僕の心にはあなたが
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「それでは皆さん! グラスを持ってぇ!」
そう言われたみんながお酒が入ったグラスを持って次の言葉を待った。
「え~。今日はこの同窓会に参加してくれてありがとう。みんな大好きだぜ! かんぱーい!」
「かんぱーい!」
それを合図にみんなグラスを軽くぶつけて鳴らす音がいくつも鳴りだす。僕もその一つを鳴らした。でも他の人とは違う。それはグラスに入っているのはお酒ではなくオレンジジュースだ。僕はお酒が飲めないのだ。
「お前相変わらず酒飲めないのか?」
オレンジジュースを一口飲んでいると突如横に現れた親友の康太が腕を回してそう言った。
「お前確か三年前の同窓会でもジュース飲んでたよな? 駄目だよ~、酒飲まなきゃ。空気読めって。KYだなぁ」
「空気読めって言っても、酒飲めないのはお前もよく知ってるだろ」
僕は溜め息混じりにそう言うと康太がゲップをした。アルコールの強い匂いがもろに受けて少しだけ気分が悪くなった。こいつは人の話を聞いてるのかよ。
「な~に言ってんだよ。男なら黙って飲め!」
そう言って康太がビールが入ったグラスを口元に持ってきた。僕は慌てて腕を払おうとすると、それがグラスに当たってビールが服にこぼれた。すると横にいた康太が大爆笑。
「おい、見ろよ! こいつ漏らしたぞ!」
なんでやねん。
全くのデマを言い触らす康太を尻目にハンカチで濡れた場所を拭いていくが、取れる訳もない。しかもアルコールの匂いが服に染み付いている。
「最悪だ」
そう呟きながらオレンジジュースをまた一口飲んだ。本当に来なきゃよかったよ。
今日は阿浜南小学校の同窓会で来たがお酒も飲めない僕がなんでここにいるかというと、隣にいる康太に無理矢理連れて来られたからだ。本来なら家で借りてきた映画をのんびりと見るつもりだったのに。
そんな悪態をつきながらハンカチで少しでも拭き取ろうと苦戦していると、横に誰か来た。見ると赤縁の眼鏡をかけた女性だった。
「大丈夫?」
「あっ、はい。大丈夫です」
一体誰だろうか? 同窓会だから一応知ってる人なのだろうが、全く分からない。
「……もしかして、覚えてない?」
女性が苦笑いでそう言うと、途端に罪悪感が込み上げてきた。
「は、はい」
そう言うと、女性は黒く長い髪を手で二つに別けた。
「これなら分かる?」
ツインテールのような髪と眼鏡で思い出した。
「あっ! か、佳奈さん!?」
「あったりぃ~!」
佳奈さんは満面の笑みを浮かべながらそう言った。その笑顔は昔とちっとも変わっていなかった。あの大好きな笑顔が。
「もう、あれで分からなかったらどうしようかと思ったよ」
笑みを浮かべたまま話す佳奈さん。僕は俯きながら謝った。そうすると佳奈さんが「クスッ」と笑った。
「な、なにかおかしかった?」
「ううん。村田くんって、昔から全然変わってないなぁ~と思って」
ようするに外見がほとんど変わってないという事だろう。なんだか複雑に気分だ。
「褒め言葉として受け取っときます」
そう言って、いつの間にか緊張している自分を少しでも楽にしようとオレンジジュースを一口飲んだ。でも女性と話すだけで緊張する訳だから気休めにもならないけど。
「村田くんは今なにやってるの?」
「普通にサラリーマンやってます」
「あれ? 警察官になるんじゃなかったの?」
「色々ありまして」
駄目だ。凄く緊張してる。ホント、女性と話すだけで緊張する自分が情けない。
でも佳奈さんって、本当に変わったなぁ。小学生の時は教室で静かに本を読んでた女の子だったのに。今はあの頃の暗いイメージとは程遠い。まあ、そんな暗かった彼女が好きだったんだけどね。
僕の初恋の人だ。
「ねぇねぇ」
またオレンジジュースを飲んでいると、佳奈さんが肩を叩いて呼ぶと耳元で、「これから二人でどこか行かない?」とささやかれた。それに思わずオレンジジュースを吹きだしそうになったが、なんとか耐えた。
「ど、どこかってどこに?」
「いいお店知ってるんだ」
そう言って、僕の手を引っ張って店の外に連れ出された。僕は訳も分からず彼女に身をゆだねながら、後ろを振り返ると、誰も僕らのあとを追ってこなかった。なんだかそれが虚しく感じた。
しばらく夜の街を歩いていると、ネオン看板に“Amour”と赤く輝く文字の店の前に来た。
「ここは?」
僕はネオンを見ながら聞くと佳奈さんが振り返った。
「ここは私がよく行くお店なの」
そう言って彼女はドアを開けて店の中に入った。そのあとを恐る恐る入ると、ジャズの音楽が聞こえてきた。静かな店内に響き渡るジャズが心地いい。
「マスター。来ちゃった」
佳奈さんの声に反応して向くと、そこには金髪で瞳が綺麗な青色をした男性がグラスを磨いていた。
「佳奈ちゃんか。パーティーは終わったのかい?」
男性が笑みを浮かべながら聞くと佳奈さんも笑みを浮かべて、
「抜け出してきた」
と言った。すると奥から今度は男性と同じ瞳をした女性が現れた。
「あら、佳奈ちゃん」
すると、女性は僕を見つけて上から下まで舐めるように見た。僕は唾を飲み込んで、終わるのを待った。な、なんか怪しい人だと思われるのかな。
「ちょっと、マスター」
佳奈さんが慌てた様子で女性に向かってなにやらジェスチャーをしていた。それが伝わったらしく女性は口に手を当てて、なんだか大袈裟な動作をした。やっぱり外国人って、大袈裟な動きをするんだな。
「さぁ、村田くん」
佳奈さんがカウンターに座って僕を手招きした。僕はとりあえず隣に座ってこの展開について考えた。
「マスター、私いつもの頂戴。村田くんはどうする?」
そう言われた僕はとりあえずメニューを見たが、どれもお酒ばかりで焦った。少しはあるだろうと思っていたが、どうやらここにはないようだ。ヤバイよ。せっかく佳奈さんに連れて来てもらったのに何も注文しないというのも。すると、裏に小さくオレンジジュースとあった。
「あ、あの。僕はオレンジジュースで」
助かったぁ。
「もしかして村田くん、お酒飲めないの?」
「恥ずかしながら」
僕はそう言って俯いた。すると佳奈さんが含み笑いをした。
「なんだか村田くんらしいなぁ」
「そ、そうかなぁ? いつも僕だけ頼まないから周りからは冷めた目で見られるよ」
すると男性がオレンジジュースをカウンターに置いた。程なくして佳奈さんが注文したお酒もカウンターに置かれて、従業員の二人はすぐに裏に行ってしまった。途端に僕は佳奈さんと二人っきりになって緊張してきた。とりあえずオレンジジュースを一口飲んで落ち着かせようとした。
「ごめんね、村田くん。でもあそこで話すよりこっちがよかったんだ」
「あっ、いや、僕は別にいいよ」
僕は横にいる佳奈さんをこっそりと見ると、注文したお酒を少しずつ飲んでいた。綺麗に化粧をして大人の雰囲気が出ている。そして、お酒が入っている小さなグラスが佳奈さんを色っぽくしている。そんな光景を見ていると自分は全然大人になれてないなと思った。二十三にもなってお酒も飲めないし、彼女もいないし。
溜め息をついていると、唐突に佳奈さんが喋り出した。
「なんだか懐かしいよね」
「えっ?」
思わず声に出してしまった。
「村田くんとこうして二人でいるの。小学生以来だよね」
佳奈さんはそう言うと目を閉じて記憶を辿ろうとしていた。その時の彼女の表情がとても幸せそうだった。
「一緒に公園で遊んだり、ジュース飲んだり」
そう言われると僕も昔の出来事を思い出した。
自分の気持ちがよく分からなかったけど、佳奈さんと一緒にいるのがなによりも楽しかった。家に帰ると早く明日にならないかと思ったもんだ。そんな事を思い出していると、不思議と微笑んでいた。
「楽しかったよねぇ」
「中学から別々になったけどね」
「うん」
佳奈さんはグラスの中を覗きながら微笑んだ。
「あれから十年経つんだね」
「……そうだね」
僕はオレンジジュースを飲みながら十年も経ったのかと思った。そう思うと佳奈さんに告白せずに十年も過ごしていた。小学校の卒業式が終わって、別々の中学校に行く事になった僕たちは手を振って見送った。そして僕は中学生になって、恋に気づいたんだっけ。情けないよね。
すると佳奈さんがグラスの中身を空にして言った。
「おかわり下さい」
* * *
「ねぇ、村田くん。……村田くんって今付き合ってる人いるの?」
顔を赤くした佳奈さんが僕の肩に頭を乗せながら唐突に聞いてきた。いつもなら恥ずかしくてどもるはずなのだが、アルコールの匂いで上機嫌になっているらしくあっさりと答えた。
「いないよ。佳奈さんは?」
「私も~。お互い独り身って事だねぇ~」
佳奈さんはそう言ってグラスの中身を空にした。これで十三杯目だ。
「マスタぁ~、おかわり~」
奥からマスターの女性が新しいのを持ってくると、空になったグラスと取り替えた。
「佳奈ちゃん、飲み過ぎだよ。お酒に強くないのにそんなに飲んだら大変よ?」
「いいの、いいの」
そう言いながらグラスの中身を一気に飲み干すと、急に体が僕の方に倒れてきた。慌てて佳奈さんの体をキャッチして、ちゃんと座らせた。
「いいの、いいのじゃないでしょう」
「にゃははは。大丈夫だよ」
どう見ても大丈夫には見えないがと思った。
「お代はもういいから帰りなさい」
「にゃにお言う。私は大丈夫どぅえ~す」
そう言ってまた僕の方に倒れてきた。僕はまた慌ててキャッチすると、そのまま支えた。どうやら僕が佳奈さんを支えながら帰るしかなさそうだ。
「どうも、ごちそうさまでした」
佳奈さんのバッグを持って店を出た。心地いいジャズの音楽がなくなり、静かになった。外は寒くなり始めていて、思わず身震いしてしまいそうだった。とりあえず僕は泥酔の佳奈さんを支えながら、通りに出てタクシーを拾った。
「佳奈さん、佳奈さん。家はどこ?」
「う~ん。……阿浜南八丁目のスターライトマンション」
それを聞いた僕はタクシーに佳奈さんを乗せて、財布から一万円札を出したが、佳奈さんが腕を掴んできた。
「優太。私を送っていけぇ」
佳奈さんは寝言のように言って腕を離そうとしないので僕は仕方なくタクシーに乗り込んだ。
「すみません。お願いします」
「あいよ」
タクシーが動き始め、僕はとりあえず佳奈さんをちゃんと座らせた。すると、佳奈さんの頭が僕の肩に乗るので、そのままにした。全く、あんな静かな彼女からは想像出来ないな。
夜道をタクシーが走り抜け、佳奈さんの家であるスターライトマンションに着いた。僕は料金を払うと、佳奈さんを支えながらマンションに入った。まずは郵便受けで目的の階を確認してから佳奈さんの鍵を使って入り、自動ドアを開けて通っていった。
エレベーターを使って目的の階に行き、佳奈さんの家の前に来た。そこでまた鍵を使って中に入った。
「ほら、佳奈さん。ついたよ?」
「くるしぅないぞぉ」
僕は溜め息をつきながら佳奈さんの靴を脱がし、自分の靴を脱いでベッドに運んだ。しかし明かりをつけていなかった事に気づいて明かりをつけようとしたが、
「うわっ!」
なにかに躓いてベッドに倒れ込んだ。目を開けると、暗闇に目が慣れてきていたのではっきりと分かった。目の前には佳奈さんの顔があった。目を閉じて寝息をたてている。
僕は心臓の心拍数を抑えようとするが、目の前の光景にどうしても抑えられない。それでも佳奈さんを起こさないようにゆっくりと顔を遠ざけた。
「ふぅ~。やばかった」
すると、佳奈さんが寝返りをうって僕の腕を巻き込んだ。僕は佳奈さんに腕枕するような形になった。再び心拍数が上昇し、爆発するような勢いだ。
「……優太」
突然名前を呼ばれた僕は体を強張らせた。しかし僕はあるものを見て、緊張が解けた。
佳奈さんが泣いていたのだ。
「……優太。行かないで」
佳奈さんが泣きながらそう言った。寝言だが。
僕はそれを聞いて何も言わずに抱きしめた。佳奈さんを心配させない為に。そして、十年の歳月を経た僕の率直な気持ちの為に。
僕は佳奈さんが好きだ。
十年前に言うべきだった言葉を僕は、胸の中で呟いた。それから佳奈さんが寝ているのを確認してから、
「……好きです」
と呟いた。すると、佳奈さんの声が聞こえた。
「……あたしも」
ここまで読んで下さった方、本当にありがとうございます!
いやはや。やる気満々で書き始めたものの、なかなか良いプロットが生まれずこんな作品を仕上げてしまいました。申し訳ありません。本当に申し訳ない。
この作品がはたして『べた恋』と呼んでいいものか分かりませんが、少しでも楽しんでもらえると嬉しいです。文章やストーリー展開に関しては大方なにを言いたいか分かりますが、感想は思った事を書いて下さい。
ではでは、主催のあいぽさん。酷い作品で申し訳ないです。そしてありがとうございました! また次回を楽しみにしてます!
懲りてないんかい!Σ( ̄□ ̄;
PS.他の方の作品を読んで気分を一新するのを強くオススメします(^-^;