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天悪っ!! ―― 天使と悪魔の恋のお話 ( 改訂版 ) ―― 作者:背谷 燈

第四章 ―― 魔王ハルトの改革記 ナバナス編 ――

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第四十五話 バルフッドはハルトとアルマに複雑な視線を向ける

医者にいかなあかんので頑張って更新。
 
 川から水を引く工事が始まった。その人数、総勢五十名。だが、今日は作業を始める訳ではなく、あくまでどの様に川から水を引いていくのか、その説明だ。

 ――正直に言えば、ハルトはこの五十人を当てにはしていない。この五十人にして欲しい事は、仕組みを正しく理解し、それをどう使用すれば的確に水を引けるのか、理解して貰う事だ。

 五十人の中にはあの魔物の一件で大怪我を負った者も少なく無い。故に今すぐこの五十人を動員すれば、再び傷が開く者が出てくるだろう。
 ハルトがする事は、あくまで『してみせる』事だ。
 この世界は魔法が主な技術として存在している。例えば水にしても、攻撃用途として空に放てば雨になる。弱い魔法で壁に水を放てば、水を得る事も出来るだろう。だが、魔法を扱える人数は魔族領の総人口に対して余りにも少ない。
 しかし、魔法を技術の主体にしている為、魔法を使えない者達は、自然に左右される暮らしを余儀なくされる。

「――ってな訳で、川から水路を引いて、村の中心部に水を持ってきて、そこに少し大きめの貯水槽……んと、まぁ池を作ります。ほんで、川から水を引いて、この池に持ってくればあら不思議。川まで水汲みにいかなくて良いじゃなーい?」

 ハルトは住民の許可を取って、住居の石壁に、石をチョーク代わりにして、村の大まかな全体図、それから川、そしてその川から村に引かれていく水路の線を書き、それを村人に説明する。
 だが、ハルトの説明に、村人達が難色をしめした。

「トーマさん、ちといいか?」

「ほぃ。何でも聞いてー」

 ハルトに声を掛けた村人の一人が頭を書きながら言い辛そうに言葉を告げる。

「俺達も似たような事は考えて、何回か水路を作ってみようとはしたんだ。でも、どうやっても崩れるんだよ」

 ふむふむとハルトは頷くと、その村人に言葉を返す。

「確かに無理矢理川の水を引っ張ろうとした努力の結果はあった。でも、多分そのやり方だとどうやっても決壊したっしょ?」

 まるで見てきた様に当然と告げるハルトの言葉に村人達の間で動揺が走った。
 事実、ハルトの言う通り、幾度も作られた水路は、その度に短いスパンで決壊している。
 ハルトは二本の線を引き、そこに矢印を描いて川の流れを村人に理解させる。

「川ってのは、只の水だけど、大きな水の塊が次々に押し寄せてきてる様なものなの」

 ハルトはその二本の線の一本に十字型に線を引き、そこにカーブを描いた矢印を付け加える。

「見た感じだと、多分今まではこんな風に、とりあえず水路を作ってーってなやり方だったと思うんだよね」

 それからハルトは川の線と、水路の線が交わる所に放射状の矢印を書き足す。

「そうなると、川の流れの勢いはどうしてもこの部分に掛かってしまう。当然石造りにしたり、補強したりして少しの間もたせる事は可能だけど、自然の力って、ぶっちゃけ人の力とかどうでも良いから。関係ないから。問題にしないから。無慈悲だし残酷だから」

 そう言い置いて、ハルトはその交わった線に×印を描いた。


「当然決壊する」


 その言葉を聞いて、村人達の間に騒然とした声が上がった。


「そ、それじゃあやっぱり水を引くなんて――」

「――出来るよ」


 ハルトはにやりと笑うと、腕を組んで村人達を見つめる。

「今までのやり方はあくまで『自然に抗う方法』でしか無かったんだ。自然と力比べをしたって、どう足掻いても人に勝ち目は無い。つまり抗わなきゃ良いんだよ。抗わないで、自然に協力してもらって、且つ恵みを拝借する」

 村人達は理解が追いついていない。
 だが、ハルトは笑ったまま言葉を続ける。

「水車ってものがあるんだ。自然の力を利用して、水を自動的に汲む機械が」

 ハルトは再び壁に向かうと、そこに簡単な水車の図面を書く。
 村人は見たことも無いような図面に一様に驚きの表情を浮かべていた。

 ハルトが描く図面は三連水車だ。川の水を受ける羽根と、その外側に設置する、水を汲む桶。そしてその桶から水を受ける水路。

 ハルトはその図を描き終えると、左手でそれを叩きながら――勿論手加減をして叩いている――村人に説明する。

「こうして水車を設置すれば、川から水を引くことが出来る。川の力、つまり自然の力を利用するから、こちら側に掛かる負荷は少ない」

 ハルトはそう言うと、水車の図面と川とをつなぎ合わせて、更にその線を村の中心部に描いた貯水槽に結ぶ。

「そうすれば、川の流れがある限り、水車は永遠に回り続ける。水が自動的にこの貯水槽……つまり池に流れ込む。田畑に水を引くときは、ここまでに来る水路に道をつければそれで良い。まぁ点検やら補修は当たり前に必要だけど」

 ハルトは理解が及んでいない村人達に苦笑いを浮かべた。
 この世界に物理と言う考え方は恐らく殆ど無い。水の流れに勢いがある、と言う事は分かるだろうが、それを利用する、と言う事は考えなかったようだ。

 もっとも、魔法を使えればそれで事足りてしまうのだから、仕方無いのだが。

「ま、話はここまでとして、早速作ってみましょうかね」

 ハルトがそう告げると、村人達は不安げな様子を見せた。

「ト、トーマさん、作るったって、どうやって作れば……」

 ふむ、とハルトは頷く。
 恐らくハルトが描いた簡単な設計図では村人達に理解を得られない。


「先ずは見ててよ。本当に単純な仕組みだから、一度見れば何となく分か――」

「トーマさん、一つ聞いても良いですか?」


 その言葉にハルトは眉を上げる。
 何故かは分からないが、五十人の村人の中にアルマが居る。ちなみにアルマ以外は全て男性だ。薬学を学ぶ筈のアルマが何故ここに居るのかまでは分からない。

「つまり、その水車に川の水を受ける場所があって、その脇に川の水を汲む桶がある、と考えて良いんですよね?」

「――あぁ、うん、まぁそう言う事……」

「だったら――」

 アルマはハルトに近づくと、チョーク代わりの石を受け取って、石壁にアルマが思い描くだろう水車の設計図を書き込んでいく。

 ハルトはアルマが書き上げていく設計図に軽く目を見張った。

 アルマの描くそれは、ハルトの描いたそれよりも遥かに緻密で、且つシンプルだ。アルマはそれを縦方向、横方向と二つの図面を描いて、更にそこに文字を書き足していく。そして、文字を読めない者に配慮して、細かな図面を引き、それを矢印で引っ張り、どの部分がその場所にあたるのか、分かりやすく工夫していた。

 アルマは自分が引いた図面を一歩下がって眺め、一度頷くとハルトに顔を向ける。

「――こう言う事でしょうか?」

 ハルトは出来上がった図面に目を丸めていた。
 それは図面を見た事が無い者でも容易に理解が及ぶだろう完璧なものだ。

 ハルトはそれを見つめた後、目を丸めたままで村人達に顔を向けると、静かに問いかける。


「……こ、これ見て、分かんない、って言う人、手を上げて……?」


 村人達は誰も手を上げない。
 ハルトは村人達の顔に理解が浮かんでいるのを見て、軽い敗北感と共にアルマが書き上げた図面を見つめた。

「……いや凄い。本当に凄いわ。あんな説明でこんだけ理解するとかありえねぇわ」

 ハルトは水車の仕組みを理解してはいるが、その設計図は知らない。故に、水車の説明を十の内、五程度しか説明できなかった。しかし、アルマはその五の説明を聞いて、十を理解し、更に村人に理解が及ぶように二十の説明をした。

 しかも緻密でありながら、簡潔に、分かりやすく。

「トーマさん、これなら俺達でも出来るよ」

 村人の一人が声を上げる。そしてその声に、多くの村人が賛意の声を上げた。

「あー……うん。そっか。じ、じゃあ、分からない事があったら、何でも聞いて?」


 ――その後、水車建設が始まった。


 材木は前もってハルトが森から調達してある。今回は村人達の中で、潜在的に怪我を抱えている者が多かった為、森から材木を持ってくるのが難しいだろうとハルトは判断していた。

 ハルトは先ず見本として材木を切り――勿論詠唱を唱えるふりをした魔法によって――自分の設計図よりも緻密なアルマの設計図にそってそれを組み立てた。アルマの設計図である程度水車の仕組みを理解はしていても、その細部を理解できなかった村人達にとって、ハルトの作った見本は大きな戦力となった。

 ハルトは半日足らずで見本となる水車を作り上げたあと、作業をしている者達から少し離れた所に座り込み、呆然としながら、あらゆる所に呼ばれていくアルマを見つめていた。


「……ぼーっとして、どうした?」


 そのハルトの背中に、良く知った声が掛けられる。

「――いや、凄いもんだなぁ、と思ってさ」

 バルフッドがハルトの隣りに現れ、腰を下ろす。

「っつうか、俺いらねーじゃん。アルマちゃんだけで十分じゃん。ちょっと凹むわー……」

 バルフッドは笑いながら言葉を告げる。

「あいつは昔から人に説明をするのが上手いからな。誰にでも得手不得手はあるだろう」

 それに――、とバルフッドは言葉を続ける。

「お前が水車と言う機械を知らなければ、水を引くなんて事は出来なかっただろう?」

 まだ川から水は引けていない。だが、ハルトがその方法を提案し、アルマがその仕組みを具体的に示した事で、その方法は間違いなく村に水を引けるものだと全ての者が確信している。

 ハルトはその言葉にため息をつきながら頭を掻く。

「俺からすれば何で思いつかなかったんだって話だよ。発電とかならともかく、凄く原始的な仕組みだろうに……」

「ハツデン……?」

 聞き慣れない言葉にバルフッドは眉を寄せながらハルトに顔を向ける。

「んにゃ、多分説明しても理解して貰えない。多分アルマちゃんにも理解出来ない仕組みだよ……」

 ハルトはため息をつきつつ、両足を抱える。
 バルフッドはアルマにも理解出来ないと言われ、発電について言及する事を諦めた。

「俺からすれば、アルマよりもお前の方が凄いと思うがな」

 ハルトはその言葉に軽く眉を上げると、バルフッドに顔を向ける。

「なんしてよ?」

「考えても見ろ。お前が来てからまだほんの少ししか経っていないんだ。だが、今、お前の言う事を疑って掛かる奴はいない。もしお前がこの村の長になる、と言えば、村全員がそれを認めるだろうさ」

 村全員。それはバルフッドも含めての話だ。
 バルフッドはナバナスへの貢献が足らないと自分で判断し、ハルトが現在使用している住居を使用する事を遠慮していた。そもそもあの住居はナバナスに最も貢献出来た者が使用して良いとされる住居だ。
 その住居をナバナスの民の総意でハルトに使って貰う、と決めた時点で、ハルトはナバナスを引いて行くに足る存在だと、全ての村人から認められている事になる。

「――んな訳ねぇー。こんな部外者が村の長になりたい何て言った所で笑われて終わるのが関の山だろ」

 バルフッドはそれに笑って答えるだけで、何も言わない。

「トーマさーん、聞きたい事があるんですがー!」

 遠くでアルマがハルトの名を呼び、笑顔で手を振っているのに気付いて、ハルトは苦笑いを浮かべながら立ち上がる。
 バルフッドはアルマの下に歩み寄り、ハルトとアルマが仲良さそうに言葉を交し合う姿を見て、複雑そうに目を細めると、静かにため息をついた。
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