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天悪っ!! ―― 天使と悪魔の恋のお話 ( 改訂版 ) ―― 作者:背谷 燈

第七章 ―― 魔王ハルトの改革期 デルラニア編 ――

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第十七話 ハルトは正式に騎士団に属される


 ハルトはそれを視て呆れた様に溜息をついてから一口酒を口に運んだ。


「――すっげぇ。アルコールの匂い以外なんにもしねぇ……」


 以前エーディッドと呑んだ時は七十パーセントを超えていたが、この酒はそれを遥かに上回る。エーディッドなら一杯呑んだだけでノックダウン必死だろう。

「おいおい、ちびちび呑んでんじゃねぇよ。それくらいあいつらを簡単にのす兄ちゃんなら簡単に飲み干せるだろ」

「……それすっげぇ偏見入ってるよね。多少腕が立つからと言って酒の強い弱いは全く関係のない話だよね」

 とか言いつつハルトもまた酒を一気に飲み干す。
 このレベルまで行くともはや完全に毒だ。ハルトにとってはもはやアルコールみ満たされた水でしかない。
 バレッドはそのハルトに流石に目を見開いたが、平然とグラスを寄越すハルトを見て、不敵に笑い更に並々と注いでから己のグラスにも酒を注ぎ、それを右手に持ってハルトにグラスを寄越す。
 キンッと乾いた音が鳴り響いた。
 バレッドが今度はのんびり呑み始めたのを見て、ハルトもまたのんびりと呑み始める。

「……んで? 腹を割って話したい事って?」

 ハルトが一口酒を口に運んでからバレッドに尋ねる。

「おうそれよ。ややっこしい事は抜きだ」

 バレッドもまた軽く口に酒を含んでからハルトに目を細め、何かを楽しむ様にハルトを睨みつけた。

「――正式に騎士団に入団するつもりはないか?」

 ハルトは予測していなかった言葉に僅かに目を見開いた。

「正直今うちの騎士団は人手不足って訳じゃねぇんだがな。暫く続いた平穏のお陰でどんどん質が落ちていやがる。対して魔王様直属の騎士達は厳しい審査の上で合格してきた猛者たちばかりだ」

 ふぅ、と溜息をついてからバレッドは鋭い目をハルトに向けた。

「正直に言うぜ。今魔王軍とやりあったら、俺達の勝ち目は薄い」

 ハルトはその鋭い目に対抗するでもなく、怯えるでもなく、ただ淡々と受け止めていた。

「んじゃ、こっちも正直に思っている事を言おうか」

 その言葉でバレッドの目が僅かに細まる。

「今の魔王のハルトとやらは馬鹿が付くほどの平和主義だ。売られた喧嘩以外は買わないだろうよ」

 ハルトはそう告げると残った酒を一気に飲み干し、『ん』とバレッドにグラスを向ける。

「……なんでそんな事が言えるんだ」

 バレッドはハルトのグラスに酒を注ぎながら尋ねる。

「簡単なこったよ。俺はあいつと暫くの間旅をしていた仲だ。もっともあいつが魔王になる前の話だけどね」

 ――ハルトは平然と嘘をついた。

 その言葉に流石のバレッドも目を丸める。
 そして自分のグラスに酒を注いでからバレッドは尋ねた。

「聞いて良いか?」

「どうぞ。俺に答えられる範囲なら」

 バレッドは酒を一口飲むと、左手の甲で口元を拭いつつ尋ねる。

「何でハルト様とやらを魔王城まで案内した」

「さて……俺もまた困っている人はほっとけない性質でね。彼が魔王城に行きたいと言うから連れて行った」

 ハルトは僅かに透明な酒に目を落すと淡々と注げる。

「結果彼はリューシェを圧倒し、新たなる魔王に祭り上げられた。いや、彼にとっては迷惑千万だっただろうねぇ。彼自身は自分の事を人の上に立つ器ではないと言っていたし、彼のあり方から見て、少なくても俺もまたそう思った」

 ――そしてハルトは核心に触れる。

「本当は彼は魔族領を良くしようと彷徨ってなんかいない。彼は人の上に建つ器じゃないと自覚している。でも責務から逃げる訳にはいかない。だからこそ、世界を良くしつつも、魔王城の者から逃げてるんだよ」

 その言葉にバレッドの眉がピクリと動く。

「――やたらハルト様に詳しいな。お前さん、何者だ?」

 ハルトはその言葉に直ぐには答えず酒を一口飲む。

「何者もなにもない。俺の名前は知っての通り、カインズだ。通りすがりの旅の者。俺は彼を探し出して、きっちり落とし前をつけさせなきゃならない」

 ハルトは巧みに自分からハルトという存在を剥ぎ取った。
 あくまでハルトはハルトとしてこの世界にいると。
 そして暗に自分はそれを追っているものだと。
 そうする事によって自分自身からハルトと言う名前を剥離し、そこに虚構を作り出す。
 ハルトにとってもっとも得意とする、相手を術中にはめ、霍乱し、真実を見せない方法だ。

 バレッドは溜息をつくと、グラスを机に置き、再び並々と酒を注ぐ。

 ――相当肝臓が強いのか、ハルトが視たバレッドは未だほろ酔いに達していない。

「そういやアライダから物件を探していると聞いたが」

 話を切り替えて、バレッドが切り出す。

「お前さんが良けりゃ最上等の部屋を用意する事も出来たんだぜ? 何も物件をさがすこたぁねぇだろう」

 ハルトに酒を向け、ハルトもまた酒を飲み干し、グラスを向ける。
 そのグラスに並々と酒が注がれた。

「……それは俺の我侭だよ。この宿が嫌だってわけじゃない。アライダさんは親切だし、板前のおっさんもこれから研鑽を積んで旨い料理を出してくれるだろ」

 ――でもね、とハルトは告げる。

「ここじゃ碌な薬も調合出来ない」

 その言葉に流石のバレッドも目を見開いた。

「……お前さん、あれ程の力量があって、薬まで作れるのか」

「薬は市販されてるものはとんでもなく高価だと聞いた。それに、魔法に頼らないで、ちょっとした傷なら物理的に癒す事も出来るんだ」

 ハルトはそこまで言うと目に微笑を湛えてバレッドに告げる。

「漸く自分でやれる事を見つけたんだ。一人でも多く、病人や怪我人を救う。それがこの都市での俺の使命だ」

 バレッドはその言葉に唖然としたまま口を開いていたが、やがて可笑しげに大きな声で笑い出した。

 ハルトはそれに笑みを浮かべて返す。

 バレッドは一頻り笑った後、笑みを浮かべたままハルトに尋ねる。


「……んで、どんな物件が良いんだ?」

 ――話に乗った、と確信したハルトは笑みを深めながらバレッドに告げる。


「寝室はここと同じ位。調合部屋も同じ程度で良いよ。あと、俺に治せない怪我人や病人は滅多にいないから、最悪を通り越した人達は連れてきてくれれば良い。責任を持って何とかするよ」

「街外れでもかまわねぇか」

 ハルトはその言葉に頷く。

「むしろ街外れの方が良いだろうね。大通りじゃ治療を行っている人達の商売を邪魔しかねないし、一応薬剤師免許とか医師免許が要るだろうから――」

「――あぁそん位俺が手に入れといてやるよ」

 ハルトがその思わぬ言葉に目を見開いた。

「……そ、それは幾らなんでもどうかしてるんじゃない? だって、俺のそう言った技術知らないでしょや」

「お前さんはあん時はっきりと俺の手、そしてカミル達を癒しただろうが。あれだって並の魔法使いじゃぁできねぇこった。そこら辺は俺が認めたって事で幾らでもなる」

 ――無茶苦茶だなぁ、とハルトは苦笑いを浮かべるが、だがそれはありがたいことだろう。

「……あー、ただ薬剤師免許はどうにもならんな。こればっかりはお前さんの実力しかねぇ。お前さんのこった、数日で卒業出来ると思うがな」

 その思わぬ言葉にハルトは顔を輝かせ、バレッドは外套の懐からハルトがこの都市に入ってきた時に渡された水晶のチョーカーを取り出すとそれをハルトへと放り投げる。

「失くすなよ。話は通しといてやる」

 ハルトはそれを左手で受け取ると満たされた様な笑顔を浮かべた。

「――感謝するよ、バレッドさん」

「感謝なら、立場で示してくれれば嬉しいもんだがな」

 ハルトは『立場』と言う言葉にキョトンとした表情を浮かべた。

「お前さんも気付いているだろう? あん時カミルが相当手を抜いていた事を」


 ――その言葉にハルトの目が泳いだ。


「……う、うっそだぁ。あ、あれで手を抜いているとか、化け物も良い所ですよ?」

 それは既に気付いていた事だ。
 カミル達は恐らく六割から七割の力加減をしていた。ハルト程の腕前――むしろ化物――になれば手を合わせるまでも無く相手の力量を推し量れる。

「ま、回避には全力を傾けてはいたが、それでもお前さんはあっけなくあいつらを無力化した。そんな人材を手放すのは惜しい」

 にやり、とバレッドが笑みを浮かべた。

「この街でお前さんがしようとしている事を助ける代わりに準騎士団から、正式な騎士団に入る。そうしてくれれば俺としては大助かりなんだがな」

 ――う、とハルトは心で呻く。

「もっとも正式な騎士団と言っても名前だけだ。お前の名前が正式な名簿に載るだけで、それ以外は何も変わらん。精鋭特別隊員としての扱いも変わらない」

 ハルトは苦渋を宿しながらバレッドに尋ねる。

「……それは任意の除隊を許されるもの……?」

「まぁそれは俺の胸一つだな」

 にやりとバレッドが笑みを浮かべる。それにハルトは苦渋を浮かべたまま静かに己もまた条件をつける。

「……俺は旅人だ。その意志を尊重し、出て行くといったら承諾して貰う。それが条件だ。そうじゃなきゃ正式に騎士団に入るつもりはない」

 ――いつの間にかハルトの目には冷徹な意志が浮かんでいた。

 そしてそれに怯む事無くバレッドもまた目を細めてハルトの鋭い眼差しを受け止める。

「……上等だ。それでお前が加入してくれるならな。ただし、こちらにも条件がある」

 ハルトは冷え切った眼差しで睨むでもなく、目を細めるでもなく、ただ静かに尋ねた。

「……その条件とは何だ」

「何、簡単な事だ」

 バレッドはそう告げると腕を組む。

「除隊するに相応しい理由でなきゃならん。ただそれだけの事だ」

 ハルトの眉がピクリと動いた。

「……例えば?」

 その言葉にバレッドは鼻で笑う。


「――愛する女がいるとかな」


 その言葉でハルトから冷徹な眼差しが抜け、その表情にキョトンとしたものが浮かんだ。そしてバレッドはその表情に可笑しげに笑う。

「お前さんにも一人位いんだろ。そんな女がよ」

 その言葉でハルトの頭の中に未だ見ぬリューシェの笑顔が浮かんだ。

「い、いや、そんな人は……っ」

「いないとはいわせないぜ。お前さんみたいに強い男には必ず女が靡くはずだ」

 そう言われてハルトにアルマ、レスカと言った顔が浮かび上がる。

「その顔をみるに、お前に誑し込まれた女は多いらしいな」

「んなこたぁありませにょ! 二人には一切手を出しておりませんにょっ!」


 思わず、噛む。


 バレッドはニヤニヤ笑いつつも椅子から立ち上がりハルトの肩にポンと手を置く。

「ま、お前さんの立場はこれで正式な団員だ。尤も、多少俺の強制力が働く程度にしか変わらないがな」

 ――あぁそれから、とドアに向かったバレッドが肩越しに振り返りハルトに告げる。

「カミルや俺達も普段は何気に忙しいんだ。故に腰が重い。そん時はお前さんの腕を頼りにする。その程度はまぁ了承してくれ」

 ハルトはその言葉に頬を搔きながら頷いた。

「まぁその程度ならね」

 その言葉にバレッドは首を戻すとにやりと笑みを深めた。

「――じゃぁ頼んだぜ、カインズよ」

 バタン、と音を立てて消えていくバレッドを、ハルトは顔を引き攣らせながら見送った。
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