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天悪っ!! ―― 天使と悪魔の恋のお話 ( 改訂版 ) ―― 作者:背谷 燈

第五章 ―― 魔王ハルトの改革記 ゴルゾーン編 ――

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第四十四話 ハルトはタルクァルの現状に唖然とする

 
 貧民街のリーダーは基本的にタッカとリーンだが、それ以外にリーダーに足る子供が居なかった訳ではない。ハルトはその子供達から一人、恐らく一番冷静に状況を判断できるであろう子供にある程度の事情を話し、食料分配などの方法等を教えた。
 もっとも、その子供も不安そうな表情を浮かべていた為、三日に一度ハルトが貧民街を訪れると言う約束を交わし、落ち着かせた。
 子供達の殆どがタッカとリーンについて尋ねてきたが、ハルトは念の為敢えて全ての事情を伏せ、二人はこの街を良くする為に、貧民街も良くする為に動き始めたと説明した。

 ある程度状況を飲み込ませ、落ち着きを取り戻させたハルトは、貧民街を出て再びタルクァル本部へと直行。

 タッカとリーンを連れていた時は出来る限り二人に負担を掛けない様に移動していた為それなりの時間が掛かったが、二人と言う枷の無い今のハルトにしてみれば、徒歩で二時間程度の距離は数十秒で事足りる。

 実際説明の時間も含め、ハルトがタルクァルを留守にした時間は凡そ一時間程度だろう。

 急いで戻ってきたは良いのだが、幹部メンバー並びに一部の哨戒を残したメンバーはそれぞれ仮眠に入り、ハルトはやる事も無く、天に上り行く太陽を眺めていた。
 ちなみにタッカとリーンは同室で、同じく仮眠を取っているらしい。

 ――ぼっちなハルトにとって、二人の関係は余りにも羨ましい。

 ハルトの身体は既に人間を辞めさせられている為、食わずとも、寝ずとも平気なのだが、かと言って、タルクァル存命と言う事実を掴み、今までの緊張から解き放たれたメンバーをたたき起こす事は忍びない。

 ハルトが窓のそばにあった執務机にある椅子を移動し、ぼうっとした様子で空を見つめ始めてから三時間、漸くハルトの部屋の扉を叩く音が聞こえた。

「どぞー」

 ハルトが緊張の一文字も無く答えると、そのドアが開き、ゼノンが顔を出す。

「これより会議を行いますので、会議室においで頂けませんか?」

 ハルトはその言葉を聞き届けると青い空を映していた目を閉じ、肩越しに振り返ってゼノンの表情を見て、微笑を浮かべた。

「ん、しっかり休めたみたいだね。皆ちゃんと休めた?」

 以前のゼノンの表情からは僅かに生気が抜き取られた様な色があったが、今のゼノンにはそれが無い。

「貴方のお陰で。タルクァル様が存命だと知り、レスカ様、並びに幹部を含め、兵士一同今まで無い良質な睡眠を取れたかと」

「そっかそっか。そいつは重畳」

 ハルトは両腕を天上に伸ばして軽く身体を解すと静かに立ち上がった。

「ま、何にせよしっかり眠らんと馬鹿な所で間違い犯すからね。休む時はしっかり休んだ方が良い」

 ――因みに、ハルトは自分が間違った判断を多々する事への自覚が無い。それは睡眠の必要性が無いハルトがしっかりと眠りをとっても変わらない。
 ハルトは椅子から立ち上がると、ゼノンが導く会議室へと足を運んだ。

 会議室には既にレスカを含めた主要メンバーが揃っていた。

 七人ほどが座れる円卓にはレスカ、アルヴァー、コンラート、フリッツ、そしてタッカが座っている。
 ちなみにタッカの後ろにはリーンがつき従う様に立っていた。
 残りの二席がハルトとゼノンの席なのだろう。
 会議室の出入り口から離れた所にある長い机には、何枚もの羊皮紙の束が置かれていた。

 ハルトが余った二つの内の一つに腰を掛けようとした時、そのほぼ対面側に居たレスカが僅かな音を立てて立ち上がった。

 ハルトがそれにきょとんとした目を向ける。

「……改めて御礼を」

 出陣の時とは違い、その波打つエメラルド色の髪をそのままに、レスカは静かにハルトへと頭を下げた。

「タルクァルとリネミアの保護、そしてこちらへと連れてきて下さった事、並びに、組織への助力、感謝いたします」

 ハルトは大げさにも見えるその所作に苦笑いを浮かべながら頬を掻いた。

「レスカさん、タッカとリーンの事はあくまで偶然。それに、この街をどうにかしたいって思ってたのは事実。たまたま歯車があっただけの話だよ。だから、感謝される様な覚えは無いって」

 ハルトはレスカに軽い口調で告げるが、レスカは顔を上げると、目を瞑り静かに首を振った。

「だとしても、トーマさんがこの街の未来を紡いでくれた事には変わりありません」

 レスカの真剣な表情に、ハルトはうーん、と頭を悩ませるが、一つ提案出来る事を思いついてレスカに告げた。

「じゃぁ交換条件にしよう。そうすればレスカさん達もただ感謝する必要は無くなるでしょ」

 交換条件、その言葉にタッカ、リーンを除く四名に緊張が走る。

 因みにタッカ達は『多分どうでも良い事なんだろうな』と心で呟いていた。

 タルクァル、そしてリネミアの保護、そして誘導だけでも十分な材料であるにも関わらず、その力を持って助力を行うと言う対価は如何ほどのものか。
 レスカ達が固唾を飲んでハルトを見守る中、ハルトは右手の人差し指を立てて、軽い口調でレスカに告げた。

「とりあえずさん付けは止めよう。一応俺もタルクァルメンバーの一人になった訳だし、んな他人行儀な言い方せんでも良いでしょや」

 その言葉にタッカとリーンはやっぱり、と言った様子で微笑を浮かべ、他の五人は呆気に取られた表情を浮かべた。

「あー後そうだな。敬語止めよう敬語。俺そんなに畏まられる様な人間じゃないしさ、別に普通に命令形でもええのよ。って言うか俺、レスカさんの部下になる訳じゃない? 一々部下に敬語使う必要性も無いでしょ」

 その言葉に今度はタッカとリーンに複雑そうな表情が浮かぶ。
 畏まられる所か、ハルトはこの世界の王にして最強の象徴だ。そんな存在が己に対して命令形でも構わない、と発言するのはどうなのだろうか。

「この条件が飲めないなら、俺は助力を拒む」

 二人にとって、それはもはや条件ではなく、ハルトの我侭にしか聞こえない。
 ハルトの発言の後に、静寂が訪れる。

「……えっと……では……」

 レスカが戸惑った様な表情でハルトに尋ねる。

「……ト、トーマ君、で、良いでしょ……良いかしら?」

 ハルトが如何に自分を部下として扱えとは言っても、レスカにとって見ればハルトはタルクァルとリネミアの恩人であり、崩壊するタルクァルを留まらせた大きな恩がある存在である。

 流石に呼び捨てする事は出来なかった。

 ハルトはそれに笑顔で頷くと、引いた自分の席に腰を下ろした。それを待って、ゼノンもまたハルトの隣に腰を下ろした。

「……貴方は底意地の悪い方だ」

 横目でジトリと見つめ、ボソリと呟くゼノンにハルトは肩を竦めて見せる。

「だって、もうオイラゼノンさん達と対等でしょや。俺だけ特別扱いとかされたらバランス崩れるっつうの」

 その声もゼノンに届くか届かないか、程度のものだ。

「しかし、交換条件と言われては、皆身構えるでしょう」

「こうでもしないと恩人のままでしょ。俺は只の旅人なんだからそれで良いの。恩人とかもう良いっつうの」

 二人がヒソヒソと何か会話を交わすのを見つめつつ、レスカは僅かに混乱する思考を落ち着かせると、右手を口元に持って行き、僅かに咳払いをする。

「……で、では、会議を。ゼノン、地図を」

 まだ微妙に戸惑いから抜け出せない様子のレスカがゼノンに言葉を掛ける。ゼノンはその言葉を待って立ち上がり、後ろ側にある机に置かれた何束もある羊皮紙の一つを取り上げると、それを円卓まで持って行き、広げ、円卓の上にあった何個かの石をそれぞれの端に置く。

「……これは、この街の地図?」

 ハルトが立ち上がってその前景を見る。
 僅かに楕円型を描いているのは、恐らく街を覆う壁だろう。その東西南北にはそれぞれ門らしき印が刻まれている。
 中心部にある並んだ線は恐らく大通り。
 所々歪んだ線を描いているのは、恐らく下町などの通りなのだろう。ハルトはそれを追っていき、要所要所に凸状の印が幾つかある事を確かめる。
 その凸状の印は内部に○、△、□といった、様々な記号が刻まれいる。

「恐らく、トーマ君はまだこの街に慣れていないと思うから、一から説明します」

 微妙に敬語になっているのだが、突っ込む事はせず、ハルトは言葉を待った。

「この二本の線は、街の中心街にある大通りです。そこから派生する様に伸びる線は住宅街のものだと思って下さい」

 ハルトは地図を眺めながら、ふむ、と頷く。

「所々にある凸状のマークは領主私兵の駐屯地です。内部に記されている記号で凡そですが、その人数などの規模を示しています」

 ハルトはそれを聞きながら素早く地図上にある駐屯地の数を数える。
 それらの中で特に目立つものは十箇所。
 東西南北に設置された門に各一つ。そして、領主宅へと至る三つの道に各一つ。
 大通りに面した箇所が最も多く、三つ。恐らくは大通りの入り口に一つ。中間に一つ。そして、領主宅へと至る道に一つの印がある。
 入り口と中間にある凸状の印にある記号は同じだが、領主宅へと抜ける記号だけは違う。

「入り口、中間、そして大通りの終わりにある敵方の人数は?」

 ハルトの質問にハルトの隣に居たゼノンが答える。

「入り口と中間箇所に設けられた駐屯地にはおよそ十人前後。十五人まで居ない事は確認しています。大通りの終わりにある駐屯地にはおよそ三十名ほど」

 なるほどな、とハルトは頷いた。
 つまり、大通りだけで五十名から六十名。領主の私兵の一割近い私兵が切り裂かれている事になる。更に言えば、そこに刻まれている記号を見る限り、東西南北に設置された駐屯地にも三十人前後の人員が配置されている。

 以上の事から導き出せば、門に配置されている人数が百二十名、大通りを六十名として仮定すれば、ここで百八十名と言う人員の数値が出る。

「領主の私兵は何人くらいだっけ?」

「およそ、七百人です」

 ハルトの疑問にレスカが答えた。

 当然それは正確性を欠いた数値ではあるが、十分な目安にはなる。領主の私兵七百名に対し、現在大通りや各門を守っている人員が百八十名。つまり、残りの五百二十名程が領主宅へと通じる道に駐屯地を構えている事になる。
 もっとも小さい駐屯地が幾つかある為、そちらにも人員は裂いているだろうが。

 そう仮定すれば、この三つの駐屯地には最大で各百三十名以下が配置されてるだろう。

「……この三つには何の印も無いけど、それはどうして?」

 ハルトがその部分に指を差し、ふと気付いた事を質問してみた。レスカがその質問に苦しそうな表情を浮かべ、ゼノンがレスカの代わりに答える。

「その三箇所の正確な人員の数は分かっておりません。斥候を数度送りましたが……」

「……なるほど。任務全う出来なかったか」

 ちらりと見たレスカの辛そうな表情と、ゼノンの苦々しい口調でハルトは悟る。

「対するタルクァル側の戦力は?」

 真剣な眼差しで地図を見ながら告げるハルトの言葉に、アルヴァーが腕を組みつつ答える。

「大体百だ。まぁ、正確には俺達を含めなきゃ百三名」

 ふむ。とハルトはアルヴァーの言葉に頷いてから、その目をアルヴァーに向ける。

「正直な所、どん位の強さなの?」

 アルヴァーはその言葉に顔を歪め、その目をレスカへと向ける。

「構いません。トーマ君はタルクァルの一員です。今更隠す事は無いでしょう」

 アルヴァーはレスカの真剣な表情を見つめた後、深い溜息を付き、頭を掻きながらその質問に答えた。

「俺の部隊なら一人で二人から三人は食えるだろ。だがまぁ、コンラートやフリッツの部隊では、正直二人で一人食えるかどうかな」

 コンラートとフリッツはその言葉に苦々しいものを表情に浮かべた。
 ハルトはその言葉を聞いてから目を瞑り、何かを思案する様にアルヴァーに質問を重ねる。

「内訳は?」

「俺の部隊が三十一人。残りがコンラートとフリッツの部隊だ」

 その言葉にゼノンが続ける。

「私達の部隊は諜報が主ですからね。正直、兵力に期待は出来ませんが、十名ほど。勿論これは先程のアルヴァーの言葉からは除外されています」

 ハルトはその言葉に腕を組んで席に腰を下ろし、僅かに呻いた。
 劣勢なのは分かっていたが、これは想定していたよりも酷い。ハルトの想定では私兵の二分の一程度の戦力はあるだろうと思っていたが、実質七分の一だ。

 アルヴァーの言葉の通りなら、アルヴァーの部隊だけで九十人程度の相手が可能になるが、他の部隊、つまりフリッツやコンラートの部隊では最悪三十名程度しか相手に出来ない。

 つまり、善戦したとしても、百五十名が良い所だろう。

「……ゼノンさん、他に問題点は?」

 取り合えず今は必要な材料を集めて判断に足るものにしなくてはならない。



「……兵糧が既にありません」

 ――その言葉にハルトは目を見開いて隣にいるゼノンを見つめた。



「本日の作戦で、タルクァルは最後の戦いをする予定でしたので、備蓄していたものは既になく、尚、資金も底をついています」

 その言葉に、ハルトだけではなく、タッカとリーンも目を見開いた。
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