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転職の神殿を開きました 作者:土鍋

転職の神殿を開きました

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前触れ

「ん……」

 ガタゴトと揺れる馬車の中で、彼女は目を覚ました。幌の隙間から外を覗くと、どうやら空が白み始めたばかりのようだった。
 依頼主を守りながら御者を変え馬を変え、急ぎ足で進み続けて何日が経過しただろうか。その甲斐あって、ようやく馬車は目的地へ辿り着こうとしていた。

 周りの仲間たちはみんな寝静まっている。今の哨戒当番は誰だったか。寝起きの割にはっきりしている頭でそんな事を考えながら、彼女は身を起こした。

 やがて彼女は、寝ている仲間たちを起こさないよう慎重に、前方にある御者席へと移動した。

「……まだ交代には早いぞ」

「そうね。……でも、なんだか目が覚めちゃって」

 そう答えた彼女をじっと見ると、御者の隣で哨戒を担当していた男は、何かを思い出したかのように頷いた。

「……そうか、お前の目的は王都へ着くことだったな。ここまで目的地へ近づけば、気になって眠りも浅くなるだろう」

 そう言ってから、彼はぽつりと呟いた。

「ということは、一緒に仕事ができるのも、これが最後か」

「うん。ごめんね」

「……謝る事はない。元々そういう約束だった。むしろ、我々に付き合って半年近くも行動を共にしてくれた事に感謝している」

 普段寡黙な彼が、これほど長く話すのは珍しい事だった。それくらいには、彼女はこのパーティーに受け入れられていたのだろう。その事実は嬉しくもあったし、反面寂しさを伴うものでもあった。

と――。

「あれは……!」

 突然、常人より鋭敏なその知覚が周囲の異変を察知する。彼女は反射的に愛剣を取りに戻ると、そのまま寝ている仲間たちを叩き起こした。

「みんな起きて! 敵襲よ!」

 彼女の言葉を聞いて、仲間たちが一斉に飛び起きる。その様子を確認すると、彼女はまだ走っている馬車から飛び降りた。

 どうやら襲撃してきたのは人間のようだった。その事実に溜息をつくと、彼女は愛剣を鞘から抜き放った。



――――――――――――――



「カナメさん、今日は魔道具の話でよかった?」

「……ああ、よろしく頼む」

 初めてミルティと出会ってからもう半年以上経つだろうか。時折暇を見つけては、彼女から魔法について教えてもらっていたおかげで、俺はこの世界の魔法について、それなりに詳しくなっていた。

 まず、魔法が使えるのは魔法職の固有職ジョブ持ちだけだ。これはかなり重要なことで、この世界には魔法職として強力な魔法を使える存在と、まったく使えない存在のどちらかしかおらず、その分布は完全に二極化しているということだ。

 そのため「指先ほどの大きさの炎が起こせる」だの「そよ風なら吹かせることができる」だのという人間はおらず、必然的に魔法理論はごく一部のエリートのための技術体系という位置づけになってしまう。

 にも関わらず、魔法の研究を志す者は少なくない。それは何故かというと、ミルティ曰く「特技スキルと違い自由度が高い」ためらしい。

 特技スキルは特別な力ではあるが、使い手によって劇的に効果が変わるということはない。例えば衝撃波ソニックブームでいうと、使い手によって威力や飛距離に差が出るものの、それ以上の変化――炎を伴ったり身体能力を向上させたり――はあり得ない。

 だが、魔法はそもそもが理論的なものであり、引き起こしたい事象への理解とイメージ力、そして相性と注入する魔力量の四点で魔法の発動可否が決定されるらしい。
 俗にいう『魔法書』とは、大抵がその内の『事象への理解』にポイントを当てたものになっているという。

 もちろん、どのようなイメージの描き方が最適か、魔法と術者の相性の関係性、魔力の注入量の最適化を図るにはどうすればいいのか、といった命題も魔法学には存在するが、やはり最難関は『事象の理解』だ。
 それらをクリアすれば、知られている魔法だけでなく、様々な魔法を創り出すことができるらしい。

 それなら、俺が元の世界で得た知識を提供すれば研究が捗るんじゃないか――そう考えたこともあったのだが、どうやらそう上手くはいかないようだった。

 ある程度の助けにはなるようだが、そもそも俺が一般人レベルの知識しか持っていない事と、そして魔力を初めとする謎のエネルギーがこの世界の事象に影響を及ぼしている事が原因のようだった。

 なお、その理論だとアデリーナの火炎槍フレイムランスのように、固有職ジョブを得た瞬間に覚える魔法の存在が説明できないんじゃないかと聞いてみたのだが、初期魔法は特技スキルに近い別系統の魔法だという考え方が最近の定説だという。

 俺がそんな事を思い出している間にも、ミルティは説明を始めていた。

「魔道具は、その名の通り魔法を道具に封じ込めたものね。魔法と道具の組み合わせによって、様々な種類の魔道具を作ることができるの。
 攻撃魔法を封じ込めた魔法球のような戦闘用アイテムから、ライトの魔法を封じ込めたランプまで、その用途は多岐にわたるわね」

 そう言うと、ミルティは視線を上に向ける。つられて上を見上げると、そこには魔道具のランプが吊るされていた。もはや見慣れた喫茶店の天井だが、そういう目線で見るとまた違って見える。

「古代魔法文明は、特にこの魔道具が高度に発達していたと言われているわ。古代遺跡を発掘すると、今でも稼働できる状態の魔道具が多数発見されるから、古代遺跡の発掘に心血を注いでる人は多いわね」

「現代よりも上質な魔道具が手に入るのか?」

 俺が質問すると、ミルティは肩をすくめた。

「そもそも比較にならないわ。だって魔道具職人そのものが希少すぎて、技術の発展だとか、そういう土俵に上がることができないもの」

「え……?」

 あれ?なんだか引っ掛かるな。そう思っていると、ミルティは不思議そうな表情で俺の方を見た。

「むしろ、そのあたりはカナメさんの方がよく知っているんじゃない?今まで鍛冶師ブラックスミス細工師アルティザン転職ジョブチェンジした人はいなかったの?」

「なんだって!?」

 俺はつい大声を上げてしまった。周囲の視線が俺に集中したことに気付いて、俺は誰にともなく軽く頭を下げる。彼女の説明は、それほどに驚きをもたらすものだった。

「それは固有職ジョブなのか?」

 俺の質問に、今度はミルティが驚いたようだった。彼女は目を瞬かせてから口を開く。

「そのはずよ。……カナメさん、ひょっとして今まで一件も?」

 彼女の言葉に俺は頷きを返した。それがたまたま資質持ちに出会っていないだけなのか、それとも純粋に数が少ないのか、はたまた俺の能力では察知できないのか、それは判断のしようがない。だが、俺には一つ心当たりがあった。

「見たことがないな。……もし俺の予測が正しければ、固有職ジョブの資質はその同系統の動作を行うことで高まっていくはずだ。だが、そもそも辺境には専業で鍛冶や細工をする人は少なかったし――」

「みんな、大抵のことは自分でやってしまうものね」

 ミルティはしみじみとため息をついた。危険の多い辺境では、一人の人間の技能に依存してしまうと、その人間がモンスターに襲われて死んでしまった時等に代わりがおらず、村全体が詰んでしまう。そのため、基本的にやれることは自分でやる習わしになっていた。

 鍛冶屋はさすがに専業だったはずだが、少なくともルノール村にはいなかったため、その姿を見る事のないまま俺は王都へ来てしまったのだ。
 もちろん悪い事ではないが、固有職ジョブの資質を高めるという観点でいえば、非常に効率が悪い話だと言えた。

 王都なら専業の鍛冶屋や細工屋だっているだろうけど、こっちに来てからは戦いに縁がありそうな人を中心に資質を見ていたからなぁ。いちいち人とすれ違うたびに資質を確認するのはさすがに疲れるから、ってメリハリをつけたのが仇になったか。

「ただの武器や装飾品を造るのに固有職ジョブは必要ないけど、魔法を封じ込められるような武器や装飾品となると、鍛冶師ブラックスミス細工師アルティザンでなければ作ることができないのよ」

 それに、と彼女は付け加えた。

「魔法をこめるのは魔術師マジシャンの仕事になることも多いけど、これも術者によって相性があるの。生活用の魔道具は遺跡からそれなりの数が手に入るのに、そこに魔法をこめられる魔術師マジシャンばかりじゃないから……」

 そもそも遺跡の発掘品だけあって、どんな魔法を封じるべきか分からないものも多いし、大掛かりな魔道具だと魔法をこめるだけでも至難の業だという。魔法といえど万能じゃないんだな、としみじみ思う俺だった。



「……そういえばカナメさん、教会が近々モンスター討伐に赴くと聞いたけど、本当なの?」

 ミルティが興味津々といった様子で聞いてきたのは、魔道具の話が一区切りついて、休憩していた時のことだった。モンスター討伐か。てっきり国の専売特許だと思っていたけど、統督教でもそういう事をやってたんだな。

 だが当然ながら、その質問は俺が与り知るところではなかった。

「いや、初耳だよ」

「あら、そうなの?てっきり神学校生は皆知っているんだと思っていたわ」

「俺は教会派じゃないしな。いや、教会派だったとしても、神学校生にまで伝えることかどうか……」

 そう答えた俺に、ミルティは不思議そうに言葉を重ねた。

「私がその話を聞いたのは昨日だけど、教会が大々的に宣伝していたわよ。都民の噂話は今その話で持ち切りだもの」

 知らなかったな、そんなビッグイベントがあるのか。特待生仲間とはそれなりに話すものの、それ以外にはあんまり雑談をする相手もいないからなぁ。今更ながらに、自分の交友関係の狭さを実感する。

「カナメさんも従軍するのかな、って心配していたけど違ったのね」

「まず関係ないだろうな。とはいえ、討伐隊には頑張ってほしいところだ」

 それは本心からの言葉だった。この大陸では、明らかにモンスターの勢力が強まっていた。まさか王都に全王国民が避難してくるような事態にはならないだろうが、人種族の版図は縮小の一途を辿っている。

 そのことを考えると、モンスター討伐は人々に希望を与えるためにも必要なことだろう。それは教会派らしいやり方だった。
 人々にとって、分かりやすいやり方で自らの存在を示し、そして新たな信徒を獲得する。それが、神学校で半年の間、教会派を見てきた感想だ。

おそらく、今回も教会の『聖女』と呼ばれる固有職ジョブ持ち集団の誰かが出陣するのだろう。『聖女』を使い討伐をドラマチックに演出しようとするその考え方は嫌いじゃないが、俺にはできそうにもない。

そんな事を思いながら、俺はコーヒーを啜るのだった。



―――――――――――――



「なんだと……!」

 クローディア王国教会の一室。そこで部下の報告を聞いていたバルナーク・レムルガント大司教は眉を顰めた。

「恐れながら、トリアード公爵はロンバート第一王子を賓客としてお迎えする予定とのこと。彼らが求める通り『聖騎士』殿を出席させなければ、礼を失すると謗られる可能性は充分あります」

「メルーゼ村のモンスター討伐は確定事項だ。今さら変更できん」

 そう言いながら、バルナークは胸中で宮中の狸たちに向かって毒づいた。彼らの魂胆は分かっている。教会が王国民の信頼を過度に集めることを警戒しているのだろう。

 ならば自ら子飼いの固有職ジョブ持ちを率いて討伐に向かえばよさそうなものだが、彼らにそのつもりはない。

 そのくせ、教会の『聖女』の中でも最高戦力たる『聖騎士』に対して、討伐遠征期間中に開かれるパーティーへの出席を要請するなどという小細工はしっかり行ってくるのだ。

 もちろん要請を断って『聖騎士』を討伐に派遣することは可能だ。だが、それではあの貴族たちに付け入る隙を与えることになる。それがどれほど厄介なことか、バルナークは身に染みて分かっていた。

「村を占拠しているモンスターは岩蜥蜴ロックリザード石蜥蜴ストーンリザードだったな」

 バルナークは討伐計画の骨子を思い出す。岩蜥蜴ロックリザードの石化の魔眼は危険だが、それ以外に秀でた能力はなかったはずだ。

「今、王都周辺にいる『聖女』は『聖騎士』だけだが、たしかノルヴィス神学校に『聖女』候補の治癒師ヒーラーがいたな」

「大司教様、では彼女を……?」

 驚いた様子の部下に、バルナークは頷いてみせた。そして迷いのない声で指示を出す。

「全権をガライオス特別司教に預ける。その上で奴が危険だと判断するようであれば、『聖騎士』を討伐に参加させる。各関係者にそう伝達しておけ」

 部下が任務を果たすべく部屋を後にした事を確認すると、バルナークは窓を見ながらぼそっと呟いた。

「彼女は戦場に向いた気質ではなかったように思うが……。ガライオス、頼んだぞ」



――――――――――――――



『戦闘訓練』の授業はまず走り込みから始まる。この半年間繰り返されたお馴染みのメニューであり、それは今日も同じだろうと、そう思っていた。

 だがそんな予想は、校庭に現れたガライオス先生の言葉で崩れ去った。

「今日は拙僧から諸君に、話しておきたい事があるのである!」

 その一言に、走り込みの準備をしていた生徒たちがどうしたんだ、という表情で集まってくる。その面子の中にシュミットの顔を見つけた俺は、つい複雑な気分に囚われた。

 結局この半年間というもの、シュミットとの関係は相変わらずだ。会話の糸口がないことと、奴が可能な限り俺を避けようとしていることを主因として、なかなか関係改善は図れないでいる。

 実を言えば、最近のシュミットはそう嫌いな訳でもない。辺境民を蛮族呼ばわりする事には相変わらずイラッとするが、良くも悪くも慣れてしまったのかもしれない。
 バルナーク大司教に傾倒していたり、戦闘訓練でヘロヘロになったところを見ていると、意外と普通の人間に見えてくるのだ。……まあ、いちいち行動が過激なのは間違いないけどね。

 そして何より重要なことだが、奴が教会派の名家出身である以上、統督教への影響力は馬鹿にできない。俺が後々神殿を開く予定である事を考えると、強敵の数は少ないに越したことはなかった。

「拙僧は二十日後に行われる、北方のメルーゼ村を占拠した岩蜥蜴ロックリザードの討伐遠征に指揮官として赴く予定である!」

 ガライオス先生の言葉に、生徒たちがざわざわと騒ぎ出した。もちろん彼の強さを疑っている者はいない。
 だが、わざわざこの場で切り出したのはどういう目的なのだろうか。休講の連絡にしては早すぎる。そう思ったのが顔に出ていたのか、ガライオス先生は俺の方を見ながら続ける。

「遠征は我が友、バルナーク大司教からの直々の依頼である。だが、今回の遠征には一つ気掛かりが存在するのである」

 そう言うと、ガライオス先生は俺たち全員を見渡した。

「今回の遠征には、当校の生徒にして治癒師ヒーラーたるミュスカ・デメール嬢が従軍予定であるが、彼女に戦闘経験はなく、また性格も戦いに向いているとは言い難いのである」

 ミュスカの名前を聞いて、受講生の何割かが身を乗り出した。最近、人前で明るい表情を見せる事も多くなった彼女は、その華やかな容姿と『聖女』候補の治癒師ヒーラーであるという面も相まって、瞬く間にファンを増やしていた。ひょっとすると、彼らもその一部なのかもしれない。

 彼らの反応を確認するように間をおいてから、ガライオス先生は言葉を続ける。

「そこで、諸君ら『戦闘訓練』の受講生の中からも、討伐遠征の参加者を募りたいのである!
 もちろん、諸君らを危険な第一線へ向かわせるつもりはない。それくらいならば、拙僧は潔く敗走しその責を問われるつもりである。諸君らに参加を依頼するのは、ミュスカ嬢を精神的に孤立させないためなのである」

 それは、ある意味では失礼な話だった。俺たちを戦力ではなく、ミュスカの精神安定剤として使おうというのだから。だが、彼女の気性に配慮するその姿勢には好感が持てた。

 けどなぁ。ミュスカには悪いけどあんまり気が進まないなぁ。教会派が主体になっている討伐隊の中にいるだけでもプレッシャーだし、何がきっかけで目立ってしまうか分かったもんじゃない。たしかに彼女のことは心配だけど……。

「ミュスカ嬢と共に討伐遠征に参加してくれる者は、拙僧まで申し出るのである!」

 そう言うと、ガライオス先生は腕を組んで押し黙る。しばらくの間、沈黙と受講生のお互いを探るような視線がその場を支配した。

「……お、俺行きます!」

「先生、僕も参加します!」

 だが、一人の言葉を皮切りに、我も我もと受講生がガライオス先生の下へ詰めかけた。いつの間にか彼の周囲に人だかりができる。

 そんな中、興奮した様子の彼らを見て、俺は少し心配になってきた。ツアーじゃないんだぞ。もちろん、ミュスカ目当てではなく、モンスター討伐に参加できることに心躍らせている生徒もいるだろう。

 だが、どちらにせよ地に足が着いていないように見えるのは同じだった。……まあ、俺だって偉そうなことを言える身分じゃないけどさ。

 そんなことを考えていると、ガライオス先生の声が聞こえてきた。

「言い忘れていたのである!此度の遠征に参加できるのは、上級生のみである!」

 あ、そうなんだ。先生の言葉を聞いて、下級生っぽい何人かが肩を落とすのが目に入った。持ち上げて落とすとはなかなかひどい話だな。……いや、それとも意図的なものだったのか。

 よく考えれば、最初は普通に討伐遠征のことを話していたのに、ミュスカの名前が出た時の生徒の反応を見てから、彼女の知名度を利用するような形での勧誘に切り替えたように思える。
 そして、人数が確保できたと分かった瞬間に、下級生は対象外だと宣言する。

 いくら後詰めだとはいえ、モンスターの討伐遠征に安全地帯があるとは思えない。そういう意味でも、下級生を連れて行きたくはなかったのだろう。
 だが、かといって希望者が誰もおらずミュスカが孤立する事態は避けたい。苦肉の策として、上級生の参加者が一定数見込めるまで黙っていたのではないだろうか。

 まあ、ただの推測だけどね。けど、ガライオス先生がただの脳筋じゃないことは、この半年の授業を受ける中でなんとなく確信しているだけに、そんな気がしてならないのだった。

 と、先生の周りにいる参加希望者が誰もいなくなったところで、思わぬ人間が動いた。シュミットだ。そこでふと思いついた俺は、奴に数歩遅れてこっそり後を追った。

「ガライオス先生、バルナーク大司教はおいでになりますか?」

 ああ、そういうことか。ガライオス先生は彼の言葉を聞くと、首を横に振った。

「バルナーク大司教には別の用事があるゆえ、拙僧が全権を委任されているのである!」

 その返答を聞いて、シュミットは迷っているようだった。うーん、どうなんだろうね。俺がシュミットの立場だったら、バルナーク大司教を『我が友』と呼び(一方的にかもしれないが)、かつ彼から討伐指揮官を任される人物に顔を売っておいても損はないと判断するところだなぁ。

 そんなことを考えていると、やがてシュミットが決意したように口を開いた。

「俺も参加します」

 彼の言葉を聞いて、ガライオス先生は幾分嬉しそうな様子だった。そして、俺たち(・・・)に向かって声をかける。

貴公ら(・・・)はミュスカ嬢と同じ特待生クラスであったな!彼女も喜ぶことであろう。二人(・・)を討伐隊として認めるのである!」

「……!?」

 そこでガライオス先生の表現に違和感を感じたのだろう、シュミットは慌てて後ろを振り向いた。おかげで、後ろにいた俺と正面から視線がぶつかる。

「貴様、いつの間に……!」

 シュミットは実に嫌そうな表情で呻いた。ふふん、ざまあみろ。……じゃなかった。平和にいこう平和に。せっかくの計画が台無しになってしまう。

 そう、俺はシュミットと一緒に遠征へ行こうと考えたのだ。普段は俺を避けてどこへなりと姿を消してしまうシュミットだが、遠征中にそんな勝手な真似はできないだろう。

 しかも、共に遠征するとなれば、戦友として連帯感を持つことだってあり得た。それがどれほどの効果をもたらすかは分からないが、これはチャンスだ。

 ……どうして俺がここまで頑張らなきゃならないのか、と思うとなんだか腹が立って来るが、これも俺の今後のためだ。ミュスカのこともあるし、遠征に参加するメリットは充分あるように思えた。

「他に希望者がいないようであれば、これで参加募集を締め切るのである!」

 シュミットが口をパクパクさせている間に、ガライオス先生は大声で締め切りを宣言した。もはやこうなってしまえば、シュミットとて撤回は難しいだろう。
 それに気のせいかもしれないが、先生は俺たち二人が来るのを待っていたふしがあった。思い返せば、ちらちら視線がきていたような気もする。

「……後は、何事も起きないのを祈るしかないか」

 こうして、俺たちは遠征に参加することになったのだった。
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