを射ろ」
 音を立て、雷撃は進路を変え、その先にはハーパイストスがリバーの上空に展開したことによってがら空きとなった人形使い・アレウス=カロッサス。アレウスは焦ることなく冷静に指を蠢かせ、仕上げとばかり、凧を引き寄せるように左腕を大きく振り、瞬間、音もなくハーパイストスがアレウスと雷撃の間に割り込んだ。
「雷挺」
 ハーパイストスの口から雷撃が放たれ、リバーによって進路を狂わされた雷撃と相殺する。
「残念ながら心配には及ばないよ。これでも十分警戒しているつもりだし、君に言われる筋合いもないかな。―――詩人は詠う。大地よ、我が敵・アレウス=カロッサスとハーパイストスを飲み込め」
 床、左右の壁、天井。
 壁が一斉に盛り上がり、一気に炸裂。そこからは四つのご神木のように太く大きな粘土製の手が、恐るべきスピードで二者を握り潰さんとばかり、うねりを上げる。
「ちィ……」
 小さく舌打ちし、アレウスは指を踊らせ、腕を振り上げる。その動作に異形の人形・ハーパイストスが同調、両手を上から背中に持って行き、それはまさに背骨を引き抜くように、そこに装備されている両刃の大剣を引き抜いた。
「アキレスの剣」
 大剣を両手に握り締め、床から伸びる巨大な土の腕を一刀の元に斬り捨て、さらに跳躍、アレウス=カロッサスの傍まで後退すると、薙ぎ払うように一閃。左右の壁から伸びた土の腕が切断面滑らかに両断された。残るは天井から伸びる一本。それに狙いを定め、
「詩人は詠う。アレウス=カロッサスの真上、崩落せよ」
 パキンッと、蜘蛛の巣状に天井にヒビが入り、
「くそ」
 慌ててハーパイストスを操るが、間に合わない。












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