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光舞う中で

作者:夕顔


 空には無数の光の球が舞い、もう夜だというのに星座も見えないほど空は明るい。
 街全体が光と笑い声と熱気に包まれていて、その熱気に当てられたのか、ミナの白い雪の頬もリンゴの様に赤く染まっている。
「うわぁ……! すごい……」
 隣で歩くミナが目を輝かせながら、空を舞う光球を追いかけてあちこち走りまわる。彼女の腰まで垂らした長い髪が、それに合わせて空を舞った。
 今日は煌夜祭。
 普段は森の奥でひっそりと暮らしている精霊たちも、この後夜祭ばかりは街まで下りて来て、空を縦横無尽に飛びまわり、幻想的な光景を見せてくれる。
 この祭りは夜通し続く。
 誰もが羽目を外し大騒ぎし、いがみ合っていた者同士も、この時ばかりは酒を酌み交わす。
 そんな1年に一度ある、皆の不満を解消するための祭りは、もう1つ別の側面を持っていた。
「僕と一緒に踊ってくれませんか?」
 ミナから目を外して、街の中心部にある巨大なたき火をぼんやりと眺めていると、僕のすぐそばでそんな声が聞こえてきた。緊張でガチガチになった、若い男の――いや、少年の声だ。
「はい、喜んで!」
 続いて少女の声。その声には、抑えきれない喜びが混じっている。
 どうやら、両想いだったらしい。
 果たして、僕の場合はどうだろうか。
 僕ははしゃぎまわる幼馴染に目を戻しながら、今日何度目になるか分からないため息を吐いた。
 気分は憂鬱。いや、緊張しているだけか。
 恐らく、この街の僕と同じくらいの少年は、みんな同じ思いだろう。
「ねえ、レイヴァス君! こっちこっち!」
 そんな僕を見かねたのか、知らないうちに遠くまで行ってしまったミナが僕を呼んでいた。
「うん。今行くよ!」 
 この喧騒に負けないように、声を張り上げながらミナの元へ向かう。
 人ごみと言う名の壁をすり抜けて彼女の元へとたどり着いた僕が見たものは、ミナと、顔を真っ赤にして手を差し出す見知らぬ少年の姿だった。
 ミナは僕の姿を少年越しに見つけて、ちょっとばつの悪そうな顔をする。だけど、次の瞬間には少年に顔を向けて、口を開いていた。
「―め―――――し――きな――居るの。だ―――貴方の――は――――いわ」
 辺りがうるさすぎて、ミナの声はよく聞こえない。いつの間にか辺りに人が増えて、遂に彼女の姿も見えなくなってしまった。
 今は彼女の姿は見えないから、断わったかどうか分からない。でも、僕の方を見て、ばつの悪そうな顔をしたということはきっと――――。
 ドン、ドン、ドクン、ドクン。
 あれ、何時から太鼓もなりだしたんだろう?
 辺りを見回してみても、何処にも太鼓は見当たらない。きょろきょろしている内に、唐突に理解した。
 ――ああ、これは僕の心臓の音だ。痛い位に胸を叩いている心臓の音だ。
 僕は空に向かって、フーとまたため息を吐いた。
 ……煌夜祭の持つもう1つの側面。それは若い男女の告白の場だ。だけど、男女と言っても、もっぱら告白するのは男の方。
 煌夜祭では、街のあちこちで大きなたき火を焚く。そのたき火の周りを、男女で踊るのだ。
 男は、意中の女性をダンスに誘う。
 OKをもらえれば、そこでカップル成立。逆に断られればそこまでだ。淡い恋は実らずに萎んでしまう。
 僕は、最悪に憂鬱な気分でため息を吐いた。
 告白する(ダンスに誘う)前に、他の男に取られるなんて……。
「レイヴァス君! 何処にいるの~!」
 ミナの僕を呼ぶ声に、ビクッと体が反応する。
 きっと、この人と踊るからゴメンね、なんて言うつもりに違いない。
 逃げよう。幸いにも、まだ見つかっていないはず。ミナがほかの男と現れたら、自分でも何をするか分からない。
 そう思って、ミナに背を向けて歩きだそうとした時、不意に後ろから肩を掴まれた。
「見ーつけたっ!」
 ああ……これはミナの声だ。見つかってしまったか……。
 そして、意外にも強い力でぐるりと後ろに向けさせられる。
 後ろを向いた僕の目に飛び込んできたのは――――
「何してたのかな~?」
 意地悪そうに笑ミナの姿だけだった。
「えっ……?」
 驚く僕を見て、彼女は何故か楽しそうに笑った。
「ふふふ……。もしかして、あたしがあの子の誘いを受けたと思ったのかな~?」
 う……図星だ。
 顔に動揺が出たのか、ミナがふふふっと笑って言う。
「図星って顔してるよ~? 大丈夫! 私が好きなのは、レイヴァス君だけなんだから!」
「えっ!?」
 今、何て言った? ぼ、僕のことが好きっ!?
 突然の告白に、カーッと顔が熱くなる。きっと耳まで真っ赤に違いない。
「う、え!? ああ……ん」
 何か言おうにも、頭の中はぐちゃぐちゃで、言葉にならなかった。
 ミナはそんな状態の僕を見て、またふふふっと笑うと、口を開いた。
「だから……。私と踊ってくれませんか?」
 そう言って、ミナが僕に手を差し出す。
 その言葉で、冷水を浴びせかけられたように冷静になった。だから、ちゃんと言うことが出来た、と思う。
「はい、喜んで!」
 男女の役割が逆転してしまったけれど、まあ、これも僕らしくていいか。
 そう思いながら、僕はミナに引かれてたき火の近くへと走って行った。
 
読んで頂き、ありがとうございました。
被災地の方々の力となれば、望外の幸せです。

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