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天悪っ!! ―― 天使と悪魔の恋のお話 ( 改訂版 ) ―― 作者:背谷 燈

第五章 ―― 魔王ハルトの改革記 ゴルゾーン編 ――

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第六十一話 ザイールは全てが動き出したと心で呟く

おはよー。
7/13日分の更新頑張ってくよー。
 
 会談に成功を収めた後、ハルトとアルベルトは少しの間談笑を交えていた。その会話の内容は多岐に渡る。ハルトは商売の事に関しては詳しくは無いが、流通の仕組みに関しては詳しい。更に言えば、それらに付随する保険業に関しても、この世界では新しく取り入れる事の出来る概念だ。
 豪商として身を立てたアルベルトにとって、ハルトの口からもたらされる仕組みは新たなる発見の連続だっただろう。

 そして、ハルト達の後ろにいるゼノンは僅かに身体を傾けてアルベルトと言葉を交わすハルトの背中を見て、何かを心中で思いながら目を細めていた。ハルトの隣にいるレスカは次々に未知なる考えを紡ぎだすハルトを見て、呆然としている。

 ちなみにタッカとリーンはハルトの背中を見ながら、心中で焦っていた。


 ――ハルトが口に出している考えは、全てが未知なるものだ。その様なものを知っているハルトを見れば、レスカやゼノンが何かに気付かないとも限らない。


 やがてハルトとアルベルトは談笑を一旦区切ると、何かを思い出した様にアルベルトが告げた。

「さて、そろそろあやつもここに来ている頃合だ」

 ハルトはその言葉に軽く眉を上げた。

「あやつって?」

 ハルトの言葉にアルベルトはほっほっほ、と笑いを上げる。

「わしも何だかんだで鬼嫁にいびられている立場でしてのう。下手に家を留守にすると、お爺様働いて下さい、と叱られる身分。もう引退を考えたい年頃なのだが、息子はまだまだ頼りなくてのう。そうそうここにも立ち寄れぬ理由がある訳ですじゃ」

 その言葉に、ハルトはなるほど、と頷いた。
 アルベルトはこの街一の豪商にて、裏の顔役。その顔役が早々拠点を離れる事は出来ないだろう。

「つまり、その人をじいちゃんの代理人にすると言う事?」

「うぅん、少し違いますな。トーマさんとそやつに全てを任せ、金銭的なものは全てこちらで賄うと言う事にしたい」

 その言葉に、ハルトの隣にいたレスカが目を見開いた。

「……それは、本当ですか?」

 その言葉にアルベルトが笑みを浮かべつつ頷く。

「いやいや、予想外にトーマさんの口から新たなる事業への可能性も見せて貰えましたからの。先払いの報酬としては十分ですじゃろ。これからは資金の心配をせず、理念を貫き通して貰いたい」

 アルベルトにしてみれば、ハルトの口からもたらされた情報は全て商業の発展へと繋がる言葉だ。更に言えば、ハルトの改革が上手く運べば、それらの土台も整備される事となる。その為の投資と思えば、さほど高いものではない。

「ありがとう。お陰で何とかけりを付ける目処が出てくるってものだ」

 ハルトが笑顔で右手を差し出し、アルベルトは節だった右手をハルトのそれに合わせる。


「必ず成功させて下さいよ、トーマさん」

「成功以外に、俺達の生き残る術はないからね。絶対に成功させる」


 二人が固く握手したのを見て、レスカは安堵の溜息をつき、固く握られた手を見た後、そっとその目をハルトに移す。
 この少年が現れてから、タルクァル組織は一気に息を吹き返した。もしハルトが後少しでもレスカ達の前に現れるのが遅ければ、間違いなくタルクァルは滅んでいただろう。
 しかし、この少年は僅か一日でタルクァルを建て直し、最も力になっていた援助者の心を掴み、再びタルクァルを立ち上がらせようとしている。

 その在り方は、やはり神聖騎士団という在り方には過ぎたものにレスカには思われた。

 そして、自分が過ちを犯したかも知れない、と言う疑念を払拭する。
 目の前の存在が新たにタルクァルを率い、その新しき理念を街の者に植え付けていくのは間違いない。むしろ、レスカを始めとした、タルクァルメンバーの誰一人として、ハルトと同じことは出来なかっただろう。

 そうレスカが心中で呟いている時、応接室の扉から乾いた音が鳴り響いた。

「どぞー」

 ハルトが手を引いて、緊張感の欠片も無い声色で扉へと言葉を掛ける。その声を待って扉が開かれ、そこにいた兵士がハルト達に声を上げた。

「アルベルト様のお連れの方がいらっしゃっています」

 ハルト達がその言葉に眉を上げると、アルベルトが何度か頷きながら言葉を言った。

「いや、相変わらずあやつは間が良いのう」

 その声に、ハルトはアルベルトに目を戻す。

「んと、さっき言ってた人?」

「さようで。わしの抱えの者としては一番の信頼の置ける者ですじゃ」

 なるほどねぇ、とハルトは頷いてから兵士に声を上げた。

「んじゃ、その人通してあげて」

 賛意の声を上げて、一歩引き、兵士は左手でアルベルトの使いを応接室へと促す。


 ――そしてそこに現れた者を見て、ハルトが目を丸めた。


「……な、何してん、ザイールさん」


 応接室に案内されたザイールはハルトの姿を見て、目を丸めて見せ、驚いた様な表情をしてみせる。

「……おや、トーマさん、ザイールとはお知り合いで?」

 ハルトの表情と言葉に、アルベルトもまた驚いた表情で問いかけ、ハルトは唖然とした表情のまま、ポリポリと頬を搔いた。

「いや、まぁ、うん。知り合いだけども……」

「これはこれは驚きましたな。まさかトーマ殿がタルクァルに付いていたとは」


 ザイールが驚きの表情のままうそぶく。

 ――言うまでも無いが、ザイールは既にハルトがタルクァル側に付き、行動を起こしている事は知っている。


「ザイールよ。トーマさんとどの様な知り合いじゃ」

 アルベルトが僅かに目を丸めながらザイールに問い、ザイールはにこやかな笑顔を浮かべてそれに答える。

「以前お話した、ナバナスの奇跡の功労者たるトーマ殿が、この方でいらっしゃいますよ、アルベルト様」

 その言葉にアルベルトの目が大きく見開かれ、ハルトに向かう。

「……貴方が、あのトーマ殿なのか」

 ハルトはその目から顔を背け、額に汗を滲ませた。

「……ナバナスの、奇跡……?」

 レスカが聞き覚えの無い言葉に軽く首を傾げて見せる。そして、その様子に、アルベルトは興奮を隠せない様に言葉を繋げた。

「ナバナスと言う村である改革が行われましての。川から水を引く水車なる仕組みや、田畑の開墾の方法、その他色々と、その村は今ではどんどんと田畑を増やしているとの事ですじゃ」

 思いも寄らぬ言葉に、レスカ、ゼノンが目を見開く。
 川から水を引く方法、そして田畑の開墾。それらは全てこの世界で実現が難しいとされているものだ。

「ちなみにトーマ殿はその知的財産の全てを放棄し、この世界の為に役立てたいと仰られ、今ではその弟子たるアルマ殿が魔王城で様々な改革方法を考えておいでですよ」

 更にザイールが敢えて補足する。
 その言葉に、レスカの目が更に見開かれた。

「……しかし、なるほどのう。只者ではないと思ってはいたが、トーマさんはもはや人の上に立つ事を宿命付けられている様にも感じますのう」

 腕を組み、感慨深げにハルトをそう評価するアルベルトに、ハルトは汗を滲ませながら答えた。

「……か、買いかぶり、ですよ? ナバナスの件だって、アルマちゃんがいなければ形になりませんでしたし? ぼ、僕に人を率いていく器なんか、ありませんて……!」

 タッカとリーンは心中で焦りつつ、お互いの表情を確認している。


 ――ここでハルトの正体を知る二人が下手に騒げば、その分面倒な事になるだろう。つまり、ハルトは自力でこの場を何とか切り抜けなくてはならない。


「……つまり、トーマ君は、その、ナバナスと言う村で、土地の改革を行った、と言う事ですか?」

 一度喉を鳴らした後、レスカがアルベルトとザイールに問う。そしてその言葉にザイールが答えた。

「無論トーマ殿の弟子たるアルマ殿の貢献も大きいものでしたが、まぁ、トーマ殿が居なければこれから始まる土壌改革も目処が付かなかったでしょうな」

 ハルトの顔から音を立てて血の気が引いていく。

「……なるほど。そして、トーマ殿の弟子たるアルマ殿は、魔王城の方に請われ、トーマ殿より授かった知識を活かす為、現在は魔王城に居る。そう言う事ですね?」

 ザイールがその言葉に頷くのを待って、ゼノンは腕を組み、右手をそっと顎に添え、目を細めた。

「……なるほど、以前タルクァル様が仰られた理由ならば、確かにそれに該当する」

 ゼノンは敢えて言葉に出し、その意味をレスカに悟らせる。


 勿論そこにある矛盾点にゼノンが気付いていない筈が無い。


 だが、そこにある矛盾は、少なくても現時点ではレスカには無用だ。

「……どうやら我々はとてつもない僥倖を賜った様です。これは喜ぶ事なのでしょう」

 ゼノンが淡々と告げる言葉に、ハルトは肩越しに振り返ると、冷ややかな表情を浮かべているゼノンに告げた。

「ゼノンさん? そ、そないな、僥倖とか、ちょっと、大げさじゃない?」

「僥倖と判断します。事実貴方は、既にナバナスと言う村を改革している。これは貴方の誇るべき実績です。確かに土壌の改革と街の改革とは根底が大きく違いますが、少なくとも貴方の仰られる改革案が、我々の及ばない所にあるのは事実です」

 冷ややかながら躊躇いのない言葉に、ハルトは言葉に詰まる。

「……ゼノンの言う通りです。トーマ君は、たった一日でアルベルトさんを動かし、民の求心力を取り戻した……」

 ハルトの隣で、僅かに顔を俯かせながら告げたレスカは、その目をアルベルトに向けて、思った事を尋ねた。

「アルベルトさんから見て、トーマ君はどの様な人物に映りますか?」

 ゼノンは諜報と言う役目柄、多くの者を見てきている。だが、それは商売と言う生業において、様々な人間を見て、そして判断を下していったアルベルトもまた同じだ。
 更に言えば、アルベルトには長年培ってきた『人を見る目』と言うものがある。

 その目を持って、レスカはアルベルトから見たハルトを知りたくなった。

 アルベルトは腕を組むと、僅かに唸りながら頷き、レスカを真直ぐに見つめた。

「――ナバナスに改革を起こし、その知的財産を放棄し、そしてこの街で民の為に立ち上がる」

 アルベルトの目が僅かに細くなり、レスカへと向かう。


「逆に問えば、レスカ様はトーマさんに何か欠点を感じられるのですかな?」


 ――あ、とレスカは言葉を失う。

 言われてみれば、確かにハルトに欠点らしい欠点は無い。優れた分析力を持って、作戦を立案する思考能力。数十人を相手に余裕を見せて勝利を収める戦闘能力。民の心を集める求心力。
 そして、死に行く者に対して、優しくも力強い言葉で覚悟を示す指導力。
 少なくても、それらを全て兼ね備える者を、レスカは知らない。

「さて、ではトーマ殿。これからどうするか、話を進めましょうかの」

 ザイールがレスカの沈黙を待ってハルトに尋ねる。それに対してハルトは一度頷くと思わぬ言葉を口にした。

「――腕に覚えのある傭兵って、扱える?」

 その言葉に、タッカ、リーンを含めたタルクァル側が目を見開き、アルベルトは僅かに目を細めた。

「……ふむ。さすがじゃの。大儀だけでは勝てんと分かっているようじゃ」

「大儀で勝てるんなら武力なんかいらんでしょ」

 目を細めたアルベルトに、ハルトは僅かに目を鋭くして答える。

「武力に勝てるのは武力だ。どんな信念だろうと理念だろうと、力が無ければ意味が無い。今タルクァルに必要なのは力だ。目には目を、歯には歯を。力には力を、だ」

 今までと同じやり方では勝利を収めるまでに掛かる時間が長すぎる。そして失われていく時間の分だけ、ゴルゾーンの民は苦しみを味わう事になる。また、その時間が長くなれば長くなる程、何とか持ち直した求心力は再び地に落ちていく事になるだろう。

 暫くの間、アルベルトの細くなった目と、ハルトの鋭い目が交差する。


「……器じゃのう」


 細くなった目のまま、アルベルトの顔に笑みが浮かぶ。勝利の為ならば、例え同じ手段であろうとも躊躇い無くそれを取る。そして、そこにどんな罵声が浴びせられようとも、責任者としてそれを一身に背負う。

 ――それだけの覚悟をアルベルトはハルトの目から読み取った。

「……大した器じゃないよ。俺は最短距離を行くだけだ」

 ハルトもまたアルベルトの笑みに笑みを返した。
 ハルトの言葉にアルベルトは軽く肩を揺すって笑うと、その目をザイールに向けた。

「全ての費用をわしに寄越せ。これからはトーマさんの命に従うよう」

 ザイールはその言葉に頷いた。

 ――全ての歯車が動き始めた。そう心で呟きながら。
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