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第三章
「だから。魚拓を取ってやるんだよ」
「いるんだろ?」
「だったらもう」
「いるのは最初からわかっているんだ」
 彼の反論はこうであった。実はそれはもう彼の中でははっきりとしていることであったのだ。しかし魚拓はそれとはまた別のことであったのだ。
「だからな。魚拓を」
「おい」
 そんな彼をクラスメイト達が止めるように声をかけてきた。
「だからいるんだろ?タキタロウ」
「だったら」
「いるからだよ」
 言葉が噛み合わない、クラスメイト達はこう感じたのだが彼は違っていた。何もかもをまったく疑わない目ではっきりと言うのであった。
「だから魚拓をな。取るんだよ」
「そうなのか」
「ああ、絶対にな」
 そのはっきりとした声でまた皆に告げた。
「取ってやるさ」
「何かそれってよ」
「意地ってやつか?」
「いや」
 それは否定する。違うというのだ。
「意地なんかじゃないさ。だって楽しいじゃないか」
「楽しい?」
「ああ、本当の姿を見た人って殆どいないんだろ?」
「まあそうだよな」
「いるってのはわかったけれどな」
 それも今までの彼の行動からだ。幾ら何でも二度もルアーの糸を切るような魚はそうはいない。鯉でもそこまで大きくはないだろうからだ。
「御前はいるかどうかはどうでもいいんだよな」
「だから。それはもう言ってるじゃないか」
 答える言葉にもやはり迷いはない。
「最初からってな」
「そうか」
「じゃああれか」
 ここでクラスメイトの一人が言う。
「夢ってやつか」
「それは」
「そうだな」
 そして彼もそれに頷くのであった。
「夢っていえば夢だな」
「タキタロウの魚拓を手に入れることがか」
「ああ、今日こそな」
 目をキラキラと輝かせる。そこにこそ彼の意志があった。はっきりとした意志が。
「捕まえてやるさ、絶対にな」
「じゃあ明日は期待しているぜ」
「それでいいんだよな」
「ああ、そうしてくれ」
 彼も言う。
「明日だ。絶対にな」
 こうクラスメイト達に告げて意気揚々と湖に向かう。だがそこで彼が見たものは。
「これでも駄目か」
 罠は壊されていた。中の餌だけ取られている。彼が用意した罠もタキタロウの力によって壊されていた。罠でも駄目だったのだ。
 引き上げた壊された罠を見て彼は苦渋を浮かべるかというとそうではなかった。むしろだ。それでさらに戦意をあげるのであった。
「罠で駄目だったら」
 湖を見て言う。そこにはタキタロウがいる。それははっきりとわかっている。
「今度は。何で捕まえてやろうかな」
 拡樹は不敵に笑っていた。その不敵な笑みで湖を見据えている。彼は負けてはいなかった。勝負はまだ続いていた。それから逃げる気もなかった。意を決した顔で今度の勝負の方法を考えていた。ただそれだけであった。だがそれを胸に秘めて湖を見る。それだけであった。


タキタロウ   完


                  2008・1・19
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