ファンタジーショートショート:バーにて
とある人物が扉を開けると、そこにはカウンター席のみの小さなバーとなっていた。椅子は2席しかない。そして目的の人物がその椅子の1席に座っていた。
「今度は俺の勝ちだったな。魔王」
そう言うとドヤ顔で隣に座る。
「あぁ今回はお前に負けたよ。勇者」
座ってきた人物にポツリとこぼす様に返す魔王。
「だが、これでまだ25勝18敗。まだ俺のほうが大きく勝ち越してるからな」
そう呟きながら琥珀色の酒を流し込む。
「むぅ。これから追いつくから見ていろ!で、上手そうなの飲んでるな?こっちにも同じのくれる?」
嫌な顔しながら応える勇者。そして黒い影のようなバーテンダーに注文する。
「勇者の勝利に!」
「…勇者の勝利に」
2人はグラスをカチンと合わせる。
「しっかし、まさか勇者と魔王が死ぬとこうして2人仲良く酒を呑んでるとは思わないだろうなー」
勇者がのんびりと呟く。
「当たり前だろう?それにここは創造主のお作りになった場所。我々も死ななければここにはこれん」
淡々と返す魔王。
「言ってみれば次の戦が始まるまでの休憩所なのかねぇ?」
「何とも言えんな」
「我々の目的は、この世界の人間も魔族も一定量を越えて増えないようにするもの。一定量を超えてしまうと我々が召喚され、戦が始まる。魔王である俺か、勇者であるお前かが倒れればそれで終わるがその間に数がぐっと減っているという…何とも乱暴なシステムだな」
「まぁ創造主様のことだから、戦を重ねてどんどんこの世界の人間も魔族も強くなっていって欲しいんじゃないかな?数減らしつつその世界をもう一段上に引き上げる…みたいな?」
「まぁ我々に与えられたのは魔王と勇者の役目のみ。これを忠実にこなすのみよ」
そう言って2人は酒を呑む。
暫くすると2人の腕輪が震え始めた。
「ありゃ?もう勇者召喚するの?早くない?」
「我を呼んでいるようだ。確かに早いがまぁ仕方なかろう。呼ばれれば行くしかない。今度勝つのはこの魔王だ」
「いいや、このまま連勝させてもらうぜ!でもこの前みたいな暗殺者とか裏切られるの勘弁な!」
「勇者は単純だからよく引っかかってくれるからなぁ」
「…まぁお手柔らかに」
「お互いにな」
2人は拳を軽く合わせると、そのバーを出て行った。