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天悪っ!! ―― 天使と悪魔の恋のお話 ( 改訂版 ) ―― 作者:背谷 燈

第五章 ―― 魔王ハルトの改革記 ゴルゾーン編 ――

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第八十三話 ハルトはアルベルトの言葉に戦慄を覚える

 
 少しの間静寂がその場に訪れる。しかしそれはアルベルトの言葉で静かに打ち破られた。

「……ザイールの話によれば、腕に確かな者を揃えたと言っていたが、その目には適わなかったですかの?」

「いや、その逆。よくもまぁあんな猛者連れてきたと感謝しているよ。こういっちゃ自信過剰だと思われるかも知れないけど――」

 ハルトの目が最高責任者兼総司令官のものに変わる。

「――今までの碁盤は完全にひっくり返せるだけの準備は整った。後は行動に移すだけだ。間違いなくこの街はあるべき姿に、いや、もっと出来の良いものに変わる事が出来る」

 ハルトの目とアルベルトの目が暫くの間交差し、やがてアルベルトがにやりと笑った。


「――やはり孫の嫁に」

「いや、だからそれは――」

「――無理です」


 にやりとしたアルベルト、苦笑いのハルト、真剣な表情のレスカの順番で言葉が繋がった。

 そしてその言葉に僅かに驚いた様にアルベルトがレスカへと目を映す。そして、その目に映ったものを見て、クツクツとアルベルトは笑った。

「……なるほど。レスカ様、良い表情をなさるようになったのう」

「え? 何? どゆこと?」

 会話についていけなかったハルトが尋ねるが、アルベルトはにこりと笑ってハルトに告げた。

「いやいや、トーマ殿には関係の無い話じゃて。今はそれ以上に、いや、それ以上かは分からんが、大事な話があるのでしょう?」

 上手く話をはぐらかされた様な気がしないでもないが、ハルトは本題に入る。

「じいちゃんが顔効くのってどれ位? 例えばじいちゃんの話を理解して、行動してくれる人達ってどれ位いるかな?」

 ハルトの質問に、アルベルトはふむむ、と腕を組んで唸るが、やがて答えを出したのか真剣な表情でハルトに告げる。

「全て、とは行きませんが、ある程度なら可能でしょうな」

 ハルトはそれに頷き、言葉を続ける。

「当たり前だけど、戦いはこの街で起こる。その被害に一般人は巻き込みたくない。だから、一度この戦闘が収まるまでこの街から抜け出して欲しいんだ」

 ほう、と呟き、その顔をにんまりとさせ、アルベルトが告げる。


「やはり惜しい。出来れば孫の――」

「――ですからそれは無理です」


 その言葉をレスカがピシャリと閉ざす。冗談じゃよ冗談、と言いつつ、ハルトにアルベルトが尋ねる。

「しかしどうやって? 言ってはなんだが、東西南北の門はより堅牢になってしまった。更に言えばそこに居る私兵も多い。私兵を倒している間に門は閉ざされますぞ」

「あぁその問題は平気。俺がぶっ壊すから」

 その言葉でハルトの力を知らない二人が眉を寄せた。

「ま、見てもらったほうが早いわ。多少分厚いといっても所詮は木で出来た壁でしょ」

 そう言い告げて、二人に立ち上がってもらい、応接室の隅へとハルトは誘導する。そしてそれからソファ、テーブルをどけ、更にそこに引いてあった絨毯をどけると、ハルトの目に石畳が映った。

「あー、レスカさん、後できちんと直すから」

 ハルトはそれを見てからレスカに言葉を掛け、キョトンとしたレスカから再び石畳に目を落とした。
 二人にはハルトが何をしようとしているのか、全く理解できない。


「――よいせっ!」


 ハルトがある程度加減して石畳を打ち抜く。その力は余波を持って、その場半径一メートル程を深く陥没させた。そしてその光景に、二人は唖然とした表情を浮かべていた。

「――ちなみに、今のはちょっと力を入れた程度。ある程度力を込めれば、この街を覆う壁くらいぶっ飛ばせるよ。まぁ万が一門が無理なら壁こわしゃ済む話だ」

 ハルトの力を目の当たりにした二人は唖然としたまま固まっていた。


「……ザイールからとんでもない人物だとは聞かされてはいたが、これ程とは……」

「ま、だからこそ、俺は下手に力を使えない。この街の勝利者は、この街の勝利者じゃないと意味が無いんだ。じゃなきゃ、伸ばされないかも知れない救いの手を待つ事になる」


 その言葉に考える所があったのか、アルベルトが眉を寄せる。

「……もっともじゃの。救いの手は差し伸べられん。自ら這い上がらねば、そこに勝利の意味は無し……」

「そう言う事だよ」

 ハルトはそう笑いながら、中央から僅かにずれた場所に絨毯を引きなおし、ソファを設置して、アルベルトの腰が落ちたのを確認して再び腰を下ろす。

「――して、決行は予定通り七日後、かの?」

 ハルトはその言葉に目を丸めたが、瞬時にそれを理解して言葉を返した。

「ザイールさんから情報が渡っているんだね」

 アルベルトがその言葉に頷くのを待ってから、ハルトは核心部分を告げた。


「――五日目に作戦は決行する」


 ――その思いもしなかった言葉にアルベルト、そしてレスカの目が大きく見開かれた。


「……作戦は七日後ではなかったのですか? ゼノンも七日後に向けて作戦を練り直すと言っていましたが」

「そうだよ。皆には七日後と伝えた。だが、現実的には五日後に決行する」

 ――ハルトはあの場で傭兵達全員に七日後に作戦を決行すると言い放った。だが、どんな時でも臨戦態勢に入れる様に指示も与えていた。

「んで、五日以内に、秘密裏に東門が開放されるかもしれない、と言うデマを流して欲しいんだ。これはデマで良い。デマを信じた奴がそれを伝えて、東門から一斉にこの街に居る者のある程度を開放し、街から出来る限り人を少なくする事によって被害を最小限に収める。下らないデマ程度なら私兵も相手にしない。そしてそれが事実だと気付いた時には、もう東門は開放されている」

 ふむ、と腕を組み目を細めるアルベルトは、ハルトの核心の部分へ問いかけた。

「何故全てを騙してまで五日後にしたのか」

「その答えは簡単。いたって単純明快だ」

 ハルトはアルベルトと同じ様に腕を組み一つため息をつくと鋭い目でアルベルトを見つめた。

「不思議に思わない? タルクァル本部は大通りや街のから大分離れているとは言え、それなりに目立つ建物だ。そんな建物があれば、当然目に付く。目に付けばそこにタルクァル勢力がある事は直ぐに分かる事だ」

 ハルトの言葉で、初めてレスカはその事実に気付いた。

「じゃぁ何故今までタルクァル本部を襲撃しなかったのか。その疑問もまた簡単な話さ。エグモントはこの戦いをゲームとして見ている。だからこそ、目を放っておきながら、それを黙認していた」

 ハルトの魔法による防音は全ての音を遮断する。ハルトが床を打ち抜いた轟音ですら扉の外にいるゼノンには届かなかっただろう。

「……目を、放つ、と言う事は、つまり……」

 あって欲しくは無い可能性に、レスカの表情が強張る。


「……エグモントへの内通者が居る。流石にそいつが誰かまでは俺にも検討がつかない。だけど、今回呼ばれた傭兵の中にそれは居ない。とすれば――」

 ハルトはその言葉がレスカの心を抉る言葉だと知りつつも、告げた。

「――タルクァル勢力の中に居る誰かだ」


 その言葉に、レスカは言葉を失った。

 今まで志を同じくして剣を取った仲間の中に裏切り者が居る。

「……幹部の中に居ない事は確かだ。彼らは人数が少ない。だから、俺自身が時間を縫って監視を行っていた。その結果は白。ゼノンさん、アルヴァーさん、フリッツさんとコンラートさん、彼らはそれぞれ研鑽を積んでいて、この拠点を離れた場合でも疑わしき人物と接触した様子は無い」

 ハルトは絶望の表情を浮かべているレスカを横目でちらりと見つつも、その目をもう一度テーブルに落し、膝の上で手を組む。

「タッカとリーンはタルクァルに付く事にすら並々ならぬ覚悟を要した。この二人がエグモントと繋がっている可能性はないだろう」

 ――だけど、とハルトは続ける。

「ゼノンさんの話によれば、エグモント側は大きく私兵の数を拡充した、と聞いた」

 その言葉にハルトの対面側にいたアルベルトが重々しく頷いた。

「――確かに、今エグモントは私兵を増やし、その数は千人を超えていると聞く」

「……それが情報が漏れている何よりの証拠なんだよ」

 ハルトは底冷えする様な目でアルベルトを見つめ言葉を言った。

「俺達が削ったのは精々百八十人余り。エグモント側からすれば直ぐに補填できず数だ。対してこちらは。八十人足らず、元からその差は約十倍。補填すれば話にもならない。それが何故か千人もあいつは今集めている」

 ハルトの目が僅かに鋭くなった。


「――もうあいつには傭兵が集まっている事は知られてるんだよ」


 暫くの沈黙が訪れた後に、しかしそれをハルトが鼻で笑う様な声を上げた。

「だったら利用してやる。逆にね。七日後俺達がゴルゾーンに入るのはエグモントの耳にも多分もう届いている。だから、七日後を決戦日だとエグモントは考えているだろう」

 その言葉にアルベルトもなるほど、と右手を頬に沿え頷いて見せた。

「五日後、と言う事ならば、その話がデマだと言う信憑性も沸きますな。して、激戦区になると思われる場所はどの辺になりますかな?」

 その言葉にハルトは頷くと、懐からこの街の地図を取り出しテーブルに広げた。そしてその地図には様々な情報が記載されている。

 この地図はハルトが元の地図を複製し、それからゼルヴィスを初めとした傭兵達、並びにタルクァル幹部にも教えていない様々な情報が記載されているものを広げた。


 ――それら全てはハルトがタルクァルに与した時から一睡もせず、深夜に集めた情報だ。


「まず大通りではこちらの勢力が三百。対するエグモント側は恐らく六百から最大でも七百の私兵を送り込むだろう。問題は、この大通りで生活をしている三千人百強の人達。ここが最もな激戦区になると予想される為、彼らだけはこの街から非難させたい」

 そのハルトの言葉にアルベルトは軽く目を丸めるが、ハルトはそれに構わず言葉を続けた。

「そんで、次の激戦区がエグモントの領主宅へと通じる大きな道。大通りから僅かにそれた広い道だ」

 ハルトは地図の上で大通りからその左右にある道に指を滑らせながら言葉を告げる。

「ここに住んでいる人たちは合わせて千九百人強。つまり、合計で五千人だな。激戦区以外であれば、恐らく戦いの音を聞いて、恐れて外にでたりしないだろう。でも大通りとこの通りに住んでいる人達は嫌でも巻き込まれる可能性が高い」

 そこまで言うとハルトは真剣な眼差しでアルベルトに告げた。


「――この人達を逃がす為の手筈を整えて貰いたい」


 その言葉を待って、アルベルトは疑問に思っていた事を尋ねた。

「……何故そこまで正確な人数を把握できたのか、教えて貰いたいものですがのう」

 その言葉にハルトは笑って答えた。

「簡単な話。夜に街に出てある程度人の多さの痕跡を一軒一軒調べた。あ、中には入ってないからね。ごみの量やら何やらで大体の数は把握できるさ」

「……それでは睡眠を取る時間も無かったでしょうに……」

「んーぶっちゃけ寝てないねぇ。まともに寝たのはもう二ヶ月近く前になるかな?」

 ハルトはゴルゾーンに来て、貧民街の惨状を知ってから、そこを寝床に終始回りに気を張りつつ身体を休めていた。そしてその期間が約一ヶ月。それからタルクァルについてから約半月、一睡もしていない。

「ま、大丈夫。全てが終われば死んだように眠るだろうから。暫くの間は」

 ――さて、とハルトはそこで話を切る。

「時間が無いのは凄く申し訳ないと思っている。だけど、これはじいちゃんにしか頼めない事なんだ」

 その言葉にアルベルトの表情が引き締まり、その目が細められた。

「――出来る? 出来ない? 出来なきゃ、別の方法を考えるまでだ」

 アルベルトの細められた目に、ハルトの真剣な表情が映る。そしてアルベルトは静かにその顔をレスカに向けた。

「……ガンズ様も、お喜びになるでしょうな」

 ハルトはその言葉の意味が分からずキョトンとするが、その隣にいたレスカは一瞬目を見開くと、やがてふわりとした微笑を浮かべて静かに頷いた。


「――これはやるやらない、ではなく、出来る、出来ない、でしたな」


 そして、顔をハルトに戻したアルベルトの表情には老年には不相応な不敵な笑みが宿っていた。

「なれば答えは一つじゃ。『出来る』そう申しましょう」

 ――期待していた答えが返ってきて、ハルトの表情に笑みが浮かび、自然とその右手が伸ばされる。

「――この街を取り戻し、新しきものを見せ付ける。じいちゃんは冥途の土産に『あれを援助したのはわしじゃ』と自慢してくれ」

 そのハルトの笑顔に、アルベルトは再び好々爺たる笑顔を浮かべた。

「なんのなんの。あと五百人は柔肌に触れたいものでな。あと十年は生きねば」

 ――一年あたり五十人食う気かこの爺さん! ハルトはその言葉に戦慄を覚えていた。
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