プロローグ
花咲く 乙女たち 未来を抱きしめて
麗し美空に 金色の世界 夢を見るわ いつも愛の夢
熱い 想い この身を焦がし たとえ あした 命尽きても
歌い 踊り 舞台に駆けて 君にとどけ 今宵高鳴る その名
……帝國歌劇團
歌い 踊り 舞台が跳ねて 君にとどけ 今宵高鳴る その名……
「本日は大帝國劇場にご来場くださいまして有難うございました。本日の舞台はこれにて終了でございます。又のお越しをお待ち申しております。尚、お帰りの際はお忘れ物落とし物の無いようにご注意くださいませ」
場内アナウンスが響く。
太正12年7月。千秋楽公演を終えた帝國歌劇團・花組。
「あー、終わった終わった。無事に千秋楽が終わったぜ」
「本当ですね。何事もなく終わってよかったですね」
桐島カンナを先頭に楽屋に入ってくる團員。
「お疲れ様。みんないい演技してたわよ」
「何事もなく終わってよかったよ。お疲れさん」
楽屋では大神一郎と藤枝あやめの二人が出迎えていた。
「明日から一週間の夏休みだもんな。みんな気合いの入れ方が違うぜ」
明日から一週間花組は夏休みを取るのだ。当然その間は休演である。
「…で、みんな明日からどうするつもりなの?」
化粧を落としながらマリア・タチバナが聞く。
「あたしは友達の家に遊びにいこうと思ってるんです。泊まり掛けで来ないか、って前々から誘われてたんですよ」
「わたくしは尋常小学校の同窓会で熱海に出掛けますわ。わたくしもさくらさんと同じく泊まり掛けの予定ですの」
「あたいも二、三日修業に行ってくるぜ。…で、マリアは?」
「うん。私も友人の家に行く予定があるのよ」
真宮寺さくら、神崎すみれ、カンナ、マリアの四人はどうやらもう予定が決まっているようだ。
「何や。まだ決まってないのはウチだけか」
「アイリスも何するか決めてないよ」
李紅蘭とアイリスが言う。
「…じゃあ、オレと一緒に実家にでも行くか?」
大神が言いだした。
「え? お兄ちゃんの実家?」
「うん、ここ一年ほど帰ってないからな。せっかくの機会だから里帰りしようと思ってるんだ」
「じゃあアイリスも一緒に行く。お兄ちゃんの生まれたところ見たーい!」
「ほなウチも大神はんと一緒に行くわ」
「よし、決まったな」
「…じゃ、私も大神くんと一緒に行こうかしら」
隣で話を聞いていたあやめも言いだした。
「あやめはんまで…。何でまた?」
「うん。前々から一度大神くんの御両親に御挨拶しようと思ってたのよ。大神くんが里帰りするって言うなら、この機会だから御両親に会ってこようかしら」
*
翌朝、上野駅。
これから出かける4人を米田と「折角だから行くついでに」と花組を代表してカンナが見送りに来ていた。
「じゃ、支配人。言ってきます」
「ああ、気をつけてな」
米田が言う。
「アイリス、あんまりワガママ言うんじゃねえぞ」
カンナが言う。と、
「わかってるよ!」
やがて発車のベルが鳴り、蒸気鉄道が走り出した。
「気をつけてなー!」
カンナが手を振る。
*
上野駅を出発した蒸気鉄道は東北本線を北上していた。
車内で大神が話したことによると、大神が生まれたの栃木県にある小さな村だという。大神はそこで15歳まで過ごし、その後に江田島の海軍士官学校に進んだ、という。
やがて大神たちの乗った蒸気鉄道はある駅に到着した。
「…ずいぶん変わったなあ…」
駅を出た後に、回りを見回して大神が言う。
「変わったってどういうこと?」
アイリスが聞く。
「いや、前に来た時はその辺に店なんかなかったんだよ。このへんも少しずつ開けてきたんだな」
「…で、大神はん。その大神はんの生まれたいう村は何処にあるんや?」
紅蘭が聞く。
「そうだな。ここから一時間も歩けば着くかな?」
「い、一時間?」
「アイリスそんなに歩くのやだよー!」
「冗談だよ。ほら、あそこに蒸気タクシイの乗り場があるじゃないか」
確かに大神の指差したところには何台かの蒸気タクシイが停車しており、「タクシイ乗り場」と看板が立っていた。
「…なんや。それなら最初から言うてくれや」
タクシイで15〜6分も走っただろうか。
「あ、このへんでお願いします」
大神が言うと蒸気タクシイが道端に停車した。
「じゃ、お金は私が払うから先に降りてて」
そう言うとあやめは先に三人を降ろした。
「ほら、あそこだよ。オレが生まれた村は」
大神が指を差す。そこはのどかな田園風景だった。夏ということもあってか、田んぼの稲が青々としている。
「なんかのどかそうな所やなー」
「…そうでもないんだ。最近はこっちのほうも、いろいろなものが帝都から流れてきているらしいんだ。親父とお袋が送ってくれた手紙にそう書いてあったよ」
「蒸気タクシイがあるくらいやからな。このへんもだんだんと変わりつつあるんや」
「…さ、行くか」
大神たちは荷物を持つと歩きだした。
(第1話に続く)
|