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ホワイトボードラバー 作者:藍上尾わをん

第2章 新生編

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新入社員全員から苦手に思われている先輩社員。一体どんな人?

「「はいどーもー! どうも! よろしくお願いしまーす!」」
「えー今日は大喜利ライブ『大喜利世界地図』へお越し頂き、誠にありがとうございます! 本日、司会進行を務めさせていただきます! WAKU-WAKUの神田裕次郎でーす!」
「同じく司会の、WAKU-WAKUの菊池奏でーす! いぇーい!」
「いやーたくさんの拍手をね、ありがとうございますと」
「平日の夕方からねえ、こんなにたくさん! いや、よく集まって下さいましたよホント!」
「えー、この大喜利ライブ『大喜利世界地図』はですね、次世代の売れっ子芸人を目指す若手お笑い芸人たちが、様々な企画大喜利をこなしていって、その笑いの技術を磨こうという武者修行ライブになっております!」
「なるほど! 武者修行ライブ! 修行なのかライブなのか、どっちなんですかね!」
「それはまあ、ライブですよ! ライブだよ!」
「ああ、ライブですか! ですってよお客さん! ライブだそうですよ!」
「言われなくてもお客さんたち分かってるから!」
「で、なんでしたっけ。次世代の売れっ子芸人を目指す若手お笑い芸人たちの、武者修行ライブ、ですか」
「そうですね」
「それ、僕らもやった方がいいんじゃないですかね」
「ふふっ……や、いやいやまあまあ、ね?」
「いや、お前もお客さんもちょっと笑ってるけど、笑い事じゃないかんね! 俺らだって、ねえ! 次世代の売れっ子芸人を目指す若手お笑い芸人ですよ!? 芸歴十六年目の!」
「そろそろ厳しいんだよ! もう俺らはこういう地下ライブのMC業なんかが、板について来ちゃってるんだから」
「そんじゃまあね、僕らみたいな老害じゃなくて、もっと未来ある有望な若手芸人たちに登場してもらいましょうよ」
「はいはい、そうですね。えー、では本日企画大喜利の武者修行を行うのは、この三組の若手コンビだ!」
「「「どーもー! よろしくお願いしまーす!」」」
「はい、じゃあ順に自己紹介を」
「はいっ。えー、よしわらクリエイティブ・エージェンシー所属の、たなかしもだです。僕が田中で」
「僕が下田です。よろしくお願いしまーす」
「こんばんは! 竹梅芸能の超時空シンデレラ! 榊大地と、」
「秋篠耕一です! 今日は大喜利、めっちゃやりまーす! よろしくお願いしまーす!」
「えー、どうも! 鍋プロ所属の序盤にジョバンニと申します。こっちのイケメンが来栖恵亮で、そうでもない方が保坂徹志です」
「いや、誰がそうでもない方だよ! よろしくお願いしまーす!」
「はい、というわけで、たなかしもだ、超時空シンデレラ、序盤にジョバンニの三組が、本日大喜利の武者修行をする期待の若手でございます!」
「さぞかしおもしろいんでしょうなあー」
「菊池さん! その雑なハードルの上げ方、やめてもらえませんかね!?」
「さぞかしおもしろい大喜利をなさるんでしょうなあー。見たいなー。こいつらの大喜利、見てみたいなー」
「菊池さん! どうしたんすか! なんで急にMC下手になったんすか!」
「というわけで! さっそくオープニング大喜利でございます! まずは企画ではなく、普通に大喜利をやっていこうと!」
「はい。後ろの画面にお題が出ますので、皆さん自由にボケて下さい」
「みんな、さぞかしおもしろいんでしょうなあー」
「菊池さん! もうそれいいです!」
「はいっ、みなさんペンとホワイトボードは大丈夫ですかね? では、さっそく参りましょう! お題はこちら!」

『刑務所の漫画雑誌「収監少年ジャンプ」の内容を教えて下さい』

「週刊……収監少年ジャンプね」
「これ、このお題考えたヤツのドヤ顔が浮かんできて、なんか意味わかんねえけど腹立つなあ〜」
「まあまあまあまあ、ね。はい、えー、田中!」
「『ワンピースがみんな捕まってる』」
「話終わっちゃうだろ! なに、海軍頑張っちゃってるんだよ! えー、榊!」
「『ハイキュー(配給)!!』」
「バカじゃねえのか! なんの漫画なんだよそれはよ! えー、はい、来栖!」
「『なんでか分からないんですけど、やたらトリコを応援している』」
「やめとけよお前! 解説しねえからな俺は! えー、はい、下田!」
「『料理漫画でブタ箱の冷えたくさい飯しか出さないので、結局みんな、食った後神妙に数回頷いただけで終わる』」
「おもしろくねえよそんな漫画! もっとこう、うまい料理とか出せよ! はい、保坂!」
「『読者アンケートが全部検閲されていて、おもしろくない漫画を一位にしていると看守にハガキを破り捨てられてしまう』」
「看守何やってんだよ! けっこう自分勝手だな看守よ! はい、えー榊!」
「『遊戯王の遊戯が逮捕されて、」
「おいおいおい大丈夫か、その回答大丈夫か」
「遊戯が逮捕されて、「もう一人のボクがやりました」って言い続けて、最終的に精神鑑定を勝ち取る』」
「お前この野郎ふざけんなよ! 色々言いたいことあるけど、精神鑑定を“勝ち取る”って言い方やめとけよお前!」
「まあこれはもうお題が悪いっすね。お題が刑務所だもん、こうなるよ」
「お前らもうちょっと節度ってものをだなあ。あい、えー、田中!」
「『安西先生……出所がしたいです……!』」
「三井なんで捕まってるんだよ!」
「はいはい! はい! はい!」「はい!」「はい!」
「なんだどした急にお前ら! えーと、じゃあ榊!」
「『まだ慌てるような罪状じゃない』」
「仙道おいこら! 慌てるような罪状じゃなくても、罪は罪だぞ! はい、えーと保坂!」
「『あきらめたら、そこで刑期満了だよ』」
「なんでだよ! なんであきらめてるのに刑期満了になるんだよ! お前ら、言やぁいいってもんじゃないぞ!? はい、田中!」
「『お前のために刑務所があるんじゃねえ。刑務所のためにお前がいるんだ』」
「おいおうおうお前らスラダン大好きか! 次から次へとよおおおおお前ら! 終わりー! 終わりです! 終わりー!」
「いやー、スラダンお題、永遠にできるな」
「スラダンお題じゃあねえから! 収監少年ジャンプ! 勝手にお題を微妙に変えるなよ!」
「次お題いきまーす! 次行くぞー、次ー!」
「はい、えーと次は……はい、こちらのお題でーす」

『新入社員全員から苦手に思われている先輩社員。一体どんな人?』

「はい、こちらのお題ですねー」
「スラダンもう引っ張るなよお前ら。……あ、はい。下田」
「『全然日本語の通じないカタール人だし、いつもめっちゃ怒ってる』」
「嫌だわー! 全然言葉通じないのにめっちゃ怒ってるの、めっちゃ嫌だわー! はい、榊!」
「『五時になると「五時だー!」って凄い叫ぶんですけど、別にすぐ帰るわけでも何かするわけでもなく、その後は普通に仕事をしている』」
「嫌だなあ! あれ、あの先輩いつもなんで叫んでんの? ってめっちゃ飲み会で言われてそうだわ! はい、保坂!」
「『来年の新卒』」
「なんでもういるんだよ! 時空歪んでんじゃねえのか!? はい、えー田中!」
「『シンプソンズとまったく同じ顔をしている』」
「どういうこと!? え、黄色い顔して、髪が顔と繋がってんの!? どゆこと!?」
「はい!」
「はい、えーとじゃあ来栖!」
「『同僚から「ヒトラー」というあだ名で呼ばれていて、全然由来とか分からないけど、なんかやべえ人なんじゃねえかというイメージが先行している』」
「あんまり人のあだ名でヒトラーとかつけないからね! ちょっと怖いかもしんないね! はい、秋篠!」
「『顎が、八兆個ある』」
「???」
「???」
「???」
「あれ? 顎が八兆個ある先輩社員、得意ですか?」
「得意じゃねえけど! それ以前だよ!」
「顎が八兆個あるんですよ?」
「どうしたお前? 体調悪いのか?」
「元気です! いぇいいぇーい!」
「榊、相方だろ。あれどうにかしろよ」
「すんません、これこいつ絶好調の時なんで」
「これでかよ!」
「はいはーい! おしまい! だめ! 秋篠の絶好調が出たから、このお題おしまいでーす!」
「はっはっはっはっは!」
「そんじゃあいい加減お前らもあったまってきただろうから、そろそろ企画大喜利いきまーす」
「いよっ!」「待ってました!」「最高!」「ワクワク!」
「なんで今ちょっとどさくさにまぎれて俺らのコンビ名言ったんだよ」
「超時空シンデレラ!」
「紛れてねえよ。それは、紛れねえよ」
「はい! では最初の企画です! 『相方と息を合わせろ! 前後穴埋め大喜利』!」
「いよっ!」「待ってました!」「穴埋め!」
「はい! えー、こちらの企画はですね。文章のうち二箇所が伏せ字になっているお題が出ます。それで、皆さんには、コンビでそれぞれ打ち合わせしないで回答を考えてもらって、二人で息を合わせてお題にぴったりの回答を出してもらおうという企画でございます」
「なるほど!」
「ではさっそく最初のお題はこちら!」

『ポケットモンスター ○○・△△』

「これはあれですね。ポケットモンスターシリーズの、金・銀とか、ルビー・サファイア、みたいな感じのシリーズ名を、相談無しで埋めてもらおうということですね」
「確か最新作が……えーと、なんでしたっけ」
「サン・ムーン」
「そう、サン・ムーン。だから似たようなワード二つ繋がると、それっぽくは、なると。では皆さんお考えくださーい」
「いやこれ、難しいな……」
「揃うかなー……」
「うーん……」
「コンビそれぞれ書き終わったら、手を挙げてくださいねー。……はい、序盤にジョバンニ!」
「『ポケットモンスター 赤いきつねと』」
「『左翼』」
「はあ!? いやいやいや!」
「『ポケットモンスター 赤いきつねと左翼』、語呂悪いなあ!」
「これ意味的には緑のたぬきが左翼ってことですね」
「まあ、そばだからね。関西行くと、左右入れ替わるんじゃないですかね」
「そんな感じなの日本の麺類の右翼左翼って!? あ、えーはい、じゃあ次たなかしもだ!」
「はい! 『ポケットモンスター オレたち』」
「『格さん』」
「いやいやいや! 格さんなのに『オレたち』はおかしいだろ! 何人いるんだよ!」
「格さんばっかたくさん引き連れてる黄門様、いやだなー」
「これはうまくハマったなー。はい、じゃあ次、超時空シンデレラ!」
「はい! 『ポケットモンスター 東京』」
「『そして伝説へ…』」
「いやいやいやいやいや! なにこれ!『ポケットモンスター 東京・そして伝説へ…』てなんだよこれ! 『そして伝説へ…』のソフト買うヤツいるのかよ!」
「伝説のポケモンとかいるじゃないですか」
「あ、そういう意味なの!? なにこれ、そういう深みがあったの!?」
「神田さん、別に深くねえよこれ」
「深くねえかな。あ、別に深くねえわこれ!」
「なんすかなんすか!」
「ハハハハハ!」
「はい! じゃあ次のお題、いきまーす! …………」



 ☆



 正直、びっくりした。
 テレビで見かけたことが無くても、さすがはプロのお笑い芸人というべきなのだろうか。舞台上に立つ六人の若手お笑い芸人や、彼らにツッコミを入れる二人の司会の喋りは何度も観客席の大きな笑いを誘っていた。
 大喜利の回答そのものの切れ味が鋭いものがあれば、回答そのものよりも周囲からのツッコミや盛り上げが非常におもしろいものもある。とにかく芸人さん一人がボケるたびに、観客席からうねるような笑い声が聞こえてくる。
 そして、私は今まで知らなかった。
 大喜利って、ここまでおもしろいものだったのか。
「どう? かなりひどいこと言ってるけど、おもしろいもんでしょう?」
 ふと、私の隣の席に座る寧々さんが、小さな声でささやきかけてきた。
 ステージの上では、昨日まで名も知らなかった若手芸人たちが、滅茶苦茶な答えを口に出して笑い合っている。
 私は周囲の邪魔にならないよう、けれどそこかしこでわき上がる笑い声にかき消されない程度の声量で答えた。
「なんていうか……ここまで過激なこととか、適当なことばっかり言ってていいんだ……ていう感じですね」
「まあね。失うものなんてない無名の若手芸人ばっかりだし……テレビとは違うから、規制とかも少ないしね。なんていうか……この自由に何を言ってもいい空間って、ひどいけど、いいと思わない?」
 舞台上の芸人さんたちは、言っていることはひどいし、めちゃくちゃだ。
 けれど彼らは頭をひねり、心の底からおもしろいことを言ってやろうという輝きに満ちている。お笑いに詳しくなんて無い私だけれど、そのくらいのことは、彼らのその瞳の輝きを見ていれば、分かる。
 ふと視線を横にずらせば、藤根さんや折原さんたちも、あははと声をあげて舞台上を見上げている。
 やっぱり、おもしろいものはいい。楽しいものは、楽しい。
 だがしかし、寧々さんはさらにこうも言った。
「盛り上がってきたわね……。でもね、あたしがあんたたちに見せたかった本当の舞台は、これじゃないわ」
 なんだろう? 寧々さんの言葉の真意は分からない。
 舞台上ではなおも様々な大喜利企画が進行していて、その度に三組のお笑いコンビが色々なボケを繰り出し、笑いを誘っている。舞台上はまさにフリーダム。
「まずはこんな感じの、とにかく楽しい大喜利をあんたたちに見て欲しい。そして……」
 寧々さんはそこまで言って口をつぐむ。
 そして? ……と私がその先の言葉を促すよりも前に、舞台上に変化があった。
 先ほどまでは舞台上には司会の二人の他には、三組六名の芸人さんしかいなかった。しかし、今、舞台袖からわらわらと名も知らぬ芸人さんたちがステージの上に現れてきたのだ。その数は、たぶん十人はいることだろう。
 司会の神田さんが言った。
「これはお前たち三組に放たれた大喜利の刺客である」
 演出なのであろうその大仰な言い回しに、元から舞台上に居た三組の芸人さんたちは口々にツッコミを口にするが、神田さんは構わずにこう続けた。
「ここからは混じりっけなしの真剣勝負だ! 売れる気があるなら、バトル大喜利で頂点を取れ!」
 うおおおおおお!
 私は全然意味が分かっていないけれど、会場とステージは大いに盛り上がっていたので、とりあえず周囲に合わせて拍手をしておいた。一体これから、何が始まるというのか。
 しかし私たちはこれからすぐに知ることとなる。このステージの、真の姿を。その目ではっきりと。

 ( to be continued → )
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