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ラブカクテルス その4
作:風 雷人


いらっしゃいませ。
どうぞこちらへ。
本日はいかがなさいますか?
甘い香りのバイオレットフィズ?
それとも、危険な香りのテキーラサンライズ?
はたまた、大人の香りのマティーニ?

わかりました。本日のスペシャルですね。
少々お待ちください。
本日のカクテルの名前は夢の記憶でございます。

ごゆっくりどうぞ。


俺は彼女と喧嘩をした。
些細な事が原因だったが、いつも冗談混じりで俺が退いていたのに、今回は何故かそれができずに、言い合いになった結果、俺はその場がたまらずにイヤになって、バイクで逃げるようにして去ってしまったのだった。
暫く走ると雨が降ってきた。その雨は次第に強まり嵐の様になった。
俺はバイクを止めることなく、その雨に打たれた。何もかもがムシャクシャしていて丁度いい。俺はスピードを上げた。

挙句の果てに、転倒したのだった。

気が付くと、目には白く、穴が無数に空いた清潔感のある天井が見えていた。
起き上がろうとしたが身体のあちこちが痛み、動けなかった。それで俺は入院していて、ココが病院だということがわかった。
暫く天井を見つめ、あれからどれ位時間が経ったのかと考え、ぼーっとした。
そして、たまには入院もいいかな、なんてポツリと呟いた。
少しの間、静寂の中にいた俺は彼女の事を考えていた。
携帯電話も確認出来ないし、彼女は俺の実家を知らない。きっと連絡をくれていても繋がらない俺に愛想をつかしているに違いなかった。
俺は少し後悔して、涙を流しそうになった。
その時、いきなり隣のベッドから叫び声がしたのだった。
それまでの静寂をふいに打ち破られた俺は、身体をビクつかせ、反射的にナースコールのボタンを探した。
その叫び声は言葉に変わり、かなりの暴言で人を責め、やがて誰かから逃げて、捕まり、何かされている、そんな様子を激しく訴えるものとなって、そしてピタッと止んだ。
俺は慌てていた身体の動きを暫く止め、やがてゆっくり力を抜いた。
寝言だったようだ。
俺は舌打ちをして、なんて迷惑なお隣さんだとため息をもらし、そして、いつの間にかまた眠ってしまったのだった。

明くる朝、目が覚めると年配の看護婦さんが俺の様子を見に来てくれ、気が付いた俺に優しく大丈夫かと尋ねた。
頷く俺にやたら静かに、そして丁寧に、色々と話をしてくれた。
どうやら俺は三日程意識がなかったらしい。それは頭を幾らか打ったせいだと聞かされた。
その他に身体のあちこちに打撲と腕の骨折。二ヶ月近くはココにいる羽目になるそうだと俺は告げられ、少しづつ力が抜けていくのを覚えた。
そして、食事が食べられれば運んでくるし、その後家族に連絡をとってくれると言って看護婦さんは部屋を出て行った。
俺は静かな声で礼を言った。すると、横から不意に声を掛けられ、そちらを向くと貫禄のある痩せた老人がこちらを見ていた。
俺が軽く会釈をすると、老人はかなり長い間寝ていて疲れたんじゃないかと、少し冗談混じりに話し掛けてきたた。
俺は一応、愛想笑いをした。
しかし、老人はそんな様子をヨソに、ヤケに親しげに喋りつづけた。
俺はどうでもいい話になるべく顔を合わさないようにしながら、適当に軽い相づちをついてあしらったが、そんなことはお構い無しだった。
そして暫く喋り続けた老人は、少し疲れたから横になるとベッドに伏せると、最後に自分の体は一人のものではないのだから程々にな。と言うと、静かになった。
俺は小さいため息をついて肩をすくめた。
よっぽど暇な生活をしているようだ。先がおもいやられると、またため息をついた。
そして次第に俺も眠気に負けてうとうとして眠りについたのだった。
眠りに着く直前、昨日の寝言のことが気になったが、眠気を遮るほどではなかった。

それから幾時間か眠っていたとこで誰かに起こされ目を覚ますと、そこには母親の心配そうな顔があった。
おふくろは一言目に親不孝者と、俺の頭を軽くこずいた。
後ろに見えた親父は黙って部屋のあちこちを見回していた。
その後、親たちはベッドの周りを小綺麗にし、必要になりそうな物を一通り置いて、手続きをしてから帰ると言った。
俺は誰かから連絡はなかったか、念のため聞いてみた。だが、やはりどこからもそれらしいものはなかったと言うことだった。
俺は二人が帰った後で彼女に連絡を取ろうか迷ったが、別れ際の事を思い出し、結局その日は連絡することはできなかった。

その夜、俺は変な寝苦しさで目が覚めた。
そして、その原因はすぐにわかった。
それはまた、お隣さんの寝言によるものだった。
老人は昨夜のようにかなりうなされ、まるでそれは何かに締め上げられているかのように聞こえた。俺はまた昨日のように舌打ちをすると、寝返りを打って逃げられない分、できるだけ首をヒネり、少し隣に聞こえるくらいに、参ったなー。と呟いてみたが、無駄な抵抗だった。

それから暫くは寝着けずに、聞きたくもない寝言を耳にしながらイライラしていた時、老人は苦しそうな声で、指輪は渡さん。渡すものかっ。と叫んだ。
俺は思わず、また首をヒネり、隣の方に顔を向けた。寝言は更に続き、あいつの形見をお前らに渡すものかーっ!と怒鳴り口調でまた叫び、かと思うと、いきなり静かになった。
そして、少し興奮した後の荒い寝息だけが聞こえてた。
俺は体を固まらせて少し思った。
あの寝言はいったい何なんだ。もしかしたら実際にあった事からの悪夢なのか?それって、この老人の過去に何があったのだろう。
そしてそれは、身体が動かせずに寝ているだけの俺には、十分すぎるくらい、興味をかき立たせるものとなった。
それからと言うもの、俺は毎晩のように聞く老人の寝言を断片的に拾って適当に話を繋ぎ合わせていった。
そして、その話がパズルの様にハマっていくに従って、俺の体の具合も徐々によくなり、俺は起き上がれるようにまでになった。
そして俺は、お隣さんともかなり久しい仲になってはいた。が、なかなか寝言の話題については何も触れられずにいた。

そんなある晩、お隣の老人が俺にいい物があると消灯時間すぎに声を掛けてきた。
そして俺の前にウイスキーを出し、口を尖らせ、その前に人差し指を立てて強くあてた。俺はウィンクをして頷いた。

二人はチビチビと乾杯をし、割に久々の酒と言うこともあり、気持よくなるまでにそう時間も量も必要ではなかった。
俺は酔った勢いで、例の気になっていることを聞こうと思っていたが、キッカケを作ってきたのはお隣さんの方だった。

お隣さんは少しほろ酔い気味で、心底惚れた女はいるか?と俺に聞いてきた。俺は、彼女の顔がすぐに浮かんだが、笑ってゴマカシ、同じ質問を返してみた。
お隣さんは、ウイスキーをまたちびりとイクと、少しため息混じりに、いたさっ。と答えて、話し始めた。

幾らかのあらすじは何となくわかっていたが、俺はワクワクした。


彼女とは、お隣さんが若い時に惚れ合った仲で、自分で言うのもなんだが、美男美女だったと少しおどけた。

その頃のお隣さんは手に負えないくらいのヤンチャなチンピラで、周りでも有名だったが、彼女と出会って、悪さから足を洗おうとしたらしい。
しかし、厄介だったのが、彼女の方で、先方は対立していたシマ、つまりヤクザさんの親分さんの娘だったそうだ。

当然、タダじゃ済まないことはわかっていたが、二人は諦めなかった。
だが、ことは思っていたより難しく、結局二人は逃げる事にしたが、それも直ぐに追手に見つかり、娘は連れ戻された。

しかしその前夜、娘は彼女の母親からの形見である指輪を彼に手渡していた。
そして指輪を持った、若い時のお隣さんは機会を見計らうつもりで一時身を隠した。
一方、彼女の方は、連れ戻されてからも必死に親に説得を試みたが、一時期の迷いと相手にされず、そのうち、落ち着かせようと親は無理矢理組の若頭とくっつけようと企んだ。
彼女は逆らったが、親の策略からは逃れるのが無理だとわかり、自らの命を絶ってしまったそうだ。その事は風の噂で若いお隣さんのところにも伝わり、やがて彼は追われる身になった。

彼女の親は、娘が身につけていた指輪と、お隣さんの命を狙った。
そして、とうとう追い詰められ、お隣さんは囲まれたが、意地でも指輪を渡そうとはしなかった。
そして彼は最後の手段として、その指輪を、なんと飲み込んのだった。

それを見た若い衆は、お隣さんに殴る蹴るの暴行を加えたが、彼はまともになると決めていたので、決して手を出さずに耐えた。そして、ボロボロになった姿で、覚悟を決めたお隣さんは来ていたシャツの胸元を自ら引き裂き、
俺の中には彼女がいる。殺してみせろ、あの世で一緒になってやる。と叫ぶと、そこに突然イナズマが轟き、大地を揺すった。
若い衆たちは吹っ飛び、お隣さんは大の字に倒れのだった。

そこに、それを見ていた彼女の親は、お隣さんに向かって、自分の娘が惚れた男を確かめたかったと言うと、彼を抱きかかえて、娘の名前を叫んそうだ。そしてそれ以来、お隣さんは誰からも追われなくなり、そこから遠い所でひっそり暮らすことにしたらしい。
そして、それから暫くして気ずいたらしいが、不思議なことにお隣さんはここ最近まで、病気と言う病気、怪我と言う怪我をすることがなく、病院になど掛かったことがなかったそうだ。
だが、さすがに今回は俺も順番が回って来たらしいと言った。
身よりがない彼に医者は癌を告知してきたそうだ。

しかし、そんなことはいいんだ。とお隣さんは言うと、胸を軽く叩いて少し自慢気な顔をした。そして続けた。
具合が悪くなって、病院に来た時、俺はレントゲンを撮られた。そして、医者が言った。
貴方の心臓の一番近い肋骨に何か、指輪のようなものが刺さっている。覚えがあるかと。
俺は直ぐにピンときた。それがあの時飲み込んだあいつの指輪だと。殴られ、蹴られたお陰で、指輪はどういうわけか、あれからずっと一緒に俺の中の心臓、つまりは命の傍で体の一部となり、俺を守っていてくれてたんだと。だから、医者から癌を知らされた時もお隣さんは、嬉しくて、笑いと涙が止まらなかったそうだ。

俺はあまりに壮絶なお隣さんの人生に感動すら覚えた。
しかし、お隣さんは、おーきくアクビをし、なんてなっ。とおどけたが、きっとそれは照れ隠しで、話は真実に違いなかった。

少し喋り過ぎたとお隣さんは眠ってしまったが、俺は暫く興奮して寝ることが出来ず、何故か俺は無性に彼女に逢いたくなっていた。
そして、何とかよくなった体を引きずって、公衆電話まで歩き出した。


老人はベッドの中で古い映画は良かった。夢に見るくらい何回もみたものなーと、涙を流し、痔で苦しんで、直りかけたオシリをサスッたのであった。

おしまい。


いかがでしたか?
今日のオススメのカクテルの味は。
またのご来店、心よりお待ち申し上げております。では。














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