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別視点04 北の〜魔王城には〜♪(ディルナン視点)

本編06の主人公視点と内容がほぼ重複しています。嫌な方は飛ばして下さい。

北の魔王城が小さく見えてきた頃、腕の中のユーリは気持ち良さそうに眠っていた。

小さな体は休養を必要としているのだろう。

色々とやるべき事が終わったら、医療部隊に一度診てもらった方がいいだろうと頭の中のメモに追加する。


流石と言うべきか、レツが空を駆けると速い。

『深遠の森』でのユーリへの溺愛っぷりは悪い夢だったと思いたい。

一般的に知られているタイガスから余りにも掛け離れた姿だった。

騎獣にして100年程経つが、初めて見たと言っても過言ではない。







北の魔王城の正門に辿り着くと、レツの手綱をしまい、ユーリを左腕に抱き上げてレツから降りた。

左腕はすっかりユーリの定位置になっている。

歩き出すと、レツがオレの左隣に付いて歩き出した。

 

「ディルナン隊長、お疲れ様です!」


城門の警備に当たっていた外警部隊の一人がオレに気付き、挨拶してくる。

外警部隊は、城全体の警備を担当している騎士が所属する部隊で、北の魔王城最多人数の部隊だ。


「お疲れ。一人分、通行許可証を出してくれ。目的はエリエスに面会だ」


挨拶を返しがてら城門に寄った用件を告げると、頼んだヤツがユーリに気付いた。


「…ディルナン隊長、子供誘拐してきちゃダメじゃないですかー!」

「ぴっ!?」


よりにもよってコイツ、目の前で絶叫しやがった!しかも、その声でユーリが叩き起こされたじゃねぇかっ。


「…テメェ、ユーリが起きちまっただろうが。ぁあ?」

「ぎゃあああぁぁぁっ!

 ディルナン隊長、無理っ、死ぬぅっっ。

 いでででででで!!」


これには、新人のガキがヘマやらかした時以上に腹が立った。

思わず空いていた右手で絶叫しやがった阿呆の頭を鷲掴み、オレの持てる握力全開でぎりぎりと締め上げる。抵抗なんぞ許さねぇ。

幸い身長差も10cmほどあり、逃がさない様に軽く持ち上げる。


しばらくそうしていると、いきなり後ろから思いっきり背中を殴られた。

体が衝撃にぶれたせいで手の力が緩まり、頭を掴んでいたヤツが地に落ちる。


「なにをしているのです? ディルナン。子供が怯えているでしょう」

「…エリエス」


ユーリに会わせるつもりだったヤツ−−−北の魔王城の申請関係を一手に引き受ける書類部隊の隊長であるエリエス−−−の声にハッと我に返り、振り返る。

冷静になってユーリを見ると、ぷるぷる震えていた。…しまった、怯えさせてたか。

そんなユーリがエリエスを誰だろう? と言わんばかりの表情でじっと見上げていると、エリエスもユーリの視線に気付いた。


「こんにちは」


他では滅多に見せない、優しげな飴の微笑を浮かべてエリエスがユーリに声を掛ける。

すると、ユーリの震えが止まった。流石、と言うべきか。




コイツは女顔負けの美貌を有し、北の魔王城の全隊員の中でも一、二を争う美人として名高い。

女っ気が無いに等しいこの職場で、高嶺の花と言える。本人も周囲の反応を承知しており、あえて髪を伸ばし、仕事着であるローブで体の線を隠し、表情は基本的に笑顔で、丁寧な言葉遣いで喋る。

その為、一見するとたおやかな美人だが、実際はそうする事で己の容姿の価値を高めて相手を取り込み、限界まで扱き使う為にしている事だ。

実にえげつない。


そんな人物だから、当然ながら仕事となると一切容赦がない。

仕事時は笑顔でも鞭代わりの暗黒笑顔や冷笑や嘲笑の方が多い。その迫力たるや、いっそ罵られた方がマシだとまで言われている。

まぁ、そのぐらいでなければ城中の申請書類を捌き、多くの事務隊員を抱える書類部隊の隊長なんぞやってられないだろうが。




「こんちはー」


エリエスにユーリもきちんと挨拶を返すが、はにかんでオレにへばりつく。恥ずかしいらしい。


「ふふ、可愛らしいですね」

「可愛いだろ」


幼い子供の可愛い反応にエリエスと共に和んだ。

しかし、すぐに目で何があったのかを聞いてくる辺りは流石の切り替えだ。

さっきの状況の事だろう。


「ユーリが気持ち良さ気に眠ってたってのに、この阿呆が人の話も聞かずに訳の分らん事を叫んで叩き起こしてくれやがってな。極刑もんだろ? それで締め上げてたんだが、お前に殴られて止めた」

「あぁ、さっきの誘拐云々の叫び声がそれでしたか。寝ている子供を叩き起こすとは確かに極刑モノですね。ですが、子供を怖がらせてはいけません。やるなら、見てない所でお願いします。教育にも悪いですし」


軽くさっきまでの状況を説明すると、また腹が立ってきた。

聞いていたエリエスの笑みも冷笑に変わり、その笑みが地に落ちていたヤツに向かう。

頭痛に頭を押さえていたヤツがエリエスの笑みに気付き、顔面蒼白になった。自業自得だな。

幸い、ユーリはオレにへばりついているからそれを知らない。


「今なら見てないし、イケるか」


またと無い好機に、背中を思い切り踏みつけるとミシッ骨の軋む音がした。


「ぎゃあっス!」

「イケますね」


悲鳴をよそにエリエスも同意するのを聞き、足をどかすと今度はエリエスが踏みつけてから更に体重を掛ける。

ローブに隠されて細身に見えるが、コイツも鍛えている男だ。長身な分、それなりの重量はある。

ミシミシとオレの時以上に骨が軋む。


「ぎょえぇっ!!」


悲鳴も、オレの時以上だった。


「うぇ…」

「「“うぇ”?」」


ざまあみろと思っていると、ユーリから小さく声が上がるのにエリエスと共に気付いた。


「痛くしたらダメなのー」


直接見てはいなかったものの、音がばっちり聞こえていたらしい。

えぐえぐ泣き出したユーリに本気で慌てる。耳を塞いでやれば良かった!

エリエスも潰していたヤツから離れてすぐに側までやってくる。


「あー、この程度で痛む様な柔なヤツはこの城にはいないから大丈夫だ、ユーリ」

「そうですよ。明日にはピンピンしていますから、泣かなくていいのですよ」


エリエスと二人掛かりでユーリを慰めつつ、オレは背中を、エリエスは頭を撫でる。

それと同時進行で、エリエスが遠巻きにしていた外警部隊の他のヤツ等に証拠隠滅を圧力付きの視線で命じた。その迫力に震え上がり、外警部隊のヤツ等が慌てて命令実行に動く。

証拠を残さなければ、ユーリを納得させやすいからだろう。

あの阿呆がとんでもない速さで運ばれていった先は、恐らく医療部隊と思われる。



しばらくして嗚咽を残しつつも顔を上げたユーリ。

涙で顔がぐちゃぐちゃだが、こういう子供らしい姿が可愛くて仕方ないと思う辺りやられてるなと実感する。

レツに舐めたくられた時の様にタオルを出し、涙を拭いて鼻をかませた。


落ち着きを取り戻すと、辺りをキョロキョロと見回す。

あの野郎の心配をしているのだろう。優しい子供だ。


だが、既にエリエスの命令により証拠は隠滅されている上に、今なおエリエスが暗黒笑顔で黙っていろと周囲を脅している。

ユーリの視線に、そこそこ勤めが長いヤツは笑顔で何でもない様に対応し、まだ大して経っていないヤツは思わず目を逸らしていた。


周囲の反応に「?」を浮かべるユーリが最後にエリエスを見る。そんなユーリにエリエスがここぞとばかりに極上笑顔を見せる。

コイツ、説明せずに笑顔だけでユーリの疑問自体を吹き飛ばしやがった! 

しかも、さり気なく外警部隊のヤツ等も魅了されてやがる!!



…コイツだけは敵に回したくねぇと思ったのは、オレだけじゃ無い筈だ。

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