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転職の神殿を開きました 作者:土鍋

転職の神殿を開きました

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到達

「あの、本当に……本当に行かれるのですね……?」

 その声は震えていた。そうであってほしくないという願いと、そうなってしまうだろうという諦念。それらの感情が入り混じって、努めて平静に振る舞おうとしている彼女を揺り動かそうとする。

「――」

「分かっています。そう仰ると思っていました」

 彼女は目を伏せる。心から賛同できるとは言えないが、自らの立場を考えれば異を唱えることなどあり得ない。
 だが、それでも素直に送り出すことはできなかった。

「――」

「……ええ、大丈夫です。むしろ、私以外の者に託されなくてほっとしているくらいですもの」

「――」

「はい。……それでは、行ってらっしゃいませ」

 やがて、彼女はゆっくりと辺りを見回す。つい今しがたまで感じられていた気配は、もうどこにもない。

 一人残された彼女は、ぽつりと呟いた。

「いつまでも、お待ちしていますから……」



 ――――――――――――――――――



「俺がいないと、遺跡が姿を現さない……?」

 意味がよく分からず、俺はエリザ博士の言葉を繰り返した。

 エリザ博士は古代文明研究の第一人者だ。最先端である帝国の古代文明学会で頭角を現した鬼才であり、その優秀さは帝国学会を追われた今でも変わらない。

 その彼女が言うのだから、何かしらの理由があるに違いない。そう判断すると、俺はエリザ博士の言葉を待つ。

「あくまで可能性の一つだけどね。と言うのも、古代文明の遺跡によっては、何かしらの条件を満たした者でなければ足を踏み入れることができない、って厄介な特性を持ったものがあるんだ。例えば当時の領主の子孫でなければ入れないとか、種族が限定されているとかね。とは言え、今回の遺跡は都市型でかなりの広さだと聞いているから、そんな設定をしていては街としてやっていけないと思う。ただ、実際に一度その古代遺跡に侵入することができていて、なおかつ今回は見つかりすらしないということは、特定の人間以外には認識すらさせないという極めて強力な認識阻害魔法が使われている可能性も考えられる。となれば、以前に侵入できたというメンバーを再現するのが一番手っ取り早いからね。実を言えば、あたしも都市型の古代遺跡と言うのは初めてだし、もし綺麗な状態で残っているなら、それこそ古代文明研究の歴史が塗り替えられる可能性すらあるんだ。もはや信憑性のある文献は残っていないけど、ひょっとしたら『失われた姉妹都市(ロスト・ツインズ)』の片方かもしれない。だとしたら、古代魔法文明時代でも最高クラスの都市だったはずで……」

「――エリザ博士、申し訳ありませんが一旦話を切らせて頂いてもよろしいですか?」

 博士の怒涛の解説ラッシュを遮ったのは、パーティーの参謀役であるマイセンだった。この人、もし止めなかったらいつまで話し続けるんだろうな……。
 周りを見れば、みんなが「また始まった……」という生温かい表情を浮かべている。遺跡を探していたという数日間、彼女がどんな様子だったのかが分かろうと言うものだ。

「つまり、こんなわけなんだよ。もし博士の予想が正しければ、君たちが同行してくれれば遺跡が見つかるはずなんだ」

 クリストフがエリザ博士の解説を身も蓋もなく簡略化する。

「遺跡の発見は優先事項だからな。同行するのは構わないが……長期間神殿を空けるのは避けたいな」

「僕が乗り込んで巨大怪鳥ロックを強化するよ。それなら、人数が増えても大丈夫だし、数刻で到着する」

 そう言えば、遺跡はそこまで遠くにあるわけじゃなかったな。おおよその位置を思い出しながら、俺は彼の言葉に頷く。

「分かった。できるだけ早く出発できるよう予定を調整するよ。また連絡する」

「うん、待っているよ」

 クリストフが俺の言葉に応じる。それはマデール商会の魔獣使い(ビーストマスター)としてではなく、評議員としてのものだ。
 なんせ、彼は実際に遺跡へ行ったことがある上に、移動に必須である巨大怪鳥ロック便の所有者だ。そのため、遺跡の探索にかかる事項はクリストフの担当になっているのだった。

「……ともかく、これで戦力は一気に増強されたわけだな。上級職のクルネとあの聖獣だろ? 大抵の魔工巨人ゴーレムはあっさり倒せるんじゃねえか?」

「ノクトたちも固有職ジョブ持ちになったことだしね。……六人全員が固有職ジョブ持ちなんて、各国に警戒されそうね」

 ノクトの言葉に、クルネは冗談めかして答える。

 ……そうなのだ。俺たちを訪ねて辺境へやって来たアルミードたちだったが、以前はまだ資質が足りていなかったノクト、グラム、カーナの三人が見事に資質を開花させていたのだ。

 危険な遺跡探索を依頼するということもあり、転職ジョブチェンジの費用は後で協議することにして、先に彼らを転職ジョブチェンジさせたのは数日前のことだった。

 そのため、彼らのパーティーは、騎士ナイトアルミード、格闘家モンクグラム、盗賊シーフノクト、弓使い(アーチャー)カーナ、地術師アース・メイジサフィーネ、薬師ケミストマイセンの六人組となり、恐らくは大陸最強の冒険者パーティーとなっていた。
 さらに言うなら、マイセンには上級職の資質が芽生えていたのだが……こと薬に関しては自重しない彼の性格を考慮すると、なんだか怖い気がする。

「俺たち六人より、クルネ一人のほうがよっぽど危険人物だぜ? ……まったく、ようやくクルネに追いついたと思ったら、まさか剣匠ソードマスターになってるなんてよ。聞いた時は開いた口が塞がらなかったぜ」

「そうそう、アルミードなんかショックを受けてたよね」

「そ、そんなことはない! 僕はクルネの成長を喜んでいる!」

「あー、はいはい、そうだね」

 仲の良さそうな会話がひとしきり続く。そんな中、真面目な声を上げたのはエリザ博士だった。

「たしかに固有職ジョブ持ちをこれだけ投入した遺跡探索は初めてだろうね。古代文明が滅びて以来初めてかもしれない。……けど、油断はしないでほしいんだ。なんせ、今度の遺跡だってその規模、技術共に史上最高クラスの都市だった可能性があるからね。と言うことは、警備システムだって尋常じゃないはずさ。誤作動を起こしたりあたしたちがヘマをしたりしなきゃいいんだけど、遺跡の調査でその手の事故が起こらなかったことはほとんど皆無なんだ。だから、念のための戦力は多いに越したことはないさ」

「現状の戦力では不安があると?」

 そう尋ねたのはアルミードだ。博士の主張は分かるが、自分たちの実力を疑われたようで複雑な気分なのだろう。なんだか面白い表情になっていた。

「言ってしまえば、大陸全土の戦力をかき集めてほしいくらいさね。帝国でちょくちょく見つかる小さな遺跡とはケタが違うからね。その小さな遺跡でさえ、時には帝国軍が投入されていたんだよ」

「相手の脅威度が分からない以上、こちらで用意できる最高の戦力を揃えたいというエリザ博士の主張はよく分かります。……まあ、後は評議会の財布次第でしょうが」

 フォローするようにマイセンが口を開く。その言葉を受けて、クリストフが珍しく渋い表情を浮かべた。……まあ、アルミードたちを雇っているだけでも結構な出費だろうからなぁ。

「ま、そういう意味じゃカナメを巻き込んだのは上手いやり方だよな。なんせ、カナメが来ればもれなくクルネが付いてくるからな。上級職にまっとうな報酬を払ってりゃ、一瞬で財布が空になるだろうからよ」

「……ええ、本当ですね」

 ノクトがそう茶化すと、わずかにクリストフの表情が引きつった。……あれ、ひょっとして図星だったんだろうか。だとしたら、にこやかな顔をして意外と策士だな。

「少しでも陣容を厚くしたいのは山々なんだけどね……ここのところ、評議会はだいぶお金を使っているからね。これ以上は厳しいかな」

 それは駆け引きでもなんでもない真実なのだろう。たしかに、ここのところ色んな出費をしていたようだからなぁ。

「……いや、そうとも限らないぜ?」

 と、そこへ割って入ってきたのはノクトだ。俺を見てニヤリと笑うノクトを見ていると、なんだか嫌な予感がこみ上げてくる。

「カナメのことだからな。どうせ、無償で手伝ってくれる綺麗どころが揃ってるんだろ? ん?」

 まるでおっさんのノリで、ノクトがそう問い詰めてくる。俺をなんだと思っているのか……。ただ、その言葉に心当たりがないわけではないのが複雑なところだ。

「まあ、魔法職と回復役が一人ずつしかいませんから、可能なら増員したいところですが……頼んでも受けてくれるかどうか」

「ふうん、そうなんだ……」

 すると、クルネがなんとも言えない表情で俺を見た。弁解しなければならない気がして口を開こうとするが、それより早くノクトが笑い声を上げる。

「クルネ、ここは笑顔で受け入れるのがいい女ってもんだぜ」

「はっ、ノクトが言ってるのは都合のいい女の間違いじゃないのかい? そんなだからいつも女に逃げられるんだよ」

「うっせーな、それは別の話だろ……」

 即座にカーナのツッコミが入り、今度はノクトがしどろもどろになる。その様子にみんなで笑い声を上げていると、クリストフがまとめに入った。

「カナメ君、巨大怪鳥ロックの定員は問題ないから、もし可能なら協力者を当たってほしい。ないとは思うけど、遺跡の魔工巨人ゴーレムに全滅させられてからでは遅いからね」

「金銭以外の報酬を用意することも視野に入れていいのか?」

 そう尋ねると、クリストフはしばらく考え込んだ後、首を縦に振った。

「……構わないよ。君が妥当だと考える範囲なら、僕の名において約束する」

「分かった。それじゃ、心当りを当たってみるよ」

 その会話を合図に、みんなが腰を浮かせる。神殿の外まで彼らを見送ると、外はすっかり夜になっていた。

 高層ビルが立ち並ぶ、元の世界を思い出させる街並み。あの光景をもう一度目にするのだと思うと、不思議な感慨が胸を満たすのだった。






 マデール商会が誇る巨大怪鳥ロック便は、通常八人乗りだ。それは巨大怪鳥ロックの能力を考慮したものであると同時に、客席となる籠の大きさに左右されている。
 古代文明の遺産だとされるこの籠は、耐衝撃能力に極めて優れており、空中で放り出されたとしても命の危険はない。そのため、安全措置として籠の使用は必須だった。

「こんな大人数で空を飛ぶのは初めてだな……」

 だが、今回の遺跡探索のために乗り込んだ人間は、実に十三人と一匹にのぼる。そのため、巨大怪鳥ロックはいつもの籠ではなく、もっと大きな箱型の客室をぶら下げて大空を飛翔していた。

「ミレニア司祭が優先的に作業をしてくれたおかげで、この人数でもゆったりできるね」

 そう応じたのは巨大怪鳥ロック便の主であるクリストフだった。聞いたところによると、この大型の客室は以前から依頼していたものらしい。
 その背景には巨大怪鳥ロック便の需要が増えていることもあるし、遺跡探索のために、大人数の輸送能力が求められているという事情もあった。

 そんなわけで、客室そのものは頑丈な木造でしかないが、耐衝撃能力や落下速度減衰の付与魔術エンチャントを組み込んだ細工品が大量に埋め込まれていたのだ。
 まだ試験運用中ではあるが、今回は魔法職が二人もいる。万が一の事態が起きても問題はないという考えだった。

「本当に……空を飛んでいるんですね……」

 そう呟いたのは、初めて巨大怪鳥ロック便を経験するミュスカだ。彼女は物珍しそうに眼下を流れる景色を見つめているが、意外なことに表情に恐怖の色はない。

「どちらかと言うと、すごいなって、感動のほうが大きくて……」

「ミュスカちゃんは凄いわね……。私なんて、未だに本調子とはいかないわ」

 そう答えるミュスカを、ミルティが感心したように褒めたたえる。とは言え、そういう彼女も巨大怪鳥ロック便にはだいぶ慣れてきている。顔が青いだとか、そこまでの状態に陥る心配はなさそうだった。

 俺は彼女たちの状態を確認すると、次いで隣の集団に目をやった。そちらで輪になるように座っているのは、アルミードたちのパーティーだ。

 遺跡探索に向かう仲間とは言え、大人数ではどうしてもグループができてしまう。そして今回の場合は、アルミードたち六人と、俺、キャロ、ミルティ、ミュスカ、クリストフ、アニスの辺境組、そして中間にいるクルネと、完全に独立して書物を開いているエリザ博士の四グループに分かれていた。

 と、そんな俺の視線に気が付いたノクトが、やや離れた場所から声をかけてくる。

「……ったく、カナメよう。たしかに綺麗どころを連れて来いっつったけどよ、本当に実行するかねぇ……俺っちもそっちへ混ぜてほしいくらいだぜ」

「別に顔で選んだわけじゃありませんが……」

 そんなノクトの言葉に、俺は半眼で応じる。

 そもそも、古代遺跡の探索は危険な仕事だ。遺跡の警備システムに引っ掛かり全滅した例は枚挙に遑がない。それを踏まえて考えると、頼みごとができて、なおかつ実力がある人間なんて、そうそういるはずがなかった。

 それに、今回の探索に同行してくれるのはミルティとミュスカの二人だが、他にも声をかけたり検討した人物はいる。

 だが、例えばウォルフは「仕事が忙しいし姉が心配なので遠慮したい」と辞退したし、エリンには「魔工巨人ゴーレムなんて食べられないものを狩る暇はない」と断られた。
 そして、ジークフリートは固有職ジョブの特性上、大勢の固有職ジョブ持ちが街を離れる時には残ってもらう必要があった。

 さらに、ラウルスさんは辺境の防衛の要として抜くわけにはいかなかったし、アデリーナは辺境の最南端にいるため頼みにくいという事情があったのだ。

「や、別に責めてるわけじゃねえぜ? むしろ俺っちとしては眼福だからな」

 俺のそんな説明を聞いて、ノクトは楽しそうに笑った。

「とは言え、『聖女』様に同行してもらえるとは、さすがに思っていませんでしたけれどね」

 そう話を引き継いだのはマイセンだ。回復役のポジション争い……ということはまずないだろうが、彼は興味深そうな視線をミュスカに向ける。

「あの……もう戦争被害者の治療は終わっていますし、特に予定もありませんでしたから……。それに、きょうか――」

 と、そこまで言って、ミュスカは口をもごもごさせる。みんなその続きは気になっただろうが、特に聞き出すつもりはないようだった。

 ちなみに、ミュスカを遺跡探索に駆り出したのは、何も拝み倒したわけではない。彼女はれっきとした教会派の『聖女』であり、普通に考えると遺跡探索に付き合う義理はない。

 そこで、俺は「辺境での教会の建立について口添えする」という約束をこっそりしていたのだった。戦争被害者の救済という名目がなくなった今でも、ミュスカが辺境に留め置かれている理由は明らかだ。
 彼女に「辺境に教会を建てるための下準備をするように」という指示が下されていることは想像に難くなかったため、俺はそんな交換条件を出したのだった。

 まあ、ミュスカ自身は頼めば無償で手伝ってくれるとは思うんだけどね。それはなんだか申し訳ないし、頼む側の人間として、彼女の立場に配慮する必要もあった。

 ちなみに、ミュスカが同行することを知ったリカルドが「僕も行く!」と言い出す一幕もあったが、他の評議員にあっさり却下されていたのは秘密だ。

「それにしても……こうやって見ると、凄まじい面子だね」

「そうですね。ここにいるメンバーがその気になれば、小国くらいは落とせるでしょうからねぇ」

 そんなカーナの呟きにマイセンが相槌を打つ。その言葉を聞いて、たしかになぁ、と俺は客室内を見回した。

 なんせ、前衛に剣匠ソードマスター騎士ナイト格闘家モンク槍使い(ランサー)がいて、後衛には攻撃役の弓使い(アーチャー)魔術師マジシャン地術師アース・メイジと、回復役の治癒師ヒーラー薬師ケミストがいる。さらに、遊撃的なポジションとして盗賊シーフ魔獣使い(ビーストマスター)まで控えているのだ。
 ついでに言えば、俺とキャロも戦力になり得るわけで、考えようによっては非常に凶悪なメンバーだと言えた。

「後は、遺跡の防衛戦力が大国レベルでないことを祈るのみだな」

「まったくです。……まあ、戦闘にならないのが一番なんですけどねぇ……」

 そう呟かれたマイセンの言葉は、この場にいる全員の気持ちを代弁しているようだった。



「カナメ君、そろそろ目的地に差し掛かるよ」

 巨大怪鳥ロックに揺られてうとうとしていた俺は、そんなクリストフの言葉で意識を覚醒させた。窓から外を確認すると、場所の目印として覚えていた、妙な形をした巨大な樹が目に入る。

 そして、同時に視界に映りこんだのは、この世界では見慣れない高層ビル群だった。……あれ?

「なあ、クリストフ」

「なんだい?」

 至って平然と応じるクリストフに、俺はとある方角を指差した。

「どうして遺跡へまっすぐ向かわないんだ? 何か事情でもあるのか?」

 ……そう、巨大怪鳥ロックの飛行ルートはどう考えてもおかしかった。まるで目の前の遺跡を迂回するように、大回りして飛んでいるのだ。

 だが、その指摘を受けたクリストフは顔色を変えて俺に詰め寄る。

「なんだって!? まさか、カナメ君には遺跡の場所が分かっているのかい!?」

「分かるも何も、そこにそびえ立ってるように見えるんだが……」

 そう答えると、巨大怪鳥ロック便に乗り込んでいる全員の視線が集まった。そのプレッシャーから身を守るように、足下にいたキャロを抱え上げると、俺は恐る恐るみんなに尋ねる。

「ひょっとして、みんなには見えてないのか……?」

「――どうやら、当たりみたいだね。神官さんが古代遺跡の『鍵』で決まりさ。……差し支えなければ教えてほしいんだけど、神官さんはどこの出身なんだい?」

「ええと……」

 エリザ博士が考えていることは分かる。俺がこの遺跡の管理者か何かの子孫である可能性を考慮しているのだろう。

「どこと言われても、辺境出身だとしか言いようがありませんね……。ただ、古代遺跡ゆかりの由緒正しい血筋だとか、そういったことは絶対にありませんが」

 そもそも、この世界の出身じゃないしな。クルネとミルティの表情がなんとも言えないものへ変わる様子を、俺はどこか申し訳ない気持ちで眺める。

「――ところで、巨大怪鳥ロックをどこへ向かわせたらいいんだい? カナメ君が示した方向には、ただの森が広がっているようにしか見えないんだけど」

「ああ、俺が巨大怪鳥ロックに指示を出すよ。意思疎通の宝珠を貸してもらえるか?」

 問いかけてきたクリストフにそう答えると、俺は彼から宝珠を受け取った。そして、目の前の遺跡目がけてまっすぐ飛ぶよう進路を修正する。

「……カナメ君、本当にこの方向であっているのかい? 僕には同じ場所をぐるぐる旋回しているように感じられるんだけど……」

 だが、そう認識しているのは俺だけらしい。クリストフの戸惑ったような声に、他のみんなが一斉に同意する。さらに、巨大怪鳥ロックも継続的に指示をしなければすぐに進路を逸れてしまうのだ。

「よっぽど強力な認識阻害魔法だろうね。ルノールの街からそう離れていないのに、これまで誰も見つけたことがないなんて、かなり高度な技術が使われているはずだよ。古代文明の都市のほとんどは終末戦争で跡形もなく消滅したはずだけど、これは本当に期待が持てそうだね。そもそも、千年前から未だにそんな強力な魔法が働き続けている時点で異常だと言えるけれど、ひょっとすると都市クラスの遺跡はそれが当たり前なのかもしれないね。いったい動力源はどうなっているのか、ぜひとも確認したいものさ。それに――」

 一人嬉しそうなエリザ博士の解説を聞き流しながら、俺たちは古代遺跡の入口へ舞い降りたのだった。

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