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転職の神殿を開きました 作者:土鍋

転職の神殿を開きました

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終息

「あのモンスターを退治してくれたことについて、まずは感謝を。」

「恐縮です」

 俺たちが三頭獣ケルベロスを撃破してほどなく、十名ほどのお供を連れて現れたラムバーク侯爵は、いかにも貴族らしい所作で感謝の言葉を口にした。灰色の髪を撫でつけた、髭の似合う初老の男性だ。

「ところで、君たちのお名前を伺ってもよろしいかな? 窮地を救ってくれた英雄の名前を知らずにいては、恩に報いることもできぬ」

 侯爵は、変わらず優雅にそう問いかける。だが、その落ち着いた動作とは裏腹に、彼の眼差しは鋭かった。それはそうだろう。この戦時と言っても過言ではない時期に、敵国の貴族を匿っていたことがバレたのだ。

 さすがに、俺たちがワイデン子爵の正体を知っているとは思わないだろうが、少なくとも奴があの三頭獣ケルベロスを召喚したことを知っている俺たちに対して、そう心穏やかでいられるはずがなかった。

「私たちは統督教の神官です。人々の危機とあれば、私たちが動くのは当然のことですから、お気になさらないでください」

「なんと……!?」

 統督教の名を聞いた瞬間、ラムバーク侯爵は驚きの声をあげた。優雅な微笑みの奥で、彼が思考を巡らせているのは明らかだった。観察されているのに気付いたのか、侯爵は軽く咳払いをすると、穏やかに微笑む。

「いやいや、失礼したね。まさか、君ほどの力を持つ神官が王都にいたとは知らなかったよ。寡聞でお恥ずかしい限りだ」

「過分なお言葉を頂き恐縮です。……ところで侯爵、いくつかお伺いしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

 俺がそう切り出すと、侯爵の目が僅かに細められた。だが、俺が質問を口にする前に、横合いから邪魔が入る。

「ラムバーク! 貴様、よくも俺を裏切ったな! 地獄へ落ちろ畜生が!」

 会話に横入りしてきたのは、手足を縛られて地面に転がったままのワイデン子爵だった。彼は憎々しげに侯爵を睨みつける。だが、そんなワイデン子爵に対して、侯爵のとった対応は淡白なものだった。

「人の庭先にあのような化け物をはなっておいて、よくも言えたものだな。どこの馬の骨とも知らぬ人間に、情けをかけてみればこの始末だ」

 侯爵は冷たくそう言い放つと、今度は俺に向かって口を開く。

「神官様、おかげで本当に助かりました。つい先日、行き倒れていたこの男を見つけまして、不憫に思って離れを貸し与えていたのですが、まさかこのようなことをしでかす極悪人だとは、思ってもみませんでした」

 どうやら侯爵は、ワイデン子爵の素性を知らずに軒先を貸してしまった、というシナリオを描いたようだった。まあ、帝国貴族と共謀していました、というよりはずっとマシか。

「何を言う! 魔物召喚の話を持ちかけた時は、嬉々として乗ってきたくせに! 内通の利益に加えて、政敵をモンスターに襲わせ――がはっ!」

 侯爵の言葉を聞いて怒りがこみ上げたのだろう、ワイデン子爵は吠えるような声でそう反論する。だが、彼の主張は途中で遮られることになった。侯爵のお供が、ワイデン子爵の顎を蹴り上げたのだ。

「何を訳の分からないことを言っているのだね? 助けられた恩も忘れ、ありもしない話を捏造するとは、いよいよ救い難い男だな。――連れて行け」

「はっ」

 吐き捨てるような侯爵の言葉に応えて、お供の数人がワイデン子爵に近づいていく。……って、そうはさせるか。

「お待ちください。私たちは、その男があの三頭獣ケルベロスを召喚するところを目撃しました。そのことから考えると、彼はこのモンスター発生事件の犯人である可能性が非常に高いと思われます。よって、この男の身柄は私たちでお預かりします」

 そう答えると、俺はワイデン子爵と彼を捕えようとしていたお供たちの間に身体を滑り込ませた。それでも諦めずに強行突破しようとする従者に対して、俺は血塗れの左腕をつきつける。

 ひっ、という声とともに、従者たちの顔が青ざめる。血塗れだからというよりは、その血が三頭獣ケルベロスとの戦いを思い出させたのだろう。自分で言うのはなんだが、あの化け物を一撃で木端微塵にする人間なんて、俺ならお近づきになりたくない。

「とはいえ、ここは私の敷地だ。モンスターを屠ってくれた君たちを不法侵入の罪で問うつもりはないが、その男は別だよ。しっかり落とし前をつけてもらわねば」

「侯爵が仰ることは、非常によく分かります。ですが、これはもはや王都全体の問題です。この男については、統督教が責任を持ってお預かりし、真相を究明します」

 俺がそう言い切ると、侯爵が間髪を入れず異を唱えてくる。

「だが、君たちに人を捕える権利などないのではないかね? 君たちは衛兵でもなんでもないのだから」

 侯爵の主張は正論だった。とはいえ、衛兵にワイデン子爵を引き渡した場合、侯爵の息のかかった人間が奴を始末しようとするかもしれないからな。そこで、俺はアルバート司祭に聞いた統督教の特権を持ち出す。

「本神殿及び本教会には、緊急時に犯罪者の身柄を留め置く程度の権限は与えられています。魔物召喚の現行犯ですからね。それに、この男が召喚した魔物のせいで、私もこんな有様です。落とし前をつけてもらいたい気持ちは同じです」

 そう言うと、今度は侯爵に向かって血塗れの腕を見せつけた。だが、さすがは上級貴族というべきか、彼に動揺した様子は見られなかった。

「ふむ……お互い平行線のようだな。ところで、まだ重要なことを答えてもらっていないのだが、君はどの宗派に所属している神官なのかね? 統督教の宗派は様々だ。失礼だが、信用しきれない宗派も中には存在するからね」

「……私はクルシス神殿の神官です」

 俺はそう答えると聖印を切った。さすがに、ここで嘘をつくわけにはいかないからなぁ。後でワイデン子爵の面会に来ないとも限らないし。

 俺の言葉を聞いたラムバーク侯爵は、かすかに口元をほころばせた。……あ、嫌な予感。

「クルシス神殿といえば、副神殿長が不祥事を起こして追放されたばかりではないのかね? こう言っては失礼だが、そんな事件が起きたばかりの組織に、この事件の重要人物を預けると言っても、人々の理解が得られないだろう」

 侯爵が口にしたのは、クルシス神殿が一番触れられたくない話題だった。……さすがは上級貴族、そういうところは的確に把握してくるな。なんて言い返そう。俺がそう考えた時だった。

「――ならば、私たちに預けてはもらえないだろうか」

 後ろから聞こえてきた声は、『聖騎士』メルティナのものだった。



「どうして、『聖騎士』がこちらにいらっしゃるのですか?」

 俺は侯爵をいったん無視すると、メルティナに向き直った。すると、彼女は苦笑と共に答えを口にする。

「あんな凄まじいエネルギーを放出しておいて、どうしてはないだろう。まして、発生源が私たちの目指していたポイント周辺となれば、こうして確認に来るに決まっている」

「目指していた?」

 オウム返しに尋ねると、メルティナは不思議そうな表情を浮かべた。

「貴公も同じではないのか? 私たちは、この妙な魔力の濃度がもっとも濃くなる場所を探して、この辺りまで来ていたのだが……」

 どうやら、メルティナたちも同じことを考えていたらしい。なら、彼女たちの方が先に侯爵邸に辿り着いてもよさそうなものなんだが……。たぶん、真面目に人助けしてたんだろうなぁ。俺たちはけっこう端折ってきちゃったし。

「その通りです。そして、その結果辿り着いたのがこの男性というわけですよ」

「なるほど、了解した」

 メルティナは律儀にそう答えると、ラムバーク侯爵の方へ向き直った。

「ラムバーク侯爵、お久しぶりです」

 メルティナの挨拶に、侯爵の顔が露骨に引き攣った。彼女は統督教の中でもトップクラスに顔が売れている『聖女』だ。上級貴族ともなれば、その顔を知らないはずはなかった。

「『聖騎士』……殿……」

「この男の処遇については、私たちに任せていただきたい」

 あくまで凛とした表情を崩さずに、メルティナはそう提案する。『聖騎士』の影響力は大きい。生半な貴族であれば、彼女に意見するような真似はしないはずだった。

 だが、そこはさすが侯爵家と言うべきか、ラムバーク侯爵が諦める様子はなかった。

「しかし、『聖騎士』殿はこの男が何を企み、この屋敷で何を引き起こしたのかもご存知ありますまい。たしかに教会であれば、この男の身柄をお預けするのにやぶさかではありませんが、今回、『聖騎士』殿は部外者だ。
 こんなことを申し上げたくはないが、事の経緯をご存知ない方は口を挟まないで頂きたい」

 侯爵はそう言うと、俺のほうへ向き直った。与しやすいとみて、俺と話をつけるつもりなのだろう。だが、そんな彼に向かって、俺はとどめの言葉を口にした。

「ラムバーク侯爵。私が一緒に行動していた治癒師ヒーラーは、教会の『聖女』なのですが……」

「……なに?」

 聞いた内容をすぐには処理できなかったのか、侯爵は俺の顔を訝しげに見つめてくる。

「つまり、教会は部外者などではなく、最初から確固たる当事者だったということですよ」

「……!」

 侯爵はもはや声もないようだった。教会なら身柄を預けるのにやぶさかではない、と発言したのは、つい先ほどのことだ。貴族特有のリップサービスだったのかもしれないが、それが彼の首を絞めることになったのだった。
 まあ、統督教の宗派同士とはいえ、普通は別宗派とパーティーを組んでるなんて思わないよなぁ。

 しばらく目を見開いていた彼は、苦々しい表情で俺とメルティナを睨みつけながら口を開く。

「……この件は、正式に抗議させてもらう。そして、もう我が敷地に用はないはず。早々にお引き取り願いたい」

 どうやら、侯爵は俺たちをさっさと追い出したいようだった。……まあ、いいけどね。肝心の魔道具は入手済みだし、ワイデン子爵の身柄も抑えている。未練があるとすれば、庭に散乱している三頭獣ケルベロスの爪や牙くらいなものだ。……あれ、高く売れそうなんだけど、さすがに拾いに行ける雰囲気じゃないよなぁ……諦めるか。

 俺たちは侯爵に形ばかりの挨拶をすると、侯爵邸を後にしたのだった。






 侯爵邸を後にした俺たちと『聖女』は、なんとなく一緒に王都を歩いていた。モンスターがまだ暴れ回っているとばかり思っていたのだが、どうやら事態は終息に向かっているようだった。

「思っていたよりも、多くの固有職ジョブ持ちが参戦してくれたからな」

 俺のそんな疑問に答えたのはメルティナだった。なんでも、この事態を鎮めるべく、結構な数の固有職ジョブ持ちが王都各地で奮戦していたらしい。
 てっきり、王都の固有職ジョブ持ちは皆戦争に駆り出されていると思ったのだが……

固有職ジョブを得ても、貴族や軍に所属することを選ばなかった人間が多いということだな」

 『聖騎士』の言葉に俺は頷く。今までとは異なる固有職ジョブ持ちの在り方は、この国にどんな影響を与えるのだろうか。

 そんなことを考えていると、『聖騎士』が不意に真剣な表情を見せた。

「ところで、カナメ殿」

「……なんでしょうか?」

 俺が応じると、彼女はちらりと列の後ろを見て、少し言いにくそうに口を開く。

「ワイデン子爵の身柄の取扱いについてだが、本当に教会が預かってもよいのか? あの侯爵邸の惨状と貴公の負傷具合、そして立ち昇ったエネルギーの凄まじさからすると、かなりの激戦だったのだろう?
 そこまでして捕えたあの男を教会が確保するのは、どうにも申し訳ない気がするのだが……」

 この人、本当に真面目と言うか律儀と言うか……。そんな彼女に対して、俺はいつもの笑みを浮かべた。

「構いません。侯爵にああ言った手前、クルシス神殿がワイデン子爵の身柄を預かると、付け入る隙を与えてしまいますからね。
 ただし、子爵の監視、及び取り調べについては、クルシス神殿の関係者を参加させてもらいます。それでどうでしょう?」

 ワイデン子爵と教会の関係を疑っている俺としては、奴を教会に預けるのは本意ではない。だが、いくら教会でも、戦時に王都に潜り込んで大事件を起こした人間を、独断で処分することはできないだろう。

 教会に送り込む人員については少し頭を悩ませたが、よく考えれば神官である必要はない。アルミードたちのパーティーなら、充分対処できるはずだ。

「……いいだろう。私の名において約束しよう」

 『聖騎士』は少し考え込んだ後、そう回答した。教会そのものは別としても、彼女については、充分信用に値する人物だと思える。教会内での影響力も強い彼女であれば、その言質には大きな価値があった。

「ありがとうございます。そして、図々しいかもしれませんが、もう一点」

「ほう?」

 俺の言葉に、メルティナが興味深そうな表情を浮かべた。そんな彼女に向けて、俺は両手に一つずつ、今回の事件に関わる重要物件を提示した。

「あの妙な魔力をばら撒いていたと思われる宝珠と、子爵がモンスターを召喚するのに使用した可能性のある魔道具です。おそらく、魔道具は古代遺跡からの出土品でしょう。
 子爵の代わり、というわけではありませんが、この二つの物件については、クルシス神殿で解析をさせて頂きたいのです」

 そう、実はあの戦いのどさくさで、ワイデン子爵が住んでいた建物の残骸から、怪しげな宝珠を見つけ出していたのだった。まあ、正確に言えば、見つけたのはキャロなんだけどね。キャロが変なボールで遊んでると思ったら、まさかの危険物でびっくりしたものだ。野生の勘すごい。

「所有ではなく、解析をすると言うのであれば、特に異存はない」

 メルティナは納得したように頷いた。今回の事件の重要物品だし、さすがに懐に入れられないのは分かっている。そのため、彼女の言葉に異論はなかった。

「ちょっと、メル……」

 そんな会話を交わしていると、メヌエットが『聖騎士』の袖を引っ張った。……ん? どうかしたんだろうか。

 俺は好奇心をそそられて、ひそひそ声で話している『聖女』二人を眺める。すると、彼女たちが俺の持っている宝珠にちらちら視線を向けているのが分かった。

「……カナメ殿、その宝珠なのだが……いったいどこで手に入れたのだ?」

 やがて、『聖騎士』がためらいがちにそう訊いてくる。彼女の後ろにいるメヌエットも、俺をじっと見ていた。

「私にもよく分かりませんが、子爵が召喚した三頭獣ケルベロスを倒した直後に発見したものです」

 彼女の問いかけに対して、俺は嘘でも真実でもない言葉を返した。

 俺は、この宝珠は教会のものではないかと疑っている。そのため、ありのままに「うちの兎がとってきました」と答えてしまうと、教会が所有権を主張した挙句、この宝珠をすり替えてしまう可能性を懸念したのだ。

 だが、三頭獣ケルベロスが落としたとなれば話は変わってくる。その場合、モンスターを倒した俺が所有権を持つからだ。事が大きくなって教会がごまかせないレベルになるまで、俺はこの宝珠の所有権を曖昧にしておくつもりだった。

「え、本気で言ってんの!? 三頭獣ケルベロスってS級モンスターだよ?……って、そっか。そう言えば、アンタもメルと同じ領域に足を突っ込んでる人間だっけ」

 そう声を上げたのはメヌエットだった。最初は否定的だったものの、神々の遊戯(カプリス)での試合を思い出したのか、彼女は一人で納得する。

「あのエネルギーは、そういう次元ではなかった気がするが……ともかく、その宝珠は三頭獣ケルベロスが落としたものなのだな?」

「そこまでは分かりませんが、三頭獣ケルベロスが爆散した跡地に転がっていたものです」

 とはいえ、この宝珠が持つ妙な魔力は、子爵が三頭獣ケルベロスを召喚する前から王都に漂っていた。普通に考えれば、三頭獣ケルベロスが落としたと主張するのはおかしな話なのだが、何せ使用したアイテムが古代文明の発掘品だ。
 古代魔道具による召喚はブラックボックスの部分が大半を占めるため、それくらいの矛盾はありえない話ではないのだ。

 それに、苦しいのは教会だって同じだった。メヌエットは宝珠の正体について心当たりがあるようだが、堂々と公言しないあたり、推測の域でしかないのだろう。
 ならば当初の予定通り、この宝珠の存在が明るみに出るまでの間、クルシス神殿で預かっておけばいい。辺境のモンスター異常発生事件の手掛かりにもなりそうだしな。

「そうか……」

 やはり、『聖騎士』も強くは言えないようだった。よし、このまま逃げ切ろう。そう決めた俺は、少し露骨ながら、早々に彼女たちと別れることにした。

「それでは、私たちはこの辺りで失礼させて頂きますね。バルナーク大司教によろしくお伝えください」

「承った。……バルナーク様が戻られたら、そう伝えておこう」

「おや? バルナーク大司教はどこかへ遠出されているのですか?」

 メルティナの物言いに引っ掛かるものを感じて、俺はそう尋ねる。すると、彼女は決まりの悪そうな、それでいて寂しそうな表情を浮かべた。

「……少しな」

 メルティナは言葉少なに答えた。

 このタイミングで本教会の大司教が教会を不在にするのだから、何かしら重要な案件があるのだろう。大司教の不在をうっかりバラしてしまった『聖騎士』は気まずそうな様子だった。
 それにしても、あのおっさん肝心な時にいないんだな。それとも、大司教がいないタイミングを見計らって事に及んだのだろうか。

 そんなことを考えていると、気持ちを切り替えたらしい『聖騎士』が凛とした様子で口を開く。

「それでは、我々はここでお暇するとしよう。諸君らに神のご加護があらんことを」

 そう言うと、彼女はその場を去って……なぜか、一人だけ戻ってくる。彼女の後ろを見れば、他の『聖女』たちが不思議そうな顔でメルティナを見ていた。

 彼女は俺の前に立つと、静かな声で呼びかける。

「カナメ殿」

「なんでしょう?」

 そう答えた直後、メルティナの顔がぐっと近くなる。その展開に焦った俺だったが、彼女が耳元で囁いた言葉を聞いて、その焦りは別のものにとって代わる。

「――貴公は、固有職ジョブ持ちを『村人』に変えてしまうことができるのだな?」

「……!」

 まさか、このタイミングで言われるとは思わなかった。突然のことに、俺は一瞬言葉を失う。

「……仰る意味がよく分かりませんが」

「ああ、すまない。それをどうこう言うつもりはないのだ。ただ、確認しておきたかっただけでな。貴公が望まぬのであれば、この件は伏せておくとも。こうして固有職ジョブを戻してくれたのだからな」

 うわ、完全にバレてるよ。上級職持ちが『村人』になると、さすがにステータス低下でごまかせるレベルじゃないのか、それとも単に彼女の勘がいいのか……。あの場面では仕方なかったとはいえ、やっぱり多用は禁物だな。

「……それにしても……あいつは不可能だと言っていたが……力量の差ということか……?」

「ちょっと、メル!? 早く戻ろうよ! それにミュスカも! どうして当然みたいな顔してそっち側に残ってるのさ?」

「……む?」

 なにやら思索にふけるメルティナに向かって、痺れをきらしたメヌエットが大声を上げる。その言葉でメルティナは我に返ったようだった。

「……カナメ殿、縁があればまた会おう」

「あの、カナメ君、ここで失礼します……。もし腕が痛むようなら、言ってくださいね」

 メルティナとミュスカがそう別れの挨拶を告げて、残りの『聖女』のほうへ歩いて行くのを、俺は静かに見送る。

「……ねえカナメ、『聖騎士』さんと何かあったの?」

 小さくなる彼女たちの後ろ姿を見ていると、いつの間にか隣にクルネが並んでいた。彼女はその顔に複雑な色を浮かべている。

「あんなに顔を近づけて内緒話をするなんて、親密な間柄なのね……」

 次いで、逆側にミルティが現れる。……なんだろう、この包囲された感じ。

「キュッ!」

 さらに、俺の肩にキャロが跳び乗ってきた。……って、それは別にいいか。むしろ癒されるし。

「……あの『聖騎士』は大司教一筋の渋好みだぞ。そういう話じゃなくて――」

「えぇっ!? そうなの!? カナメ、もう少し詳しく教えて」

「クーちゃん、飛びつきすぎよ?……けど、たしかに気になるわね……」

「えーと……」

 意外なところに二人が食いついたせいで、なんだか本題を話せる空気じゃなくなったな。というか、さっきの微妙な空気はどこいったんだろう。……まあいいか、話す機会はいくらでもあるし。

 俺たちは『聖騎士』と知り合った神々の遊戯(カプリス)の話をしながら、貴族街を後にしたのだった。

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