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終焉世界 作者:ミノ

終わりの終わり

42/50

42 チャールズ・アシュフォードの奇妙な事件

 教師をしていたチャールズは当時のイングランドでメソジスト派の熱心な支持者だった、らしい。

 この冒頭部分から俺はつまづきかけた。

 メソジスト派というのが地球の歴史上の言葉かどうか、自信がなかったからだ。

 この世界は言葉が違っても意思疎通ができて、それは文章でも同じことで、だから古い英文で書かれていても頭に入ってくる。仕組みは分からないがそうなっている。神の祝福のおかげだとしか言いようがない。

 とにかくわかることとして、キリスト教への信仰について常に真剣に考えていた人物だったらしい。メソジストというのはたぶんプロテスタント運動の流れのひとつだったと思うんだけど、この辺りは本当に自信がないので割愛させてもらう。

 チャールズはある日突然何の前触れもなく地球からこの世界へ転移してきた。30代の頃だったという。

 全く突然のことで大いに戸惑ったようだ。まあ当然だろう。俺もそうだった。誰だってそうだ。

 少なくともチャールズは俺より幸運だった。

 なにしろ当時は毒の灰なんて影も形もない世界、神秘と驚きに満ちた魔法の世界だったからだ。

 それがどれほど素晴らしい光景だったかに多くのページを割いていて、その時の感動が読んでいるだけで伝わってきた。もしやこれこそが天国か、とまで書いている。

 その後彼は世界各地を周り、故郷に帰る手段がないか、自分は何のために魔法の国に呼び寄せられたかを突き止めようとした。この数年で見聞したことを詳細にまとめている。ファンタジー旅行記だ。読み応えがあった。

 800年前の時点ですでに魔法文明は折り返し地点を過ぎていて、ずいぶん衰退していたようだけど、それでもいま俺がいる現代の死の世界とは全く比べ物にならない時代だったようだ。

 当時は魔法の塔も4本建っていて、魔法の力が今よりも桁違いに強かった。だから高度な魔法でなら戻れるのではないかという期待を抱くのも当然だった。

 チャールズは聡明だった。表面上の言葉にとらわれない本質をすぐに見抜いていた。この世界の『魔法使い』とはむしろ聖職者に近く、『魔法』とは神の祝福の表れで、目に見える形で生活を支えているのだと。

『この世界で暮らす人々は主の存在と愛を微塵も疑わない。魔法が存在することそれ自体が神の証明であると考えている。常に神の愛がある。我が聖書の神と同じく』

 そんな風に表現して、場所も方法も違えど神の愛は不変であること手記の中で何度も強調している。

 それを追求する内に、チャールズは自ら魔法使いとなることを選んだ。

 俺はこのエピソードをすごく意外に思った。

 異世界人が魔法使いに成れるなんてありえないと思い込んでいたからだ。

 俺は魔法がどんな仕組みで働いているのかも知らない。地球に魔法がないのだから当たり前だ。当然地球出身者には魔法の才能なんてあるわけがない。そう思っていた。

 何がどう違うのか、彼が熱心な信仰者だったことと関係しているのか、とにかくチャールズは魔法の素質があった。

 修行にもあっさり順応した。

 こっちの世界の一般的な修行僧よりもはるかに早く魔法技術を身につけていったようだ。

 かなり高位にまで上り詰め、魔法の実力も頭のキレも業界で噂になるほどの人物になったチャールズだったが、次第に後悔し始める。自分は目的と手段を混同してしまい、あるべき方向とは異なる道に進んでしまったのではないかと。

『魔法という目に見える力を求め、身分を高めることに魔法を使うのであれば、私は腐敗した教会内の生臭坊主と何が違うのか?』

『しかしながらこの世界で目にし、自らが扱えるようになった魔法の力は腐敗とは別のものであるはずだ。それを突き止め無くてはならない。我が信仰に誤りなきことを証さなければならない』

 このあたりの感覚は、難しい問題だ。

 何かを熱心に信じることが人生の中心にある、という感覚を特に意識したことのない俺と、信仰のあり方を常に命題にしてきた18世紀のチャールズ・アシュフォードの間は、地球と異世界の隔たりと同じくらい違っているかもしれない。

 チャールズは魔法と魔法使いとは何者であるかをもう一度徹底的に定義しなおし、魔法を行使することの本質を考えた。信仰心であり、好奇心でもあった。ひとりの人間として抑えられない衝動が彼の背中を押した。

 チャールズは半端を許さなかった。

 信仰か、魔法か。聖書の神か、魔法の神か。両者は同一か、別物か。

 葛藤を抱えながら、目に見える形で顕現している魔法の方が、より神の真実に近いのではないか――という、迷いのようなものが手記から浮かび上がっていた。

 熱心な人間は方向が変わっても熱心になれるらしい。

 悩みつつもチャールズの魔法への適正は目覚ましいものがあって、ついには当時のトゥルーメイジとの面会を許され、縞瑪瑙オニクスの塔の力を高い優先順位で使用できる権限まで授かった。遅咲きの飛び級ってところだろうか。

 40を前にして、彼はふたつの神が頭の中で統合できないまま、魔法の塔でとある純正魔法創造物アーティファクトの制作を依頼された。

 重要施設防衛用の自律思考型ゴーレムという、当時のチャールズとしてはそれほど難しくない依頼だった。

 悲劇の始まりというのなら、このゴーレムがきっかけになった。

 チャールズはゴーレムの製作途中に『おかしく』なった。

 信じられないことだけど、彼が『おかしく』なったせいで、つまり彼ひとりのせいで、縞瑪瑙オニクスの塔は破壊された。地球で例えると、自由の女神を個人で破壊するようなものだ。

 チャールズはテロリストになってしまった。

 チャールズの身にいったい何が起きたのか?

 話はもう少し続く。

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