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ホワイトボードラバー 作者:藍上尾わをん

第2章 新生編

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田舎の残念村で催された花火大会、どんな内容?

 十時きっかりにツイッターを起動すると、今日フォローしたての『大喜利六十分一本勝負』……ワンギリのつぶやきが目に入った。どうやら私がツイッターを開いたのとほとんど同じタイミングで、ワンギリのツイートも発信されたらしい。思っていたよりも時間に正確な大喜利企画なようである。
 ワンギリのルールはシンプルだ。十時きっかりに本アカウントからお題が出される。参加者はそのお題に対して、一人一答ずつ、回答を送る。
 後はアカウントを管理する運営の人が締め切りの後に良かった回答をピックアップしてくれるから、それを待てば良い。
 つまり参加する側にとってやるべきことは、お題を見て回答を送る、ただそれだけの実に簡単な大喜利企画なのだった。
 こんなお手軽なものが毎日行われていれば、まめな人なんかは毎日毎日時間になったらツイッターをチェックして投稿してしまうかもしれないなと思った。
 何はともあれ、まずはお題を確認しなくては話にならない。私はワンギリのツイートから、今日の答えるべきお題を確認した。

『田舎の残念村で催された花火大会、どんな内容?』

 なるほど。ただの花火大会じゃなくて、残念村で行われた花火大会と。ということは、花火大会に、いかに残念な要素をプラスできるのか、という勝負になりそうだ。
 ワンギリのツイートには、リプライという形で返信をつけることができる。ここを使って私たちは回答を送ることになるのだが、リプライの一覧を表示してみると、お題が発表されて間もないというのに、もう既にいくつかの回答が送られ始めていた。
 まず真っ先に届いている回答は、さとりさんという方からだ。
『線香花火しか無い』
 ああー、確かにこれは残念だ。花火大会と銘打って線香花火だけだったら、確かに白けてしまう。
 続いての回答は、兄貴さんという方から。
『室伏が人力で空に投げている』
 室伏すごすぎるだろ!? なんで上空何百メートルなんて地点にまで一人で投げ込んでいるの!? そしてこの光景はどちらかというと残念というより何かもっとすごいものを見てしまった感じがある! 花火には全然意識が向かないけど! 室伏一人勝ちだけど!
 ワンギリのツイッターアカウントのフォロワー数は、優に千人を超えているようだった。そのため、一時間という時間の制限がある中では、続々と回答が集まってくる。
 朝霧さんの回答、『花火が打ち上がった瞬間、エンダーィイアァァーイとボディーガードのテーマが流れる』。気が散るな!
 珊瑚和尚さんの回答、『隣村のマジ凄村の花火大会がめちゃくちゃ盛り上がってる』。隣村でめちゃくちゃ盛り上がられちゃあたまったもんじゃないな! というかマジ凄村て!
 とんぼさんの回答、『エア花火大会だ』。これは切ない……。みんなであるはずも無い花火が打ち上がる様を、エアーで眺めてみんなで息を合わせて同じタイミングでわーわー騒ぐ様を想像したら、なんだか泣けてくる……。
 と、続々と集まってくる回答を眺めていると、ふと見覚えのある名前が目に飛び込んで来た。
「次は……雑草さん? あ、これって、藤根さんじゃん」
 生徒会室での大喜利でもお題が出るや速攻で手を挙げてくる藤根さんなのだが、インターネット上での大喜利でも即断即決で回答を送りつけたようだった。
「どれどれ、藤根さんの回答は……」
 私はスクロールをして、雑草さんこと藤根さんの『田舎の残念村で催された花火大会、どんな内容?』に対する回答に目を通す。
『雨』
 シンプルだ! でも確かにめっちゃ残念だ! でもシンプルだ!
 このど真ん中ストライクみたいな正解の答えが大喜利としてどの程度評価されるかは分からなかったけれど、私はとりあえず藤根さんのツイートを、お気に入りに登録しておいた。甘やかし過ぎかもしれない。
 他にもたくさんの回答が、続々とワンギリへのリプライという形で寄せられて来ている。しかしずっと見ているだけというわけにもいかないので、私もそろそろ回答を考えなければならないだろう。
 田舎の残念村で催された花火大会。このお題の要素としては、残念村と花火大会。アプローチを仕掛けやすいのは、やっぱりお題の主軸になっている花火大会の部分だろうか。
 花火大会。
 そういえば夏場になれば、大規模な花火大会が日本中のあちこちで催されている。
 隅田川花火大会に、江戸川区花火大会、多摩川花火大会。なにわ淀川花火大会、信濃川を舞台に長岡まつり大花火大会なんてのも有名なやつだ。まさに花火大会は、日本の夏の風物詩。
 ……だというのに、私というやつは昔っからの出不精で、あまりそういう花火大会に足を運んだことが無かったりする。まあ、自宅のマンションのベランダから、近くでやっている花火大会くらいなら見えるし、隅田川花火大会にいたってはテレビ中継までやってるし。テレビでまで、わざわざ花火大会見たいとも思わないけど。
 そう行ったわけで私の中で花火大会に対するイメージが、そこまで緻密に描けていなかったりする。
 人ごみ、人ごみ、人ごみ。
 あ、駄目だ。花火大会の悪い面にだけ目が行っちゃってる。
 違う、そうじゃない。
 もっとこう、プラスの感情。プラスのイメージ。
 どーん、どーん、どどーん。どーん、ぱらぱらぱら……。道を行く人たちは皆楽しそう。屋台がたくさん出ていて、下駄をつっかけてカランコロンと音をたて。浴衣を着た女性たちがうちわを片手に行き交い、おじさんたちはビール片手に楽しげに。
 みんなで夜空を見上げて、一瞬の光に酔いしれる。
 たまやー、かぎやー。
 ……あ、なんか思いついた。
 私は頭に思い浮かんだ要素を、うまく回答として見栄えが良くなるように手探りで整えていく。
 まずはそのままスマホに打ち込むと、読みやすさを考えて、少し文字を削って、足して。括弧をつけて……よし。
 私はワンギリアカウントに向けて、一つの返信を送った。

「『たまやー』『かぎやー』『アイヤー』 中国の文化が混じってきている」

 ワンギリで答えられる回数は、一つのお題につき一度まで。なので一度送ってしまえば、後は他のみんなの回答をひたすらに眺めて楽しむだけだ。
 しばらく眺めていると、見覚えのある名前が何度か目についた。
 蘭々さん、これは折原さんのツイッターアカウントだ。
『黒い花火しか用意してない』
 残念だ……。夜空に浮かぶ黒い花火とか、見える気がしないもの……。
 蛹さん。これもどこかで見覚えのある名前だった。何だろうと考えをめぐらせていると、不意に思い出す。
 そうだ、私たちが大喜利女子会に行った時に、確かそんな名前の人がいた気がする。キャスケットを被った女性だった……ような気がする。やはりあの人たちもこうしてネット上で大喜利をしているんだなと思うと、不思議な感覚に陥るのであった。
 回答は『お釈迦様が天国から垂らした線香花火に地獄の亡者が群がり、熱がっている』。
 ……いや、もう思考が一周回って変なところまで行ってないでしょうか。
 前に大喜利女子会で大喜利してた時にこんな変な回答出してたかなーと思いながら、さらにスクロールすると、またしてもあっと思う名前が飛び込んでくる。
 カルマ。
 佐藤鏡。夏の対抗戦で、私たちが戦うことになるであろう、強大な敵。
 あの人もワンギリ、参加していたんだ。
 思わぬところで(といっても誰でも参加できるツイッターでの企画に、大喜利好きが参加することには不自然なことなど無いのだけれど)あの人の名前を見てしまったな、と思いながら、回答を覗いてみる。
「打ち上がる度に騒音おばさんが『うるさいぞ!』とめちゃめちゃ布団を叩く」
 やめておきなさいよ!
 こんなこと書き込んでしまって本当にいいのかと、他人事ながら戦々恐々としてしまう。けれどもその自由さが、ある意味大喜利っぽいなとも思った。
 そして最後に。十一時が近づいて来て、締め切りまであと数分と迫って来たところで、駆け込みでたくさん投稿が増えてくる。そんな中に、我らが師匠である寧々さん……ねるねるねるねるさんの投稿も見つけた。
『テレビもないしラジオもないのに、花火はこんだけ打ち上がるのかよ』
 テレビもラジオも無いド田舎で、花火ばっかり豪勢にたくさん打ち上がっていたら、確かにちょっと残念な感じはあるかもしれないな……。
 と、そこまで回答を眺めたところで、十一時が来たようだった。ワンギリアカウントが募集終了の旨をツイートすると、すぐにおもしろかった回答をピックアップし始めた。ワンギリアカウント運営者の独断ではあるものの、ピックアップされる回答たちは確かにどれもおもしろいものだった。
 結局この回でのピックアップ回答には、私が名前を知っている人たちは入らなかった。だけどそれだけに、インターネット上にはまだまだ知らないおもしろい人たちがたくさんいるんだなと思う結果となったのだった。
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