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天悪っ!! ―― 天使と悪魔の恋のお話 ( 改訂版 ) ―― 作者:背谷 燈

第四章 ―― 魔王ハルトの改革記 ナバナス編 ――

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第四十四話 ハルトはエーディッドの言葉に苦笑いを浮かべる

7/7日短冊の日、これで終了ー。
 
 その後、話はトントン拍子に決まり、後日バルフッドが村のものに説明して、川から水を引く工事、並びに土壌改革を行う事となった。薬学については、読み書きが出来る事が最低条件であった為、その中から有志を募り、その者達に知識を与えていく、と言う事で一先ずの話は付いた。

 読み書きの最低限の事は出来るアルマは当然これに参加。

 最初川から水を引くと聞いた村人は胡散臭げな眼差しを浮かべていたが、その知識の提供者がハルトだと知ると、全ての者が態度を一変した。
 僅か五日。ハルトがこの村に辿り着いてからの時間はそれしか経っていないが、ハルトは知らぬ内に村人の心を掌握している。バルフやアルマがハルトの言葉を疑いも無く信じたのも、また心を掌握されているからだろう。

 もっとも、それを知ればハルトは全力をもって否定するだろうが。

 ハルトはこれらの知識を伝える事に、幾つかの条件を付けた。

 与えた知識は必ず有効的に活用する事。
 他の者から知識を求められた場合は、必ずこれに応える事。
 金銭を求める事を禁止する事はしないが、法外な額の報酬を求めない事。

 この三つを守ってもらえば、この知識を持って各地に散らばっていくだろうナバナスの民が、数年以内にこの魔族領を根底から変えてくれるだろう。

 ハルトはエーディッドの誘いで、エーディッドが今住んでいる場所へと送っていた。

 何故誘われたのかは考えるまでも無いだろう。
 風がそっと囁きかける度に、ハルトは昨日包まれていたエーディッドの残り香を思い出す。
 昨晩、ハルトとエーディッドは身体を重ねた。

 勿論それは性的な意味ではなく、ただお互いの体温を確かめるような、純粋な重なりではあったが、それを意識しないでいれる程、ハルトは子供では無い。

 風が優しく吹く度に、静かに鼻腔をくすぐるエーディッドの香りが、昨日のエーディッドの姿を、その柔らかな身体を、その悲痛に満ちた泣き声を思い出させる。

「あ……と、えと、さっきは、ありがとう……」

 ハルトは躊躇いがちに隣りを歩くエーディッドに声を掛ける。

「気にしないでくれて良い。私こそ、君には感謝しなくてはならない」

 エーディッドはハルトに顔を向けず、その表情に優しげな笑みを浮かべながら言葉を続ける。

「昨晩は、ありがとう。勇気を振り絞って、君の所に行けて、良かった」

 その言葉には少しだけ恥じらいが聞き取れた。

「こんな事で昨晩の礼にはならないと分かっているけど、それでも君の手助けが出来て、嬉しい」

「あー……うん。あ、いや、別に気にせんでも……」

 ハルトは頬をポリポリと掻きつつ、返事を返す。
 エーディッドは少しだけ頬を染めると、言葉を続ける。

「……君が君で良かった」

 ハルトは答えず、空を見上げ、流れ行く雲を見つめる。

「……少しは、心の整理、ついた……?」

 ハルトは尋ねたかった事をエーディッドに聞く。
 ハルトはこの世界に来て僅か一年しか経っていない。だが、その一年は期待に裏切られ続ける一年だった。
 そして、ハルトは期待する事を捨てて、自分を恐れるリューシェの許を去った。
 エーディッドは十五年もの間、ただ一途にバルフッドを思い続けてきた。その想いが届かないと諦めかけても、それでも想い続けた。

 ひと時でも傍にいたいと剣を磨き、強い存在を求められたからこそ強くあろうとした。

 だが、それにも限界が訪れ、ハルトに救いを求めるように、関係を求めた。

 もしハルトがエーディッドを受け入れていたとすれば、始まりは歪かも知れ無いが、いずれは綺麗な形になっていたかも知れない。

 だが、ハルトはそれを良しとはしなかった。

 そして、ハルトを求めたエーディッドもまた、ハルトの言葉で、寸前の所で立ち止まれた。
 お互いに、お互いの想う人が居る。
 もしハルトとエーディッドが結ばれるとすれば、ハルトはリューシェへの想いから、エーディッドはバルフッドへの想いから解き放たれる時だろう。

 そして、それは今ではない。

 エーディッドはハルトの言葉に頷くと、静かに言葉を告げた。

「君に弱い私を……ううん、弱いあたしを受け入れて貰ってから、少し気持ちが楽になった」

 エーディッドはそう告げると、ハルトと同じ様に空を見上げる。

「ずっと強くいなければいけないと思い込んでいたあたしを、君が救ってくれた……」

 ハルトはその言葉に、笑みを浮かべると、軽く息をついた。

「俺は何もしてないよ。ただ、ディッドさんは疲れてたんだ。本当の事を言える相手がいなくて、疲れてたんだよ」

 だが、ハルトの言葉に、エーディッドは静かに首を振る。

「……もし、君じゃなかったら、あたしはきっと傷ついていたと思う」

 ハルトは何も言葉を紡がず、ただエーディッドの言葉に耳を傾けている。
 エーディッドは何かを吐き出すように大きく息をついた。

「君は守ってくれたんだ。あたしがあたしを傷つけないように。あたしが傷つく未来を選ばないように。そんな哀しい未来から、君はあたしを守ってくれたんだ」

 その言葉に、ハルトは少しだけ照れくさそうな笑みを浮かべて、紅く染まりながら頭を掻く。
 そして、言わなければならない事を静かに紡ぎ始めた。

「……昨日さ、ディッドさんが眠ってから、バルフさんがディッドさんを探しに来たんだよね」

「……うん」

 エーディッドは悪戯を見つけられた子供の様な笑みを浮かべる。

「久しぶりに叱られた。心配を掛けさせるなって」

 二人はのんびりとした様子で歩みを進める。

「……そん時さ、バルフさんに聞いたんだよね」

 その言葉で、エーディッドは顔をハルトに向ける。

「……なんて?」

「ディッドさんとアルマちゃん、バルフさんにとってどっちが大切なんだって」

 ハルトの言葉で、エーディッドの顔が曇る。
 恐らくその答えは、エーディッドにとって不安そのものだ。
 エーディッドはバルフの想い人がアルマだと知っている。そのアルマと、ただの相棒と言っても良いだろう自分を比べれば、どちらが大切かなど、直ぐに分かる事だ。

「……バルフは、なんて……?」

 ハルトはエーディッドに笑みを向けて、言葉を告げる。


「比べられるものじゃない。二人とも大切な家族だ。優越を決められる様な存在じゃない」

 エーディッドはその言葉に目を丸めると、やがて嬉しそうに顔を歪めた。

「怒られちゃいましたよ。ふざけた事きいてんじゃねぇと」


 ハルトはおどけながら言うと、大げさに肩を竦めた。エーディッドはそれを見て、嬉しそうに微笑む。

「――馬鹿だな、君は。そんな事を言えば、怒られるのは、当たり前、だろうに」

 僅かにだが、エーディッドの目尻に涙が浮かぶ。ハルトはそれに気付かないふりをして、更に言葉を続けた。

「これはバルフさんにも言った事なんだけどね?」

 ハルトは空を見上げ、そっと目尻を拭うエーディッドから目を離す。

「なんて、言ったんだ?」

「良い男は常識に縛られてはならない」

 エーディッドはハルトの言葉の意味を捉えられず、僅かにキョトンとした表情を浮かべる。


「俺が前に居た所では、良い男はある程度常識から外れても許されるのよ。だから――」

 ハルトは笑顔でエーディッドに顔を戻す。

「――別に一人じゃなくたって良いじゃん? と」


 エーディッドはその言葉に、様々な感情が入り混じった表情で、顔を歪める。
 ハルトの言葉は、エーディッドにも目を向けろ、と言外に言ったに等しい。


「……君は、本当に、馬鹿だ……」

「一応これでも少しは頭がいい筈なんですがねぇ……」


 ハルトは軽く肩を竦めて答える。
 やがて、エーディッドの住む場所が見えてきた。エーディッドはそれを確認すると、ハルトの歩みを立つ様に前に回りこみ、ハルトを見上げ、そっと右手をあの時と同じ様に、ハルトの左頬へと、伸ばした。

「……やっぱり、君が君で、本当に良かった……」

 優しく頬を撫でながら、エーディッドは言葉を続ける。

「……もし、君がどうしても耐えられなくなった時は、あたしを求めて? もし君があたしを求めてきてくれるなら、その時は、あたしはちゃんと君を見て、君だけを求めるから」

 ハルトが目を細めるのを見つつ、エーディッドは言葉を続ける。

「もし、君があたしを見てくれなくても、あたしはちゃんと、君を見る。君はあたしを助けてくれた、掛け替えの無い人だから」

 ハルトが少しだけ困惑の表情を浮かべる。

「……ディッドさんの好きな人はバルフさんでしょや。そないな事言うたらあきまへんがな……」

 だが、エーディッドはその言葉にクスリと笑みをこぼすと、言葉を返した。


「バルフの事は好きなんじゃない、愛しているんだ。でも、君の事は好きだ。だから、君が求めてきても、私は喜んで応えられるよ……?」


 その手がそっと頬からハルトの髪へと映る。

「例え、君が何者であろうとも、君は君だ……」

 優しくその手が髪を梳く。

「例え、君があたし達とは違った存在だとしても……」

 ハルトの目が僅かに見開かれる。


「この髪が、その紅く見える瞳が、何色だったとしても……」


 その言葉に、ハルトは目を見開いたまま凍りついた。

「――君が自分を化け物だと言ったとしても、あたしは君を恐れたりしない」

 エーディッドは少しの間凍りついていたハルトに微笑を浮かべていたが、やがて名残惜しむ様子でそっとハルトの頬から手を離すと、ハルトから一歩下がった。

「私はいつもあそこに居る。耐え切れなくなったら、いつでも求めに来てくれ。『あたし』は決して、君を恐れたりしない」

 そう笑顔で言い告げると、エーディッドはゆっくりと踵を返した。

 ハルトは離れていくエーディッドの姿を見て、敗北感を滲ませた笑顔を浮かべると、がっくりとうな垂れ、深いため息を吐いた。

「――いや、俺には勿体無さ過ぎる良い女だもん。求められないってば……」

 ハルトは苦い笑みを浮かべながら、苦く静かに呟いた。
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