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転職の神殿を開きました 作者:土鍋

転職の神殿を開きました

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始まり

「クルシス神殿へようこそ。本日はどのようなご用向きでしょうか?」

 正式にクルシス神殿の神官となった数日後。俺は、神殿の受付で来殿者の対応に当たっていた。接客業務の雰囲気に少し懐かしさを覚えながら、来殿者に対して笑顔を浮かべる。

特技スキルの習得を祈念する儀式があると聞いたのだが」

 そう口にした男は、若そうな見た目の割に年季の入った鎧を着こんでいた。俺は間違いがないよう、手元の資料をちらりと眺める。

特技スキル習得の集団祈祷は月に一度です。次は七日後に行われますが、ご予約されますか?」

「……ああ、頼む」

 鎧の男の名前を予約表に書き込むと、俺は次の来殿者に声をかけた。

「クルシス神様にお祈りを捧げたいのですけれど、どこへ行けばいいのかしら?」

「クルシス神へのお祈りでしたら、こちらの通路をまっすぐお進みください」

 透き通っていて綺麗な声だな。吟遊詩人か何かだろうか。そんなことを思いながら、俺は右手の通路を手で指し示すと、簡単に道順を説明する。よし次。

「ライフェル商会のトッドと申します。神殿長にお目にかかりたいのですが……」

 む、ちょっと怪しいな。いきなりトップに会わせろと言われて、ほいほい面会させていたらキリがない。大物クラスならともかく、聞いたことのない商会だしなぁ。

「神殿長にご面会ですか。誠に失礼ですが、お約束はされていらっしゃいますか?」

「いえ、お約束は頂いておりませんが、お互いの利益になる提案がございまして、ぜひ神殿長様とお話しさせて頂きたいのです」

「左様ですか。それでしたら担当を呼びますので、まずはそちらで詳しいお話をお伺い致しますね」

 そう言うと、俺は近くにあるスイッチを押した。これはちょっと変わった魔道具で、離れたところにある発光用の魔道具とリンクしている。発光魔道具は神殿内のそれぞれの担当部門に備え付けられており、その点灯に気付いた者が受付へやってくる、ということになっていた。

 重要な話であれば、応接室へ通して担当を呼びに行くこともするが、今回はそこまでする必要はないだろう。さて、次だ。
 俺はもう二人の受付担当と共に、受付業務に勤しむのだった。



「カナメ君、お疲れさま」

 受付を一緒にしていた女性、マイアさんから声をかけられたのは、昼もだいぶ過ぎた頃だった。もう一人いた受付担当は、今は休憩に出ている。

「マイアさんこそお疲れさまでした。なんだか混みましたね」

 そう言うと、俺は神殿の入り口たる受付ロビーを見渡した。今でこそ空いているものの、さっきまではなかなか盛況な様相を呈していたのだ。よく分からないが、神殿を訪れたくなる時間帯でも存在するんだろうか。

「たまに妙なピークがくるのよねぇ。けど、カナメ君が受付担当で助かったわ」

 彼女は顔にかかっていた髪を横へ流すと、笑顔で言葉を続ける。

「手伝ってくれるのは嬉しいんだけど、あまりこういうのが得意じゃない神官さまもいるからね……」

 笑顔の割に、言葉の内容はなかなか手厳しいものだった。……まあ、説法は得意でも、こういう質より量!みたいな場面は苦手だっていう人はいるだろうなぁ。むしろ俺なんかは、人の心の中に深く踏み込んでいく説法の方が苦手なんだけど、神官になろうとする人間としては少数派かもしれないな。

「向き不向きがありますもんね」

 俺は当たり障りのない返事をした。積極的に肯定してしまうと、先輩批判になりかねないからなぁ。……というかマイアさん、クルシス神殿に勤め始めてからまだ十日も経っていない俺に、そんなことを言って大丈夫なのか?

「誰にでもそう言ってるわけじゃないわよ? けど、カナメ君は将来有望そうだし、受付を捌くのも上手だし、クルシス神殿の受付部門としては媚を売っておきたいところなのよね」

「いや、そこまで正直に言わないでくださいよ……」

 将来有望云々はお世辞にしても、彼女の言葉には一理あった。これはクルシス神殿に限った話ではないが、神殿内には叙階を受けた神官と、叙階を受けていない職員の二種類の人間が存在する。

 俺は神学校を卒業すると同時に位階を授かっており、現在はクルシス神殿の侍祭という神官位を持っている。その一方で、マイアさんのように神事と関係ない職務だけを担当している職員もいるのだが、組織上、彼女たちは神官よりも下の存在として扱われるのだ。

 そのため、受付部門の上司が受付業務に理解のない神官だったりすると、非常に苦労が大きくなるというわけだ。それなら、そこそこ受付業務に理解のある若い神官を今のうちに味方に引き込んでおこうと、そういうことなのだろう。

「けど、カナメ君を有望だと思ってるのは本当よ? もしベルゼット副神殿長がいたら、多分気に入られたでしょ――」

 と、そこまで口にするとマイアさんは唐突に口を閉ざした。そして申し訳なさそうな表情を浮かべると、再度口を開く。

「……ごめんなさい、そのベルゼット元副神殿長に殺されかけたのよね。嫌なことを思い出させたわね」

「もう過ぎたことですし、マイアさんが謝るようなことじゃありませんよ」

 俺はそう言うと笑顔を浮かべた。

 そうなのだ。俺がベルゼット元副神殿長に殺されかけた人間であり、彼の収監の原因であることは、クルシス神殿内ではすでに知れ渡っていたのだった。いつかはバレると思っていたけど、こんなに早いのは予想外だった。
 最初から色眼鏡を提供してしまうと、人間関係の形成が面倒になるから嫌だったんだけどなぁ……。バレてしまったものはしょうがない。

 そしてやはりというか、ベルゼット元副神殿長のシンパの中には、俺を敵視している神官も僅かながら存在しているようだった。……たしかに収監の原因は俺だけど、統督教から追放されたのは合法麻薬のせいだし、お門違いだと思うんだけどね。

「むしろ、私がベルゼット元副神殿長を陥れたかのように思われていることの方がショックですね。斬られたのは事実ですが、追放理由である合法麻薬の方は私と無関係ですから。
そもそも、一介の神学校生にそんな大規模な仕掛けができるはずないでしょうに……」

 俺はそう言うと、悲しそうな表情を浮かべた。もしこれで、マイアさんが同僚にこの話を広めてくれたら儲けものだ。彼女は人脈が広そうだし、試してみて損はないだろう。そんなことを考えながら、俺は身の潔白を訴えてみた。敵を作らないに越したことはない。
 彼女が同情するような表情を浮かべたのを見て、俺は心の中で快哉の声を上げた。

 俺が昼休憩に入ったのは、それから一刻ほど後のことだった。






「あらカナメ君、お疲れさま」

 俺が神殿の食堂に足を踏み入れると、よく知った声が俺を出迎えてくれた。声の主、セレーネがいつも通り無駄に色気を振りまきながら、俺に手を振っているのが視界に入る。

 ここは食堂とは言っても、あくまで神殿に勤める人間専用の場所であり、そんなに食事内容が充実しているわけではない。弁当を持参している神官や職員もこの食堂を利用しており、どちらかというと食事のできる空間、という意味合いが強かった。

 俺は選択肢がほとんどないメニューの中から『日替わり定食』を選ぶと、セレーネの向かいに座った。少し年季の入った椅子がキィ、と音を立てる。

「セレーネも今休憩か?」

「ええ、管理部門って意外と忙しいのね。業者さんとお話をしていたら、いつの間にかこんな時間になっていたわ」

 そう言うと、セレーネは持参したらしき弁当をつつく。……それって、単に業者がセレーネと長く会話していたかったとか、そんなオチじゃないだろうな。そんなことを考えながら、俺は日替わり定食の揚げ物に齧りついた。

 ちょっと肉が固いな。これ、煮込みに使ったほうがいいんじゃないだろうか……? そんなことを考えながら定食を口に運んでいると、ふと目の前に一人の青年が現れた。

「一緒にいいか?」

 青年はそう言うと、俺たちが座っている席を指差す。

「カムランも今から休憩なのかしら? ふふっ、新人三人が揃うなんて珍しいわね」

 セレーネがカムランと呼ばれた青年に対して微笑みを向けると、彼の顔があからさまに上気した。……うん、非常に分かりやすいな。まあ、相手は色気の塊みたいなものだし、気持ちは分かるけどねぇ。ここはさすがセレーネと言っておくべきか。

 カムラン・フォルティス。俺やセレーネと同時にクルシス神殿に入ってきた、いわば同期というやつだ。彼は神学校の出身ではないが、小さい頃から別の街のクルシス神殿で仕事をしていたらしく、その縁で位階を授かっている。いわゆる現場組である。
 もっとも、彼の家系はクルシス神殿ではけっこう有力な一族のようで、そのあたりの事情も考えると純粋な現場叩き上げとは言い難いが。

「祭事の準備が長引いたんだ。祭具の一つが破損してることが分かってさ」

 何気なくセレーネの隣に座ったカムランは、まるで言い訳のように口を開いた。そのまま、俺と同じ日替わり定食に手を伸ばす。

「それは大変だったな。祭具は直せたのか?」

「……いや、すぐに修復することは難しい。ただ、スペアが見つかったおかげでなんとかなったよ」

 カムランは俺の問いかけに一瞬詰まったようだったが、何事もなかったように答えを返してきた。いや、別に俺とカムランの仲が険悪だとか、そういう訳じゃないんだけどね。
 カムラン自身はまっすぐでいい奴だと思うんだけど、どうも出世志向が強いみたいで、同期で神学校出身の俺に対抗心を燃やしているようだった。それを言うならセレーネだって同じなんだが……恋は盲目というやつだろうか。

「あら、よかったわね」

「祭具に予備がないか、探してみようと提案したのが功を奏したな」

 そしてちゃっかりアピールも忘れない。なかなか抜け目のない同期であった。

「カナメ君はどうだったの? 受付業務だったわよね?」

 それに辟易したから、というわけではないだろうが、セレーネがこちらへ話題を振ってきた。カムランも他の同期の仕事が気になるのか、俺の言葉を待つ。

「特に変わったことはなかったよ。お客さんを右へ左へ捌き続けていただけだな」

「そうなの? 受付のマイアさんが凄く褒めてたから、てっきり何かあったんだと思ったわ」

 そういえば、俺の前に休憩に出たのはマイアさんだったな。ひょっとして、さっきまで二人で喋っていたんだろうか。休憩っていっても、この食堂と庭くらいしか使えそうな場所がないもんな。

「マイアさんは人を過大評価する傾向にあるな」

 俺は元の世界の経験があるから上手く捌けるだけで、能力的に優秀かと言われると悩むところだからな。とりあえず謙譲の美徳を発揮しておこう。

「カナメ君、過ぎた謙遜は嫌味だぞ」

 と思ったら、カムランは気に入らないようだった。というか過ぎた謙遜じゃないし! だが、そんな俺の心のツッコミは彼には届かない。カムランは真剣な目で俺を見つめた。

「正々堂々と競い合い、切磋琢磨しようじゃないか。その上で、どちらが次代のクルシス神殿を背負って立つに相応しいかを皆に決めてもらおう」

 カムランの目は燃えていた。……いや、俺は別に、分殿でいいから転職ジョブチェンジの神殿を建てさせてもらえれば充分なんだけどなぁ。けどなんだか、それを言い出しにくい雰囲気がありありと漂っているのがつらい。

「……えーと、一緒に頑張るとかじゃ駄目なのか?」

「僕たちは同じクルシス神に仕える同胞だ。力を合わせるのは当然だが、最高決定権を持つ者が二人いることは好ましくない」

「本殿の神殿長になるのが大前提なのか……」

 きっぱり言い切ったカムランに、俺はちょっと引き気味だった。まあ、これくらいの方が気概があっていいんだろうけどさ。正直、ちょっと面倒くさい。ベルゼット元副神殿長のシンパに比べれば、全然問題ないレベルなんだけどさ。

 俺は今後のクルシス神殿の人間関係図を思い描いて、少し憂鬱になるのだった。






 神官の朝は早い。……という訳では、実はない。神学校時代に比べると多少起きる時間が早くなったものの、それでも王都の標準的な起床時刻から外れるほどではなかった。もっと早くから起床している職業など、いくらでもあることだろう。

 だがそれは、クルシス神殿が夜間は無人であるという意味ではない。そもそも神殿のはずれにある宿舎で暮らしている神官も多いし、月に二回ほどの頻度ではあるが、神官には宿直業務が割り当てられているのだった。

 夜も更け暗くなったクルシス神殿の中に、カツン、カツンと自分の足音が反響する。俺が宿直業務に就くのはこれで二度目だが、一人で歩き回るのはこれが初めてだ。本来なら幽霊だの何だのを怖がるシチュエーションではあるのだが、何と言ってもここは神殿だ。神殿内で幽霊を怖がるとか、なんだか罰当たりな気さえする。

 この階段を使えば向こうまで早く行けるだの、こんなところにも会議室があっただのと、日中の業務ではあまり使わない通路や部屋を頭に叩き込みながら、俺は夜の神殿を彷徨い続けていた。

 その時だった。廊下の奥がうっすら光っているのが目に入る。どうやら、どこかの部屋から光が洩れているようだった。たしか、あの辺りにある部屋は――

「神殿長室か……?」

 俺はそう見当をつけると、足音を忍ばせて部屋に近づいた。もし強盗の類だったら面倒だし、せめてキャロを連れて来たいところなのだが、今のところキャロを神殿内に入れていいという許可は下りていない。俺は神殿長室の扉の前まで来ると、そっと耳を扉に押し当てた。

……特に何も聞こえないな。それが俺の感想だった。もし物取りであれば、多少は音がしそうなものだ。だが、部屋の中に神殿長がいるにしても、あまりにも物音がしなさすぎる。そう思った俺は、緊急用の魔道具を握りしめると、静かに扉を開いて中の様子を窺った。

 すると、扉の隙間から見えたのは、机に倒れ伏した神殿長の姿だった。

「神殿長!?」

 中の様子を覗くなり、俺は扉を開け放した。念のために室内の様子を確認するが、特に不審な点は見受けられない。俺は大きく息を吸い込むと室内へ踏み込んだ。

「神殿長しっかりしてください! どうなさったんですか!?」

 俺は神殿長の元へ駆け寄ると、軽く肩を叩いた。こういう時、強く揺さぶると危ないっていうのはどっちの世界で聞いた話だったかな。そんなことを考えながら、俺は神殿長の耳元で大声を出した。

「む……?」

 そして緊急用の魔道具を使おうと手に力を込めた瞬間。なんとか、神殿長が意識を取り戻してくれたのだった。



「……いや、申し訳ない。まさか執務中に眠り込んでしまうとはね」

「こちらこそ、大騒ぎして申し訳ありませんでした」

 俺はそう言うと、神殿長に向かって頭を下げた。今、俺たちが腰掛けているのは神殿長室の来客用ソファーだ。さすがは七大神殿の神殿長室というべきか、その座り心地の良さは抜群だった。この程よい柔らかさと、そしていつまででも撫でたくなる手触りのいい毛皮。背もたれの角度も申し分ない。
 神殿長が向かいに座っているため、心ゆくまで座り心地を堪能できないのが残念だ。

「よりにもよって、この神殿に来て一月もたたない君に醜態を晒してしまうとは……。恥ずかしい限りだ」

 神殿長はそう言うと、決まり悪そうに笑った。なんだろう、この人のこんなに人間くさい表情初めて見た気がするな。

「プロメト神殿長がお忙しいのは、神殿の人間なら誰でも知っていることです。副神殿長、筆頭司祭の分も合わせて、三人分のお仕事をこなしていらっしゃるとあれば、仕事中に倒れても無理はありません」

 俺がそう言うと、神殿長は顔に複雑な色を浮かべた。

「君にまで気を遣われてしまうとはね。だが、ありがとう。もう少し健康に留意することにするかな」

 神殿長はそう言うと苦笑した。だが、それがリップサービスでしかないことは明らかだった。……この人、その内倒れてしまいそうで本当に怖いな。

「お願いします。……ところでプロメト神殿長、一つお伺いしてもよろしいでしょうか」

 いい機会だ。ちょっと聞いてみよう。ひょっとしたら神殿長の人となりが分かるかもしれないし。そう判断した俺は、気になっていたことを質問することにした。

「なんだね?」

「なぜ、新たに副神殿長や筆頭司祭を任命なさらないのでしょうか? そうすれば、プロメト神殿長の業務量は減るように思うのですが……」

 そう言うと、神殿長は目を瞬かせた。少し押し黙ったあと、口を開く。

「実を言えば、筆頭司祭については声をかけている者がいる。だが、その者は国外にいるのだよ。いつ戻ってくるかは分からないが……」

 その言葉を聞いた俺は驚いた。わざわざ国外にいる人を連れて来ようとしていたのか。プロメト神殿長の腹心とか、そういう人なのかな。
 そんなことを考えている俺をどこか探るような目で見ると、神殿長は言葉を続けた。

「副神殿長の職については、しばらく空席にしておく他ない。……あの事件からまだ数か月しか経っていないからな。すぐに代わりの人間を任命してしまっては、格好の非難材料になるだろう。神殿長会議でもその意見で一致した。ことはクルシス神殿だけの話ではすまないからな」

 なるほど、そういうことか。俺は神殿長の説明に納得した。と、頷きを返す俺を見て、神殿長は興味深そうな表情を浮かべた。

「おっと、つい込み入った話をしてしまったな。……カナメ君だったね。君はこういう政治的な話は嫌いかな?」

「好きでも嫌いでもありませんが、無視できないものだということくらいは分かっているつもりです」

 神官にこの手の話を嫌う人間が多いというのは、よく聞く話だ。実際に同期のカムランにもそんな傾向が見え隠れしてたしな。だが、人間社会の中に存在する組織である以上、それと無縁でいられるはずがない。

「そうか、それは嬉しいな。こういう話に付き合ってくれる神官は少ない。さっきの話を聞いて興味深そうな顔をしたのは、君を入れてごく数名だけだからな」

 そう言うと神殿長は笑顔を見せた。この人、本当に嬉しそうだな。それにしても、神殿に入ったばかりの俺にそんな話をするほど、そっち方面の仲間が少ないんだろうか。俺はちょっと神殿長が心配になった。

「ベルゼット元副神殿長がいなくなった途端、いくつかの神殿が勢いづいてね。元々末席に近いクルシス神殿が、七大神殿の中でも有数の発言力を持っていたことが気に入らなかったのだろう。ダール神殿はこちらに好意的だが、他の神殿は今のうちに自分の勢力を伸ばそうと躍起になっている。」

 ああ、敵は神殿派にもいたのか。あまり盛大にクルシス神殿を叩くと、神殿派自体に対してダメージがくるからな。神殿派の勢力を落とさず、クルシス神殿の勢力を落とすには、今回の事件はうってつけだったのかもしれない。なんせ、合法麻薬の問題は、法的には問題なかったわけだし。

「教会派は当然こちらの隙を窺っているし、土地神派や伝承派の中にも、神殿派が三派のまとめ役となって教会派に対抗している現状に不満を持っている派閥はある。『やり手の魔法剣士マジックナイトたる副神殿長』がいなくなった今、クルシス神殿には大した力がないと侮られているのだろう」

 そしてそれは正しい、と神殿長はつけ加える。俺は曖昧な表情で相槌を打つほかなかった。

「せめて事件の首謀者がベルゼット君以外であれば、彼らもここまで調子に乗ることはなかったのだろうがね」

 そう言ってプロメト神殿長は溜息をついた。まだ五十歳そこそこのはずだが、一気に五歳は老けたように見える。そんな彼を見ながら、俺は少し考え込んだ。

――プロメト神殿長なら大丈夫に思える。完全な宗教家というわけでもなく、かといって合理一本やりの経営者でもない。そのバランスが重要だった。どちらかに偏りすぎていると、俺の身に危険が及びかねない。
 まずは信頼できそうな幹部クラスを探して、と思っていたのだが、それが最高責任者なら話は早い。

 よし、決めた。

 俺はそう心の中で呟くと、ソファーから立ち上がった。突然の行動に驚いた神殿長がこちらを見るのを確認すると、俺は真剣な表情で口を開いた。

「プロメト神殿長、ご相談があります。場合によってはクルシス神殿の現状を変えられるかもしれません」

 俺の言葉を聞いて、神殿長は怪訝そうな顔をした。神殿に入りたてのひよっこが何を言うのかと思っているのかもしれない。俺が向こうの立場だったら、間違いなくそう思うだろう。だけど、そんなことはどうでもいい。重要なのはここからだ。



「私には、人を転職ジョブチェンジさせる力があります」


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