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天悪っ!! ―― 天使と悪魔の恋のお話 ( 改訂版 ) ―― 作者:背谷 燈

第七章 ―― 魔王ハルトの改革期 デルラニア編 ――

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第二百十二話 ハルトは世界を導く決意を固める

 
 ハルトはイリアの居室に戻るとぐったりと憔悴しきった表情で呟いた。

「……ほんとに発足しちゃったよ。しかも満場一致、はは、何なんだこの展開……」

 そしてハルトは両手に顔をうずめる。

「一体何がどうしてこうなったんだーっ!!」

「……そなたが今までしてきた改革のせいじゃろ。あと民を救う為に言葉を尽くした事もな」

 ハルトの対面側に座るイリアが涼しげな表情で告げる。そしてハルトの隣に座るリューシェは苦笑いを浮かべながらそれに呟いた。

「確かにハルトが今まで成してきた事を考えれば当然だろうね」

 それにイリアの隣に座っていたニーナが続く。

「……仕方ないんじゃ、ないかな? だって、ハルトがしてきた事って、それだけ凄い事なんだから」


 ――ちなみにあれからニーナはずっともじもじと落ち着きがない。


「……あぁ俺の隠居生活が……隠居生活がぁ……」

 その言葉に同時に三人がむっとした表情を浮かべた。


「……私達を捨てるって事?」

「それは許せぬ言葉じゃな」

「……本気でひっぱたくよ?」


 三者三様に睨まれ、ハルトは肩を落としながら呟いた。

「……ごめんなさい」

 その声は今にも消え入りそうだ。

「……しかし、これで私達の気苦労も終わった、そんな所か」

 入口付近に背中を預けているゲルトが呟いた。

「お前さんの場合、妹達を取られて気が気じゃねぇんじゃねぇか?」

 同じく入り口を挟んで腕を組み、背中を預けているバレッドが告げる。
 ちなみにエマは四人の傍で微笑ましげにハルト達を見つめていた。
 ゲルトはハルト達を見つめると眩しそうに目を細める。

「もうハルト様が逃げる事もないだろう。それに、ハルト様ならば例え取られたとしても仕方あるまい。貴方こそ妹たるイリア様を取られて思う所はあるのではないか?」

 バレッドはその言葉にふんと鼻で笑って見せた。

「俺はイリアが幸せになれりゃそれで十分だ。まぁハルトなら間違いなく幸せにしてくれるだろうしな」

 ――違いない、とゲルトは微笑む。

「あー、それとなゲルト、お前も頑張れよ?」

 その唐突な言葉にゲルトは訝しげに眉を寄せた。

「……勿論ハルト様に仕えるに当たって全力を尽くす。それが我々の責務だろう?」

 その言葉に今度はバレッドが呆れたようにため息をついた。


「――この鈍感が。ま、お前なら文句も言わねぇよ」

 ゲルトはその言葉に眉を寄せ、バレッドを問い詰めたが、それに対してバレッドは肩を竦めるだけで言葉を返す事はなかった。


 二人がそんなたわいもない話をしている時に、ハルトはふと三人の気配が近づいているのを感じて顔を上げた。やがてその三人は静かにイリアの居室へと姿を現した。

「遅れてごめんなさいね、イリアさん」

 イリシスが柔らかい笑みでイリアに告げる。イリアはその言葉にゆっくりと立ち上がると同じく柔らかい微笑みで返した。

「いや、こちらこそすまなんだ婆上。魔翼教のこれからの骨子を考えてくれた事、礼を言う」

 イリシス達はあれから魔翼教に必要だろう教えを残った三人の老賢人だけで考えていた。もっともその多くはデレイトス教にのっとったものだが、独自のものも多くある。その中の多くはバレッドが調べて来たハルトの今までの活動を謳ったものだ。
 これからイリシス達は魔翼教支部として魔王城と遠く離れたこの場所に拠点を置き活動する。対するイリアはハルトの傍にいる巫女姫として活動する予定だ。

 ――もっともそれは口上で、イリアとしてはハルトの傍につくだけの話だ。活動など一切しない。

 そもそも巫女姫は象徴。活動する必要性もまた無い。

 ハルト達が演説――ハルトに限っては演説というよりも言い訳に近かった訳であるが――している間にイリアの部屋のレイアウトは通常のものに戻され、そこには幾つかソファが増やされている。
 イリシス達はそれに座ると、それぞれエマに飲み物を注文し、エマはそれに軽く頷くとイリアの居室を出て行った。
 イリアもまた三人が席についたのを見て己も席に座る。


 そんな中ハルトは疲れ果てた用に項垂れていた。


「……魔王城かぁ……」

 そんなハルトが肩を落として静かに呟いた。

「……まぁた皆から崇められる日が来るのか……」

 そしてその口から魂を吐き出す。

「……考えるだけでしんどいわぁ……」

「大丈夫じゃないかな?」

 リューシェが紅茶を口に運び、静かに答える。そしてその答えにハルトは虚ろな目をリューシェに向けた。

「ハルトが必要以上に崇められるのは嫌いだってアルブレン山脈の時に皆学んだから、必要以上にハルトを崇めたりしないよ」

 ハルトが『そうなの?』とニーナに尋ねる。

「……え、えと、うん、大丈夫、だと、思うよ……?」

 その言葉にハルトは訝しげに首を傾げる。

「……ニーナ、さっきからずっと様子が変だけど、何かへんなものでも食べた?」

 その言葉にニーナがかぁっと顔を更に赤く染める。


「……鈍感じゃな」

「……ハルトだし」


 ハルトが二人のその言葉に眉を寄せる。

「……何がさ?」

「女心を知らぬにも程があると言う事じゃよ」

 そしてリューシェが呆れた様にニーナを見た。

「……お姉ちゃんも変えられちゃったね?」

 ニーナはその言葉に何も言わずこくりと頷く。
 もはやその姿に以前のハルトに対する怒りを見出す事は出来ない。
 そこにいるのはただただハルトを思う、恥じらいを覚えた少女だ。

「……その、あたしも、こんな風になるとは思わなかったから……」

 ちらりちらりとハルトを上目遣いで見て、ハルトのきょとんとした顔を見ては顔を赤らめて目を背ける。

「……えっと、もしかして俺嫌われた?」

 それを見てハルトがリューシェに尋ね、リューシェとイリアは同時にため息をついた。


 ――本当に鈍感にも程がある。


 だがハルトにも言い分がある。

 まず第一にハルトをニーナは当初敵視していた。第二にニーナとリューシェの前から二度逃げ出した。第三にニーナの言葉に耳を貸さず、涙させた上にニーナを置き去りにした。

 ハルトにしてみれば嫌われてもおかしく無いと言う所だろう。

 悩んだ挙句リューシェが言葉を上げた。


「ハルト、お姉ちゃんは――」

「――リ、リューシェ! そ、それはあたしが直接言うから!」


 慌ててニーナが声を上げた。そしてそれにリューシェが眉を軽く寄せながら首を傾げる。

「……大丈夫なの……?」

 ニーナはコクコクと頷くだけで何も答えない。

「……んと、とりあえず嫌われてはいないわけね……?」

 その言葉にもニーナはコクコクと頷いた。

 エマが現れ、三人にそれぞれ紅茶を置く。イリシス達はそれに軽く感謝の言葉を告げると微笑みながらハルトに告げる。

「新しい神様は人の不安とかには敏感な割りに自分に向けられる感情に関しては余りにも鈍感なのね」

 ――神という言葉にハルトは呻いて頭を抱えた。

「……生きてる人を神にするってのはどうなんだって話ですよ、イリシスさん。俺の世界では死んだ後神格化された事はあっても、生きている間に神格化される 事なんてありませんでしたよ? そりゃ古代の中ではエジプトやらギリシャやら王が神格化された事もありましたけどもさ……」

 だが、その言葉にもイリシスはクスクスと笑うに留まり、その両隣にいたザギルとベギルが声を上げて笑いながら告げる。

「貴方の世界がどうだったかは知らないが――」

「――こっちの世界ではそれがまかり通ると言う事じゃ」

 その言葉にハルトは再び頭を抱え込む。生きている人間の神格化。ギリシャ、ローマの時代においても死した後に皇帝は神格化されたと言うのにまさかの現人神である。

 只の人から勇者、勇者から魔王、魔王から救世主、救世主からまさかの神。


 ――ここまで出世する人物はハルト位だろう。


「――もっともそんな貴方だからこそ、民衆は心を動かされたのだろうけれど」

 イリシスは微笑みながらハルトに告げる。

「一応自分に向けられる感情にはさといつもりなんですがねぇ……」

「……でも、貴方は事実ここにいるニーナさんの気持ちに心当たりがないでしょう?」

 ハルトは憮然とした表情でニーナを見るが、ニーナは顔を赤らめたまま俯いてしまう。


 ――やはりハルトには嫌われているとしか思えない。


 尤もハルトからすればただ俯いているだけにしか見えない訳であるが。

 ハルトの目は良くも悪くも盲目に近い。

「……あの、ニーナ、いや、ニーナさん? もし、何か僕が不快な事をしたのであれば――」

「――ち、違う。ハルトは何も、悪くないの……」

 その言葉も尻すぼみで消えていく。
 それを見たイリアは悪戯にクスクス笑い、リューシェは苦笑いを浮かべた。

 そこには親衛隊を相手取っていた様な、ニーナのいつもの勇壮な姿はない。

「――さて、ではこれからの事ですが」

 イリシスが告げ、その場の空気を引き締まったものに変えた。

「ここ旧デレイトス教本部は本日を持って魔翼教支部へと変更します。これからはハルト様ご自身が象徴たる存在」

 ハルトがその言葉に苦渋を宿しながら項垂れるように頷いた。

 神にでも悪魔にでもなりきってやる、勢い任せだろうとそう言ってしまった以上、ここで逃げ出す訳には行かない。ハルトは己に課せられた義務を放り出せる様な性格ではないからだ。

「ここデルラニアは魔王城から最も離れている街。ここでハルト様を神と謡い、そしてハルト様が魔王城に戻り次第今一度イリアさんから声明を発表してもらえば民にもあっと言う間に広まるでしょう」

 ――尤も、とイリシスは続けた。

「旅の救世主トーマと言う人物やカインズと言った人物が魔王だと知られる事になれば、魔翼教を発足するまでも無く、人々は想いをデレイトスからハルトと言う人物、いえ、神に向ける事になりますが」

 その言葉にハルトはうんざりとした表情をイリシスに向ける。

「……俺無駄に崇められたくないんですが……」

「そこは神らしく潔く諦めなさいな」

 イリシスが笑顔で告げ、ハルトは再び肩を落とす。
 イリシスはハルトに言葉を告げた後、その顔をしみじみと眺めた。


「――これで新たなる時代が息吹を上げた事になるわね」


 その言葉にリューシェは目を丸めた。

「……新たなる、息吹……?」

『あ』とゲルトとニーナが声を上げた。

 リューシェはハルトを異界の旅人だと知らない。
 正確には先程の話に出ていたのだが、あの時リューシェは酷く混乱していて、話の内容を覚えていない。

「……リ、リューシェ、今更なんだけどさ……」

 ゲルトとニーナが一瞬のアイコンタクトでニーナに『お前が話せ』と命令する。

「……その、ハルトは異界の旅人なの」

 その言葉にリューシェは大きく目を見開いた。

「……ハルトが、異界の旅人……?」

 呆然と呟いてリューシェが憔悴しきったハルトを見つめる。

「……その、だからってハルトはハルトだから! 何も変わらないから!」

 ニーナが焦ったように告げる。

「……お姉ちゃん達は、それに気づいていたの……?」

 その言葉にゲルトは瞑目し、ニーナは気まずそうに目を背けた。

「……そっか。そう言う事だったんだ」

 リューシェが漸く全てに腑が落ちたような表情を浮かべて見せた。そして憔悴しきったハルトの右手をそっと取り、その手の平を己の左頬に添える。

 そしてその温もりにハルトは静かにリューシェに顔を向けた。

「……この世界に来てくれてありがとう」

 ハルトがリューシェの満たされた微笑に目を見開く。そしてリューシェはそっと目を細めた。

「ハルトが異界の旅人で本当に良かった……」

 リューシェは目を閉じて満面の微笑で言葉を続けた。


「――これからも、この世界をどうかよろしくお願いします」


 その言葉で、呆然としたハルトの表情が苦笑いに変わる。
 愛する者にここまで言われて、拒絶出来るはずが無い。


「――任せとけ。やれるだけやってみるさ」


 そう告げ、ハルトは新たに決意を固めた。

 ――この世界を導き、より良い世界へと変える決意を。
デルラニア編終了ー!!
長かった。
ひたすら長かった。

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