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終焉世界 作者:ミノ

終わりの途中

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21 狂人兵団

 こんな時に人間同士で争っている場合じゃない、というのは日本にいた頃にもよく聞いた言葉だ。

 もちろんそれは映画とかマンガの中での話だったけど、毒の灰が降るこの世界では架空ではすまない。本当に切実な問題だった。

 3年前にこっちにやってきた俺は、人間同士が争っていた時代を直に見たことはないし、人づてや当時の記録でしか知らない。

 いわゆる『この機に乗じて』ってやつで、かなりの泥沼状態だったことは間違いなかったようだ。

 あくまで過去形だ。

 戦争は終わった。もう起こらない。

 当時の権力者たちは灰を甘く見ていた。だから気づくまでに10年ほど時間が必要だった。

 領土そのものが死んでいくのに、戦争を続けても無意味だってことを。

 当時の食料生産で養える数まで人口が激減して、国家という枠組みは崩壊した。

 生き残った人類は協力するしかなくなった。

 極限状態もピークを超えると、人間というのは案外お互いを助けあうものらしい。

 それともこの世界の神様が与えた。どんな言葉でも意思疎通ができるという祝福のせいかもしれない。

 話が通じる相手同士なら、戦争に資源を費やしている余裕なんてどこにもないという現状を理解し合える。

 だからもう戦争は起きないし、起こしても利益がないし、起こす気力もない。

 そのはずだった。

 話が通じる相手なら、お互いの状況を理解できる。

 では話が通じない相手なら?

 そんな連中が何を考えているかなんて、俺には知りようがない。

 これから始まるのは戦争だ。

 もうすぐ俺は、傍観者ではいられなくなる。

     *

 俺が三年間過ごしてきた街は、灰賊による襲撃の知らせが入ってきたその日の内に通用門を一か所落とされ、市街戦が始まっていた。

 最後の魔法と塔を擁する国が、塔への中継点と防衛を兼ねて造った神聖都市クリュミエリという名の街だったそこは、国がなくなり護法軍の指揮下に入ってからは単に『塔の麓の街』としか呼ばれなくなっている。

 名前は変わっても都市の構造は守りに適していることには変わりなく、護法軍が常に駐留しているからちょっとやそっとじゃ侵入なんてできない。

 それも当然で、最後の魔法の塔はこの地上の魔法使いに力を与えてくれる最後の生命線だからだ。

 俺には仕組みを理解できないが、塔は魔法の力を発信するアンテナみたいなものだという。魔法使いはそれを受信することで力を発揮する。

 塔が破壊されればどうなるか。

 修行僧クラスの下位魔法使いは自力で魔法を制御できなくなる。霊薬の生産が止まり、防毒マスクがまともに出まわらなくなるだろう。ごく基礎的なインフラも破綻し、代用食料が作られなくなれば間違いなく餓死者がうなぎのぼりだ。

 中位、上位の魔法使いも同様にパワーダウンしてしまう。こっちも深刻だ。人類の生活域に防毒隔壁を作れなくなり、フィーンドと戦う武器を製造できない。毒の灰を食い止める魔法が維持できなくなれば、絶滅の波が連鎖的に起こるのは必死だ。

 トゥルーメイジは魔法の塔によることなく魔法を使えるらしいけど、それでも全く影響がないというわけではない。

 世界中の残された魔法使いが総崩れになればトゥルーメイジが表舞台に立たざるを得なくなる。そんな状況が続けばトゥルーメイジの負担があっという間に増して、限界が来るのは目に見えている。

 と、まあそんな風に全部がドミノ倒しにダメになってしまう。世界は完全に灰で覆われ、衣食住全てが崩壊し、人類は砂漠の真っ只中とか魚のいない外洋に身ひとつで置き去りにされたも同然になるだろう。

 だから、魔法の塔とかつてクリュミエリと呼ばれたの街の守備は、世界で一番堅い。

 灰賊がちょっかいを出せる場所ではないし、これまで幾度となくあったフィーンドの来襲も防ぎきってきた。俺が住み始めてからもそういう事態は何度か見かけたことがある。

 フィーンドは毒を吸った人間の体組織が変質してしまった化け物で、本人の意志をねじ曲げて殺人を犯す。これは前にも説明したと思う。

 じゃあなぜ殺すのか――というと、フィーンドは灰憑きとも呼ばれている通り、灰の意に従っている。

 灰の意ってのもおかしな言葉だが、元々地獄から吹き上がった灰なのだから要するに地獄の意向に沿った行動を取る。

 地獄が地上にそうしたように、フィーンドは人間にそうする。わかるだろう? 地獄産のものは、どいつもこいつも例外なく世界を滅ぼそうとしているんだ。

 フィーンドは人間への敵対という目的がはっきりしているから、灰賊なんかよりはるかに統制のとれた襲撃をかけてくる。麓の街に限らず、世界に残された村、都市、坑道、そういった人類の生息地に押し寄せる。まるでゾンビ映画だ。

 対抗できる力は護法軍が持つ。護法軍にしかできないとも言える。

 だから護法軍の庇護下に麓の街に攻め入るのは自殺行為のようなものだ。

 相当の大軍勢でもなければびくともしないだけの備えはある。

 その街に、大軍勢が突如攻撃を仕掛けた。

 例外なく気の触れた灰賊の群れ、その数およそ300人。

 狂人の寄せ集めがどうやって連携しているのか見当もつかないが、ともかくやつらは攻めてきた。

 そして、初戦は灰賊軍の優勢だという。

 街が戦場になる? そんなことになって、俺はどうすればいいんだ?

 旧アベリー市に足止めを食らい、帰ることもできず、他に行くあてもない。

 意識が半分体からずれてしまったみたいだった。こっちの世界で築いてきた御者としての生活には戻れないのか?

 世界の命運を左右するかもしれない戦闘が一週間ほどの距離の向こうにあって、その様子を覗き見するには遠く、無関係だと言い切るには近すぎる。

 ただ時間だけが過ぎていく……。
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